幻想の日々〜絶望のしがらみから抜けた者達   作:アストラの下級騎士

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大変大変大変長らくお待たせいたしました。スランプの病に罹りまして全く投稿出来なかったのですが、やっと投稿出来ました...。
DLC第二弾、最高でした。もう何も言う事はありません。ソウルシリーズはブラボ含めて本当に素晴らしい作品でありました。太陽万歳!

そして今回はDLC第二弾を早速使っていく回となっています。


少女と魔法使いと愛しい人

夢を見た

 

自分は、何時もの服を着ていた。燻んだ赤の服とベレー帽を着け、長髪を地面に垂らしながら。そんな少女が見た夢は、それは嫌な夢であった。それはそれは嫌な夢であった。絵描きの少女が見たその夢は、酷いものであった。

いつも側に居た優しい人が、ボロボロになって朽ちていって、そしてその優しい人が、何かに取り憑かれたように狂奔しながら誰かと血みどろの戦いをしていた夢だった。

名も無き少女はそれを遠くから見つめた。全てが終わったかのような砂漠の真ん中に座り、その戦いを見続けた。目を背けたかった、傷ついていくのを見たくなかった。

だけれど、少女は見続けた。涙が溢れ、赤い瞳が潤んでいっても、少女はそれを見続けた。

優しい人の生き様を目に焼き付けなければいけないような気がして。もうずっと会えないような気がして。

だから少女は見つめ続けた、優しい人が死ぬまでずっとずっと、砂漠の真ん中で。その時ばかりは、絵の事なんてどうでもよかった。

そして優しい人が死に、また彼女の意識もそこから離れていった。

 

 

少女が見たのは、そんな哀しい夢であった。

 

 

「.....太陽?」

 

ふと、少女は目を開けた。ひどく永い間眠っていたような気がする。空を見上げるように大の字に寝転がっていた少女が辺りを見回すと、そこは見知らぬ場所だった。

鬱蒼としげる木々、仄かに香る草独特の鼻をつく香り。自分が居たアリアンデル絵画世界には無い情景に少女は酷く困惑する。

ここは何処で、何時なのか?何よりここには太陽が照っている。自分が殆ど見た事が無いまともな太陽が。

もしかしてここが自分の描いた絵画世界なのだろうか?いや、それにしては暖かすぎる気がして、少女は首を傾げる。こんな不思議な事は今まで無かったのだ、戸惑うのも当たり前であろう。

 

「...キャンパスが無い、私本当に描き上げたんだ。皆の居場所になる、冷たく優しい世界を...でもここはそうじゃないみたい」

 

少女の傍らには絵を描く道具しかなく、キャンパスは無かった。それもそのはず、少女は確かに描き上げたのだから。一人の灰の名前を付けた新たな世界。滅びしか無かったあの世界に於いて、少女が描いた世界は正に希望そのもので、ずっと続いていくであろう物であった。

自分は成し遂げた、そんな達成感を感じつつも少女はそれを上回る不安に襲われる。

 

「.....ゲール爺は、どこ?」

 

ずっとずっと側に居てくれた優しい人。親のような、家族のような人。少女にとってそれはゲールこそがそうであった。絵を描く顔料と言っても、何も一つの顔料で全てが描けるわけでは無い。

沢山の色、様々な顔料が必要なのだ。少女には、残念ながらそれを集める程の力は無かった。

しかし、何処からかふらりと現れた赤い頭巾の騎士が、少女の顔料を一つ集めてきてくれた。新たな世界の為ならば、生命を捧げる。

そう言って。

その人物こそが、奴隷騎士ゲールであった。

少女の為に様々な顔料を取ってきてくれて、ずっと自分の側に居てくれたたった一人の家族。優しく、少女にとって限りなく愛しい人であった。

 

でもそんな愛しい人は、最後の顔料を取ってくると言って、帰ってこなかった。

 

