モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】 作:皇我リキ
「やってるかい?」
朝早く、お店の方から聞こえる聞きなれない声。
村の人じゃない? そんな事を思いながら、魚を釣ってくる為に留守にしているお父さんの代わりに私が出ます。
「はい! ちょっとコックさんお出掛け中なんで、時間かかっちゃうんですけど……お待ち頂けますか?」
「お、可愛い看板娘ちゃんが出てきたな。お店の子かな?」
可愛いだなんて、えへへ。お世辞でも嬉しいです。
お店に来ていたのは、体格の良い大きな大人の人だった。
着込んでいるのは服ではなく、生き物の甲殻等を使った防具。
背中に背負った身の丈程の大きな剣を見れば、彼がハンターだという事は一目瞭然だ。
「しっかし、コックさん居ないのか。……時間に間に合わなくなっちまうなぁ、飯は諦めるか」
時間に間に合わなく?
ただ、言い振りからして彼が少し急いでいる事は分かった。
仕込みの為しょうがないとはいえ、お客さんを待たせるのは良くない。
そんな時に、お父さんとこのビストロ・モガの名誉を守る義務が私にはあるのだ。
「ありがとな、嬢ちゃん。また帰りに食わせ───」
「私が作りますよ!」
「ぇ」
私の言葉に目を丸くするハンターさん。
そんなハンターさんに私は間髪入れずにメニュー表を渡します。
「作れるの? 嬢ちゃんが?」
「これでもお父さんの娘ですから。勿論、味が気に食わなかったらお代は要りません!」
胸を張って答える。
こればかりは、私の唯一の取り柄なのだ。これだけは胸を張って出来ると言える。
村の人達から、ハンターじゃなくて料理人になれば良いのにとまで言われる実力をお見せしましょう!
「んーと、じゃぁ。スネークサーモン定食を食べたいな」
「スネークサーモンの定食ですね! かしこまりました!」
大きく返事をして、直ぐに準備に取り掛かる。
スネークサーモンは長いお魚さんです。手頃な大きさに捌いたら、塩焼きにします。
その間に産地特産ふたごキノコとワカメクラゲでの味噌汁を作りながら、卵焼きを作って漬物をお皿に盛る。
焼き上がったスネークサーモンを綺麗に並べて最後に炊いたお米を盛れば、ビストロ・モガ特製スネークサーモン定食の完成です!
「おー、凄いな嬢ちゃん。若いのに偉いもんだ」
えへへー、褒められてしまった。お店の名誉も守れたのではないだろうか。
「ふっふっふ、褒めるのは食べてからにして下さいね!」
そう言ってから、定食をお客さんに渡す。スネークサーモンの美味しく焼けた匂いが残って、私もお腹が減ってしまいそう。
「それじゃ、頂こうか」
備え付けの箸を取って、ハンターさんは迷わずにスネークサーモンに箸を伸ばしました。
緊張の一瞬。
「……美味い!」
と、一言だけ言うとハンターさんはお米に箸を伸ばして漢気良く口にお米を放り込む。
気に入って貰えたなら、作った側としては嬉しいなぁ。そうだ、今度はアランにも使ってあげようかな?
「へい、お駄賃。お釣りは要らねーぞ!」
「まいどあ───って、こんなに貰えませんよ!」
食べ終わったハンターさんが財布から取り出したのは、千ゼニー。
ビストロ・モガの定食は基本定額三百ゼニーだから約三倍のお金。
私は直ぐにお釣りを用意して、ハンターさんに渡そうとするんだけど。
ハンターさんはそれを手で押しのけて、受け取ってくれない。
「美味い飯を食えたんだ、それなりの対価を払うのは当然だろ?」
その対価、お店では三百ゼニーなんだけだなぁ。
「ハッハッハ! まぁ、アレだ。頑張るお嬢ちゃんに俺からの気持ちとして受け取ってくれや。その代わり、帰りも美味いものを頼むぜ!」
「そ、そう言われると……。夕御飯はサービスしますので、また寄って下さいね!」
「そりゃ、楽しみだ。ごちそうさん」
手を合わせてそう言ってくれるハンターさん。
食器を片付けながら、私は世間話にと口を開く。
「今日はどんなクエストへ?」
「ん? あー、悪いモンスターを捕獲しに」
悪いモンスター? 捕獲?
