なお、本編との関わりから、ネタバレ要素は含まない内容となっておりますので、ちょっと首をかしげる結末になっているかも知れません。
それでもよろしければ、どうぞ!
北米神話大戦をインドで置き換えてみたFGOネタ結末。
正直、カルナ・オルタの殺し方が分からないので、こんな感じに。
真面目に小説として書くのはきついので、台詞メインのダイジェスト版でやってみた。
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【最終話(離脱ルートであれば、最終戦決着後にドゥリーヨダナがパーティ・イン)】
「カルナ、貴様……!!」
それまで従順だったカルナ・オルタの突然の離反に、動揺を隠せないカルデア一行。
神殺しの槍によって神核を貫かれたことにより、その場に崩れ落ちるアディティナンダ/ロティカ。
カルデアのマスターたちが駆け寄ろうとするが、二人を中心に炎の渦が発生したことにより、その行く手は阻まれる。
「そんな……! やり方こそ間違っているものでしたが、それでもアディティナンダ/ロティカさんは弟であるカルナさんたちのことを思っていたのに、どうして!? それも、どうして背後から刺すような真似を……!」
「――嗚呼、そういうことか。カルナ、
悲痛な声を上げるマシュに、言葉を失うアルジュナ。
一人、クリシュナだけが納得がいった様子で、囁くように問いかける。
「その問いに答えることは難しい。意識自体であれば、聖杯によって召喚された時点で既に有していた。だが、アディティナンダの強固な意志により自我を抑圧され続けていたのは確かだ」
「それ故、自分の体を自分の思う通りに動かせるようになった、という時期で問われたと看做すのであれば、つい先ほど、と答えるしかない」
倒れ伏したアディティナンダ/ロティカを横抱きにし、自分の胸元に凭れかからせるカルナ・オルタの姿に、憎しみゆえの蛮行とも思えず、混乱する一行。
何かを口にしようとしたパーティの面々の口を遮るように、ドゥリーヨダナが片手を上げて、静寂を促す。
「――――カル、ナ?」
「……ああ、そうだ」
しめやかな夜の闇にか細く、頼り無い声が上がる。
とっさに口を開きかけたアルジュナの口をドゥリーヨダナが塞ぎ、そっと耳を澄ませるように指示する。
「ああ、カルナ、カルナ……だぁ。よかったぁ、なら、あれは夢だったんだね」
「――夢、か。どんな夢を見ていたんだ、アディティナンダ?」
「ひどい、夢だよ。本当にひどい夢なんだ……。お前がね、戦争で死んでしまうの。それもね、すごく、すご、く、厭な方法で、アルジュナ王子に殺されてしまうんだよ」
幼子のように訥々と語るアディティナンダ/ロティカの体を抱きこむようにして、カルナ・オルタは傾聴の姿勢をとる。
太陽の温もりを宿した黄金の鎧の胸甲に頰を預け、時折咳き込みながら、アディティナンダ/ロティカは言葉を続ける。
「――そうか。……お前は、あの男のことを恨んだのか?」
「どっちかっていうと、悲しかった、なぁ。……だって、あの子、せっかくカルナを倒したというのに、すごくキツそうだったもの」
「俺はね、カルナ。お前のことが一番好きで大切だよ? でも、ドゥリーヨダナのことも好きだし、あの王子様のことだって、嫌いじゃない」
「人間は、好意を抱いた相手の幸せを祈るのでしょう? ドゥリーヨダナは兎も角、敵なのにあの王子様のことを心配するなんて、変かなぁ? でも、思わず心配してしてしまうくらい、辛そうな顔をしていて、なんだか心が痛かった」
心、のところで、アディティナンダ/ロティカが血を流している胸元に手をやり、カルナ・オルタがそっと掌を重ねる。
重なった掌がみるみるうちに血の色に染まるが、それでも二人の掌は離れることはない。
「――でも、それも悪い夢だね。だって、お前はここにいるもの」
「明日が総力戦になるのでしょう? お前に死んで欲しくはないけれど、お前が戦士である以上、お前の死は免れないもの――ならば、お前はお前の求める戦場を心のままに駆け抜けるといい」
「嗚呼、カルナ。……どうしよう、もっと色々話しておきたいと思うのに、どうしてだが、とても眠い」
「不思議だなぁ……すごく長い間、悪い夢を見ていたのに……まだ眠いんだ」
「……構わない。少し、眠るといい。お前は……随分と心と体を酷使し続けた」
アディティナンダ/ロティカの手にしていた<大聖杯>の輪郭が崩れ、糸が解れていくように、黄金の輝きが世界へと広がっていく。
幻想的で美しい光景を前に、アルジュナがその場に崩れ落ち、必死に嗚咽を堪える。
「――ねぇ、カルナ」
「どうした」
「なんだか、すごく寒いんだ。このまま、こうしてもらっていてもいいかい……?」
「――ああ、構わない。大した手間ではないからな」
「へへへ……。こうやってくっついていると、お前が小さかった頃を思い出すなぁ……。寒い夜はこうして暖を取っていたっけ」
