もしも、カルナさんが家族に恵まれていたら   作:半月

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これで、第2章もおしまいです。
気づいたら結構な文字数になってしまいましたが、分けて投稿するのもアレなので、まとめてアップしました。
第2章に関する感想や誤字報告、ありがとうございました。
感想はとても励みになりますし、報告はとても助かります。


後始末と根回し

 カルナが勝利を収めてから、約一週間近くの日数が経過した。

 その間、俺は非常に忙しない日々を送った。

 

 まずは、ジャラーサンダ王の宮殿にある客人用の宿泊施設を一棟まるまる借り上げ、そこに洞穴から解放されたばかりの王族の虜囚たちを収容した。

 王の家臣たちやラージャグリハの市民たちを総動員して衰弱しきった彼らの世話に当たらせ、俺自身も日に数度彼らの生命力を喚起させる歌声を奏でることで一日も早く彼らを正常な状態に戻すべく奮起した。

 

 そうして、話せるまで元気になった彼らの口から自分たちがどこの出身であるのか、囚われてからどれほどの日数が経過しているのかを確認し、彼らの生国へと王族たちの無事と近いうちの帰還を知らせる書状を認めさせ、それを俺の小鳥たちを使役して各地へと派遣するなどと非常に忙しい日々を送ったのである。

 

 その間、大活躍したのがカルナであった。

 陸路ならどんなに急いでも数日はかかる距離も、炎の翼を持つカルナならばひとっ飛びの距離である。俺の小鳥たちでも数時間はかかる距離も、カルナならものの数分で済ませられる。

 そんなこんなで事態を把握したいクル王国や虜囚の王たちの国々から至急の返事が求められた時、文句ひとつ言わずに頼みに答えてくれるカルナの存在は非常に重宝した。

 下手すれば伝書鳩扱いであるのにも関わらず、本人も嫌な顔ひとつ見せずに従ってくれるため、とても助かった。

 

 こうしてカルナがあっちこっち文字通り飛び回ってくれたため、各地への通達は滞りなくすませることができた。

 加えてカルナに一任したことで、大事な書状が入れ替えられたり、盗まれたりする恐れもなかったことが幸いした。

 

 それらの業務と並行し、俺はラージャグリハの職人たちに命じ、いくつもの馬車を制作させた。

 なんとなく俺が神の眷属であることを察していた職人たちも快く応じてくれて、出来上がった時には王様名義の謝礼に加えて、俺も各地の金持ちから貢がれた宝玉の幾つかを報酬として差し出したくらいの見事な出来栄えだった。

 その造形は戦車のようだが、戦に用いるような装備は全て外されており、まとめて数人が乗れるようになっている上に、実に見栄えのいいものであったとだけ伝えておく。

 

 長期間の移動にも耐えられるだけの健康な体を取り戻した王たちを同じ方角の面々に小分けし、カルナに頼んでそれぞれの生まれ故郷へと送り届けた。

 

 道中を山賊を始めとする輩に襲われないように、という配慮もあったが、それまで戦車を操ったことのないカルナに戦車もどきを運転させてあげようという兄心もあった。

 

 ――基本的に戦士階級の者だけに許されている戦車である。

 初めて扱う戦車にカルナが白皙を紅潮させ、興奮した目つきで操縦を楽しんでいたのは、見ていて嬉しかった。ついでに、カルナの腕前が父親であるスーリヤ譲りであるということも判明したが、それ以上にカルナが隠れ速度狂であることも判明した。

 

 なるだけ安全運転を心がけなさい、と言いつけたのだが、乗客である王族たちまでカルナの戦車操縦の見事さに感嘆し、ものすごい速さで走る戦車にはしゃぎだしたせいで、その忠告はどっかに飛んで行ってしまった。

 

 腕利きの戦士の条件の一つに戦車の速度と腕前が問われることは知っていたが、カルナの暴走戦車にもそれが当てはまったらしい。

 カルナの操縦する戦車もどきに乗せられて旅立つ彼らの表情は非常に輝き、普通よりも少し速い速度で走るだけの俺の戦車もどきは不評だったとだけ言っておく。多分きっと薄暗い牢獄から解放されたことで、彼らの気分が結構な興奮状態に陥っていたせいに違いない。

 

 こうして諸々の後始末を済ませ、最後の王族を国に送り届けた俺たちはラージャグリハの都を後にしてクル王国へと帰還したのであった。

 

