幻想の日々〜絶望のしがらみから抜けた者達   作:アストラの下級騎士

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みんな大好き四騎士回。大変お待たせいたしました。何時もより多く書いております

闘技場のPVが出て脳汁がやばい事になっている...


守矢神社と四騎士

暗い、まるで深淵のような闇に包まれた場所にその騎士は立っていた。

上級騎士の鎧とアストラの直剣、紋章の盾を携えたその騎士は、 暗い暗い墓地ーー地下墓地を臆せず進んでいく。

群がるスケルトン共を祝福されている剣で薙ぎ倒し、何処ぞのインディージョーンズに出てきそうな針を出す石像や爆発する怨念を掻い潜りながら、遂に騎士は最深部へと到達した。

広い空間になっているそこには、数多の人間の骸骨が無造作に床に敷き詰められており、控えめに言って気味が悪い。

何が起こるか分からない恐怖からか、騎士は盾を構えてゆっくりと歩みを進めていく。前方は、やはり暗闇で包まれていて何も見えない。

一歩、一歩と、周りを見渡しながら騎士は前進し続けていく。骨を踏みしめる音だけが辺りに響いていた。

 

だが突然、騎士の前方に何かが躍り出た。

 

高速で迫るそれは、誰がみても一目で分かる。車輪である。その車輪がひとりでに動いているのだ。

いや正確に言えば、ひとりででは無い。

その車輪の中心には、スケルトンが一体化していた。

意思持つ車輪を認識した騎士は、盾を構えてそれをやり過ごそうとしたが、それは余りにも愚策だった。

ガガガガガガガガ!という盾が削れる轟音をあげながら構わず車輪は突き進み続け、遂に騎士は耐え切れずに盾を弾かれてしまった。車輪は未だに前方に突撃している為、その車輪が騎士の身体を抉るのは必然であった。

後は為すがままに、騎士は死ぬまでその車輪に削り取られたのである。

 

 

YOU DIED

 

 

 

 

 

 

「がぁぁぁぁぁああぁ!!何だあの車輪野郎は!!スタミナと体力を削り取っていったぞ!!反則だ!」

 

そう言ってコントローラーを床に置いて激しく悶えているのは、四騎士最強と言われ、ウーラシールの深淵を止めたとされる大英雄。「深淵歩き」アルトリウスである。

残念ながら今の悶える彼の姿はとても大英雄には見えない。

 

「フン、油断しているからそうなるのだ。大体車輪相手に盾を構えるなど馬鹿みたいだな、私なら避ける」

 

アルトリウスの横に座って腕組みしながら言うのは、彼の墓を守り、またシフとも仲が良かった四騎士の紅一点、「王の刃」キアランである。白磁の仮面からその表情を窺い知る事は出来ないが、きっと呆れた顔をしているだろうとアルトリウスは思った。

 

「キアラン、そう言うがな、あの速さみたか?見てないだろ?暗闇から一瞬で迫ってきたんだぞ。流石の私でもあれにはビビってしまった」

 

「深淵歩きが何をまぁ...呆れて物も言えんな。オーンスタイン、長として何か言ってやれ」

 

キアランは、そうアルトリウスの左隣に胡座をかいて座っている人物ーー黄金獅子の鎧を着て、その槍さばきと太陽の長子に匹敵するとまで言われた雷の力を扱い、数多の竜を狩った男、「竜狩り」オーンスタインに話を振った。

 

「うむ、敗因としてはやはりアルトリウスの欠点である『何も考えず進む』という事が大きく関わっているように思えるな。もっと状況確認をして、有効な策を練るべきだった」

 

「随分と辛辣だなオーンスタイン...私はこれでも慎重に行ったぞ?ちゃんと盾を構えていたし、何も問題は...」

 

そう言いかけたアルトリウスだったが、言い終わる前にオーンスタインに叱責される。

 