一人の灰が最後の顔料を持ってきてくれたが、ゲールは戻ってこなかった。待っていれば帰ってくると思っていた。それが当たり前だったから。

世界を描けば、またふらりと笑いながら現れてくれると思っていた。それが当たり前だったから。

でも結局ゲールは帰ってこず、また見知らぬ地の少女の側にも居なかった。

不安は募る、太陽が照っているのに、草木があるのに、暗い感情が少女の心を急速に蝕んでいく。

 

「きっとお爺ちゃんも私と一緒に来て迷っているのね。私がここに来たのだから、ゲール爺も一緒に来ているはず。きっと近くに居るはず、だから、探さなきゃ」

 

少女は筆をしっかりと握って森の中を歩き出した。何処となく、筆を握る手に力が篭っている様に見える。それはきっと、不安から来ているのだろう。少女は美しい灰の様な長髪を地面に引きずりながら、歩き始めた。

周りには同じ様な木が生い茂り、方向が分からなくなりそうではあるが、少女はそんな事お構いなく進んでいった。そうしなければ、自分の心の暗さが更に増す様な気がして。

道なき道を前に向かって歩き続ける。まだ歩き始めて数分しか経っていないが、もう既に少女の息は切れ始めていた。

しょうがない事だろう、少女はずっと椅子に座り、絵を描いていたのだ。竜の血が混ざっているとは言え、動く事は得意では無い。

それにここが慣れぬ環境であるということもあるだろう。少女にとってこの暖かさは未だ慣れない物だったのだ。

それでも少女は歩き続ける。たった一人の愛しい人を探して。

素足に刺さる木屑も気にせずに、食い込む石も気にせずに、歩き続ける。

 

「あうっ!」

 

しかし少女は少し飛び出ていた石につまづき、転んでしまった。幸い血は出ていないが、倒れた時に足を捻ってしまったようだ。

ズキズキと染み渡るような痛みが脚に伝わる。不意に、少女の心に悲しみが込み上げて来た。

きっと、最初から分かっていたのだろう。愛しい人は、もう二度と戻ってくる事は無いのだと。あの夢の様に、ゲール爺は死んでしまったのだと。灰の人が暗い魂の血を持って来た時から、心の何処かで。それを今の今まで認めなかっただけだったのだ。

筆を取り落とし、両手で捻ってしまった足首を掴み、俯く。

 

「.....嫌だ」

 

ポツリと、少女は呟いた。殆ど無意識に。

失いたくなかった、側にずっといて欲しかった。少女の世界を描くという夢は、同時に愛しい人の場所を描くという夢でもあったのだろう。

もっと言えば、二人でずっと一緒に居たかったという夢だったのかもしれない。

だから少女は嫌だったのだ。失う事が、消えてしまう事が、堪らなく。

太陽があっても草木があっても、いつも側に居る人が居ないならば意味がない。少女はそう思ったから、嫌だと言ったのだ。

 

「会いたい、会いたいよ...この太陽を、自然を、ゲール爺と見たい...」

 

涙が溢れそうになった。少女の顔が悲しみで歪んでいく。絵を完成させたのにこんなに悲しい気持ちになるとは、完成させた時の少女には分からなかっただろう。

少女の心はまだ幼い。だから言葉で求めるしかないのだ、それしか出来ないから、しようと思わなくてもしてしまうから。

 

「会いたいよ...!」

 

「話したいよ...!」

 

「喜び合いたいよ...!」

 

少女の語気は次第に強くなっていった。自分でも、感情の昂りが抑えられないのだ。

悲しみが心を包む、暗い感情が少女を包む。少女は、顔を俯け、三角座りをして座り込んでしまった。

今まで少女は泣く事はなかった。自分の使命に必死でそんな暇も無かったし、何より側に居てくれる人が居たから。ヴィルヘルムという騎士に囚われた時も、確かに不安ではあったけれど、ゲールが生きていると知って泣く事は無かった。

でも、少女は今、声を出して泣いている。鳴咽程度ではあるが、涙を流して泣いている。悲しみを周りに知らせる為に、自分を落ち着かせる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、その、なんだ。大丈夫か?お嬢ちゃん」

 

