幻想の日々〜絶望のしがらみから抜けた者達   作:アストラの下級騎士

15 / 16
連盟員達待望の回。お待たせいたしました。

実は最近ブラボ熱が再燃しまして、しこたまやり込んでおります。やっぱり世界観最高。


連盟と新聞

情報、それは遥か昔から重宝されてきた大切な物資であり、また人々の娯楽になり得る程身近な物である。その価値は幻想郷でも変わらない。だからこそ、文々。新聞は捏造が多かろうとも手に取る人が多いのだ。

その新聞の書き手である射命丸 文は、お腹を抑えながらフラフラと人里の上空を飛んでいた。衣服も少し破れており、疲労困憊といった様子だ。勿論こんな事になっているのには理由がある。

守矢神社に凄い騎士達が居ると聞いて早速行ったのは良かったが、欲を出して挑発した結果一人の巨人に撃ち落とされ、仮面を被った怪しい女に執拗につけ纒われるという散々な目に遭ったのだ。結果として身体はボロボロ、序でにお腹もぺこぺこで酷い事になっている。取り敢えず何か美味しい物を食べに、何とか黒い翼を羽ばたかせて人里までやって来ていた。

 

「アイタタタタ...今日は厄日ですね...。ネタは手に入れられましたが正直あの巨人一人だけで新聞の一面を飾るにはちょっと足りないなぁ。かと言って今からネタを探すのも肉体的にキツイですし...」

 

そう文句を言いつつもその目はギラついている。どんな酷い目にあっても一流の記者たる文は特ダネを逃さない。それは例え疲れていても上空からの観察を決して怠らぬ、彼女の執念のような物だ。

腹を撫りながら、鳴らしながら人里を見ていると、その執念の賜物なのか、文は怪しげな人物を発見した。それも人通りの非常に少ない裏路地に、である。

普通ならば立ち入らぬであろうその路地に、その怪しい人物ーーよく見えないが、男であろう事は何となく分かる。頭部に何かバケツの様な物を被っている事も。その男はその裏路地の更に奥の、人目に付かない暗がりの一軒家に消えていった。

そんな人物を文は見てしまった。余りにも怪しすぎるネタになりそうな人物を。幻想郷一のブン屋として、彼女が取る行動はたった一つしかない。

 

「これはこれは...私にもまだまだ運が向いてますねぇ...。はたてにも伝えて徹底的な張り込みを行わなくては...。いや、取り敢えずは現場に向かわなくてはいけませんねぇ...フフフ、場合によっては号外になりそうな予感がしますよこれは!」

 

文はそう呟くと一層目を輝かせ、先程までの疲労など何処に行ったのか、物凄い速さで怪しい人物が居た裏路地と一軒家へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

けたたましい金属が擦れ合う耳障りな音と共に、外皮が細切れに削り取られ、中身が弾け飛んで行く。ガリガリ、ガリガリと怪音を立てながら、『それ』は今や倒れかけ、本来なら見れぬ内部を外気に曝け出している。怪音を響かせているのは、何に使うのかは想像したくない程巨大な回転ノコギリだ。円形に取り付けられた細かな刃を携えた円盤を複数重ねたそれは、言葉には言い表せない異様さを醸し出している。円盤は機能により高速回転し、火花を散らしながら『それ』を削り尽くして行く。

その異様な武器を持っているのは、更に異様な格好をした男だ。群青色の長袖の服とズボン、またそれに映える白手袋が組み合わさったその姿は、知る人ぞ知る官憲の衣装である。が、奇妙なのは頭部全体を覆い隠しているバケツをひっくり返したような鉄兜だ。一応覗き穴として穴が開いている以外には殆ど加工されていない。身に付けている衣服と余りにミスマッチなそれは、一種の狂気、或いは芸術性すら感じられた。

 

「ククク...どうした?手応えが無いじゃあないか。ヤーナムの貴様はもっと堅く、芯があったのだがなぁ...残念だよ」

 

