幻想の日々〜絶望のしがらみから抜けた者達   作:アストラの下級騎士

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DLCが待ちきれず啓蒙が爆発して衝動のまま書いてしまいました。反省も後悔もしている。舞台となる場所が一緒だったりしますが、基本一話完結です。


博麗神社とアストラの騎士達

ここは幻想郷。誰からも忘れ去られた物や者が最後に集まる場所、そして最後の楽園である。

日は照り、月は輝き、青々とした山々に活気付いた村々。人の絶え間ない話し声や笑い声が辺りに響き、少し進めば自然豊かな土地が待っている。

風流な神社や寺院、霧に包まれた湖に佇む紅い館など、まるで現実味を帯びない神秘さがある場所も豊富だ。

そんな土地に、少し前にまた忘れ去られた者達がやってきた。

それは古い王の地から、或いは遥か北の火継ぎの地から、また或いは王達の故郷が混ざり合った滅びの地から、そして中世の陰鬱とした悪夢の街から。

今までの絶望に塗れた土地と比べて正に幻想郷は天国であり、彼らからすれば夢の様な土地である。彼らは厳密には人でない者達や神族である者、異形の姿をしていたり人の良い者悪い者、血に塗れた者や夢から解放された者など様々であり、またその何れもがここ幻想郷を謳歌していた。

これはそんな、絶望の輪廻から逃れ、やっと永遠の休息を得られた人物達の物語である。

 

 

紅い鳥居、石畳みの階段、ちょっと寂れた本堂により一層寂しさを纏っている賽銭箱が置いてある神聖な木造の建築物が幻想郷の一角にある。そう、かの博麗の巫女が住む博麗神社である。...あまり参拝客はいないのだが。ただ神社らしくその風情ある趣は素晴らしく、少し寂れているのが更に良い味を出していた。

そんな場所の賽銭箱の前に、一人の男が佇んでいた。

 

「貴公ー!この太陽の戦士ソラール!無事に異変を解決してきた!」

 

そう大声で叫ぶと、神社の中から分かった分かったとでも言いたげに、気怠げな態度をした少女が出てきた。

 

数々の異変を解決してきた博麗の巫女、博麗霊夢その人である。

 

「分かってるからあんまり大声出さないでよ...あんた今何時か分かってるの?」

 

「何を言っているか霊夢殿!今は太陽輝く昼時だぞ!」

 

そう、今は丁度正午を過ぎた辺り、太陽が燦々と地上を照らしている時間である。ロードランで青空に映える太陽を見た事が無い彼が興奮するのも無理はない。とはいえ、この興奮が一体何十回目だったかは霊夢はもうとっくに数えてはいない。

 

「せっかく気持ち良くお昼寝してたのに起こされた方の気持ちにもなって貰いたい物なのだけど」

 

「おぉ!昼寝とは何とも贅沢だ!太陽を浴びながらの昼寝はとても気持ちの良いものなんだよなぁ...ワハハ!少し眠くなってきたぞ!」

 

寝起きには対処し難いテンションである、ソラール故致し方ない。

 

「そのまま寝てくれれば楽なんだけど...」

 

そう霊夢が呟いた後、神社から更に三人程人影が見えた。何れも甲冑姿であり、おおよそ参拝客には見えない。もちろんだが全く神社の景観にも合っていないそれらは日陰である屋内から出て、日の当たる場所、霊夢の近く辺りにやってきた。

 

「お勤めご苦労ソラール。それにしても貴公には太陽が似合う」

 

そう言って彼の肩を軽く叩いて労うのは、アストラの騎士オスカーだ。北の不死院で亡者となって息絶えてしまったが、何の因果かここにやってきた騎士である。ソラールも同様だ。少し汚れたその上級騎士の鎧は歴戦を潜り抜けてきた事を感じさせる。

 

「お疲れ様ですソラールさん」

 

「..............」

 

後の二人もオスカーに続いてソラールに話しかける。一人は無言での首肯だったが。

 

「オスカー、アンリ殿、ホレイス殿、このソラール無事に帰ってきたぞ」

 

「今日の依頼は何だったのですか?また異変という名での猫探しとか...」

 

そう問うたのは、アストラのアンリだ。アストラの騎士国の知る限り最後の人物であり、オスカーと同じく上級騎士の鎧を身に着けている。その横にいるのは沈黙の騎士ホレイス。ロスリックに居た頃とは違い亡者化も進行しておらず普通に喋れはするのだがやっぱり沈黙の名の通り一言も喋ってはいなかった。シャイなのであろう。

そしてその問いにソラールは快活に答える。

 

「いや、今回は違うぞ!今回は立派なーーー」

 

そう言いかけたが霊夢がその言葉を遮る。彼女は眠いのだ、それに今は夏であっついので早く神社の中に戻りたいのが本音である。

 

