特殊病院要素があります、苦手な方はご注意ください。
では、どうぞ。
――――第1世界「ミッドチルダ」。
管理局法では全ての次元世界は平等であると謳われているが、建前と実勢が異なるのはどこの世界でも同じである。
事実、時空管理局の本拠地であるこの世界は、経済力・技術力そして軍事力の面で他世界を圧倒している。
事実上の頂点に立ち、他の次元世界を指導する立場にある統治者として振る舞っている。
その首都クラナガンともなれば次元世界随一の規模を誇り、インフラの充足率も他の追随を許さない。
この街には、ありとあらゆる物があるのだ。
「あら、イオス君じゃない。久しぶりねぇ」
「ども、ちょっと仕事で遠くの世界に行ってまして……連絡頂いたのに、遅くなってしまってすみません」
「いえいえ、良いのよ。イオス君も航行艦勤務で大変なんだから」
首都クラナガン郊外、近未来的な都市部から離れた緑豊かなその場所に、イオスはいた。
魔導師とはいえ、首都では飛行魔法での移動には制限がある。
エル・ベスレム病院――病院と名がついてはいるが、そこは病院と言うより監獄のようだ。
窓には白い鉄格子が嵌められ、病室は個室で扉には魔方式の錠がかけられている。
通路や道々には監視用の設備が仕掛けられ、周辺を囲む塀の外には十数名の警備が常についている。
「……あー、あー……」
「きひ、きひひひひ……」
「ブツ……ブツ、ブツブツ……」
施設の通路を歩けば、
時には外国語と思われる叫び声や、壁に何かを打ち付け続ける音が響くこともある。
イオスはもう慣れていたが、初めて来た人間などはそれだけで怯えてしまうだろう。
閉鎖病棟、本来開放されるべき病院には似つかわしくない施設がそれだ。
特別な申請が無い限り、患者の家族と言えども自由には会えない。
イオスは今日は病院側に呼ばれてきているため、目的の場所まで案内してもらえる。
幼い頃から顔見知りの職員も多いので、顔が利くと言うのもあるかもしれない。
「本当に……いつもお世話になって」
「良いの良いの、私達はこれが仕事で、そして好きでやってるんだから」
そう言って笑う――入院患者の叫び声をBGMに――職員の女性を、イオスは尊敬している。
自分には、とても無理だと思うから。
「さ、ついたわよ。久しぶりに顔を見せてあげてね」
「はぁ……」
イオスが気の無い返事を返す間に、職員の女性が鍵を差し込んである病室の扉を開ける。
外側にのみドアノブがあるその扉には、食事などを出し入れするだけの小さな扉がついている。
内側からは絶対に開けられないその扉を開けると、ツンッ、とした強い匂いが鼻をついた。
それに顔を微かに顰めつつ中に入れば、真っ白な壁と天井と床で覆われた小さな部屋がある。
ベッド以外にはトイレと水道しか無い、そんな部屋だった。
薬品のような、あるいはもっと別の刺激臭を感じながら……イオスは、白いベッドの上に横たわる人物へと目を向ける。
「…………やぁ」
それに対して、イオスはどんな表情をすれば良いのかわからなかった。
だから、イオスはわざとらしい程の純白に覆われたその部屋で。
たった一言だけ、告げた。
「久しぶり…………『母さん』」
その声と言葉には、まるで力も無ければ。
母親に向けるにしては、どこか空虚な響きを抱えていた――――。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。
竜華零です、今回は無印編のエピローグをお送りしました。
一応エピローグですがこのまま普通に続きますので、よろしくお願いいたします。
次回からは、『アースラ』サイド中心の閑話を4話ほど続ける予定です。
基本的には、無印からA's編までの間の空白期の話になる予定です。
漫画版の要素なども入るかと思いますが、イオス個人のお話も入れたいと思います。
それでは、失礼致します。