「それだアルトリウス!お前は盾を過信しすぎだ。このゲームでは何が起きてもおかしくないのだ!盾を構えれば安心などという考えは捨てろ!」

 

「おうおう、オーンスタインが珍しく吠えておるわ。ならば自分でやれば良いものをなぁ?」

 

そうオーンスタインの隣に座っている鷹のような兜を付け、またアノールロンドの竜狩り隊を率いた四騎士唯一の巨人族である『鷹の目』ゴーが、吠える獅子騎士をからかった。

実は今彼らは、守矢神社の中の広間でとあるゲームをしているのだ。

 

その名も「DARK SOULS」

 

守矢神社の巫女である東風谷早苗が香霖堂で見つけてきたPS2を奇跡で進化させた結果、今彼らが見ている画面の近くに置かれた箱、PS3へとなったのだ。その時何の因果かこのソフトも一緒についてきたのである。

最初彼らは信じなかったが、驚くべき事にこのダークソウルというゲームはロードランが舞台となっていた。そう彼らの故郷アノールロンドもロードランにある。偶然の一致では済まされない。

更には何処かで見た事あるような騎士や何処かで見たようなデーモン、極め付けには蝙蝠羽のデーモンに連れて行かれた先で見た『アノールロンド』である。これを偶然として片付けるには無理があったので、取り敢えず奇跡の所為という事になった。一件落着である。後どうでもいいが、何だかやたら狭いアノールロンドを見て、オーンスタインは「こんなに狭くないぞ!」と御立腹だった。ただボスはめちゃくちゃ評価していた。自画自賛とはこの事か。

 

「フン、ゴーが其処まで言うならやってやろうではないか。これでも一応別データで鍛えてきたのだ、おいアルトリウス、コントローラーを貸せ」

 

(こいつ実はやりたかったんじゃないか?)

 

心の中でキアランはそう思うが、口には出さないでおく。言ったらどうせ面倒極まりない事になるに違いない。

 

「まぁ見ていろ、このスケルトンどもをスルーして...ここを曲がって...ローリングして避けて...よし、着いたな」

 

「おぉ見事だオーンスタイン。流石は四騎士の長だ」

 

そう素直にアルトリウスが褒めると、少し照れ臭そうにしながらありがとうとだけ言う。そしてすぐさま画面に集中した。

 

「良いか?相手が遠くにいる時の最も有効な攻撃は何だ?ゴー、答えてみろ」

 

「そりゃ勿論、弓に決まっておろうよ。戦いにおいてアドバンテージは一つでも多い方が良い」

 

「うむ、正解だ。奴等車輪骸骨は待ち伏せをしている、ならば待ち伏せ出来ない様にしてやるだけだ」

 

そう言うとオーンスタインは徐にメニュー画面を開き、竜狩りの大弓を騎士に装備させる。矢は少ないが、大丈夫であろう。

 

「見ていろ!これが四騎士の長たる者の戦いだ!」

 

そう言うとオーンスタインはL1ボタンを押し、大弓で狙いをつける。後はズームして敵を見つけるだけだ。

...見つけるだけだ。

 

...そう、見つけるだけなのだ、後は。

だが地下墓地は暗闇に覆われているのである。周辺すら見えるか見えないかの瀬戸際だ。そんな状況なのに弓で狙えるわけもなかった、完全に作戦失敗である。

 

「馬鹿な!暗くて見えんぞ!じょ、冗談じゃ...」

 

「お前も『何も考えず進む』欠点を持っているようだなオーンスタイン、竜狩りの名が泣くぞ?」

 

「はっはっは!!こりゃ一本キアランに取られたなオーンスタイン!!まぁそう落ち込むな、人面を後でやろう」

 

「むう、オーンスタインでもクリア出来んか...ゴーはまず画面があんまり見えてないだろうしなぁ」

 

ちなみにゴーは巨人というだけあって、広間の縦幅に座ってギリギリである。一回だけ油断して天井をぶち抜いてしまった事があるので、それ以来立つ時は注意している。

 