「カルナ、お前も本当に大きくなったんだねぇ……ふふふ、人の子の成長は本当に早いものだ……」
マシュが息を飲み、ビーマはそっと目を逸らす。
アルジュナが大きく息を飲み、歯を食いしばれば、クリシュナは固く目を閉ざす。
ドゥリーヨダナは瞼を伏せ、軽く首を振った後、漆黒の夜空を一度だけ見上げた。
空に太陽はなく、大聖杯から漏れ出した黄金の鱗粉が、星々の代わりに煌めいている。
「――なぁ、アディティナンダ」
「ん? どうしたの、カルナ? そんな悲しい顔をして、何か酷いことでも言われたりしたの……?」
いいや、とカルナ・オルタ――否、カルナが首を振る。
白皙の美貌に影が差し、耐えきれぬとばかりに固く唇を噛み締めた弟に、アディティナンダ/ロティカはそっと微笑んだ。
「……いいや。寧ろ、酷いことをしたのはオレの方だ。お前が悪夢に苛まれている間、オレはお前に何もしてやれなかった」
「――それだけではない。結果的にお前を救うことに繋がるとはいえ……――オレはお前に許されないことをしてしまった」
そっと、真紅に染まった爪先がカルナの頰を滑り、そのまま後頭部を押さえる。
――こつん、とお互いの額と額が重なり合い、慈愛に満ちた声が歌うように言葉を奏でる。
「大丈夫、大丈夫だよ。俺は、知っているもの――お前が本当に、優しくていい子なんだってこと」
「だから、そんなお前が俺を傷つけるような真似をしたとしても、そこには必ず理由があるんだって、俺は識っている」
「お前は俺に酷いことなんかしていないよ。お願いだよ、どうか泣きそうな顔をしないで」
「どうしてそう言い切れるんだって? そりゃあ決まっているじゃないか! だって――」
咲きかけの蕾がその瞬間に開花したような、莞爾とした笑顔だった。
愛しくて、大切で、大事で堪らない――あらゆる幸福に結びつく感情が、その微笑みには詰まっていた。
「――だって、俺はお前の兄だもの! お前のことをこの世界では誰よりも知っているとも! 嗚呼そうだ、お前のことを嫌ったりなんかするもんか!」
「だから、なんの心配もいらないよ。俺のことで、お前が心を痛める必要なんて、ないんだよ」
「嗚呼、それにしても――どうしてかなぁ……すごく、すごく眠いんだ……」
ことり、と糸の切れた人形のように体の動きを止めて、ゆっくりと瞼を落としたアディティナンダ/ロティカの体を固く抱きしめると――カルナの碧眼が、立ち尽くしたままのドゥリーヨダナを捉える。
「――ドゥリーヨダナ。お前に話さなければならないことがある」
「この世界は、狂気に堕ちたアディティナンダ/ロティカの手によって創り出された特異点。当然、正史と呼ばれる世界から既に逸脱してしまっている」
「この特異点を構成する要となっているのは、オレとアディティナンダ、そして――」
逡巡するカルナの躊躇いを遮るように、ドゥリーヨダナは軽くため息をつく。
そうして、悟りきった表情で、ゆったりとした仕草で炎の渦へと闊歩する。
ドゥリーヨダナが歩を進める度に、逆巻く炎が自分からドゥリーヨダナを傷つけるまいと脇に逸れ、あっという間に身を寄せ合う家族の前へと辿り着いた。
「――分かっている。この特異点とやらを構成するのは、お前ら二人と――他ならぬこのわたしという訳だな」
「つまり、カルデアの者たちの語る正史において、ドゥリーヨダナであるわたしは、この時点で既に死んでいなくてはならない人物である――ということか」
「――本当に、莫迦な奴だ。蘇生させた弟一人を連れて、どこにでも放逐してしまえばいいものを……わたしまで抱え込もうとするから、こうして泥沼化してしまうのだ」
横柄に言い放ちつつも、カルナたちの側から離れようとしないドゥリーヨダナに、ビーマが何事かを口にしかけるも、口を閉ざす。
納得がいかない様子のマシュが、必死に声を出し、ドゥリーヨダナへと叫ぶ。
「待って、待ってください! それでは、それでは、皆さんは――――!!」
「おや? わたしの命を惜しんでくれるのか? だが辞めてくれ。流石のわたしもマシュのような美人に涙目で詰め寄られてしまうと、些か決意が鈍るのでな」
わけのわからない表情をしているマスターへと、カルデアでサポートを務めていたドクターが、硬い声で説明してくれる。
『……大叙事詩であるマハーバーラタでは、クルクシェートラの戦いは十八日間続き、そして総大将であるドゥリーヨダナ王が殺されたことによって、決着がついたと伝えられている。――……そして、この世界においては……』
『アディティナンダ/ロティカの狂乱によって、早期に決着がついてしまったとはいえ――この世界では、既に……』
「――十八日なんて、とっくの昔に過ぎているということさ」
静かな声で、囁くようにクリシュナがトドメとなる言葉を紡ぎ、マシュが悲鳴を堪える。
ドゥリーヨダナを引きとめようとしていたビーマの腕から力が抜かれ、だらりと地面へと落とされる。
