幻想の日々〜絶望のしがらみから抜けた者達   作:アストラの下級騎士

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何というかワチャワチャしてるダクソNPCってあんまりいないよね。という発想から生まれた回です


獣と五人組

ここは幻想郷の何処か、強いていうなら森の中である。幻想郷は楽園ではあるが、全ての場所がそうという訳では勿論無い。

野良妖怪や妖力を持った獣が蔓延っている場合があるのだ。一対一なら神をも殺せる不死人やヤーナム民だが、多対一は滅法苦手なのだ。特に獣の類は不死人の天敵である。

ではそれが無数に、背後から、猛烈なスピードで襲ってきているとしたら?

 

答えは簡単、全力疾走である。

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁぁああぁあぁあぁあ!!!このクソ野郎!やっぱり騙しやがったな糞がぁぁぁぁぁああぁあああぁ!!」

 

そう叫びながら走っているのは死刑囚が着ける仮面を着け、胴体にはそれとは不似合いなチェインメイルを着けた男。放浪の殺人鬼、クレイトンである。

 

「いやいや、私は騙してなんか居ませんよ。貴方が宝があるからって巣に突っ込んで行ったんじゃないですか」

 

そう言うのはごく普通の戦士の格好をしていながら、異質なオーラを漂わせている優男、親切なペイトだ。その顔には、冷たい笑みが張り付いている。

 

「宝があるって言ったのはお前だろ、ハァ、ハァ...常識、ねぇのかよ、ペイトよぉ?」

 

息を切らしながら必死にその二人に追いついているのは渡し屋ギリガンという悪どい男だ。前二人とは違い、誰かに直接的な害を加えたことは無いが、不死人をイラつかせる良いキャラをしている事でもっぱらの評判だ。

 

「いやいや、私は彼処に何があるかなぁーて言っただけじゃないですか?何を言ってるんです?」

 

「おいおいペイトの旦那、そりゃないぜ!ていうかペトルスあいつ何処行った!?」

 

ペイトの言い分に答えたのは不屈のパッチと呼ばれるゲス野郎である。何とも小賢しいハイエナみたいな男である。土下座のフォームはピカイチだ。

序でに言うと、宝探しに一番乗り気だったのはこいつだ。

 

「あぁん⁉︎あの腐れ聖職者か⁉︎死んだんだろどうせよぉ!!良いから走れクソがあぁ!!死にたくねぇぞ!!」

 

「クハハハハ、獣に追われる狩人とは何とも面白い。だがこういうのもまた一興。俺の血も滾り、鐘の音も澄み渡るという物だ!」

 

クレイトンと並走している、まるで鹿の頭の皮膚をそのまま被った様な異形の姿をしているのは、狩人殺しのブラドーと呼ばれる殺戮者である。きっと後ろの獣程度なら造作もなく殺せるのだろうが、もう彼には使命も無い、戦う理由もないのだ。

ペイト、クレイトン、パッチ、ギリガン、ブラドー。以上5名が、全力疾走している方々であった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ...ゼェ...おい、おい!ペース落として、くれ!落として下さい!俺太ってんだよ、常識、ねぇ、ハァ、のかよ⁉︎」

 

太っていて更におっさんであるギリガンはもう既に息も絶え絶えである。今にも死にそうな声をあげながら何とかついてきている状態だ。

 

「死にたいならどうぞご勝手に、私は先に行きますよ」

 

「ヒュ〜良いねぇペイトの旦那、外道だねぇ」

 

この盾チク野郎どもは全く気にしていないが。死にたくなきゃ走れ、そうじゃなきゃ死ねという何ともシンプルな回答だ。

逃げ慣れているのかパッチもペイトも先程から全く息を切らしていないのが彼らの凄まじい所か。

 

「あぁぁぁあ糞ッ...せめて誘い頭蓋かなんかがありゃあな...いやこいつらには効かねぇか?」

クレイトンが懐を探るが、人殺しが趣味の彼はそんな御大層な物は持っていなかった。あるのは松脂と緑化草位である。

そんなクレイトンの焦燥など梅雨知らず、先程から全く数が減っていない獣どもは、より一層殺気を立たせながら五人組に迫る。より速く、より連携を取りながら迫っているのには理由がある。簡単だ、彼らの方が土地勘があるのだ。木を避け、草を掻き分け、常に最短ルートで此方に向かってくる。

がむしゃらに逃げている彼らでは何れ追いつかれてしまうのは必然である。

 

「いやぁ〜土下座が通じる相手なら良かったんですがねぇ、へへへ」

 

「ほう、獣相手に土下座を考えるとは、新しい考えだ。クハハ!悪くない、悪くないぞ蜘蛛よ!」

 