愉悦を感じているかのような口調で、その男は『それ』に語りかけた。そして男はより強く、憎悪を込めて丸ノコを押し付ける。皮が飛び散り、兜や服に張り付いて行く。

暫くして『それ』は大きな音を立てて、地へ倒れ伏した。見上げるほど巨大であった『それ』が倒れ、大地を揺るがす。男は満足気に丸ノコを振って刃の間に付いてしまった皮や中身を振り払い、丸ノコの回転部分を取り去って背中に背負い、槌鉾となった棒の部分で肩を叩き、疲れを癒す。その男の側に、一人の女性が向かって喋りかけた。

 

 

 

 

「ありがとうございましたぁ!この大木、結構昔から道を邪魔してて...。斬り倒そうにもあんまりにも硬いものですから困ってたんです。流石何でも屋ですね!」

 

ニコニコと笑いながら女性はそう言うとその男と握手を交わして、深く頭を下げる。『それ』とはもちろん道にまで根を生やしてきた巨大な大木であり、人里でのちょっとした悩みのタネだったのである。

 

「いやいや!この程度の木の伐採など、楽すぎて欠伸が出る程ですよ。今後とも何でも屋『連盟』をよろしくお願いしますよ」

 

そう男が言った後、その女性は再度お礼を言って、家へと帰っていった。

木を伐採していたその男は、ヤーナムの地で連盟の長として。そして醜く悍ましい『獣喰らい』として名を馳せた古狩人、ヴァルトールである。彼はこの地に辿り着いた時、ふとしたきっかけで先程の様な人々の為になる仕事をやろうと思いついたのだ。そう、何でも屋『連盟』として、人々の悩みという淀みを狩り尽くそうとしており、その他の連盟員もそれに賛同し、今に至る。

 

「ふぅ...この獣喰らいと呼ばれた俺が、今やこんなしみったれた仕事をやるようになるとはな...」

 

ノコギリに付いた木屑を取り払いながら、ポツリとヴァルトールは呟く。

 

『淀み』

 

そう呼ばれる虫を見出して以来、ヴァルトールは連盟に入り、虫を踏み潰して来た。その虫が見えるようになったのは忘れもしない、あの憎き獣に「官憲隊」を壊滅させられてからである。この世の在り方に絶望し、血に呑まれそうになった時にそれは遂に見えたのだ。連盟として、それは彼に終わらぬ使命を与えてくれた.....。もうずっと前の事である。

最早虫は見えず、長の役目もあの素晴らしい狩人に明け渡して、彼は遠くへ去った筈であった。

 

「安寧など求めてはいない...淀みを狩り尽くす。それが俺の仕事だが、この世界では誰も淀みを見ていないからな...不本意だが、これが使命の終わりかと思うと中々どうして感慨深い...」

 

一人、倒れた巨木を見つめながらヴァルトールはしんみりした雰囲気に浸る。静寂をその身体でしっかりと味わいつつ、『同士』の帰還を待つ。

そうしていると、ヴァルトールに近付く二つの影が現れた。

一つは異邦の装束を身につけた和風の影。背中には細長い銃身を持つ貫通銃を背負い、腰には刀が提げられている。

もう一つは覆面のような頭巾とエプロンのような白布を付け、その首に笛をかけている。

 

「長よ、このヤマムラ、只今戻りました」

 

「オサ、モドッタ。シゴト、カンリョウ」

 

その二つの影こそ、古くからヴァルトールに付き従っていた『同士』達。流浪の狩人ヤマムラと、腑分けのマダラスである。

ヤマムラもヴァルトールと同じように一匹の獣を追ってヤーナムに降り立った狩人であり、またヴァルトールが特別な帽子を授ける程に気に入った東国の侍だ。最期には淀みを直視して狂ってしまったが、今は狂う事なく連盟員として活躍している。

マダラスには双子の弟がいるのだが、今日は生憎肉屋の仕事で手が離せなかったらしく、兄である彼一人で仕事を完遂したらしい。彼ら双子は禁域の森で毒蛇と共に育った狩人であり、淀みを見つけるまで獣を狩り、またそれを喰らって生きていた。

言葉を介さずとも仕草や合図で連携を取れるほどに双子の絆は深い。ヤーナムでは、愛する毒蛇に淀みを見出し、それを殺した兄を弟が殺してしまったのだが。何とも不運で、救いようの無い出来事だとヴァルトールは何時も思う。

 