「この腹黒鬼畜野郎め。このわたしとドクターが気を使って、繊細な少女の心が傷つかぬようにと配慮したのに、それを台無しにしよって。少しは人間の情緒というものへ敬意を示したらどうだ」
「知ってるさ。それでも、
互いに減らず口を叩き合っていた二人が、溜息を零す。
素知らぬ顔のドゥリーヨダナへと、カルナが憂慮を込めた視線を送れば、ドゥリーヨダナは軽く肩を竦めた。
「――そんな顔をするな、我が友」
「どうせ結末が定められているというのであれば、わたしはわたしのやりたいようにやる。このわたしが止めても聞かない頑固者であるのは、他ならぬお前がよく知っているだろう?」
「というわけで、ざまあみやがれ、ビーマセーナ! この世界でのわたしは、貴様に殺されてなんかやらないからな!」
そう言って不敵に哄笑するドゥリーヨダナの姿を目に焼き付けたカルナが、アルジュナへと視線を送る。
幽鬼のように立ち上がったアルジュナの漆黒の眼差しがカルナのそれと交差し、瞬きと共に深々と頷かれる。
「――アルジュナ、頼めるか」
「……元はと言えば、私と貴様によって始められた狂乱劇だ。……ならば、閉幕の合図くらいは私のこの手で」
カルデアのマスターたちに下がるように指示をし、アルジュナは息を吸う。
アディティナンダ/ロティカの体をドゥリーヨダナに預け、カルナは瞼を閉ざす。
「――神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定――全承認」
「――神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是、この一刺。インドラよ、刮目しろ」
母を同じくしながらも、決して交わることのなかった異父兄弟の声が荒野に唱和する。
己の槍を天へと掲げたカルナ、己の掌へと光を集わすアルジュナ。
迷いを断ち切るようにアルジュナが固く両眼を閉ざし、己の結末を受け入れたカルナの口元は優しく綻ぶ。
「――――シヴァの怒りを以て、汝らの命をここで絶つ。『
「――焼き尽くせ、『
白金と黄金の閃光が一行の視界を焼き尽くし、重なり合う三つの影が、明滅する光の奔流の渦へと飲み込まれていく。
数多の神霊の命を食い、肥大化した全能の<大聖杯>。
新しい歴史を紡ぎかけるほどの魔力は二人の大英雄の宝具によって浄化され、万能の願望機としての姿を取り戻す。
そうして――最後に残されたのは、光り輝く黄金の盃であった。
「聖杯、回収……任務、完了です」
人理定礎値 A+
第5の聖杯:"落日の残照" BC.3138 終焉神話戦線 クルクシェートラ
《
<IFネタの簡単な説明>
・アディティナンダ
…最愛の弟の死の直後に聖杯を手に入れたことで、この先に起こりうる未来を全て知ってしまったが故に頭がパーンした。最悪弟の死に様だけはどのような形でも受け入れるつもりだったが、尋常な死に方ではなかったこと、その直後にドゥリーヨダナやアシュヴァッターマンをはじめとする親しかった人々がどのような目にあうのかを強制的に脳裏に流し込まれたため、狂気に堕ちた。一見まともに見えるだけにタチの悪い狂人状態。ちなみに、人類史再編はできなくもないが、魔術王の思惑があれなので、成功した確率は半々。(ネタバレなので一応伏せます)
・カルナ
…英霊の座に昇る直前に反魂で呼び戻されたために、ほぼ全盛期の力を持っている規格外のサーヴァント状態。意識自体は最初からあったが、どちらかというと夢を見ているような感じだった。けれども、アディティナンダの目指している人類史再編が叶った場合、新世界の歯車としてその魂が抑止の守護者並みに使い古されてしまうがために、反逆を決意。
カルデアのマスター指揮するパーティの面々に押され、アディティナンダの意識がそれた不意をついて、背後から刺すという形でその狂気に終止符を打った。
・ドゥリーヨダナ
特異点クルクシェートラを構成する重大な歯車の一つ。本来ならばとっくに死んでいるはずの王であるが故に、生きて呼吸するだけで特異点を維持してしまう。鋭い人だったので、自分でその事実に気づいてしまった。(第7章における賢王ギルガメッシュ状態だと思ってください)
おそらく伝説通りにビーマに殺されるのが一番良かったのだが、本人の意地で家族のような友人らと心中の方を選んだ。彼とは逆に、ユディシュティラが廃人化しても生かされた状態だったのは、特異点完成以後にしか殺せなかったから。
・最後の宝具開帳について
…ガチの神霊であるアディティナンダ(神殺しの槍使用)と黄金の鎧をまとった状態のカルナ(パーシュパタ必須)を、再生不可能な状態にまで落とし込んで殺すためには必要だったため。
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多分、アディティナンダにとっては一番幸せな死に方。(本編はこうならないけどね!)