 ――そして今、ドゥリーヨダナの執務室に兄弟仲良く並んだ状態で、労いの言葉も早々に、床の上に膝を畳んで座らされている。

 

 

 様々な宝石や金銀細工が山のように積み重ねられた王子の執務室。

 女官たちの手によってすべすべに磨き上げられた床に仁王立ちするドゥリーヨダナ。

 その顔面には笑顔が浮かんでいるが、どこかぎこちないし、普段は綺麗にまとめられている髪型も所々解れているように見える。

 

「――さて、二人とも。どうして自分たちがそのような状態に置かれているのか理解できるな?」

 

 その言葉に、同じく不思議そうな顔をしたカルナと視線を合わせる。

 

 ――カルナ、俺たち何か怒られることをしたっけ?

 ――……いや、特に彼の気を損ねるような真似をしでかした覚えはない。

 ――うーん。俺の方も特に思い当たる節はないなぁ。

 ――とはいえ、言葉の足りぬオレのことだ。気付かぬうちにしでかした可能性は大いにある。

 

 目と目で会話して、揃って首をかしげた俺たちの姿に、ドゥリーヨダナのこめかみが引きつる。

 なまじ、顔面には笑顔を浮かべているだけ、その差異がひどい。

 あ、こめかみだけじゃない、口の端の方もピキピキと引きつっていた。

 

「ほーう、ほほう。つまり、これっぽっちも思い当たらないと」

「そうだね」

「そうだな」

「ええい、このおとぼけ兄弟が! ――アシュヴァッターマン、この天然二人でもわかるように懇切丁寧に説明してやれ!」

「承りました」

 

 とうとう地団駄踏み出した王子の命を受け、その背後に控えていたアシュヴァッターマンが、楚々と歩み寄ってくる。

 そんな彼でさえ、従僕がごとく静謐な表情を浮かべてはいるものの、よくよく観察してみれば、ほっぺたがふるふると震えていた。

 

「ここ数日の間、ハースティナプラに各国からの使者が連日のように訪れ、ドゥリーヨダナ王子とドリタラーシュトラ陛下への目通りを願っているのですが、その際に、彼らは揃ってこのように口にしております」

 

 ――ぷくく、と奇妙な音がアシュヴァッターマンの方から聞こえる。

 への字に口元を歪めているドゥリーヨダナは頑として聞こえない振りを貫いている。

 

「薄暗い洞穴へと囚われた哀れな彼らを日の当たる場所へと連れ出してくれた恩人が、この国にいると聞いて赴いたと。剛勇無双を誇るマガダ王との決闘に勝利した勇者の名はカルナ、そしてその恩人たるカルナを遣わしてくださった方こそ、ドリタラーシュトラ王の長男であるカウラヴァの王子・ドゥリーヨダナ殿下であると」

「――いい話じゃないか、ねぇ」

「おおむねその通りだな。的確に事実をまとめた報告ではないのか」

 

 ふるふるとドゥリーヨダナが震えだす。

 とうとう堪えきれないと言わんばかりに、アシュヴァッターマンが必死に口元を抑えて忍び笑いをかみ殺す。

 

「〜〜よくない、ちっともよくない! 確かに、わたしはそこのカルナをマガダ王国へと遣わしたさ。でもそれは、カルナに武勲をたてさせ、宮中の面倒臭い連中の口を黙らせるためにしただけだ! そのついでに、ジャラーサンダ王がカルナにコテンパンにされて調子に乗るのをやめてくれないかなぁー、ジャラーサンダが破れたら虜の王たちに恩を売りつけてやれるかなぁー、という目論見があったことは否定しない!」

 

 うわぁああ、と悲鳴をあげながらドゥリーヨダナが髪の毛を掻き毟る。

 せっかく女官の誰かが綺麗にまとめてくれたであろう髪型がますますぼさぼさになっていく。

 

「――なのに! なんか気づいたら、虜の王たちの境遇を憐れんで腹心の勇者を送り込んだ、慈悲深い王子って扱いを受けているし! 各国の使者たちから耳が痒くなるほど讃えられているし、あちこちから感謝の印として捧げ物が連日のように運び込まれてくるし! 母上と父上には褒められるし、ビーシュマのハゲには感心されるし! どれだけ否定しても謙遜として受け止められる上に、ユディシュティラのアホには見直したよと言われるしで――正直、もう限界だ!!」

 