心底面白いといった風にパッチとブラドーは軽口を言い合う、余談だが、パッチと言う同姓同名の蜘蛛の知り合いがブラドーにはいるため、パッチの呼び名は一瞬で蜘蛛に確定した。パッチ本人も結構気に入っているようなので良いのではないだろうか?後四人の呼び名はペイトが同類、クレイトンが悪党、ギリガンが豚、ペトルスが丸虫という風になっていたりする。

 

「おいブラドーのおっさん!!何か血を撒くとか出来ねぇか!?そろそろ追いつかれちまうぞ!!」

 

確かに、ブラドーは大量に血を持ってはいる。だがこれは回復用で、撒き散らす用ではない。それに「血」なら自分の中にある。しかし取り出すのには時間がかかる為、どうにか時間を稼ぐ必要があった。ブラドーは顎に手を当てて、何処ぞの探偵の様に方法を模索する。

正直自分が正面から言ってもこの獣は殲滅出来るだろう。だがそれではスリルが無い、何か一工夫を凝らす必要がある。

一瞬で、それでいて一発であの獣を吹き飛ばせる状況。若しくは...

ふと後ろを振り向くと、そこにはもう限界と言った風の豚がドスドスと走っていた。

それを見てブラドーの目は獣の眼光を宿らせる、楽しみで仕方がないといった様子だ。

 

「すまんな豚よ、『血』となってくれ」

 

ブラドーは急停止すると持ち前の脚力で思いっきりギリガンを蹴飛ばした。ヘトヘトでスタミナの無いおっさんは蹴られた勢いのままなすがままに大の字に転がってしまう。食ってくれと言わんばかりの最悪の状態である。あまりの疲労の為、危機的状況でありながら、おっさんの身体は全く動いていなかった。勿論だが不死の遺骨は手に入らない。

 

「ハァ...おい、マジかよ...何してんだよ...ゼェ...」

 

追いかけていた獣供は思う。あぁ、餌供が自らが助かるために生贄を差し出したのだと。彼らは只の獣ではない、妖獣である。群れで生活する弱い種族ではあるが一定の知能は兼ね備えている厄介な奴らだ。

それも生贄は脂の乗った旨そうな獲物だ、中々無いと言っていい。有り難く頂戴する事にしよう。

ジリジリと、獣は餌にありつく為に円を描いて近づいていく。嬲るようにゆっくりと確実に。縋るような目で生贄、いやギリガンは四人を見つめるが、残念ながら助けてはくれないようだ。

 

「あーー...まぁ、あれだ。俺たちはトカゲだったんだ。運悪くあんたは尻尾だったって訳だ。じゃあなギリガン」

 

「悪いとは思っていますよ、ただ私たちが貴方を助ける道理がありません。すみませんギリガンさん」

 

「ペイトの旦那に同意」

 

まぁわかってはいた。自分含めこいつらは筋金入りのクズだ、助けてはくれないとは思ってはいた。思ってはいたのだ。だがやっぱり自分に死が迫るのは嫌な物である。最近死んでなかったから尚更だ。

 

「畜生...お前ら!!一生呪ってやるからな!!畜生!!畜生!!あぁぁぁああぁぁぁあ!!来るな来るな糞、常識ねぇのかよおぉぉぉぉおおぉおおぉお!!」

 

雄叫びを上げ、獣供は勝利を確信する。そう、その瞬間。ブラドーにはその瞬間が必要だった。

瞬時に槌を腹に突き立て、身体の中の呪われた血を槌に纏わせる。瀉血の槌はブラドーが見出した狂気の仕掛け武器、悍ましいその血の塊は見る者全てを震え上がらせる程だ。

飛び上がり、獣を飛び越し、ギリガンが居る輪の中心に降り立つ。瞬時にギリガンを片手で『瀉血』の範囲内から放り出すと、獣供に相対する。

獣供は妖獣である、だからこそ分かってしまった。

こいつは、圧倒的に俺たちより強いと。

しかし、理解するまでが遅い、遅すぎた。

 

「獣供...」

 

そう呟き、ブラドーはおもむろに血の塊を地面に向ける。死を感じた獣供だったが、その次の行動が間に合う筈もない。

 

 

 

ーー鐘の音が聞こえているかね?

