幻想の日々〜絶望のしがらみから抜けた者達   作:アストラの下級騎士

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フロムのジジィとババァは強い(確信)そんな回。
何だか評価や感想が何個も来て驚いております、本当にありがとうございます!
DLCが来るまで頑張らせてもらいます


妖怪の山と古狩人御一行

ここは妖怪の山。その名の通り様々な妖怪が住んでいる場所だ。多種多様な妖怪が潜んでいるということから、この山を登ろうとする人はほぼ皆無ではあるのだが、妖怪の山の上にある守矢神社に行くには必然的に山を通らなければならない為、月に何人かは比較的安全な山道を通って神社を参拝している。

 

が、今正にその山を登ろうとしている四人の人影は、どうやら守矢神社に行くわけでもなく、かと言って妖怪退治に来た訳でも無いようだ。

山道では無くまんま獣道を歩いている四人組の中で、先頭に立って歩いていた、顔にペストマスクを着けて烏の翼の様なマントを羽織った一人の女性が後続に向けて喋りかける。

 

「あんたら、本当にこっちであってるんだろうね!?私にはどう見ても迷ってる様にしか見えないさね!」

 

そう喋ったのは、ヤーナムでも一際特殊な「狩人狩り」というものを行なっていた古株の狩人、アイリーンだ。

年を重ねても山登りで息を全く切らさない程には元気一杯である。

 

「さぁな、私に聞かれても分からんよ。まぁあの入り組んだ旧市街に比べれば随分マシな地形だろうよアイリーン」

 

そのアイリーンの言葉に答えたのはやはりヤーナムでも古株の狩人であり、また狩人でありながら獣を守る事を誓った愚かで優しい狩人、デュラである。同じ古狩人という事でアイリーンとは知り合い以上の関係だ。

 

「大体あんたが『山に登らないか』って言い出したんだろうデュラ!!だったらこの責任を取るのはあんたさ、里に帰ったら何か奢ってもらうよ」

 

「構わないが、また太るんじゃないか?其の内ヤーナムのあちこちにいる屍肉喰らいのカラスどもみたいになるんじゃあないのか」

 

「あんた死にたいならそう言えばいいんだよ?狩人を狩るのがあたしの仕事さね」

 

殺気立ちながら銃をデュラに向けるアイリーン。怖い。デュラはそれを見てスタコラと逃げ出している。

ジジイババァが山の中で喧嘩しているなど中々無い事だ、デュラはアイリーンから逃げ回り、逃げ回るデュラを捕まえようとしてアイリーンはまた道を間違えていく。こんな事を何回も繰り返しているからどんどん迷っていくのだ。

 

「ま、まぁまぁお二方、落ち着きましょうよ。まだ完全に迷った訳でも無いですし、妖怪が襲ってくる事も今の所ないのですから」

 

そう言ってジジィとババァを宥めるのは、血族狩りのアルフレートである。山登りという事で若者代表として誘われたが、まさか噂に聞く「狩人狩り」と「灰狼」がアルフレート顔負けの元気っぷりだとは思っていなかったので扱いに少し難儀していたりする。ちなみに妖怪の山を登る際に何があっても良いように、アルデオを頭に被って車輪を装備した本気モードでアルフレートは登山している。

 

「何だいとんがりコーン。あんたもまだ若いのに、ババァを先頭に登山するなんていう酷薄な事をよくやってのけたね」

 

「とんがっ...!いや...お言葉ですけど、貴女が息巻いて先頭に立ったんじゃないですか。若者に任せてはいられないって」

 

「さぁ何の事かさっぱりだね。あたしゃババァなんだよ、そんな些細な事は忘れちまったよ」

 

アルフレートが抗議するのも全く耳に入れず、デュラを捕まえて全力でしばいたアイリーンはずかずかと前へ前へと進んでいく。アルフレートが溜息を吐いてしまうのも仕方ない事であろう。

 

「ヘンリック。...ヘンリック!!あんたも何かしておくれよ、幾ら沈黙が売りの狩人だからって何もずっと黙りこけなくても良いだろう?」

 

そう言うアイリーンの視線の先には、少し黄味がかった特徴的な衣服を着た古狩人、ヘンリックが最後尾で歩いていた。ガスコインの相棒であった彼もまたガスコインと同じように血に酔い、アイリーンに狩られてしまったが、それは過去の話。親睦を深める目的で山登りについてきたが、まさかここまでアイリーンが方向音痴だとは思っていなかったようだ。

 

「...だり」

 

「あぁ?何だって?そんなボソボソ喋られてもあたしには聞こえないよ、もう歳だからね」

 

歳だと言うなら何で山登りなんかをしたんだとアルフレートは思ってしまうが、発案者はデュラでアイリーンが言い出した訳では無いので何も言わない事にした。言ったら言ったでビンタは間違いないだろう。

 

「左だ...左から仄かな人の匂いがある道がある。おそらくそちらが山道だ」

 

「あ、あぁありがとさんヘンリック。急に真面目になられると何て反応すりゃいいか分からんだろう」

 

