幻想の日々〜絶望のしがらみから抜けた者達 作:アストラの下級騎士
本っ当にすいませんでしたぁ!!!!!
後今回動きが無い対談回です。しかもあんまりほのぼのじゃないです。文字数もちょっと少なめです。
赦してくれ...赦してくれぇ...
「じゃあ、貴方は私達と同じ、死を超えた人間...いや怪物なのね?」
永遠亭のとある和室。その真ん中に、麗しい黒い髪を腰まで伸ばした如何にも日本の美人といった感じの女性がとある人物と話をしていた。
人物とは言うが、およそ人とは言い難い見た目をしているのだが。
身体中には枯れ木の様な物が何重にも絡みついており、辛うじて目に当たる部分が、赤く輝いている。怪物、確かにそう言うのに相応しい見た目だが、これでも彼は立派な人間であった。かつて渇望の王の兄として因果を超えんとし、しかし終いに果たせなかった原罪の探求者。その名はアンディール。ロスリックの地では『最初の賢者』として密かに暗躍し、双王子に火継ぎを辞めるように諭した人物でもある。
度重なる探求の末に、彼は永遠の力を得た。不死人達の不死とは違う、本当の意味での『不死』を。だが火継ぎの終わりと共に彼の永遠も終わりを迎えた.....が、永遠は彼を手放さなかったのだ。この世界に、幻想郷に、かの原罪の探求者はやってきてしまった。
最初は、アンディールは途方に暮れたものだ。
火継ぎを終わらせる為ならば何でもやって来た。ドラングレイクで一人の不死人を諭し、ロスリックでは王子を諭し、あの終わらない神の我儘を終わらせる為に生き永らえてきた。
だがその火継ぎが終わっても、世界は結局自分という存在を許してはくれない物だと思い悩む事になった。現に彼は見知らぬ竹林に降り立っていた、まだ生が続いてしまっていた。
アンディールは酷く嘆いたものである。人が生まれつき持っている『原罪』はまだ我々を離さず、忌々しいしがらみに人間を捕らえているのか、と。
思案しながら竹林を彷徨っている内に、彼は永遠亭にたどり着いた。そして彼をもてなしたのは、気晴らしに外出をしてきた帰りであった永遠亭の姫、輝夜である。輝夜はアンディールの姿に一瞬驚いたものの、客人として自らの部屋に案内した。案内した理由は明白だ。アンディールが面白そうな話をもっていそうだったからである。そして今しがた、アンディールは自らの世界の出来事を話終わった所だ。
「そう...私は貴女達と同じく永遠を背負う者。そしてその永遠から逃れようと踠き、終いに果たせなかった哀れな賢者だよ」
「哀れ、ね...。ま、私達も哀れと言われればそうなのかもね。今が楽しいから私はそういうのは気にしてないけど」
哀しげにそう言うアンディールに対して、輝夜はそんなの些細な事だとばかりに彼に言い放った。一重にそれは住む世界が違ったから、或いは輝夜が永遠を受け入れ生きていける程に強い人物だからなのだろう。
「楽しい、か...。そんな感情を抱いていたのは果たしていつの事だったか...。力を求め、因果を越えようとして得た物は、このような醜い姿と終わらぬ使命であった」
アンディールは絡みついた無数の枯れ木の枝の様な物を、同じように枯れた手で触る。その目は枯れ木を見つめているようだが、輝夜にはその枯れ木を通して何か別の物を見ているのはよく分かっていた。嘗ての自分も、同じような目をしていたのだから。
「...悠久の時を生きた姫よ、貴女は人間をどう思う?殺しを厭わず、憎み合い、絶望しかない未来を生きている...。いつか何もかも消えて無くなるというのに。
光を求めているようだが、その本質が闇である事に気付いていない哀れな生き物だ。私もその一人」
枯れ木から手を離し、赤く光る目を輝夜にゆっくりと向け、彼女の目をしっかり見つめながらアンディールは問う。悲哀と、憎しみ。自らへの嫌悪。全ての感情を綯い交ぜにしたような真紅の眼で。
「だが、哀れであっても人は懸命に生きている。力がある。愛がある。人は素晴らしいと私は思う。だが人とは、生まれてはいけなかった種族なのではないかとも思っていた。人間が昔から持つ『原罪』が、いつか人を滅ぼすのはとっくに分かっていたのだから。...そして私は人を辞めた、それに後悔はしていないよ」