「...しょうがないなアルトリウス、私に貸せ」

 

困っているアルトリウスを助けたのは、何とそういうのが一番出来なさそうなキアランであった。

 

「キアラン?貴公に出来るのか?」

 

「あまり私を甘く見てもらっては困るぞアルトリウス。まぁ黙って見ていろ」

 

そう言うやいなやキアランが操る騎士は前方に突進していく。まさに猪突猛進である。

 

「お、おいキアラン!?大丈夫なのか!?」

 

「黙って見ていろと言ったはずだぞ」

 

画面の騎士が走って直ぐに、先程アルトリウスを轢殺した車輪骸骨が2体迫ってくる。やはり速い。

 

「だが、あまりに単調すぎるな」

 

だがキアラン操る騎士は華麗に横に躱し、続く3体の車輪骸骨もヒラリヒラリと躱して行った。

 

「後は止まった所を叩く、動き出したら避ける、止まったらまた叩く、これの繰り返しでどうとでもなる」

 

迫る車輪骸骨をスイスイと躱し、止まった所をアストラの直剣で切り裂いていく。まさにそれは舞踊の様に、一種の美しさを感じる程だ。

 

「これで最後だな」

 

最後の車輪骸骨を倒し、ふぅと一息着いた後キアランはアルトリウスにコントローラーを渡した。

 

「だから言ったろう?甘く見るなとな。まぁ、何だ、その。困ったらまた手を貸してやる」

 

「素晴らしいなキアラン、流石だ。思い返せば何時も貴公には助けられてばかりだ、ありがとう」

 

「あぅ...ほ、褒められる程の事などしていない、勘違いするな、私はあの深淵歩きがのたうち回る様を見かねただけだからな、決してアルトリウスが詰まりそうなポイントを別データで何回も練習したりとか最適なルートを模索していたりとかはしていない!断じてだ!」

 

照れからか何からかは分からないが何処ぞのツンデレみたいな事を早口で捲し立てるキアラン。それを見てゴーがくつくつと笑って茶化しにかかる。

 

「おうおう、大好きなアルトリウスに褒められて顔が真っ赤になっとるわ。いやはやキアランも好きな人の為に良いところを見せれて良かったなぁ、ん?」

 

「ちゃ、茶化すなゴー!わ、私は顔が真っ赤になどなっていないからな!それに好きなどではない!ただ...その、あれだ、まぁほら何と言うか...」

 

何故かどもるキアラン。もう完全に見る人が見れば間接的な告白みたいなもので脈ありなのはバレバレなのだが、狼や猫位しか友達がいなかったアルトリウスに恋愛感情といった物は全く分からない。

簡単に言えばラブコメの主人公である、「え?何だって?」である。

 

「どうしたキアラン、さっさと言わないとアルトリウスのデータを私が進めてしまうぞ。それか『あれ』をバラそうか?」

 

「オーンスタイン、それ以上何か言うと残滅を首に刺すぞ」

 

キアランが放つ尋常でない殺気にすみませんと平謝りしてしまう四騎士の長。哀れ。

わちゃわちゃと騒いでいると、不意に襖がガラリと開き、緑色の髪をした巫女服の少女が四人の元にやってきた。その巫女服の少女の両脇には赤い服を着た青髪の威厳を携えた凛々しい女性、神奈子と反対にカエルの帽子を被った可愛らしい子供のような少女、諏訪子が立っている。

 

「皆さーん!冷えた麦茶持ってきましたよー!」

 

そう元気に巫女服の少女、早苗が七人分の麦茶を入れたガラスのコップが置かれたお盆を彼らの真ん中に置く。幻想郷ではごくありふれた麦茶だが、神族であり、また東国の茶を知らない四騎士はこの麦茶を初めて飲んだ時の風味に酷く驚いたものだ。

 

「アルトリウス殿、キアラン殿、オーンスタイン殿、ゴー殿。幻想郷は楽しんでいるか?」

 