 外見にはどこにも異常がないように見受けられるが、ひょっとしたら頭の大事な部分を強打してしまったのかもしれない。

 遂にはごろんごろんと床を転がりながら器用に叫びだした王子の狂態に、さすがに心配になってカルナに問いかける。

 

「――ね、ねぇ、カルナ。この王子様、いったいどうしちゃったの?」

「そうだな……悪人を装いながらも、根が小心な男だからな。自分の在り方だと思い込まされている有り様にそぐわぬ言葉をかけられているせいで、羞恥と罪悪感に駆られているのだろう」

 

 淡々としたカルナの言葉に、ついにアシュヴァッターマンが崩壊し、爆笑する。

 その笑い声を背景に、部屋中を転がっていたドゥリーヨダナが勢いよく起き上がった。

 

「〜〜ああ、そうだとも! 侮蔑され、けなされ、非難されていることには慣れてはいても、褒められたりすることには慣れてないのだ! それなのに、あちこちから毎日のように感謝の言葉が届けられるし、いったい何の苦行かつ拷問だ、これは!」

「つまり、簡潔にまとめてしまえば、王子は照れていらっしゃるのです」

 

 ニコニコ微笑みつつのアシュヴァッターマンの一言に、奇声をあげてドゥリーヨダナが顔を覆う。

 私は善人じゃない、悪人なんだと…とぶつぶつとつぶやいていた王子だったが、ちなみに今の王子は恥ずかしがっておいでですよ、とアシュヴァッターマンによって止めを刺されて撃沈した。

 

「加えて、ドゥリーヨダナ王子は救出した王族たちに謝礼を求めなかったとのこと。その配下のカルナという黄金の鎧をまとった若武者も、あくまで主君の命に従ったまでのことであると固辞して立ち去っていったという無欲ぶり。虜となった王たちの帰りを待ち望んでいた各国の者たちは揃って感激の涙を流し、せめてもの礼にとドゥリーヨダナ王子へと捧げ物をもってやってきた……というのが、一連の出来事の総まとめといったところでしょうか」

 

 王子の執務室に収まりきれず、廊下にまで並べ置かれている宝物の山を見渡したアシュヴァッターマンが感嘆の溜息とともに締めくくる。

 それにとどめを刺されたドゥリーヨダナはうつむいたまま、ぴくりとも動かない。

 ただ、顔面を覆ったままの手のひらの隙間からくぐもった声が聞こえてきた。

 どうやら、今回の騒動で受けた心の擦過傷が痛むようである。

 

「――カルナ、お前に尋ねたいことがあるのだが」

「――――オレに答えられることであれば、その問いに答えよう」

「お前が……謝礼を求めなかったという話は本当か?」

「本当だ。そも、お前から受けた命令はマガダ王が王国に攻め入ってこないようにするためのものであり、オレの武勲や名誉などは二の次だ。彼らの解放は成り行きによって成立したことにすぎない――よって、そんな彼らから報酬を受け取ることは道理に合わぬと判断したまでのこと」

「そうか……、納得した。否、納得させられた……お前はそういう男だからな」

 

 きっぱりと言い切ったカルナの言葉に、ドゥリーヨダナの肩が心持ち落ちたような気がする。

 そろりと頭部が動いて、指の隙間から覗く黒水晶の瞳の片方が俺の方を見やる。

 

「兄上殿……ではなかった、今の状態はロティカ殿か。よろしければ、彼の国であなたが何をしたのか、具体的に教えていただけないだろうか?」

「嘘は一つも付いていないよ?」

 

 ――俺のしたことといえば、寝台の上の王族たちの質問に丁寧に答えてやっただけである。

 

 カルナがドゥリーヨダナ王子の命令を受けて派遣されてきたこと、ドゥリーヨダナ王子はマガダ王の他国の王族への暴虐に不愉快な気分でいたこと、今回の件にはクル王国側の事情が多分に関わっているから苦難の底にいた貴方たちが気にやむ必要などないこと。

 

 ――それでも気が済まないというのであれば、ドゥリーヨダナ王子が困った時に一度だけでもいいので力を貸してあげてほしい、と告げただけである。

 まあ、茜色の夕焼け空を背景に優しく微笑む絶世の美少女の姿は、さぞかし彼らの琴線を刺激したであろう、とだけ追記しておく。

 

「なるほど……理解した。全てロティカ殿の差し金か……」

 