「あぁ同士よ、よくぞ戻った。俺も今丁度終わった所だよ。淀みは見えずともやることはある、さぁ結果を報告してくれたまえ」

 

はっ、と短くヤマムラは答えると、連盟の杖から会計書を取り出し、それを見て喋り出す。連盟の杖の使い方間違って無いかと言いたい所だが、まぁ問題無いだろう。

 

「某は家に出た害獣の退治を請け負いました」

 

『害獣』

 

その言葉を聞いて、ヴァルトールの目つきが嘗ての鋭い物に変わる。獣を憎み、蔑み、狩り尽くす目に。

 

「...詳細を、教えてもらおうか」

 

「はっ。家の中にネズミが住み着いていたという事であったので、巣穴の中まで殺し尽くして参りました。某の千景を抜くまでも無いですな。貫通銃を巣穴に突っ込んで引き金を引くだけで終わりました」

 

「...ネズミか。なら良い、報告感謝する」

 

少しがっかりしながらヴァルトールはヤマムラを労った。害獣と言うものだから罹患者の獣か、獣人か、最悪あの『恐ろしい獣』並みの奴かと思っていただけに、ヴァルトールは少し不完全燃焼気味になってしまった。まぁ久々に血と愉悦を感じたかったのだろう。

報告が終わったので、次いでマダラスが覚えたてのカタコトの言葉で報告した。

 

「シゴト、クサムシリトヘビタイジ。トクニヘビタイジ、トテモカンタン。シツケテ、オレガカウコトニナッタ」

 

「ハハハハハ!!同士よ、何とも奇特なものじゃあないか!幻想郷でも蛇に出会うとは!

だが、良い事だ。お前はやっと悪夢の中の蛇ではなく、現実の物の世話をする事が出来るのだからな」

 

ヴァルトールのその言葉を聞いたマダラスは、少し口に笑みを浮かべて笛をさする。彼の蛇は淀みを宿してしまった。それ故に彼は自らの手で蛇を殺してしまったが、ここではそうならないだろう。きっと大丈夫だ。

 

と、一頻りの報告を終えた二人に向けて、ヴァルトールは口を開いた。彼の口から直接、伝えたい事があるのだ。

 

「同士達。今更ながら、私について来てくれて感謝する。この世の淀みを狩り尽くす旅はもう終わった。だがまだまだ我々の使命は終わらない。虫は見えずとも、我々を求める人が居る、我々を感謝する人が居る。ならばこそ、我々は止まるわけにはいかんのだ」

 

ヤマムラとマダラスは、ヴァルトールをしっかりと見つめてその言葉の一つ一つを聞く。ヴァルトールは少しだけ、口を閉じて二人の目を見据え、またはっきりと喋り始めた。

 

「淀みは無くとも、悩みがある!我々連盟の本懐は未だ達成はされていない!人の悩みを、その全てを狩り尽くすまで、我々は止まるわけにはいかぬのだ...!

同士達よ、まだまだ道のりは遠いぞ。へばらずについて来てくれるかね?その覚悟は出来ているかね?自らを犠牲にしてまで、悩みという悩みを終わらせる準備は万端かね?」

 

そのヴァルトールの問いに、二人は杖を胸に当てて了承の意を表する。ヴァルトールはそれを見てフッと笑い、また自分も杖を胸に当てて、高らかに宣言した。

 

「我々は連盟!我々は人の世の為に生きる者!故に、杖を掲げ宣言するーー!」

 

その言葉を皮切りに、三人は杖を持つ右腕を上に向かって勢い良く伸ばし、直立する。一種異様な光景だが、それが彼等が彼等たる証である誓いのジェスチャーなのだ。そして三人は、口を揃えて宣言する。それは、彼等の意志の表れ、崇高な目的の証左である。

 

 

 

 

「「「ーー連盟員として、この生命を捧げん!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言ったようなふざけた新聞が里に出回っていたのですが...」

 

「..........」

 

とある路地裏のひっそりとした一軒家の中で、ヤマムラは椅子に座っている連盟の長たるヴァルトールに報告した。その内容は至極簡単で、またヴァルトールを悩ませる物であった。