だからだろうか、そんな少女を見逃さぬ者が、空の上からやってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は、魔理沙と言うのですね?...素敵な名前です。それに箒で空を飛べるなんて、不思議なことも出来るなんて」

 

空から降りてきた人物とはあの色んな意味で有名な白黒の魔法使い、霧雨魔理沙であった。丁度魔境と化した紅魔館から本を借りてきた後に、ちょっかいを掛けれるような奴を見つける為に下を向いていたら座り込んでいる少女を見つけたのだ。

一応少女が居た場所は里の近くと言えば近くであったが、魔理沙が知る限りそこは野良妖怪が出没して一般人には危ない所であった。

もちろん危ないからという理由だけでは無く、泣いている少女を見過ごせなかったからなのだが。

 

「まぁなんてったって魔法使いだからな、これくらい出来て当然だぜ!それで、お嬢ちゃんの名前はなんて言うんだ?」

 

「...ごめんなさい、魔女の方。私に名前は無いの。だから、好きなように呼んでくれて構いません」

 

「あーそうなのか...なんかすまないな。まぁ呼び方は...そうだな、シンプルにお嬢ちゃんで良いか?」

 

魔理沙のその言葉を聞いて、少女は少し微笑んで頷いた。今の少女にとっては、誰かと話せること自体が嬉しいのだ。

さて、と一言言って魔理沙は聞きたかった事に話題を変える。

 

「で、だ。お嬢ちゃん、なんでこんな所で座り込んでたんだ?ここは危ないし、里からは出ない方がいいって言われて...いや、里の人じゃないか。そんな格好してる子供は見た事無いぜ」

 

「そうなのです、私はここに来たばかりで...」

 

「やっぱそういう事か。いきなりこんな森に放り込まれちゃあ泣くよなぁ。ここは幻想郷って言うんだ、何かとややこしい事が色々あるんだが、まぁ基本平和だぜ」

 

幻想郷...と呟いて、少女は少し考え込む。

つまり自分は絵を完成させた時、いや世界が終わったあの時に、また別の世界に移動して来た。という事なのだろうか?

確かにここが別世界ならば太陽が照っている理由も草木がある理由も分かる。

だが別の世界という事は、つまりゲール爺がここにいる可能性は限りなく低いという事だ。少女は世界が様々に分散している、とゲールから聞いたことがあった。そんな無数の世界の一つにピンポイントで一緒に来ている事など、恐らく無い。

その結論に至って、少し晴れやかだった少女の表情は、また暗い物に変わってしまった。

そんな少女を見て魔理沙は焦る。霊夢程やってこなかった訳では無いが、子供の世話などあまりやった事が無い。何か地雷を踏んだのかと表情には出さないが結構不安になって居た。

 

「あぁー、まぁその、あれだほら。ここに居る人達はみんな優し...くない人も居るかもしれないが、基本みんな良い人だぜ!だから、な?元気出せってお嬢ちゃん。ほら、里まで連れて行ってあげるからさ」

 

その魔理沙の言葉に、少女は首を振った。確かに里に行けば安泰だろう。でもそうではない。彼女はただ一人を、唯一の愛しい人を探しているのだ。ここに居る可能性は限りなく低い、それでも少女は諦めたくなかったのだ。実際ゲール爺は、愛しい人は、決して何かを諦める事は無かったのだから。

 

だから自分も諦めたくは無かったのだ

 

「さ、里が嫌なのか?えっとじゃあ、私の知人の家でも紹介してやるよ。アリスって言うんだけどな?優しくて面倒見がいい奴だからきっと気に入ってーー」

 

「いえ、そうじゃないんです.....人を探して欲しいんです。たった一人の、私と一緒に居てくれた人を、探して欲しい...一緒に探してくれますか?魔女の方」

 

少女の本心からの言葉、それを受けて魔理沙は快活な笑みを浮かべて言った。それなら簡単だと言わんばかりに。

 

「そういう事なら、お安い御用だぜ!私の知人の多さを舐めちゃいけないぜ?探し人位、すぐ見つけてやるさ!」

 