 ――だが、と黒水晶の目が無言で物語る。

 それだけではないだろう? と告げるドゥリーヨダナに、内心で小さな溜息を零す。

 ちらりとカルナへと視線を向ければ、心得たようにドゥリーヨダナがゆっくりと瞳を閉じた。

 

 厳密に言えば、俺はドゥリーヨダナと――ひいてはカルナのための味方作りの工作を行った。

 警戒されにくいロティカという名の架空の女の容姿を用いて、長らく幽閉されて心を弱らせた王族たちを癒しながら、その心にカルナたちへの恩義を根付かせたのだ。

 

 ……今回の出来事により、得られたものはいくつもある。

 マガダ王を降したことでカルナの実力は証明され、宮中の登用反対派たちの口を揃って噤ませるだけの功績を打ち立てたこと。これで当分の間のカルナの宮廷での立ち位置は安定するだろう。

 次に、ジャラーサンダを生かしたことで彼を慕う者たちの恨みを買うことを回避し、さらにはドゥリーヨダナとは敵対しないという誓約を課すことに成功したこと。これは後々になってから、大きな意味を持つことになるだろう。

 

 さらに虜囚となっていた哀れな王族たちを解放し、故国へと帰還させたこと――これが一番大きい。クシャトリヤは受けた恨みを忘れないが、それ以上に受けた恩義について非常に義理堅い。

 そんな彼らを薄暗い洞穴の牢屋から助け出し、惜しみなく神の力を解放してまで、弱り切った体が元の健全な状態になるまで手厚い世話を焼いたのだ。

 その厚遇に対して彼らが感謝し、自分たちを薄暗い洞窟から解放してくれたカルナやドゥリーヨダナに好感を持つのは必定だった。

 

 国内には信頼の置ける味方の少ないドゥリーヨダナだが、今回の件で恩義によって結びついた味方が各国に点在する運びとなった。

 また連日の訪問客の口からカルナの武勇伝やドゥリーヨダナへの感謝の言葉が綴られたことで、悪辣王子と名高い彼に対する新たな認識が象の都に住まう人々の心に強く印象付けられたのは、ドゥリーヨダナの錯乱ぶりからも明らかだ。

 

 命じた張本人たるドゥリーヨダナにそうした思惑がなかったとしても、今回カルナが動いたのは主君たるドゥリーヨダナの言葉あってのこと。

 その結果として、王族たちが救われたのは紛れもない事実である。

 例え、どんなに他者がドゥリーヨダナを偽善者として罵ったとしても、牢屋の中に囚われた王族たちを救い出したのはカルナであり、ドゥリーヨダナであると解放された王族たちは強く認識し続けることだろう。

 

 俺が仕掛けたのは、ちょっとした言葉遊びのようなもの。

 ……あまり褒められた行為ではないが、それで誰かを不幸にしたわけでも、傷つけたりしたわけでもないので、天界のスーリヤとてお目こぼししてくれるだろうよ。

 

 なんせ、ドゥリーヨダナに従うと決めたということは、カルナはパーンダヴァの王子たちと敵対する道も覚悟して選んだということ。

 カルナが決めたことなら俺はそれを支えるだけだと決めている――だからこそ、その主人であるドゥリーヨダナの味方は多い方がいいと判断した。

 

 ――なにより、想定していた以上にカルナが強くなっていたことは、もう隠しようがない。

 隠しようがないなら開き直るしかない――戦う前から、敵わないと諦めてくれるのが一番だが。

 

「……はぁ。起こってしまったことは仕方ない、当初の予定以上の収穫が得られたのだ。それでよしとするか」

 

 じっと黙ったままの俺を一瞥し、ドゥリーヨダナがゆっくりと立ち上がる。

 ようやく正気に戻ったようなので、彼の形のいい頭の中では色々と今後に対する策謀が巡っていることだろう。

 

「――ただ、一つだけ気にかかってしようのないことがあるのだが」

「何でしょう、ドゥリーヨダナ殿下?」

 

 にっこりと微笑みかけてくるドゥリーヨダナに、俺もにっこりと微笑む。

 そういやこの方誰だろう? と今更ながらに不思議そうな顔をしているアシュヴァッターマンはこの際置いておこう。

 

「ここ最近、都に流れているわたしに関する噂話の内容について、必要以上に美化されている気がするのだが、ひょっとしたらこれも誰かの差し金だろうか?」

「いやだなぁ、殿下。少しでも殿下の悪評を晴らして差し上げようとした、誰かの心ばかりの気遣いですよ」

 