森の異変に何か関係があるのかな?
「そのモンスターって、どんなモンスター何ですか?」
あのリオレウスって言われたらどうしよう……。
こんな事を考えてしまう私は、やっぱり変なのだろうか。
「そりゃ、イビ───っと……あぶねぇ。お嬢ちゃんはこの村の子か?」
「え? あ、はい」
ハンターさんは言いかけて、口を閉じたと思ったら別の話題を振ってきた。
イビ? そんな名前のモンスター、モガの森に居たかな?
「それじゃぁ、クエストの参考までに最近孤島で何か異変があったら教えてくれないか?」
「異変、ですか。えーとですね」
「お、助かる助かる」
異変があったらと言うけど、最近は異変しかない。
アオアシラの事やロアルドロスの事をハンターさんにお話すると、ハンターさんは私の頭を撫でてお礼を言ってくれた。
そして、気付いたのだ。
私、物凄く子供扱いされていた気がする。
◇ ◇ ◇
「ねぇ……モモナ」
「どったミャ、ミズキ。お姉さんに相談かミャ」
「……モモナに相談するくらいなら海に向かって叫んだ方が良いみゃ」
「「酷い」」
少しだけ時間が経って、場所は農場。
お父さんも帰って来たので、する事もなかったから農場の手伝いをしに来たの。
蜂の巣箱、早く治せると良いんだけどね。
「私って子供っぽいかな?」
「ぽいんじゃなくて、子供にしか見───痛いミャ!!」
「……ミズキはまだ成長過程。きっと、直ぐに魅力的な女性になると思うみゃ」
素直に言ってくれるモモナも、希望を与えてくれるミミナも私は大好きだ。
「ありがとう、二人共」
そんな感謝の気持ちを込めて、私は桃色の二人のアイルーをギュッと抱く。モフモフ、モフモフ。
「ミャー」
「みゃー」
「…………何してるんだ、お前」
「ふぇ?! あ、アラン?!」
気持ち良く双子をモフっていると、突然後ろから声を掛けられてビックリ。
振り向けば装備を着て武器まで持ったアランと、私の防具を持ったムツキの姿があった。
えーと、クエストでも行くのかな?
んー、でも私……その…………武器がね?
「森に行くぞ、暇なら来い」
「私のソルジャーダガー、まだ修理中なんじゃないかな?」
あのリオレウスと私が戦ってから、数日だけ経った。
あの時、私はかなり無茶な使い方をしていたらしく……盾はバラバラに砕けて剣はもうボロボロ。
風邪で一日寝込んで、その後武器を加工屋さんに持って行ったのがつい先日の事。
治るか分からないとまで言われてしまったし、色々怒られてしまった……。
「その……ソルジャーダガーなんだけど、ニャ」
そう言うムツキは防具を地面に下ろすと、混じっていた片手剣とバラバラになった盾を持ち上げてこう続ける。
「もう……治らないらしいニャ」
ガーン。
ソルジャーダガーは、私がハンターになって初めて倒したジャギィの素材を使って作った武器。
もう何年も使い続けて来たし、それなりの思い入れがあるんです。
うぅ……まさか壊してしまうなんて。
んー、となると。アランが私を森に誘う理由は何となく分かった気がする。
「ソルジャーダガーの素材集めかな?」
「武器無しのまま、いきなり緊急でクエストが来たら困るだろ?」
アランの言う通り。このままではハンター家業を失業してビストロ・モガを継ぐ事になってしまう。
それが嫌な訳ではないけど、でもやっぱり私はハンターでありたいって思うんだ。
それが何故かは、分からないんだけどね。
「またソルジャーダガーを作り直せば良いかな?」
と、なるとジャギィ達を狩らないといけないんだよね?
