年末年始が忙しく、非常にドタバタしておりました。
ようやく時間を見つけ、書き出そうとしたら、それまでの反動で熱が出て、その挙句にはインフルエンザ。
……大変でした。…………大変、でした。
以前ほどではありませんが、ある程度のペースで投稿を続けることができればと思います。
――嗚呼、なんて厭わしい。
――見よ、この世の全ての光輝より見放されたような、泥濘に包まれたあの姿を。
――見よ、この世の全ての栄光より見放されたような、汚辱に覆われたあの姿を。
――どのような
眉間を顰め、吐き捨てるようにそう言い放ったのは、どこの誰が最初だったのだろう。
それは、どこの誰ともしれぬ誰かの口から繰り返され続けた言葉であった。
始めに口にしたのは、少年だったかもしれないし、少女だったのかもしれない。
美しく着飾った婦人だったのかもしれないし、逞しい体躯を誇る青年だったのかもしれない。
肌の上に皺を刻んだ老女であったかもしれぬし、髭を蓄えた禿頭の老爺であったかもしれない。
尊ぶべき、敬われるべき、愛されるべき、日輪の落とし子。
この世で何よりも愛おしく思う子供が、触れ合う人々から侮蔑の言葉を投げかけられるたびに、どれだけ遣る瀬無い気持ちになったことだろう。
何度、彼らの口から告げられる偏見に満ちた言葉に、違うと声を荒げ、身を以て子供の盾となり、人々へと制止の言葉を投げかけたことだろう。
そのような暴言や蔑みに、負けるような、折れるような子ではないと知っていた。
――嗚呼、それでも。
ワタシは、それがどうしようもなく、悲しかった。
そして、俺も、そのことがどうしようもなく――――哀しかったのだ。
どうして、人々はこの子の母親によって与えられた
――どうか、どうか。
たった、一人だけでもいい構わないから。
子供のありのままの心身を、その目に捉えて、受け入れてくれる者はいないのだろうか。
ずっと願っていた。ずっと祈っていた。
だからこそ、あの日のあの言葉によって救われたのは、あの子だけではなかったのだ――……
*
*
*
――どうして、ドゥリーヨダナは俺のことを殺そうとしたのだろうか?
考える、考える。
ただひたすらに悶々と、そのことだけを考える。
ドゥリーヨダナは、一体何を考えて、あのようなことを配下に命じたのだろうか。
それだけが、どうしてもわからない。
政敵であり強敵である、パーンダヴァの兄弟たちを暗殺する、その理由はわかる。
……でも、どうして俺まで一緒くたにして殺そうとしたのか?
カルナがドゥリーヨダナの味方であり、ドゥリーヨダナがカルナを裏切らない限り。
カルナの意思に反して、あの悪辣王子を害する気は一切ない――のが俺の行動指針だった。
そんな訳なので、ドゥリーヨダナに疑われ、不審に思われたりする振る舞いをする必要がない。
その必要がなく、はたまた身に覚えもないだけに、あの難解な性格のドゥリーヨダナがいかなる思考を経て、そのような決断を下すに至ったのか、さっぱりわからない。
ドゥリーヨダナの方だって、カルナという自陣の最大戦力を手放したくなかった筈だ。
それなのに、どうして、カルナの不信を買うような暗殺計画を実行せしめたんだか。
わからない、さっぱりわからない。
そもそもこの暗殺計画は一体いつを起点として考えられたものなのだろうか? それすら思いつかないのが現状だ。
ただでさえ、人の子の重層的な内面を考察することは苦手なのに、相手はあの複雑怪奇としか言いようのない多面性、思考性の持ち主であるドゥリーヨダナだ。彼の内面なんて、本音と建前が密接かつ複雑に錯綜して入り混じりすぎていて、正直、お手上げである。
――……というか。
この俺がカルナ以外の他人、それも人間に対してこうも思い悩むこと自体が、異常である。
別に、俺とドゥリーヨダナは別に仲良しこよしというわけではない。
弟のカルナと違って友達でも、忠誠を誓った家臣というわけでもない。
ぶっちゃけて言えば、俺の行動基準がカルナである以上、それ以外の人間の存在なんて塵芥に等しい筈なのだ――それなのに。
どうして俺は、ドゥリーヨダナという
わからない、さっぱりわからない。
このどうにも納得しがたいモヤモヤとした感情を、なんと表現したらいいのだろう。
何より、たかが人間一人に殺されかけただけで、なんであんなにも衝撃を受けたのだろう?
……だって、俺たちは別に友人なんかじゃなかった。同じ志を持つ仲間ですらなかった。
単純に言ってしまえば、カルナという存在を通して、曖昧に繋がっていただけの間柄だった。
当然、お互いに信用していたわけでもないし、信頼されていたわけでもない。
これまで結果的にドゥリーヨダナのためになるような行為を行ったことはあっても、それだって突き詰めればカルナのためになることだからやったことだった。
ましてや俺は神霊で、ドゥリーヨダナは人間だった。
その俺が、どうしてあんな小心者かつ悪辣な人間のために、ここまで考えているのだろうか?