その言葉を聞いて、少女の表情はパッと晴れやかになった。先程までの泣き顔が嘘のように、子供らしい無邪気な、しかし何処か大人びたような笑みを浮かべて、「ありがとう」と少女は魔理沙に言った。

一瞬焦ったが何とか上手く行って魔理沙も内心ご機嫌である。探し人の件は後で新聞屋の天狗にでも頼めばどうにかしてくれるだろう。

 

そんな喜びも束の間だった。

 

魔理沙は焦るばかりに忘れていた。ここは人里の離れの中でも危ない所であるという事を。そして自らを見る視線を。

 

「魔女の方...あれらは一体...?」

 

「あぁ、ちょっと、面倒な事になりそうだぜ。あいつらは多分餓鬼だな。野良妖怪の中でも弱い方だが、この量はちょっと厄介だぜ...」

 

見れば少女と魔理沙を中心に、ずらりと餓鬼が歯をガチガチと鳴らしながら目を光らせていた。魔理沙の強さを察してかまだ観察程度だが、何れ全員で襲いかかってくるだろう。

魔理沙一人ならばどうと言う事は無い、しかし今回は少女を守りながら気をつけて戦わなければならない。魔理沙にそういった繊細さはあまりなかった為、手を出しあぐねている。

 

「ちょーっとまずいかもしれないなぁお嬢ちゃん。これは空飛んで逃げるしかないか...?」

 

少女を傍らに寄せながら、魔理沙は思案する。魔理沙達を囲む餓鬼達は中々数が多い。このまま空に逃げてもいいが、そうすれば比較的人里近くと言える場所なのに、この餓鬼達が更に増えて里に厄介事を送り込みかねない。それは面倒臭い。だが少女を守りながら闘う自信もあまり無い。

 

「こりゃ、困ったもんだ...ぜ...?」

 

「............!!」

 

そう思案していた魔理沙と少女の視線に、見知らぬ物が映った。いや、一人には酷く見覚えのある姿をしていた。

ボロボロの鎧に錆びたクロスボウらしき物を背負い、手には刃の先端が折れてしまったであろう大剣を肩に担いで、こちらへと歩んできている。

 

そして何より目を引くのは、赤いマントとそれに繋がっている、赤頭巾である。

 

少女の目に、涙が浮かぶ。その涙は先程までの涙とはまた違う、歓喜の色を帯びていた。

その赤頭巾は、その剣は、その鎧は、少女が求めていた物そのものであったから。

餓鬼の後ろから迫るそれは、見間違える筈も無かった。

 

 

 

 

彼はやっと、主の元へと帰ってきたのだ

 

 

「亡者どもめが...」

 

そう赤頭巾ーーいや奴隷騎士ゲールが呟いた瞬間、餓鬼の後ろに居たゲールはまるで幻影のように搔き消える。

そして次の瞬間には、迫っていた餓鬼達とは全く別の餓鬼の元へと現れた。彼独自の、白サインを応用した瞬間移動術である。

いきなり現れた赤頭巾に酷く戸惑う餓鬼達であったが、今この瞬間においてそれは死を招くミスであった。

 

「儂に寄越せ、愚かにもお嬢様に近づいた貴様らの命を」

 

そう言ってゲールは剣を構え、力強く踏み込む。またその踏み込みの強さでマントを浮かび上がらせ、目くらましとして作用させる。そして次には、全力で地を踏みしめながら構えた剣を周りの餓鬼達の首筋にむかって真一文字に振り抜いた。錆びた剣ではあるが、その剣は元々断頭剣である。振り抜いたそれは斬るというよりも引きちぎるように周りの餓鬼達の首から上を跳ね飛ばした。

しかし回転斬りだけでは終わらない。ゲールはその回転の勢いを活かして跳躍し、先程首を跳ね飛ばした餓鬼の横に居たまた別の餓鬼に空中で一回転して更に勢いをつけながら叩きつけた。地面から石や破片が飛び散る程の威力のそれは餓鬼を地面と一体化させ、鮮血を辺りにぶちまけさせる。