あんまり、村の脅威以外のモンスターは狩りたくないって言ったらまた怒られるかな……。
「お前は狩りたくないとか言うんだろ」
どうしよう、言ってないのに怒られそうだ。
「そ、そういう訳じゃ……」
「今回は狩る必要はない」
え、それって───
「生きたまま素材を剥ぐって事?」
「…………どうしてそうなる」
「ミズキがバカだからニャ」
酷い。
「素材なら転がっている場所を知ってる。お前の友達、のな」
私の……友達?
「ま、まさかジェニーを?!」
農場の力仕事を手伝ってくれている、アプトノスのジェニー。
前任者のハンターさんが居た頃からここで働いてくれているジェニーは、私が幼い頃からモモナ達と一緒に遊んでいたお友達。
そんなジェニーを解体されてしまうのかと心配して私はジェニーを護るようにアランの前に立ち塞がった。
「ジェニーはやらせないミャー!」
「……ムツキ、バラすならモモナにしてあげて。きっと、粗末なにゃんにゃん棒が完成するみゃ」
「辞めてくれミャ!!」
「……な訳あるか」
もう呆れて声も出ないといった感じのアラン。
うーん、アランが何を企んでいるのかイマイチ掴めない。
「とにかく行くぞ。これはお前の仕事だ」
「う、うん……分かった! それじゃ、モモナ、ミミナ、ジェニー、またね?」
農場の皆に挨拶をしてから、先に行ってしまったアランを追い掛ける。
「またミャー!」
「またみゃー」
きっとアランの事だから、何か考えがあるんだろうけど。
どうやって私の武器作る気なんだろうね?
行ってみれば、分かるかな。
場所は変わってモガの森。
左手に見える川を、私達は上流へ向かって歩く。
「あ、アラン……何処に行く気なの?」
この先には行きたくない。
そんな事を心で思っては、私は足を止めたくてアランにそんな質問をした。
きっと、もうそこには何も無いと思う。
けれどもその場所に行く事が嫌で、何だか体が重かった。
「俺は言ったハズだぞ?」
言った……?
アランが言った事を思い出す。
──素材なら転がっている場所を知ってる。お前の友達、のな──
そう。この先は、あのダイミョウサザミさんを私が殺した場所だった。
アレから数日しか経ってないから、燃えた草木はまだ生え変わってない。
そして周りには、
「……ニャ、やっぱり……辛いかニャ?」
「ううん……。アランは私に、これを拾わさせたかったんだよね……?」
この素材で、武器を作れって事だよね?
ダイミョウサザミさんの命を、私は背負わないといけない。
私にはその責任が、ある。
「お前が嫌だというなら、この素材達は自然に返せば良い。……別にこの素材でなければまたソルジャーダガーを作れば良いだけだ」
「アラン……」
赤と白の甲殻を一つ拾いながら、私は顔を上げる。
「……辛いか?」
「ううん……あのね、ありがとう。アラン」
その甲殻を、私は優しく抱いてアランにお礼を言った。
きっと、アランに連れて来て貰わなかったら私はずっと先までこの場所には来なかったと思う。
そしたら、もう二度とダイミョウサザミさんに会えなかったと思うんだ。
だから───
「……ありがとう?」
「うん。アランが連れて来てくれなかったら、私は逃げてたと思うから。ありがとう」
───だから、厳しいけど優しいアランに私はお礼を言う。
「ダイミョウサザミさん、助けてくれてありがとう。助けられなくて、ごめんね。私、もっと強くなりたい。色んな物を守れるくらい、強くなりたい。……だから───」
唯一原型の残ったとある骨の前に立って私はそう言います。
厳密にはダイミョウサザミさんの身体ではないんだけど。それでも、ダイミョウサザミさんの一部として残ってくれたこのヤドに向けて。
「───力を貸して下さい」
◇ ◇ ◇
「てやんでぇ! ダイミョウサザミの素材たぁ、たまげたもんだなミズキ!」
「ど、どうもぉ……あはは」
お昼過ぎには村に戻ってこれたから、私は加工屋さんにダイミョウサザミさんの素材を持っていきました。
一応アランに使えるかもと言われて、ヤドの角も先端をポキっと貰ったんだけど。使うかなぁ?