「.....人が持つ『原罪』、ね」
輝夜はその原罪という言葉を噛み締めつつ、アンディールの目をしっかりと見つめ直し、その口を開いた。
「ねぇ、今貴方は幸せかしら?」
それは簡単な問いで、しかしアンディールにとっては酷く難しい答えの無い問いであった。
黙ったままのアンディールを気にせずに、輝夜は話し続ける。
「人間ってね、結局は自分勝手なのよ。善悪関係無しにね。自分勝手に助け、自分勝手に殺し、自分勝手に泣き、自分勝手に怒る。そんなもん。だから今私は自分勝手に楽しんでる。永遠に疲れたとか、原罪だとか、闇がどうたらとか、そんなの考えてない。誰かと一緒にぐうたらして、お茶飲んで飯食って寝る。貴方はそれを退屈だと思うたちじゃないわよね?」
「.....続きを、話してくれ」
言われなくてもそうするわと一言言った後、輝夜はすらすらとまた喋り出していく。
「結論から言うと、人間を私は好きよ。生が限られているにも関わらず、自らの道を必死に突き進む。ゴールに向かってね。それか道を堪能するよりも、ゴールをどう迎えるかを重視してるのかも。まぁ人それぞれよね。勿論悪い人も沢山いるけど。
自分の思い描く道を行きたいが為、或いは頭の中のキャンパスに描いたゴールを現実にしたいが為に、馬鹿な事をする人も居る。必要悪って奴かしら?でもそれを除けば、人間は素晴らしい生き物よ」
「だが私達は...」
「分かってる。ゴールが無いって言いたいんでしょう?私達不死には。
特に貴方が言ってた様な望まれず生まれた不死は、そりゃもう絶望よね。だっていきなりゴールが無くなって、道も消えて、暗闇にほっぽかされたんだから。何処へ行っても、何をしてもずっと同じ。心折れても仕方ないわ。
.....正直言って、貴方の世界には希望は無かった。貴方の言う『原罪』が、ありとあらゆる人間達を縛っていたのでしょうから」
アンディールは、二度深く頷く。確かにその通りであろう。使命や掟に雁字搦めになった不死達を、アンディールは嫌と言う程見てきたのだ。
「望まれず不死になったのならまだいい、でも貴方と私は最悪の部類よ。だってゴールするのが嫌で嫌で道からコースアウトした臆病者だもの、そりゃ化物にもなるわよね、私は美しいままだけれど」
「...臆病者、だと?」
軽い冗談をかましながら輝夜はそう言ったが、アンディールの心境は冗談で笑える程先程までのように穏やかでは無かった。
何せ、自ら苦痛であると承知した化物になる道を、臆病者が歩む道だと言われたのだから。
燻っていたアンディールの炎が、燃え上がる。何故か畳に燃え移らぬそれは、誰がどう見てもアンディールの怒りの象徴である事は理解できた。
「...私は臆病ではないよ、むしろ、世界を救う為に奔走したのだ」
「言い訳ね」
「言い訳?違う!臆病などと、お前が言える事ではない。私は化物だ、それは認める。自ら望んでそうなった化物だ。
だが私は臆病ではない!人の為、世界の為、弟の為に私は探求者となったのだ!!
涙を分かち合い、笑いあえる友と一緒に話し合い、時には怒りを剥き出して自らの意見を伝えれる人間という一つの種族を守る為に!!」
アンディールがその言葉を紡ぐたびに、枯れ木で作られた身体に炎が燃え盛る。一言一言が、それだけの力を持っているのだろう。だがその言葉を受けてなお、輝夜はすました顔で一つ静かに言葉を紡いだ。
「いいえ、貴方はやっぱり臆病者よ」
「それは私の永劫を知らぬから...!」
「知るも知らぬも関係無いわよ。貴方は御大層に自分の行動を美化してるけど、一番最初に戻ってみなさいよ」
アンディールが反論しようとするが、輝夜はそれを押し切って更に話続けていく。
「貴方はゴールが無くなるのが『怖かった』から、突き詰めれば自分が、自分の弟が亡者とか言う奴になるのが『恐ろしかった』から、貴方は化物になって世界を見守る事にした。本物の不死になってまでね。どう考えても逃げてるでしょう?