「いやぁ守矢神社にいきなり現れた時はびっくりしたけど、今となっちゃ慣れたもんだねぇ」

 

そう神奈子と諏訪子が四人に話しかける。

神奈子と諏訪子はどちらもこの守矢神社に住まう神である、早苗が何処からかこの四人を神社に案内してきて成り行きで住み着く事になってしまったのだが、当初は神である彼女らもこの四人、そして追加でやって来た一人と二匹をかなり警戒していた。

何せ一人一人の神力が並大抵の物ではない、恐らくまともに戦えば此方がやられる位に。キアランだけは神力が低めだが、恐らく戦うならば真っ向勝負ではなく、ありとあらゆる手段を尽くして殺しに来るだろう事は容易に想像出来た。

他四人は最早言うまでもない。

そんな神力を持っている者が五人、怪しすぎる。幻想郷を支配しにきた何者かである可能性は捨てきれなかった為、最初は付きっ切りで監視していた。

しかし、何時までたっても何もしないし言動も普通。挙句には無償で泊まらせて貰うのは悪いからとこの守谷神社の清掃やら家事やら手伝いを率先してやってくれ、今や親しい間柄になっていた。

 

「おぉこれはこれは、神奈子殿、諏訪子殿、また広間を借りてしまって申し訳ない」

 

「いや良いんだゴー殿、貴方方が来てから早苗もより一層元気になっている、此方からも感謝したい」

 

「私からもねー。本当にありがとうね、四人共。あ、シフちゃんとアルヴィナさんは山に散歩に行ってるよ。スモウさんは餅つきのバイトだって」

 

追加でやって来た一人と二匹とはシフとアルヴィナ、スモウである。四人に着いてこなかった理由は簡単、はぐれた。それだけだ。

 

「む?あの処刑者、餅つきのバイトなんぞ始めたのか。...まぁ共にアノールロンドを守って来た間柄だ、素直に頑張れと行っておこうか」

 

「くっ、早くシフを撫でたい...!後剣術も教えねば」

 

麦茶を飲みながらアルトリウスはシフが帰って来た時の事を考え、オーンスタインもスモウを少し労う。ゴーとキアランはと言うと早苗と世間話に耽っていた。

 

「いやーしかしオーンスタインさんもアルトリウスさんも凄いですよねぇ、ほんとに夢に描いた中世の英雄そのものですよ!前にお二方に腕前を披露してもらった大岩ってまだ置いてありますよね?」

 

「うむ、まだ置いてあるが...また見にいくのか?」

 

眼を輝かせてはい!と元気に早苗は返事をする。大岩は守谷神社の裏手に置いてあり、ここから出れば直ぐに見れる。キアランとゴーを誘わなくても別に一人で見れるのだが、早苗は英雄二人が腕比べした大岩をつまみにキアランとゴーの話を聞くのが好きなのだ。要は中世の素晴らしいファンタジー世界に浸りたいのである。勿論話し手であるキアランとゴーはかなり話を明るめに脚色しているが。

 

「最早日課だなぁ早苗嬢。だが、どうせ儂等は隠居の身だ、よいよい、また聞かせてやろう」

 

「ゴーもすっかりジジくさくなったものだよ、では行こうか早苗」

 

そうキアランが言うとお先に行ってます!といち早く襖を開けて早苗は外に出て行った。その元気さに少し苦笑しながら、ゴーとキアランも早苗についていくように外に出て行った。

ピシャリと襖が閉じられ、中にはアルトリウス、オーンスタイン、神奈子、諏訪子の四人が残された。アルトリウスはゲームを一度終了させて電源を切り、二人に向き合う。オーンスタインも同様に二人に向き合った。

 

「では、早苗も居なくなった事だし、続きを聞かせて貰いましょうか。早苗に伝えている話とは違う、『真実』のロードランを」

 

