諸注意
東方とワンパンマンのクロスオーバーになります。
ワンパンマンは、原作と村田先生版(アニメ)の二つを参考にしいます。
オリジナルの怪人が出ます。
東方のスペルカードの使用方法、ルールが非想天則のような、格闘ゲームの雰囲気になっています。
オリジナルのスペルや能力使用方法がでます。
キャラクターの性格が、原作と違う場合があります。
以上、苦手な方はご注意ください。
美鈴との試合が終わると、ではいよいよ人里へ、となるのだったがそうは行かなかった。
「この騒ぎはなに?」
冷たい声が聞こえると、美鈴がヒエッと悲鳴を上げる。いつの間にか現れた少女が美鈴の後ろを取っていた。美鈴とサイタマの戦いでさえ目で追うのがやっとで、妖怪とはいえサイタマに何とか迫ろうとした美鈴のスピードにも驚かされたが、今度ばかりは驚愕を通り越した。
(一切反応が無かった……突然現れたのか?)
「ん、急に出たな?」
サイタマはと言えば、驚きもせず少女を見た。メイド服の少女は、冷え切った視線を美鈴に送る。その視線は鋭い刃のようで、美鈴の体を突き抜ける。実際に美鈴は、冷や汗を流し続けていた。
「こ、これは咲夜さん……えっと、ですねぇ……これは、お客様を案内しようかと、その」
「客人の案内で、庭は吹っ飛ばないわよね?」
立てた親指を門の後ろに向ける。粉砕され吹き飛んだレンガ、それが飛び散り落下したため荒れ果てた中庭がサイタマ達の視線の先にあった。
「あ、ワリィそれ俺だ」
「……美鈴、こちらは?」
「こ、こちらはサイタマさん、そちらの青年はジェノスさんで、“外”から来られたらしい方達です、はい」
「そう……外来人ね」
「道に迷われたそうで、案内をしてあげようと」
「で、庭がああなるの?」
「すんませんしたっ!!」
美鈴の土下座が炸裂した。だが咲夜と呼ばれたメイドの声のトーンが段々低くなるにつれ、美鈴の顔色もドンドン青ざめる。あれほどの実力を持つ美鈴が怯えるには、いささか少女は若すぎるように思えるジェノスであったが、考えてみれば彼女も純粋な人間である保障はない。
(少なくとも、美鈴に勝てる何かは“ある”だろう)
などとジェノスが冷静に分析をしている間も、美鈴の心拍数は上がり、咲夜の視線が突き刺さる。
「なあなあ、あんまそいつ責めないでくれよ。庭吹き飛ばしたの俺だからさ、悪かったよ(うわぁ~~やべぇ~~めっちゃ怒ってねえアレ?げええ、弁償って言われたらどうしよう……俺今卵しかないんだけどなぁ)」
きっかけは美鈴の組み手の申し込みであるが、実際に庭を吹き飛ばすような攻撃をしたのはサイタマであるため、彼も気まずそうに名乗り出る。しかし内心冷や汗ダラダラの心境で、誰も見てないなら最悪“知らん振り”なのだが、チルノと美鈴がいるのでここは素直に謝罪をする。咲夜は視線をサイタマへと移した。
「……いえ、恐らく美鈴が組み手でもどうかと誘ったのでしょう、お客様はそれに応えただけ、お気になさらず」
「え、そう?ラッキー」
「サイタマさんっ!?」
まさかの即時後退、己の無実を得て満足した様子のサイタマをみて、弁護を期待した美鈴が悲鳴を上げた。
「というわけで、美鈴」
「弁護人を!弁護人を希望します!」
「不要よ、あなたは―――」
その一瞬は、サイボーグジェノスの知覚を完全に超越し、感知を不可能とした。
「有罪よ」
「んぎゃぅ!!」
瞬きもせぬ間で、目の前で美鈴がハリネズミの様な姿になった。体中に鋭利なナイフが突き刺さっている。
(まただ……っ!俺のセンサー類がすべて無反応だった。超高速で動いたとしても、何かしらの動きは感知可能なはず、それが一切わからないとは、いったい……)
ジェノスは驚愕する。このメイド少女、咲夜が仮にサイボーグであるジェノスの反応速度を超えるスピードで動いたとしても、動いた際に出る空気の乱れや、踏み込みなどで起こる土埃等如何しても残る動きの名残がある。だが彼女にはそれが無かった。
「ひ、ひどいです……ここまでしなくても……」
「そのくらいじゃあ、死なないでしょ」
「ひんひん……扱いが雑ぅ」