本当に世界を救う気があったのは、むしろ亡者になる恐怖を抱えながら必死に生きて、最期には貴方を倒した一人の男よ。
貴方は当事者面して美化してるだけ、道を指し示してるだけ、行動をしても失敗をした、だから他人任せにした。凄く悪い言い方になっちゃったけど、そういう事でしょう?.....本当は貴方も分かってる筈」
「...................ッ」
捲し立てる様に輝夜が言葉を言い切った時には、アンディールは俯き、その炎は消えてまた元の様に燻っていた。確かにアンディールは自分が逃げた事を知っていた、そして永劫の時でそれが徐々に、世界を救うという巨大な希望に隠されていたことも。
第三者にそれを指摘されるとは、思ってもいなかっただろうが。
「話がそれちゃったからもう一度聞くわ、今貴方は幸せかしら?」
輝夜のその問いに、やはりアンディールは答えない。
「貴方の人間をどう思うかという問いに、私は答えた。貴方も私の問いに答える必要はあると思うわよ?」
アンディールは、答えない。
「...私は幸せよ。だってさっき言ったけどのんびり出来るし、ご飯は美味しいし、喋るのも面白いし、山は荘厳で、海...は無いけど湖は綺麗だし、里に行けば興味を惹かれる物が沢山ある。面倒臭いからあんまり外に出ないけど」
輝夜が喋り続けるが、アンディールは未だ沈黙のままだ。
「私もね、そりゃ後悔したわよ。永遠なんて退屈で退屈で仕方ないって。貴方が持ってたような使命も無かったし。...貴方は、永遠を疎ましく思ってるんでしょう?昔の私と同じ様に。そして何より自分が赦されてはいけないって思ってる。だって貴方は分かってるから。自分が臆病だから、他の人に使命を課してしまった事を。弟を闇から引き止められなかった事を。自分は赦されない事を貴方は分かってる」
その言葉を聞いて、アンディールはゆっくりと顔を上げて輝夜を見つめる。静かに、少しずつ。
「貴方も私も暗闇に放り出されて、彷徨っていた。でももう終わり。ゴールは無いけど道は出来たわ。ここ幻想郷が、貴方の進むべき道よ。...貴方は赦された、幸せになっていいの、退屈を謳歌していいのよ。もうしがらみに囚われつづける事も無い、貴方がその炎を燃やす必要も無いの。ーーだから、その哀しい目を辞めなさい」
彼女なりの、労いの言葉。それをアンディールは深く受け止める。その言葉を何度も咀嚼して、アンディールはようやく口を開いた。
「...まさか世界が終わってから、私が諭されるとは思わなかったよ...」
「諭してなんかないわよ、ただ当たり前の事を言っただけ」
「フフッ、当たり前、か.....そうだな。昔も私は当たり前の日々を過ごしたかったから、探求を始めたのだろう。それがどんどん膨れ上がってしまったが...」
少し笑いながらアンディールがそう言う。アンディールは、いや全ての不死人は、当たり前が欲しかったのだろう。だから当たり前が具現化したような幻想郷は、彼らにとってはオアシスであり、ユートピアなのだ。
「昔の私は、中々に苦労していたものだよ。あれは確かーー」
「ストップ!貴方絶対話が長くなる永琳タイプよね?さっすがに私も疲れたから、その長くなりそうな回想は辞めて貰えると助かるわ」
「ハハハ...それはすまなかった。確かにかなり長くなるだろう、何せ賢者だからな。昔、あの男にも要点だけ話してくれと言われたものだよ」
そう言って、先程までの寂しげな雰囲気が嘘のように二人は笑う。笑いは幻想郷では当たり前だが、アンディールは自分が笑えた事に密かに感銘を受けていた。
それ程迄に彼は笑っていなかった。使命や因果にずっと囚われていたのであれば、しょうがない事だ。
だから日常という言葉が頭に浮かんだのにも、アンディールは感銘を受けざるを得ない。彼にとっての日常は、とっくの昔に使命に入れ替わっていたのだから。
そうしていると、ふと二人が居る和室に、一つの足音が近づいてくる。
その足音はゆっくりと、鎧のガチャガチャという音を出しながら此方に向かって来ていた。輝夜もアンディールも、音の鳴っている襖の方へと目をやる。
そして足音が止まってから、ゆっくりと襖が開き、二人は足音の正体を見る事になった。
輝夜はその人物を見てニヤリと笑い、アンディールはその目を限界まで開いてその人物を凝視する。ほんの少しの沈黙の後、ニヤついたまま輝夜がアンディールに喋りかけた。
「どうやら、貴方の長話を受け入れてくれる人が来たみたいよ?賢者様?」
「あぁ...そうか、そうか。そうだろうな。私が居るのだから、君もここにやってくるだろうとは思っていたよ...。亡者、いやーー
ーー『絶望を焚べる者』よ」
二人の探求者の道が、また交わろうとしていた。
アンディールさんあんまり話題に上がりませんけど、かなり哀しいバックストーリーですよね...。BGMが更にそれを助長していく...。何気にダクソ3でも最初の賢者だの火継ぎの懐疑者だの、何かと暗躍してそうですし、もしかしたら第二弾DLCで出るかも?
2017年が待ち遠しい...。