 ひねくれ者であるドゥリーヨダナの性質上、絶対そっちの方が受ける衝撃が強いだろうと邪推しての可愛い悪戯(イヤガラセ)である。

 結果的に杞憂で済んだとはいえ、カルナに対する無茶振りをしでかしたこと、別に許してやったわけじゃないし。

 

「そうか、そうか。ところで二人とも、もうそろそろ立ち上がってもいいぞ」

 

 ニッコリと鷹揚に微笑んだドゥリーヨダナが片手をひらひらさせて、座り込んだままの俺たちに立ち上がることを許す。

 しかし奇妙な座り方だな。膝を折り曲げ、お尻を太ももの上に乗るように座らせるなんて、初めてした座り方だよ。

 

「もう気が済んだのか? ならば……む?」

「そうですか、それでは遠慮な……あれ?」

 

 鎧を鳴らしながらすんなりと立ち上がったカルナであったが、俺の足の方は意に反してちっとも動かない。中途半端に座り込んだままの俺を見下ろし、カルナが不思議そうに首をかしげた。

 

「――っち。やっぱりカルナには効かなかったか」

 

 奇妙な表現だが、上品に舌打ちしたとしか例えようのないドゥリーヨダナが、心底悔しそうな表情を浮かべ――邪悪な笑みを零す。

 それはともかく一体、何が俺の体に起こっているんだ。足が、足が痺れて……う、動けない。

 なんというか、足がまるで護謨(ゴム)にでもなってしまったようにぶよぶよしている。何これ、初めての感覚に胸がぞわぞわする。

 

「しかし、本命はかかったようだな――どうだ! ビーシュマ直伝の正座攻撃の威力は大したものだろう!!」

「は、はうぁ! やめて、つつかないで! ひえええ!」

「……ドゥリーヨダナ、とても生き生きしているな」

「そうですね、とても楽しそうですね。……しかし、あの女性どこかで見たような?」

 

 結局、ドゥリーヨダナに仕返しできたと思ったら、仕返し返されました。くそう、してやられたわ……あの王子め。俺じゃなくてワタシだったら手打ちものだぞ、全く。

 

 

 ドゥリーヨダナがカルナやアシュヴァッターマンと連れ立って、父王に拝謁してくると宣言して執務室から出て行ってしまったために、俺一人だけこの部屋に取り残されていた。

 

「そういえば、この辺に置いたままにしていたんだよな。俺の腕輪、っと」

 

 ――嗚呼、それにしてもひどい目にあった。

 単に膝を畳むだけの座り方に、あんな罠が仕掛けられていたとは、夢にも思わなかったよ。

 

 そんなことを考えながら、ごそごそとロティカの姿のままドゥリーヨダナの執務室を漁る。

 

「にしても、一気に物が増えすぎて見つけにくいなぁ」

 

 父であるスーリヤから下賜された黄金の腕輪だが、外した後は特に回収することもなくドゥリーヨダナの部屋に置いたままにしておいたんだよね。

 一応、カルナがドゥリーヨダナの側から離れている間に災難に巻き込まれないように、と思っての判断だったけど、さてどこにあるんだろう?

 

 あれを普通の人間がつけるには一周回って体に害があるけど、側に置いておくだけなら守護の力が高まる神宝だからね。

 間違って誰かが腕に嵌めないように――といっても、王子の執務室にあるものだし勝手に盗られたりしないと思うけ、ど……?

 

「――……おかしい」

 

 一通り探し回って判明した事実に、じっとりと冷たい汗を掻く。

 集中すれば魔力の痕跡を読み解ける。なので、宮殿のどこかにあることだけは確実だった。

 ――それは確かなのに、あるべきはずの場所であるドゥリーヨダナの執務室にはない。

 

「――つまり、俺の腕輪が……何者かに盗まれた?」

 

 そうとしか結論付けられなかった。

 ――だとすれば、いったい誰の手によって……?




(*第3章はとうとうアルジュナ本活躍の話になります。構成としては「不吉な家編」「ドラウパティー姫の婿選編」あと「運命の賭博遊戯編」といったところでしょうか。ついでに、インドラと某腹黒がアップし出します*)

(*アンケートですが、とりあえず本日いっぱいまで実施しております。「幕間の物語」ですが、
1、ビーマ視点 2、アルジュナ視点 のどちらかに活動報告のコメント欄に投票頂けますと幸いです*)

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