「べらぼうめ! 今ある素材で作れそうなもんのカタログはこれくらいでい! 好きなもんを選びやがりな!」
そう言うと加工屋さんは何個かカタログを投げてくれます。
竜人族の加工屋さん。ちょっと口は悪いけど、厳しくて優しい人なんです。
さてさて、カタログを見てみる。
私は片手剣しか使った事が無いから、出来れば片手剣が良い所。
でも、せっかくだからダイミョウサザミさんの素材をちゃんと使いたいのが本心かな。
これは……ランスだね。重そうだし、私には無理かなぁ。
これは……大剣? うん、無理です。
ボウガンもあるんだ、アランとお揃いになるね。
うん、でもこの前使わせて貰ったんだけど難しそうだから却下です。
うーん、これといって使えそうな武器が無いなぁ。
どうしよう?
「おろ、なんだミズキ! モノブロスの角もちゃっかり持ってんじゃねーか! ならこれも作れるな!」
私が悩んでいると、加工屋さんはそう言いながらもう一つカタログを投げてきました。
頭に当たったそれをなんとかキャッチ。痛いです。
「これ……」
そして、そのカタログに目を通す。
まず見た目を図で確認。
ダイミョウサザミさんの如く堅牢な盾を一つと、ヤドの角を使った一振りの剣。
これは、間違いなく、片手剣!
「加工屋さん! これ! これにします!」
「お、良いチョイスだぜ! 新しい武器でも頑張んな! 朝までには徹夜で完成させるぜ!」
「て、徹夜なんてしなくて良いですって! えーと、代金だけ払っておきますね」
武器防具って高いんだよね。軽く十食分くらいしたりする。
高い物は家と同じくらいの値段がするらしいです。
でも、武器防具はハンターにとって命を預ける大切な物。だからお金を掛けるのは当たり前。
「てやんでぇ! こんにゃろうめ! 頼まれた仕事は意地でもやるのが職人ってもんだい!」
「でも、身体には気をつけて下さいね。皆心配するんですから」
元気な加工屋さんに限って身体を壊す事はないと思うけど。この村には貴方が必要なのです、無理だけはしないで欲しい。
さてさて、武器も頼んで私はお家に帰宅します。
いつも通りお店を手伝ったり、暇になったらアランに稽古を付けてもらったりしていたら日が沈む時間。
「……はっ! やぁっ!」
アランの黒い剣を借りて、素振り。
地味だけど、日々の鍛錬が重要らしい。
「今日はこのくらいで良いだろう、休むか」
「うん、そろそろハンターさんも帰ってくるかもしれないし」
「……ハンターさん?」
私が言うと、アランは不機嫌そうな表情で聞き返してきた。どうしたのだろう?
アランもご飯作って欲しかったのかな?
「アランの分も夜ご飯私が作ろうか?」
お父さんには負けるんだけど、ね。
「……いや、それはどうでも良い」
傷付きました。
「…………え、えーと、どうしたの?」
「……いや、何でもない。そいつは何のクエストを受けたか分かるか?」
「悪いモンスターを捕獲しにって言ってたけど……そういえば、何をって言っていたっけ?」
なんだっけ? イビだとかエビだとか言ってた気がするけど。
「受付嬢に聞いた方が早いか……」
そんな事を言うアランの背後に、これでもかというタイミングでアイシャさんが近寄ってきた。
そして───
「呼びましたかー!」
「……っぉ?!」
アランの耳元に大声で挨拶するのは、赤いギルド受付嬢の制服を着たこの村の看板娘アイシャさん。
いつもの通りの破天荒な行動にアランが初めて見せる表情で驚いて、私は思わず声を出して笑ってしまった。
「…………受付嬢」
「は、はいぃぃっ?! すみませんすみません! 出来心だったんです!! 食べないでーーー!!」
振り向いてアイシャさんに詰め寄るアランが今どんな表情をしていたのか、非常に気になる。
「…………まぁ、良い。今朝外のハンターが来てクエストに出掛けたらしいが、どんなクエストだ?」
「え、あ、えーと、孤島の素材ツアーですよ? ところであの……えーと、許し───」
「ミズキ、ムツキは?」
アイシャさんを無視して私に話し掛けるアランは、なんだか焦ったような表情。
「え? ムツキ? 今日はマタタビ集めに疲れたから寝るって───」
「叩き起こして連れてこい」
え?! なんで?!