俺にとって特別なのは、弟であるカルナだけで、それ以外の人間はぶっちゃけどうでもいい。
実際、全ての基準がカルナを発端としているせいで、カルナに対して益を齎す人間には好感を持つが、そうではない人間は捨て置く、というのが俺の人間世界での基本的な姿勢だった。
――その判断基準には、俺自身の好悪や主義思想というものはぶっちゃけ関係なかった。
弟に対して好意的か否か、という観測の結果によって他者への接し方は算出されていた。
だからこそ、例え相手が善人でも悪人でも、人間である以上は、身分の高低に関係なく等価値で、同時に俺にとっては等しく無価値な存在でしかなかったのだ。
確かに、地上の生命の庇護者である太陽神・スーリヤの眷属である以上、一定の意義を人類に対して見出し、加護を与えてはいたが――つまるところは、それだけでしかなかった。基本的に人間の価値というものは人間全体に対して等しく振り分けられているものであって、人間と区別された群体の中から、特定の個人へと俺が深い関心を向けることはなかった。
――薄情というよりも、無情。
結局のところ、それがカルナの兄という皮を被った、人間のまがい物である“アディティナンダ”という存在の真実であったと言っていい。
俺は確かにカルナとの数年間のやり取りを通して、人の愛の素晴らしさと美しさに気づき、それを一端とはいえ獲得したと自負してはいたが、そうした本物の感情が向けられる先、与えられる先は極めて限られていた。
必然、俺の心が動くのはカルナが関係している時だけなのだから、カルナが関係していない場合、俺個人に対する他者からの働きかけというものがあったとしても、そのこと自体がアディティナンダという存在に影響を与えることは、まずなかったのだ。
だからこそ、異性を誘惑する存在である天女が求婚してきた時も、あっさりと断れた。
だからこそ、競技大会が開催される話を聞いた時に、王国の将来をすっぱり見放した。
俺にとって大切な存在はカルナだけで、それ以外はカルナに害さえ与えなければどうなってもいいものだったからだ。それゆえ、そのカルナさえ関係しないのであれば、俺は俺自身がどう思われ、どう扱われたところで、内面的な部分に何ら痛痒を感じないし、感じ得なかったのである。
……。
…………しかし、こうやって考えると、俺って結構なクズだな。
最愛の弟が関与しないだけで、こんなにも無機質に成り果てるなんて、本当にロクデモナイ。
数年かけて理解した、人間という生き物の持つ特性に敬意を示しつつも、結局のところはそれだけでしかない――そう、それだけでしかなかった……筈なのだ。
――それが、一体どういうことだろう。
何故、俺はドゥリーヨダナの殺意に対して、あそこまで動揺したのだろう?
だって、俺たちは別に友人でも仲間でも主従関係でもなかった。
カルナ抜きでの確固たる交流関係が築かれていたわけでもなかった。
それなのに、どうして俺はプローチャナの口から出たドゥリーヨダナからの暗殺指令を耳にした瞬間、裏切られたと感じてしまったのだろう。
裏切りは両者の間になんらかの絆がある場合に対して使われるべき言葉だ。
これまでの俺たちの間には何にもなかったというのに――だというのに、どうして俺はあそこまで大きな衝撃を受けたんだろう?
そんなのおかしいじゃないか。
俺にとって、大事なのは、大切なのは、カルナだけだったのに。
俺自身にさえ意味を見出せない俺にとって、価値のある存在はカルナだけで、それ以外に心が動かされることはなかったのに。
わからない、わからない。
俺は、ドゥリーヨダナのことをどう思っているのだろう?
俺は、ドゥリーヨダナと、どうなりたかったのだろう?
話さなくちゃならない、尋ねなくてはいけない。
語らなければならない、正さなくてはならない。
ただ
――――そのためには、もう一度、あの王子と会わなければ。
天罰を下す
例え、その正体が人間になりきれない人間もどきであったとしても、今度こそ――きちんと、ドゥリーヨダナという個人と向き合うべきなのだ。
ワタシ/俺アディティナンダに共通しているのは、家族として弟であるカルナを愛している、というところだけ。
それ以外だと、全くもって性格や価値観、人間に対する振る舞いも違います。ただ、俺アディティナンダはワタシをベースにしていますが、カルナや他の人々との交流の結果、どんどんと変化していくことは可能であり、そういう意味では今はまだ変化の途中と言っていい感じです。
カルナによって、人の愛の形を理解し、ドゥリーヨダナによって人を知る……と言ったところかなぁ?