アルトリウスとオーンスタインは無言で頷くと、先にオーンスタインが口を開いてかの絶望の大地の真実を話し始める。現人神とはいえ早苗は夢見る少女、残酷な真実をわざわざ伝えなくても良い、そう行った配慮から、真実の話をするのはアルトリウスとオーンスタイン、その話を聞くのは神奈子と諏訪子。そう決まっていた。...決めたのも真実を話したのもつい最近ではあるが。

幻想郷で長く過ごす内に、アルトリウスとオーンスタインにはある強い思いが芽生えていた。

この場所をロードランのような、末期のアノールロンドのような、淋しい滅びの大地に変えたくは無い。だから誰かに、自分達が経験した全てを伝え、それを教訓として欲しいと思ったのだ。神奈子と諏訪子ならば、もしもの時の抑止力足り得るかもしれない。そう思い、二人の英雄は彼女らにロードランの全てを話す事に決めたのだ。

 

悲しく、哀れな物語が、広間に寂しく響いていた

 

 

 

 

「いやーしっかし本当に凄いですよね!見てくださいよこの大岩の姿を!あの勇姿が蘇ります!」

 

「あの二人の本気はこんな物ではないぞ早苗。何せ不死身の古竜を何百と倒してきた神代の大英雄なのだからな、特にアルトリウス」

 

「オーンスタインは速さで、アルトリウスは力で優っておる。うむ、甲乙付けがたい」

 

そう話す彼らの眼前には、綺麗に真っ二つになった大岩と、中心に穴が開いた大岩があった。

一週間前位にアルトリウスとオーンスタインはこの大岩を使って早苗のおねだりに負けて腕前を披露している。

アルトリウスは全身を使って前方に跳ね上がり、空中で一回転してからの兜割を繰り出してまるでバターの様に大岩を両断し、オーンスタインは地面に手をつき、両足に尋常ではない力を加え、溜めた力で地面を割るほどの勢いで突撃しながら雷を纏った槍で大岩を貫いた。

両者共に見事としか言いようがなく、両断された大岩の断面は凸凹など無いほど流麗であり、また貫かれた方の大岩もヒビなど入っておらず、ただぽっかりと、最初からそういった岩なのかと思うほど綺麗な穴が開いていた。

 

「じゃあゴーさん、昨日の続き話してください!楽しみにしてたんですよ!アルトリウスさんの深淵狩りの話!」

 

「うむ、続きを話してしんぜよう。あの後アルトリウスは...む?」

 

話し始めようとしたゴーであったが、ふと空を見上げると、黒い羽を広げて飛んでいる天狗が居た。

 

「あれは...早苗、あれが何か分かるか?」

 

「え?どれですか?...あぁ、あれは人里に新聞を書いている天狗ですね、捏造新聞で有名な。名前は射命丸文って名前です」

 

そう早苗はゴーとキアランに説明する。文々。新聞と言えば人里でも中々に人気な新聞であり、また捏造が多いことも有名である。捏造された側はたまった物では無いが、時折それが良い方向に向かったりするので責めるにも責めれない状態が続いていたりする。

 

「ほう、烏天狗と言うやつか。余り人間と変わらぬ姿をしているのだなぁ...。

む?何故だか物凄い速さで空中を飛び回っているがあれは一体...」

 

「あー、あれは多分挑発されてますねぇ。ゴーさん大きいですしちょっと噂になってますからね、弓の名手って。あれは多分あなたをネタにするつもりですよ。貴方に弓を撃たせて、それを自分が避けて文々。新聞に『弓の名手、外す!』って題名でゴーさんの名を貶めるつもりですよ」

 

「その理屈を話せる自信は一体何処から湧いてくるんだ早苗。まぁあの天狗が勝負をするつもりなら乗るが...いや、何かカメラ?とかいう物で此方を撮りまくってるし、喧嘩を売ってきてるな。...どうする?」

 