わりとがっつりナイフは刺さっているが、流石妖怪と言うべきか美鈴は案外平気そうで生々しさは無い。むしろギャグ漫画の一コマのようだった。きっと数コマ後には完治してるだろう。
「失礼しましたお客様。サイタマ様、でしたか。外からお越しとのことですが」
「うん、まあそうらしい」
「人里への道をご希望ですか?」
「そうだな、大体はさっき跳んで確かめてわかったけどよければ頼むよ」
「(跳んで?)畏まりました、では適当な妖精メイドにでも……失礼」
「お?」
咲夜が使用人の誰かに道案内をさせようとした時、彼女は不意に館へと視線をそらした。すると一瞬で彼女の姿が消える。そして十数秒の後咲夜の姿が現れた。サイタマは、「おおっ」と軽く驚き、ジェノスは三度彼女の動きが捉えられない事に驚く。
「サイタマ様、どうやら主がお会いしたいようです」
「俺に?」
「はい」
どうやってかは知らないが、彼女は紅魔館の主に呼び出されたようだ。そしてその言葉を伝えにきた。さて、どうしたものか。とサイタマは頭をポリポリとかいた。急ぎの帰りではないのだが、なんだか面倒にも思えるので悩んでいた。
「今は丁度お昼ですから、よければ食事もいかがですか?」
「え、飯出るの?」
「ええ」
「ジェノスいこう」
「はい先生」
サイタマは飯に釣られた。非常に嬉しそうだ。基本庶民思想の彼はタダ飯に弱かった。そしてサイタマが行くと言うなら、はい、と答えるのがジェノスであった。
「あたいは?」
「チルノも来なさい、ついでだから」
「やった」
ついでにチルノも食事にありついた。
■
幻想郷某所、一見して普通の日本家屋に思える建物であるが、そこは不思議な気配が支配していた。そこで一人の女性が縁側に腰掛けながら思案していた。その表情は、穏やかな陽気に反し少し険しい顔であった。
「……藍」
「ここに」
従者の名を呼んだ。スッと、控えていた従者、美しい九つの尾を持つ女性が後ろに現れる。
「聞かせて」
「は、人里でも幾つか報告があります。そちらは霊夢と寺子屋の白沢が倒しましたが、妖怪の山では、天狗達との小競り合いをした集団がいたようです。大きな被害が出た所は無いようですが、依然出現率は増えております」
「霊夢が一人ぼやいてたわ、過労死させる気かって。うふふ、私がどこかで聞いてるの知ってて言ってるのよ。普段やる事なんて対してないのだから、丁度いいぐらいなのにね」
「……紫様」
藍が主の名を呼んだ。縁側の女性、紫は視線を藍へと向けた。
「此度の異変、いかがいたしますか。里に被害が出るようになれば、人と妖怪のバランスが崩れるかと……霊夢達とてこのままでは手が回らなくなります」
「……少し前にね」
紫は視線を外に戻し話す。その視線は、ある方向へと向かう。
「二つ、変なのが紛れたわ」
「奴等ですか?」
「いいえちがうわ、けど来た所は一緒よ。あっちは、狩る側のようだけど」
「狩る、ですか」
「ええ、世に仇なすモノを狩る者達。外じゃ“ヒーロー”とか言われているわ」
「ヒーロー……英雄ですか、外でもまだそのような者がいたとは」
「外も外で不思議な事になってるようね。本当は関係ない事だけど、ちょっかいかけて来るなら追い出さないとね」
「もちろんです」
「それに、その内の一人、凄いわぁ」
紫は視線を向けたままクスクスと笑った。藍が紫の視線の先、森が広がる方向に目を向け、その先に何があるかを思い出す。
「紅魔館ですか」
「あの吸血鬼、”弄った”のかしら……今そこに居るようよ」
「戻さぬのですか、外に?」
藍に言われ紫は直ぐに頭を横に振った。
「……外の事は外の専門家にやらせた方がいいんじゃないかしら」
「では」
「対応は今まで通りでいいわ。ただ、ハゲ頭と鉄の体の男には、接触は構わないけど手を出さないこと。特にハゲにはね、痛い目見るわよ」
「かしこまりました」
話が終わると藍は、ふうっと奥の暗闇に紛れ消えた。それを見るわけでもなく、紫はただただ、紅魔館の方向を見続けていた。紅魔館にいる二人、サイタマとジェノスを見守るかのように、彼女はただ座るのみだった。