「あー分かったからさっさと中に入ってよ、話はそれからでも十分間に合うでしょ」

 

それを聞くとソラールはそうだな!と答え、霊夢と共に中に入っていった。

 

「...やはり良いものですね、日常というのは。何にも縛られず楽しく生きれるなんて、夢にも思っていませんでした」

 

ソラールと霊夢の後ろを見てアンリがそう言った。確かに、そうだろう。不死人であれ、火の無い灰であれ、何らかの使命を帯びているのだ。そうでなければ、とっくにロードランやロスリックで力尽きている。むしろ使命が無ければ彼処には行かない、あの絶望しかない世界には。

 

「火継ぎの使命、復讐の使命。そんな事を考えずに暮らせるという事があるとはな...それも死後に」

 

「フフ、確かに死んだ後に天国が待ってるなんて、あの時には全く考えていませんでした」

 

ホレイスも軽く頷いた後、ソラールと霊夢の後に続き、彼らも中に入っていった。

 

 

 

 

「いやー今回の依頼は鈍った腕を治すのに最適だったのだ霊夢殿!中々しぶとい奴らでなぁ、ゴブリンと言ったか?理性を持った妖怪とはいやはや何ともーー」

 

「はいはい分かったわよ。その台詞もう何度も聞いてるんだけど?」

 

もううんざりと言った顔で霊夢がそう言うと、眼前にいる太陽ような男はこれはすまないと謝りまた別の話に変える。まぁそれを何回か繰り返しているからうんざりしているのだが。

その二人の傍で、オスカーとアンリ、そしてホレイスは用意してきた茶菓子をつまみながら自らの国や体験について話し込んでいた。それはアストラの国の礼儀の話であったり行く末であったり。火の無い灰として何をしたか、あの悍ましい人喰いのエルドリッチが如何に残虐非道であったかなどだ。オスカーは此処に来てからだいぶ経つが、アンリとホレイスはつい最近ここにやってきた新参者だ。

それに同じアストラの国であるならば、尚更事情を聞いてみたい。だからオスカーは道に迷っていたアンリを助けてあげたのだ。

 

「しかしあの時は中々困っただろうアンリ殿。何せ私と同じ格好をしていたのだから、町の人には間違われるわ、やたら愛想よくされるわ、挙げ句の果てに私の姿に似せた妖怪として危うく連れて行かれる所だったしな」

 

ハハハと軽く笑い、オスカーは更に茶菓子を食べる。不死人とて、食事という娯楽は必要だ。

 

「全くです、性別こそ違えどまさかアストラの国の、それも私と同じ鎧を着ているなんて思いもしませんでしたし...ね?ホレイス?」

 

そう言ってアンリはホレイスの方に顔を向ける。深く頷いている辺りを見るとホレイスも中々苦労していたようだ。

 

「ホレイスがハルバードを構え出した時はどうした物かと思いました...。いきなり悪印象を与えるのは私は好かないので。あ、ホレイスの事を悪く言ってるわけじゃないよ」

 

「ハハ、まぁ良いじゃないか。それだけ主人に忠誠を誓ってるって事だ」

 

「主人だなんてそんな...私達は無二の親友であるだけですよ」

 

他愛も無い会話が和室に響く、ロードランやロスリックに居た頃には味わえない安息がそこにはあった。

ふとおもむろに、ソラールと会話していた霊夢がソラールに向けて手を出してきた。

 

「む?何だ霊夢殿?さてはお腹が空いたな?」

 

何を言ってるんだこいつはと言った鋭い眼で霊夢は眼前の太陽戦士を見つめる。いや確かに腹は減っているし傍にいる騎士達が持ってきた茶菓子を寄越せとも思っているがそうではない。

 

「依頼達成した報酬よ!ほ・う・しゅ・う!!この神社の部屋貸してあげてるんだからさっさと私に貢ぎなさい!」

 

因みに貢ぐ額は全額である。酷い横暴ではあるが、金貨や銀貨がゴミ同然だった世界に生きた彼らにとっては何の問題も無い。

 

「おぉ!そうだった!すまんな霊夢殿。...ほら、これが今回の妖怪退治の報酬金だ、自分で言うのも何だが中々の額だと思うぞ」

 

そう言って少し膨らんだ袋を霊夢に手渡した。その中身を見て守銭奴巫女は...ため息をつく

 

「うーんしけてるわね...妖怪退治ならもう後3倍位あっても良いはずだけど...。まさかあんた何かした?」

 

怪訝にソラールを見つめると、その言葉を待ってましたとばかりに立ち上がって胸のホーリーシンボルの辺りを叩き、高らかに言った。

 