キアランがそうゴーに問いかけると、ゴーは兜の中でニヤリと笑い、背中に背負った大弓を地面に突き刺し、矢をつがえ、臨戦態勢に入る。

 

「儂は『鷹の目』ゴー。誉れ高い四騎士として、売られた喧嘩は買うつもりよ。

...それに、あの速さの獲物を狙うのは初めてだ、腕が鳴る」

 

文は臨戦態勢に入ったゴーを見て、更に動きを加速させる、縦横無尽に空を飛んでいる文は、正に黒い疾風の様にも思えるほどだ。

 

「目は冴えておる、耳も聞こえる。目標は小さく、またとんでもない速さではあるが、問題は無い」

 

ゴーはそう言うと、人では到底引けぬ弦をゴーが持ち得る最高の力で引き絞る。

 

「ヌウウゥゥゥゥン...!」

 

限界まで引き絞った後、ゴーはその眼を細め、対象をじっくりと観察する。

ゆっくりと、ゆっくりとフォーカスを合わせ、自らが思い描く矢の軌道と重なるのを待ち続ける。文は一向に矢を放たないゴーに向けて挑発するようにカメラのシャッターを押しまくっている。

 

だが、その油断が命取りであった。

 

「そこだ!!」

 

風を切る轟音と共に、矢は一見見当違いの方向に飛んでいく。

しかし、ゴーによって回転を加えられた矢は急激に曲がり、更にそこに風向きや気圧の計算まで入れられた正確無比な一矢が、意表を突かれた文の腹部に見事に直撃した。

 

「ぶげう!!!??」

 

強烈な鈍痛が文の腹部から湧き、矢の回転につられてきりもみ回転をしながら文は森に墜落していった。一応矢は非殺傷用に先を丸くしてあるので死にはしないし大丈夫である。大丈夫と言ったら大丈夫なのだ。

 

「はっはっは、どうだ、命中だ」

 

「凄い!凄いです!ゴーさん!!最速の烏天狗と呼ばれた文さんに、しかもあんな遠くにいたのに当てるなんて信じられません!常識に囚われてはいけないのですね!」

 

「見事だゴー。いや、外す心配はしていなかったがな。...さて、私は森に墜落した愚かにも四騎士に喧嘩を売った馬鹿に逢いに行くとしよう」

 

キアランはそういうと、まるで元からそこにいなかったかの様に掻き消えていた。それを見て早苗はまたまた感激する。思い出はどんどん増えていくばかりだ。

 

 

 

 

 

「アルトリウス殿...そんな事があったのか」

 

「如何にもだ、神奈子殿。私は深淵狩りなどではない。むしろ深淵に呑まれた魔物なのだ」

 

そして此方でもまた、彼女らは別の意味で感激していた。正確に言えば、虚しさや、彼らが味わった絶望や孤独が伝わってきたのだ。

 

「これで、私達が知る全ては話した、あとは神奈子殿、諏訪子殿、貴方達が考える事だ」

 

「...分かったよアルトリウスさん。私達は、貴方達の話した全ての事を忘れない。そしてありがとう、幻想郷の事をそこまで大切に思ってくれて」

 

諏訪子は何時もの子供の様な口調ではなく、一人の神として二人に礼を言った。

 

幻想郷の太陽が今日もまた沈もうとしている、沈む太陽を見ながらアルトリウスは、この世界が深淵に包まれないように深く祈り

 

 

 

 

 

 

 

早くシフをもふりたいと願うのだった。

 




アルトリウス「シフもふもふ!シフもふもふ!」

アルヴィナ「やめなよ見苦しい」

余談ですが、オーンスタインの言っていた『アレ』とは、「鈍感男を落とす100の方法♡」決定版と300時間の研究の成果を綴った「アルトリウスが詰みそうになるポイント、ボスの解説まとめ」と言う何処ぞの完全攻略本も真っ青の情報量を持つ本の事です。
見た人は漏れなくこの世から消去されます。

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