■
紅魔館の庭園は、ひどい有様であった。咲夜の言うように、吹っ飛んだと言っていい。サイタマの(本人的には、セーブしたようだが)一撃は、草花やベンチなどを悉く吹き飛ばし粉砕した。サイタマもそれをみてばつが悪い気持ちになるのは、当然と言えた。
「いや、ほんと悪い事したな」
「かまいませんよ、悪いのはちょっかいをかけた美鈴ですから」
なので咲夜にそう言ってもらえると多少気持ちが軽くなる。
「ん?あれは……」
ジェノスがボロボロの庭中を飛んだり駆けたりする小さな存在に気がつく。少女のように小柄なそれは、羽を生やしメイド服を着込んでいた。
「妖精メイドです。庭の修復に当たってます」
「妖精?」
ジェノスはトコトコついてくるチルノを見る。彼女もまた妖精である。氷を操る氷精だ。チルノは視線に気がつくと、周りで働く妖精を見て腰に手を当てて少し憤慨した。
「あたいをそこいらの妖精と一緒にしてもらっては困るわ」
「なにか違うのか?」
「違うわよ」
「普通の妖精とは違うのです、この子は」
二人のやり取りを聞いていた咲夜が、ジェノスの疑問に答える。ほんの数時間前に幻想郷へ来たばかりの彼にとって、妖精の違いなどわかる筈もない。
「普通の妖精なら普通の人間でも勝てます。ただチルノは能力がありますから、迂闊に近寄れば最悪死にいたるでしょう、寒くて」
「あたいは負けん!」
「ここ最近黒星多いけどね」
「違うわよ、見逃してやってるの」
(見逃されているの間違いだろう)
ジェノスとサイタマとの戦いでも、結局チルノは負けている。本人的には見逃しているという風に、都合よく解釈されているようだ。その場の勢いで言っているのだろうと、ジェノスは特に突っ込まなかった。それより気になるのは、妖精メイドの数である。
「多いな」
「今現在832人のメイドがおります」
「……いや、多すぎないか?」
紅魔館は、見た限りでも大きな屋敷である。しかし、800人を超えるメイドは、流石に多すぎるとジェノスは思う。だが咲夜は特に気にした様子はなかった。
「数は出入りが激しいので気にはなりません、入るも辞めるも自由です。100人の時もあれば、最高では1000人を超えた時もありました。さらに言うなら妖精に給料はいりません、紅茶と自由を目当てに来るだけです」
「……妖精とは奔放なのだな」
ごっこ遊びの感覚もあるのかも知れない。無邪気そうな見た目からは、咲夜ほどのメイドとしてのオーラはない。それでも数は多ければ役に立つ。せっせと紅茶と自由のために働くメイド達の手で、壊された庭が直されて行く。
「お、美鈴もいるぞ?」
サイタマがメイドに混ざり作業をする中華娘に気がつく。結果として全責任を負った彼女は、メイド達よりも必死に修復作業に取り組んでいる。
「彼女は庭師でもありますので、やってくれないと困ります」
ちなみに咲夜が昼の食事にサイタマ達を招待したように、通常ならメイド達や美鈴は昼休みになるはずだった。妖精メイドは、数が多いので交代しながらでもいいが、美鈴は昼御飯抜きである。哀れな門番を見た後は、ついに二人は紅魔館へと足を踏み入れる事になる。
■
紅魔館を見たサイタマの感想は、「広い」「デカイ」「紅い」の三つだった。生まれてこの方、ここまで立派な洋館と言う物に入った事がないので、珍しくもあったが、しかし特別興味を持つほどではなかった。一方ジェノスはというと、体から僅かに機会の駆動音がする。様々なセンサーやレーダーを起動させ、この館を探っているのだ。
(センサー類で感じる異常はない、一見してただの洋館、か……しかし住人が住人だ。常識は捨てねばならないな、吸血鬼とやらも気になる。先生が負ける事は無いだろうが、危害を加えるならば……)
実際ジェノスは気が付いていないが、この館には彼が感知できる物以外で多くのエネルギーや物体がある。彼の肉体は、クセーノと言う天才の手によるボディだが、科学とファンタジーとでは相性が悪い。
「サイタマ様とジェノス様は、お嫌いな食材はありますか?」