何時も私は真面目だと密かに思うヘンリック。実際アイリーンが道を間違える度に左だ左だと何回も言っていたのだが、聞き取ってもらえなくて意気消沈していた所であった。

 

「それと...近くから妖怪の匂いが先程からしている、微かな獣臭も少し」

 

「ほう、妖怪は良いが獣かね?まさか奴等がここに来ているとは考えたくもないが...その時がくれば、このパイルハンマーが火を噴くな」

 

デュラが少し意気揚々としながらパイルハンマーをガシャガシャと出し入れする。ジジィとは言え狩人、最近戦いとは無縁だった故に少し身体を動かしたいと思うのは致し方ない事だ。

 

「私も最近は全く獣とは無縁でしたからね、少し勘を取り戻すには丁度良いです。獣がいればの話ですが」

 

ハハハ!と少し狂気じみた笑いをあげながらアルフレートもデュラと同じく張り切りながら車輪を強く握りしめる。数多のカインの血族をすり潰したその車輪は、未だ血を待ち望んでいるのだ。

 

「...獣など、居ない方が良い。この世界には不必要な奴等だ。もしも害を為すなら排除するまで」

 

ヘンリックがそう言って静かに懐にしまったスローイングナイフの位置を確認する。歴戦の古狩人である彼ならばヘマをする事など無いだろうが、それでも咄嗟に反応する為に自らの持ち物を確認しておく必要はある。

 

「ヘンリックの言う通りさ、獣が居て良い事なんざ何一つありゃしない。旧市街の獣供には同情するが、それ以外は害でしかないんだからね」

 

警戒しながらアイリーンは後続の三人にそう呼びかける。アイリーンにとって獣は敵でしかない、狩人を血に酔わせる

最悪の敵だ。

デュラもアルフレートもヘンリックも、それは痛い程分かっている。だからこそ万が一の事を考えて辺りを見渡し、耳を澄ましながら左の山道があると思われる方に向かっていった。

 

ふと、アイリーンが何かを聞き取った。

 

 

「あんたら静かに、何か来る」

 

丁度前方辺りから、草をかき分けて此方へと歩んで来る音が聞こえてくる。守矢神社への参拝客ならば態々こんな獣道まで来ないだろうし、確実にこちらに用がある何者かだろう。その足音は確実にこちらに迫って来た、それに応じて獣の匂いも濃くなり、一層狩人らは警戒の色を強める。

まさか本当に獣なのか...疑惑は強くなり、山登りをした事を少し後悔する。面倒事が増えてしまったと。後でゲールマンにも報告せねばなるまい。

 

そして遂にそれは姿を現わした。

 

白い狼の様な耳と尻尾を持った、立派な獣、いや獣人が彼らの前に現れる。白い衣服を着て、山伏が着けるような冠を被っているのが獣と言うには少し違和感があるが。

しかし、獣は獣である。反射的に彼らは臨戦態勢に入る。アイリーンは慈悲の刃を変形させ、両の手に刃を携える。デュラもパイルハンマーを装填し、アルフレートも車輪の怨念を解放、ヘンリックもナイフを手に持ち、ノコギリ鉈を取り出した。

 

「よもや本当に獣が出てくるとはね...見た所獣人、残念だが狩らせて貰うよ」

 

「旧市街の獣を思い出すな...久々の狩りだ、腕がなる」

 

「獣風情が狩人の前にのこのこと現れるとは...この山を清潔に致しましょう...」

 

「ガスコインの様にはならぬようにな...行くぞ」

 

四人はその獣人に一気に足を...踏み出そうとするが、その獣人がとった想定外の行動にその足を止めた。

 

「ままま待ってください!あなた方がどういった方達なのかは存じませんが、私は貴方達の敵ではないです!」

 

「...!あんた理性があるのかい?こりゃ驚きだ」

 

喋った、喋ったのだ。ヤーナムの街では人語を解する獣など一人の例外を除けば居なかった故に、その行動は狩人達を驚かせるには十分すぎる。

 

「わ、私は白狼天狗の椛と申します。妖怪の山で迷っている人たちが見えたので道案内にやってきた次第だったのですが...驚かせてしまったようですみません」

 

獣人の正体はヤーナムの獣ではなく、この妖怪の山を哨戒している天狗、椛であった。何だかワイワイ騒ぎながら獣道を歩いているジジババ御一行を見兼ねて、山道まで案内しようとやって来たのだが、まさかここまで敵対的な反応をされるとは椛も考えていなかった。

 

「いや...あたしらの方こそすまないね、獣には良い思い出が無いもんで、警戒してた所に獣みたいな天狗さんが来たもんだから、思わず武器を構えちまったよ」

 

「成る程、貴方が妖怪の山の道案内をしてくれるという天狗か。いや何、ちょっとした勘違いだ、悪く思わないでくれ」

 

アイリーンとデュラがそう言って武器をしまい、椛に謝った。アルフレートとヘンリックも同様に武器をしまい、臨戦態勢を解除する。よくよく考えればもしヤーナムの獣ならば獣臭よりも先に濃厚な血の匂いが漂う筈だ、そうでなかったのだから何も気を張り詰めて進む必要は無かったのかもしれない。