だが一瞬の内に数匹がやられた餓鬼達も黙ってやられている訳にはいかない。

剣を叩きつけ終わり引き抜こうとしているゲールの背後から猛烈な速度で近づき、その鋭利な爪で引き裂こうとしたのだ。本能のままのそれは単純故に強く、只の人間ではたちまち引き裂かれてしまうだろう。

だがゲールは違う。彼は奴隷騎士であり、また「暗い魂」の力をその身に宿した者である。

その爪が自分の身体に届く前に、ゲールは剣を引き抜いた後反転し、餓鬼を正面に見据える様に地面を蹴って後ろに飛ぶ。その際近くにいた餓鬼から噛みつかれてしまったが、想定内。自らに噛み付いて一瞬動けなくなった餓鬼を剣で串刺しにし、またもう一度剣の先を地面に突き立てて無理矢理剣の中腹まで刺した餓鬼を押し込むと、勢い良く跳ね飛び、前方から迫っていた餓鬼に剣を突き立てた。

 

「フン...弱すぎるわ、お嬢様を襲った屑どもめ」

 

 

これこそが、不死たるゲール独特の「捨て身の剣技」である。自らが傷付く事など厭わず、常に敵に対しての最大威力を叩き込む剣技。その剣技は暗い魂の力により、更に洗練された物となった。

二匹の餓鬼が刺さった剣をブンと振り払い、未だ数多く残る餓鬼達を挑発する様に死体を投げ捨てたゲールは、何も言わずに後ろに背負ったクロスボウを取り出し、構えた。

その瞬間木々が震える程の大量の叫び声と共に一斉に餓鬼達がゲールの元に向かう。今ここで仕留めなければ自分達が殺られると、本能で察したのだろう。

魔理沙や少女には見向きもせず、一目散にゲールの元へと駆けて行った。ギラリと目を向けて、涎を撒き散らしながら。

しかし餓鬼達を鼓舞する叫び声は、一瞬で悲鳴へと変わる事になる。

 

「獣風情が。これを見切れる道理などあるまい、死ね」

 

ガシャリという聞き慣れぬ音がした瞬間、ゲールが持つクロスボウが真の姿を現した。

ゲールが持つクロスボウは世にも珍しい「連射クロスボウ」である。

一対多など当たり前であったゲールの戦いの象徴であり、錆びてはいるがその威力も動作も昔となんら変わっていない。

けたたましい金属が擦れる音とボルトの発射音が叫び声に混じって放たれる、それは一つ一つが迫る餓鬼達の目を抉り、額を貫き、心臓を破裂させ、身体を穿った。

先程までの威勢が嘘の様に無数に発射されるそれに餓鬼達は悲鳴をあげ、連射が終わるまで逃げ惑う。何とか逃げ延びた者が居たが、その数はかなり減っていた。

 

「おいおいあの爺さん無茶苦茶しやがるな...こっちにも当たりそうでヒヤヒヤしたぜ」

 

「頑張って...ゲール爺」

 

今動くとゲールの邪魔になりそうな為、魔理沙と少女は動かずにゲールの戦いを見続ける。魔理沙はその強さに感嘆しながら、少女は無事を祈りながら。

ゲールは寄ってきた餓鬼を回転斬りで吹き飛ばすと倒れた餓鬼にクロスボウを連射し、確実に息の根を止める。逃げようとした餓鬼には、空中で一回転しながら距離を詰めて剣を叩きつけて潰し、また横から迫ってくる餓鬼の一撃を空中を飛ぶ事により回避し、逆に一回転しながらクロスボウを連射して地面に縫い付け、着地点近くに居た餓鬼に剣を叩きつけ、真っ二つに引き裂く。

正にそれは、蹂躙そのものであった。赤が飛び、剣やボルトが舞うたびに段々と餓鬼の声は小さくなっていく。力強く、素早いそれに餓鬼が対応出来る筈も無い。

 

 

 

 

そして最後には、血と肉とゲールだけが戦いの場に残ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、申し訳ありません...帰ってくるのが、遅くなってしまいました...」