「不味くなきゃいいよ」
「有機物であれば対外の物は、消化しエネルギー変換が可能だ」
「では何でもOKですね」
後半は普通無い回答だが、咲夜はうろたえる事は無かった。
「それと、ここから先はしっかりとついて来て下さい。侵入者対策で色々と弄られて見た目以上に広く入り組んでいるので」
「迷路のようなものか?普通の廊下に見えるが」
「そこは不思議パワーとでも思ってください」
「また“程度の能力”とやらか、しかしそこまでして侵入する奴なんているのか?」
「いますよ、しつこい女泥棒が」
ここが吸血鬼の館と知っての侵入なのか。居眠り気味とは言え、妖怪の門番に謎の瞬間移動を使えるメイド、そしてまだ見ぬ吸血鬼。その女泥棒とやらは、実力者か命知らずのどちらかだろう。
(しかし、なるほど。俺のレーダーでも建物の構造が把握できない理由はそれか。見た目に騙されて、迂闊に歩くと彷徨い続けるな)
音波や振動でジェノスは、構造物の内部構造を大凡把握する事ができる。しかし、それで得られる情報が妙なエラーを起こし続けていたが、納得がいったようだ。
「なあジェノス」
不意にチルノがジェノスに声をかけた。
「どうしたチルノ」
「サイタマきえたぞ」
「……なに?」
チルノに言われ、初めて気づいた。サイタマの姿がいつの間にか消えていた。
「チルノ、先生はどこへ」
「あたいは知らん!なんか気づいたらいなかった」
「……どこかで横道に入ったようですね」
「探さなくてはっ!」
「お待ちを」
駆け出そうとするジェノスを咲夜が止める。
「不用意に歩かれては、貴方も迷ってしまいます」
「しかし、先生を放っておくわけには」
「こちらで妖精メイドの捜索隊を編成します。今ならそう遠くへは行っていないと思いますので。お二人は一先ず私について来て下さい。そこの貴方」
咲夜が近くで作業していた妖精メイドに声をかけた。作業の手を止め、妖精メイドはフヨフヨと近寄ってくる。
「お客様の一人が迷われたわ。捜索隊を編成して探してちょうだい。サイタマと言う名で、男性で見かけない服装だからすぐわかるわ」
そう言うと、妖精メイドはピシッと可愛らしい敬礼をして何処かへと向かっていった。どこかこれすらも遊びに思っている様子だった。
「人海戦術なら大丈夫でしょう」
「……だといいが」
「迷ったとは言え、早々変な部屋には入れないようにしています。大丈夫ですよ」
咲夜はそう言うが、しかしジェノスは不安しか無かった。これが普通の人間なら確かに心配ないだろう。だがサイタマは色々と規格外すぎる。何をするかまったく予想が付かないのだ。本人にその気が無くとも、トラブルの方から彼の方へと行くのだから。サイタマ本人の心配より、果たしてこの館が無事でいられるか不安でしょうがなかった。
■
……」
一方サイタマは、実はそう遠くない場所にいた。だが、同時に焦っていた。廊下に立ち尽くす彼の足元には、極めて高級そうで値段が張り凄まじく豪華―――“だった”壷がある。
案内されながら歩いている途中、豪華な壷を見つけたサイタマは、別に美術品に興味はないのだが、物珍しさから近づきそれを観察した。そしてジェノスに「高そうな壷があるぞ」と言おうとしたのだが、すでに彼らは先に進んでいた。しまったと思い追いかけようとした時、彼の手が壷と接触、そしてバランスを崩した壷は、無残にもサイタマの目の前で粉々に砕け散ったのだ。
「やべーやべーやべーやべーやべーっ!!やばいぞ、これえ……っ弁償できねえぞ俺、絶対高いよこの壷、どうするよ、ええぇ~~~~っ!!」
パニックになったサイタマは、取りあえずバラバラになった破片を集めるが、集めたところでどうにかなる物ではない。慌てふためく中、遠くから声が聞こえてきた。
「サイタマさーん、どこですー?」
「いたら返事くださーい」
チルノや美鈴でも咲夜でもない声だった。おそらく先に説明があった妖精メイドとわかる。迎えが来てくれたのかと僅かに安堵したサイタマだったが、すぐに顔面が蒼白になる。
(いや、ダメじゃん、バレるじゃん、壷見られるじゃんっ!!)