それもその筈、何故か連盟の事が新聞に載ってしまったのだ。しかも何故か『何でも屋』とか言うふざけた仕事をしているという捏造を引っ付けて。誰かに連盟の事を話した訳でも無いのにこれは一体どういう事だ。というか自分の経歴が何故か書いてある事に驚きを隠せない。一体何処で調べて来たのか皆目検討がつかなかった。

連盟は、この世の淀みを狩り尽くし、虫を踏み潰し、狩人が狩人たる使命を果たす為の組織だ。故に余人に理解など求めず、また余人に知られる訳にはいかない。連盟は、狩人だけの秘密の場であり、また憩いの場所だ。それがおおっぴらになってしまっては全てが台無しである。

 

「......同士よ」

 

「はっ」

 

「これを書いたのは誰だ?」

 

「ヘンリックの情報によると、どうやら烏天狗の射命丸文と姫海棠はたてと呼ばれる二人の記者が書いたようです」

 

「居場所は?」

 

「それは某が事前に下調べしておきました」

 

「フム.....成る程」

 

ヴァルトールの問いに、ヤマムラは率直にそう答えた。ヤマムラは千景を既に抜いており、何時でも出発出来るようにしている。また隅では喋ってはいないが、マダラスとその弟が二人で斧の手入れをしていた。新聞にはカタコトで喋っていると書かれているが、実はここに来てからも彼等は言葉を解してはいない。何を調査、取材したのか知らないが、何ともいい加減な物である。ヘンリックはナイフをヤスリで研いでいる最中だ。

ヴァルトールは、ヤマムラの答えを聞いた途端、口を歪めて狂気的な笑みを浮かべる。

 

彼の中に渦巻く感情は怒りでも、悲しみでも、憎しみでも無い。

 

ただ一つ、歓喜だ。

 

何故なら彼はこの幻想郷に来てから、やっと『淀み』を見つけたのだ。それも二つである。自らの使命を、連盟の本懐を汚された怒りは消え、彼はただただ歓喜した。淀みを喰らい、殺し尽くせる事に。

 

「.....諸君、もう狩りの準備は出来ているかね?」

 

「えぇ、私もマダラスもヘンリックも。もうとっくの前に」

 

「そうか...ククク...そうかそうか、出来ているか...」

 

そう言うとヴァルトールは立て掛けてあった槌鉾を手に持ち、回転ノコギリの円形部分を背中にかける。くつくつと歓喜を滲み出しながら、ヴァルトールは玄関の扉を開けてゆっくりと外に歩み出る。

マダラスとその弟は斧の手入れを終わらせ、ヴァルトールの後ろに続く形で付いていく。懐には医療協会謹製の発火ヤスリを入れて。

ヤマムラはヴァルトールの隣を歩んでいる。徐に左腰に提げている鞘を掴むと、刀を納刀し、瞬時に抜き放つ。するとその刃には、悍ましい程の血が刃を成していた。それは、正にヤマムラの怒りそのものだ。

最後尾に居るヘンリックはナイフをあらゆる懐に入れ終わり、金属音をガシャリと鳴らしてノコギリ鉈を変形させた。上手く隠しているが、その身体からは殺気が滲み出ている。

ゆっくりと、しかし確実に、力強く歩きながら、ヴァルトールは言葉を紡ぐ。それは悍ましい連盟の本質たる言葉だった。

 

 

 

「...薄汚い新聞、気色の悪い捏造、頭のイカれた烏天狗共...」

 

 

 

そう、ヴァルトールが誰に語りかけるでもなく、言葉を発する。徐に槌鉾を背中に回し、同時に奇怪な擦れる様な金属音が鳴り響くと、ヴァルトールの手には槌鉾ではなく異様で巨大で狂気的な回転ノコギリがその手に強く握られていた。

また、ヴァルトールが言葉の続きを言い放つ。それは彼等連盟員を昂らせる、至高の言葉だ。

 

 

「みんなうんざりじゃあないか。だから諸君ーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー殺し尽くし給えよ

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の烏天狗の命運は、誰も知らない。




ヴァルトールさんはセリフの全てが格好良くてセンスに溢れてて大好きです。連盟の長は格が違った。後カンストヴァルトールさん強すぎてワロタ

因みにブラボで好きなキャラTOP3は1位ゲールマン爺ちゃん、2位ヴァルトールさん、3位ルドウイークさんです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。