「よくぞ聞いてくれた!太陽の信徒である俺は妖怪で困っている依頼者が不憫で仕方なかった...。だから荒らされた畑を一緒に耕し!家事を手伝い!子供の世話をして!そして妖怪を退治してきたのだ!もちろん退治した後は働けそうな場所をゴブリン達に斡旋してきた!それだけやったのならば報酬金を底上げ...してもらっても良かったのだが、俺は太陽の信徒!常に太陽の様にある為に、逆に値引きしてあげたのだ!涙を流して喜んでいたし、大成功だ!!ワッハッハッハッハッ!!」

 

聖人、聖人である。流石は太陽戦士ソラールである。聞いていたオスカーもアンリも口々に賞賛の声を上げる。ホレイスなんかは滅多にしない拍手だ。

ただ聞いていた当本人の霊夢は口をポカンと開けているが。やがて口を閉じ、大きな、非常に大きなため息をついた後、少し待っててとソラールに伝え退出する。ーー戻ってくるとお祓い棒を持った巫女が、先程とは比べ物にならない笑顔を浮かべて立っていた。若干笑顔が引きつっている。

 

「どうした霊夢殿?素晴らしい笑顔じゃないか、やはり良い事をすると気持ちがーー」

 

「こんの馬鹿ああああああぁぁぁぁぁああ!!!!!」

 

一瞬で笑顔を鬼の形相に変えるとソラールの丁度ホーリーシンボルの真ん中をお祓い棒で全力で突いた。しかも霊力を込めてである、これは痛い。太陽のホーリーシンボルもひしゃげる程だ。

 

「ごふぅ...な、中々やるではないか霊夢殿、嘗ての鐘楼を守っていたガーゴイルの一撃よりも痛いぞ...」

 

「訳わからない事を言ってないでそこに正座する!金の大切さを一から教えてやるわ!」

 

それから長々くどくどと霊夢の説教が始まった。金とは何か、金の大切さはどういう事か。搾れるだけ搾り取るべしとか無駄に働きすぎないとかケチになれだとか兎に角色々だ。こんな銭ゲバ守銭奴でも巫女なのだと言うのだから驚きである。

 

「またまた説教とは、霊夢もソラールも飽きぬものだな」

 

それを見て苦笑しながらオスカーは言う。あの地では説教などされる事も無いのだから、何回みてもオスカーにとっては新鮮な気分だ。

 

「ソラールさんはとても良い人ですからね。私も多分おんなじような事をしているような気がします」

 

「確かに、それは私もだ」

 

微笑しながらオスカーとアンリは話し合う。

 

「そういえば、アンリ殿。その腰に提げている剣は私と同じ物か?若干鞘が違うようだが...」

 

「あぁこれですか?そうですね、これは他とは違いますから」

 

そう言って剣をアンリは引き抜く。その刃は潰されたように平らだが、青みを帯びたその刀身は、どこか尋常ではない雰囲気を醸し出している。

それはオスカーの態度にも現れていた。

 

「これは...!『本当に貴い者の剣』!

邪眼の魔物を倒した剣がまさか本当にあるとは驚きだ!」

 

そう、この剣はアストラの国一番の鈍だが、人の本質を力とする一番強い剣でもある。それは邪眼の魔物を倒す際に使われたと言われていた。

 

「流石はオスカーさん、よくご存知ですね。この剣は我が家の家宝なんです。残念ながらアストラの国は滅んでしまいましたが...私はこの剣の担い手になっただけでも満足です」

 

ホレイスが強く頷き、オスカーもそれに続く形で頷いた。

 

「そしてこの剣も、もう使われる事は無い。君が本当に貴い者であるのだからね」

 

「そう、願っています」

 

「その願いはもう叶っているじゃないかアンリ殿、この素晴らしい世界が、その証左だ」

 

霊夢の説教を見ながら、オスカーはそう言う。そう、もう戦う事も、絶望に浸る事も無い。

ここは幻想郷。最後の楽園であり、決してなくならぬ憩いの場所。

少しの異変や事件もあるが、そんな事は些細なものだ。それはソラールも、オスカーも、アンリとホレイスも、いやこの世界に来た全ての不死人やヤーナム民が思っている。

 

 

 

もう此処では決して悲しみに耽る事も心折れる事も無いのだ。

 

 

 

 

 

 

余談だが、説教の後お詫びとしてソラールに貰った大量の太陽のメダルを意気揚々と香霖堂に売りにいったらしいが、全く価値の無い物だと買い取り拒否され、心折れて帰って来た霊夢をオスカーが全力で慰めていたそうだ。

 

 

 




何か不都合とか夏なのに鎧?とかツッコミ所は様々ですが不死人だからで全部見逃してください(懇願)
ダクソやブラボの人物がお気楽にしてるのって凄く良いですよねぇ、彼らには幸せになって貰いたい。
終始ホレイス君が空気ですがホレイス君なので仕方なかった。

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