 

それにその獣臭は、きっと椛の背後から迫る巨大な何かの匂いだろう。

 

「...どうやら私が連れて来てしまったみたいです。本来ここの妖怪達は人間に牙を剥く事は無いのですが、時折妖力を吸い過ぎたのか過剰な力をつけて襲いかかってくる奴等もいます、恐らく私の妖力に連れられてきたのでしょう」

 

椛は後ろから迫る何かを見て狩人にそう説明した。こういう妖怪を始末するのも、白狼天狗の役割である。こういった妖怪が時々いるせいで、未だこの山は妖怪の山と呼ばれているのだ。見た所そいつは妖力を吸って巨大化した熊のようだ。強靭な皮膚と鋭利な爪牙を持ち、その眼はギラギラと飢えに輝いている、まるでヤーナムの獣の様に。巨大熊は椛達を視認すると木々を揺らす程の雄叫びを上げ、猛然と此方に駆ける。そのスピードは熊とは思えぬ程だ。

 

「すみませんが、下がっていて下さい。あの獣は妖力を吸って凶暴になった獣です、少し梃子摺るかもしれませんが問題はーー」

 

言いながら刀を抜こうとした椛だったが、その手は前に出たアイリーンらによって止められた

 

「いいや、こいつ程度ならあたしらでも十分さ。先程の無礼のお詫びだとでも思っておくれよーー獣を狩るのは、狩人の仕事さね」

 

「まぁそういう事です、此処は私達狩人にお任せを、心配はいりませんよ」

 

「そういう事だ天狗よ。丁度身体を動かしたかったものでな、こういう山登りも刺激があって中々良いものだ」

 

アイリーン、デュラ、アルフレート、ヘンリック。ヤーナムの街でも最高の狩人達が一同に揃い踏みした、獣を前にした彼らの眼光は正に「狩人」だ。でも、と椛は言いかけるが、彼らが只者では無いのは自分に向けられた殺気でよく分かっている。素直にこの場を任せる事にした。

 

「じゃあ、やるよあんたら、いつも通りね」

 

そう言った瞬間アイリーンは一気に距離を詰めて腹を掻っ捌く、高速に乗ったその刃は空気を切り裂き、巨大熊を怯ませる。

 

「獣如きが...」

 

ヘンリックもアイリーンに続き、その手に持ったスローイングナイフを巨大熊の目に向けて投げつける。ギザ刃のついたそのナイフは扱いこそ難しいものの、ヘンリックの様な熟練の狩人が使えば獣相手でも十分通用する。

そのナイフは見事に瞼の間に滑り込み、眼球を貫通した。視力を失った獣はその場に倒れ、哀れにももがき続ける。

 

「ハハハハハハハハァ!!」

 

倒れた巨大熊の両足をアルフレートが無惨なまでに車輪でその巨大な足を轢き潰す。ギャルギャルと音を立てながら車輪が怨念と共に回るたびに、肉が飛び、骨が砕ける。その音をBGMにしながら、アルフレートは更に猛っていった。

 

「そろそろ頃合いだ、アルフレート。最後は私が仕留める」

 

「ヒャハハハハハ!!!...コホン、すみません、少し楽しみ過ぎてしまいました」

 

わざとらしく咳払いをしたアルフレートを下がらせて、デュラは獣にマウントポジションを取る。暴れる獣を両足で無理やり抑えつけるその姿からは、とても老人とは思えない気迫が溢れていた。旧市街を守り通してきただけはある。

そしてデュラは巨大熊を抑えつけながら、右手に装着されたパイルハンマーの機能を作動させていく。ガシャンと火薬が装填され、パイルが引き伸ばされ、歯車が限界まで稼働されていき、蒸気が沸き立ち、その開放を今か今かと待ち望んでいる。それの臨界点まで達した瞬間、デュラは巨大熊に、少しの慈悲を込めて言った。

 

「せめて、一瞬の内に逝くがいい」

 

その言葉が紡がれた瞬間、山をも揺るがす様な爆音と共にパイルハンマーが巨大熊の顔面に勢い良く叩きつけられる。

反動で胴体から飛び退いたデュラが見た物は、顔というパーツを失った酷い獣の死体であった。

 

無事にその場を凌いだ四人の狩人達は久しぶりに動けた事に感謝しつつ、引き攣った笑顔を携えた椛の指示どおりに獣道から抜き出て平和に山登りを敢行した。

 

 

 

 

椛は言う、「殺気を向けられたあの時に、狼狽えずにちゃんと喋っておいて本当に良かった」と。

きっと狩人が獣と罵られるのは、ああいう無慈悲さ故だったのだろう。椛はヤーナムの狩人の話を他の天狗から聞いて、彼らにドン引きしながら今後一切近づかない事を強く誓ったのだった。




もみちゃんとはいえ古狩人達の獣絶対殺すマンっぷりをみたらそりゃ引きますわ。
デュラさんが獣相手にアグレッシブになってますけど、旧市街の獣ではないですからね、仕方ないね。

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