棚も何もない廊下、証拠の隠滅は不可能だ。サイタマはとっさに自身がつけている赤いマントを取り、それで粉々の壷を自分で包み、宛ら盗人のようなスタイルで声がする方向の逆へと逃げ出した。そして入れ替わるように妖精メイドが2人現れた。
「いたー?」
「いないー」
ふよふよと浮きながら、サイタマがいないなーとどこか緩い雰囲気の妖精メイド。そのうちの一人が、壷があった場所に気づく。
「あれ、ここ壷飾ってなかった?」
「んー?あったようなないような」
両者は首を傾げるが、どんな壷があったか思い出せない。そして二人は、思い出せないなら、壷はきっと無かったのだと結論を出した。
「まあいいか、お屋敷広いから違う場所と間違えたかもー」
「けど何か置いてあったならないと困るよねー」
「なら変わりにこれおいとこー」
一人の妖精メイドが、ポケットから取り出したものを壷のあった場所に置いた。それは小さなドングリだった。
「あ、帽子つき!」
「いいでしょー」
そう二人はキャイキャイはしゃぎながら、再びサイタマ捜索へと戻っていった。
■
ジェノスが通された部屋は、想像したよりも広大であった。そもそも、廊下の長さや部屋の数からして、外から見た時の屋敷からは想像ができないものだった。先ほど咲夜からの説明どおり、”不思議パワー”で見た目以上に広くされているのだろう。広大な部屋には、その広さに見合った食卓があった。すでに食器は並び、後は料理を運ぶだけとなっている。
そして、その卓の奥。そこに彼女はいた。
「ようこそ、お客人」
尊大。その言葉が似合うもの言い、そして態度。
(感知できないが、やはり妙な力があるな……)
僅かに残る生態部分、人間的感知能力。感じるのは、彼女から発せられる殺気、威圧感。
「そう構えなくていいわよ、とって食いはしないわ」
「鉄臭そうだしね」と彼女は言う。
「なんでも外から来たそうね?」
「……そのようだ」
「まあ、最近増えてるみたいだけどね。大抵はとっと人里にでも行くし、私は幻想郷の管理者じゃないから関知しないけど」
「なら何故俺達を招いた?」
「まあ、色々と理由はあるわ……」
突然、彼女の姿が揺らぐ。
「貴方、面白い生き方ねぇ」
「むうっ!?」
するとどうか、彼女が今まで座っていたはずの椅子には誰も折らず、直ぐ傍に彼女は現れた。
(こいつも瞬間移動をっ!?)
「あら、本当に鉄なのね、河童が見たら喜びそう」
(……河童?)
ジェノスは咲夜に続きなぞの瞬間移動をした彼女に驚きを隠せない。
「体中殆ど鉄ばかり、よっぽど”愉快な事”があったのね」
「……失礼だが、貴方には関係の無い事だ」
「ええそう、私には関係の無いことよ。貴方の人生なんて私から見れば些細な時間でしかない」
「けれど」、彼女は続ける。
「私最近暇なの、けど異変なんて起こしたら巫女に退治されちゃうわ。そしたら丁度愉快な二人組みが来たからね」
「……まさか、暇だったから招いたのか?」
「まあね」
彼女は、悪戯っぽく笑う。
「貴方達二人をこの”場所”に招く。この事でどう運命が動くかしらね」
「運命だと?」
「そう、おとなしく人里に行った場合もあったでしょうし、けれど今回は私と出会った。貴方の敬愛する師匠も、きっと今から面白い事起こすわよ」
「お前は……何をしたいんだ」
「ふふっ」
彼女はジェノスに向かいその背に生える翼を開き、静かに言った。
「改めて、ようこそ外からのお客人。私は紅魔館の主、レミリア・スカーレット。見てのとおりの”吸血鬼”よ」