 

 

 

そうブラドーが問うた瞬間、血の塊は地面に突き立てられ、緋色の爆発を引き起こした。近くに居た獣は跡形も無く消し飛び、かろうじて範囲外だった獣などは、瀉血が引き起こす「発狂」により、消し飛ぶより酷い目に遭ってしまっている。

血の雨を浴び、赤に染まりながらブラドーは嗤った。それはもう楽しそうに。

 

「素晴らしい狩りだったぞ...クハハハハ!」

 

その余りの凄惨さにさすがのクズ達も驚愕するしかない。奴の本気は凄まじい物であった。ついでに狂人レベルもあいつの方が上だと心底感じていた。

 

「うわぁ...いや俺も殺人鬼だが、血の爆発とか何だよあれ...ありゃ引くわ」

 

「狂ってますね」

 

「ペイトの旦那に同意」

 

「いやー常識ある奴で助かったぜ...おいお前らも見習えってんだ!」

 

各々の褒め言葉を聴きながら槌の血を振り払い、元に戻す。しかし、まだ危機は過ぎ去ってはいない。

ブラドーは圧倒的だった。そう、圧倒的すぎた。というか状況を考えていなかった。獣は全て小さかった、偶然弱い集団だったのかもしれないが、それにしては諦めが悪く、執念深く追ってきた。何よりあの動きは親に教え込まれたかのようであった。

そうブラドーは考えていなかった。親の存在、そしてその親に知らせるように血を撒き散らしてしまった事を。

 

「あ...ありゃあ、何、だ?」

 

クレイトンがそう呟いた時にはもう遅い、その姿は、黒き大犬といった様相で、一種の神秘さすら感じられた。あの狼騎士の墓守であった灰色の大狼に勝るとも劣らない巨躯の持ち主であり、その目は完全に怒りに我を忘れている。

 

「クハハハ!!まさか親が居たとはな...考えてもみなかった!」

 

「おい!どうでもいいからさっさと逃げろ!こりゃまじで死ぬぞクソがぁ!!!」

 

一難去ってまた一難とは正にこの事であろう、我先にと逃げ出したクレイトンに皆が続く形でまた先程のような逃走劇が始まった。これには流石にガチで逃げている。

 

「ブラドーの叔父貴!何やってくれてんすか!!さっきより状況酷いぜこりゃあよぉ!」

 

「もう、無理だ、常識ねぇのかよ...」

 

だが、この屑達は最悪の状況から何度も生き延びているのだ。きっと何とかなる、そう思っている証拠に、彼らは皆笑って居た...ギリガン以外。

 

 

 

 

 

 

「ハァ、よし。大丈夫か貴公ら?」

 

「こんな大犬は私も見た事が無いな...いや、巨人墓地のスケルトンに似たようなのが居たような...」

 

結論から言うと、彼らはやっぱり助かっていた。偶然散歩をしていた二人の騎士、黒鉄のタルカスと聖騎士リロイに助けて貰ったのである。圧倒的な剛力二つの前にさしもの大犬も叶わなかったようだ。一応神聖っぽかったので気絶に留めている。

 

「ありがとうございます、助かりました...」

 

「流石タルカスの叔父貴だ!よっ!ロードラン最強!」

 

先程までの狼狽が嘘の様に態度を変える様は、正にサイコロか何かの生まれ変わりかとついつい思ってしまう程だ。

 

「いや、礼はいらない。俺も良い腕試しになった事だしな、さて帰...ぬ?」

 

「どうした貴殿?...あ」

 

タルカスは圧倒的だった、圧倒的にうるさかった。後リロイの神の怒りも喧しかった。更に言うと、巨大なグレートソードとリロイのグラントが引き起こす地鳴りはとんでもない物があった。それだけでかい音を出していれば、訝しんでやってくる者も居る。それはタルカスとリロイが耳に聞いていた人物だ。桃色の髪にシュシュを付け、片方の腕に包帯を巻いている。身を包む衣装はチャイナドレスに近い蠱惑的な衣装だが、タルカスとリロイが耳に聞いていたのは別にそんな蠱惑的な女性が誘惑してくるとかではない。

その女性の噂で聞いていたのは、全く逆のキッツいお説教である。

 

「こらーーー!!!ちょっと貴方達、何やってるんですか!ていうかこの気絶してるのこの山の主様じゃないですか!?そんな横暴はこの仙人、茨木華扇が許しませんよ!大体ですね、地鳴りが響く程の衝撃って何なんですか!?主様倒すって何なんですか⁉︎そもそもーー」

 

一難去ってまた一難。肉体的疲労の後は精神攻撃である。全く不幸な日もあった物だとブラドーを除く六人は思ったのだった。

 

 

 

 

 

どうでも良いが、案の定ペトルスは妖獣の洞窟の中にこっそり忍び込み、妖獣の卵という貴重な物を売り払って自分だけ利益を独占していた。

底冷えする程の屑とは、正にこいつの事であろう。

 

 




一応パッチは無印、3共に出演した同一人物という扱いです。後ブラドーさんの静かな狂いっぷりはソウルシリーズ随一だと思う

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