 

申し訳なさそうにゲールは少女に近付いていく、少し警戒する魔理沙であったが、少女が勢い良くゲールにむかって抱きついた事であっと言う間に解けてしまった。

抱きついた少女は何も言わずにそのままにしている。暗い魂の力で肥大化してしまった為、腰辺りにしか抱きつけてはいないが、それでも少女は抱きしめ続けた。ゲールはそれを見て、少し困った様に言った。

 

「お嬢様、こんな汚れた鎧に抱きついては汚れてしまいます...あぁ、聞いてはおられませんな...」

 

「いいじゃないか爺さん。感動の再会、って奴なんだろう?」

 

魔理沙が笑いながら茶々を入れても、少女は何も言わずに抱き締め続ける。涙を流しながら、強く、強く。あの夢の様に消えていないのだと、失っていないのだと、そう思いながら。

ゲールも、何も言わずにそっと頭に手を置いて頭を撫でた。そうした方が良いと、いやそうしたいと思ったからだ。

長い時間、二人はずっとそうしていた。やっと逢えた事を噛み締めながら。不意に、気まずそうに魔理沙が口を開く。

 

「私は...あれか、お邪魔って奴だなこれは。ま、私は手間が省けて良かったぜ」

 

その言葉の後に、少女は魔理沙の方を向いて言った。微笑みを浮かべて、魔理沙の目をしっかりと見つめながら。

 

「ありがとう魔女の方、私に構ってくれて。...あのままだと、私は折れていたかもしれない。だから、お礼を言わせて下さい」

 

「儂からも、お礼を言わせていただきたい。お嬢様を儂が到着するまでの間守ってくれた事を」

 

「いやいや、礼なんていらないさ。私も良い暇つぶしになったし」

 

ちょっと照れ臭そうに帽子を被りなおしながら魔理沙はそう返した。と、少女が思い出したように箒で飛び立とうとしている魔理沙に声をかけた。

 

「魔女の方、また会う時があれば、その時は貴女の絵を描かせて下さい。素敵な貴女の素敵な絵を、描いて見せます」

 

「お嬢ちゃん、絵なんて描けたのか?凄いな...。じゃあまたそん時に期待しておくぜ、今度は私の友達も呼んで色々やろうじゃないか!

じゃあまたなお二人さん、里はここから南西にあるぜ」

 

そう言って魔理沙は手を振りながら何処かへと飛び去っていった。少女とゲールはそれを見届けると、手をしっかりと繋いで歩き始める。見知らぬ地、見知らぬ世界。不便な事はきっと色々あるだろう。でも今はそんな事よりも、愛しい人と共に居るという幸せを噛み締めたいのだ。今はこの手をもう二度と、放したくはないのだ。

そして歩いている時に、少女が口を開いた。ゲールの方を向かずに、前を向いて。

 

「ねぇ、お爺ちゃん」

 

「何ですかな?お嬢様」

 

「もう絶対に、私の側から居なくならないで欲しいの。...もう二度と、自分を犠牲にはしないで」

 

「言われなくともそのつもりですお嬢様。私はずっとそばにおります。例えどのような姿になっても、魂だけになっても、お仕えいたしますとも」

 

「魂だけじゃダメ。お爺ちゃんがちゃんとここに居なきゃ嫌なの」

 

「これは、失礼しました...ハハハ、お嬢様も可愛いらしい事を言うようになりましたなぁ」

 

「もう...お爺ちゃんったら...」

 

頰を少し膨らませながら言った少女に、ゲールはまた静かに笑いながら、少女をしっかりと見つめる。自分が戻ってきた事を、深く深く感じながら。

 

 

 

そうやって微笑みあって、二人は道を歩んでいくのだった

 

 

 

 

 




いや、最高にカッコよかったですなぁゲール爺は...。好きなキャラランキングがまた変動しちまいましたよ。フロムの爺は何でこうもかっこいいんだ!あのかっこよさと切なさに震えた。

そして最後の絵描きちゃんイベで泣くのもセットです。

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