「ど、どうしたの?!」
「素材ツアーに今朝から戻らないなんておかしいと思わないのか? それにそのハンターは捕獲と言っていたが、実際は素材ツアーに行ってるんだぞ」
それは、確かに考えてみれば……いや考えなくてもおかしな事なんだよね。
私はバカだから、アランの言っている事に気付くのに少し時間が掛かってしまった。
「す、直ぐに呼んでくる……っ!」
あのハンターさんは、素材ツアーからまだ戻っていない。
もしかしたら、森で何かあったのかも。
今朝見た、優しいハンターさんの顔が脳裏に映る。
同時に、三ヶ月前森で起きた悲劇も───なぜか私の脳裏に浮かんで離れなかった。
お願いします。どうにか間に合って……っ!!
◇ ◇ ◇
「匂いはどうだ?」
「酷い血の匂いがするニャ……。あんまりこの先には進みたくないニャ……」
ムツキを起こして、私達は直ぐにモガの森へ。
せっかくお昼寝してたのに、ごめんねムツキ。
でも今は緊急事態。ムツキの力が必要なの。
ムツキに普段感じない匂いを嗅ぎ分けて貰って森を進んで行くと、島の西側の海岸に近付いてきた。
この辺りといえば、私とアランがロアルドロスを誘導して新しい縄張りに移ってもらった海岸の近く。
なんだか嫌な予感がするし、感じがする。身体がこの先に行くのを拒んでる。
それでも、進まないといけない。そんな気がした。
「…………嘘」
「……ニャぁ」
海岸まで進んで、視界に入ったのは赤。
辺りに散らばる赤い何か。砂を赤く染めるその液体は、大きな身体から一頻りに流れ落ちる。
「…………グ……ゥ……ェ」
後頭部から身体の半分まで伸びる黄色い鬣。海竜らしい長い胴体。
その、至る所から赤い液体が流れ落ちていた。
「ロアルドロス……さん」
全身何かに食い千切られたような傷を負った、瀕死のロアルドロスがそこには倒れている。
この子は、アランが殺さずに新しい縄張りに誘導してくれたあのロアルドロス……だよね。
そのロアルドロスが、そんな姿で倒れていた。
「そんなのって……」
明らかにもう助からないその命に、足を近付ける。
あのハンターさんがやったようにはどうしても見えない。
思い出すのは、先日のリオレイアの死体。
「酷いニャ……」
「……やはり、奴なのか」
奴……?
「ロアルドロスさん……」
そういえば、周りのルドロス達はどうなったの?
卵を産んで、これから子育てだっていう皆は……?
「グルルゥ!」
「グゥゥゥ!」
そんな事を考えながらロアルドロスに近付こうとすると、海の中から数匹のルドロス達が私の前に立ち塞がった。
良かった、この子達は無事だったんだ。
「ま、待って! 私はロアルドロスさんを助けたいだ───」
私がそう言うと、後ろからアランに肩を叩かれる。
また、怒られるかな。でも私───
「……もう、助からない」
アランが口にしたのはそんな言葉だった。
「……分かるな?」
怒る訳でも、飽きられる訳でもなく、ただ優しい声で、辛そうな声で、アランは私にそう諭す。
「そんな……」
受け容れるのは、辛い事。
私はまたダイミノウサザミさんの時みたいに、助けられない。
───いや、私に出来る事はある。
「ルドロス達……お前らの夫はお前達を命を懸けて護ったんだ。もう、楽にしてやれ」
「グルルゥ……グゥ」
ルドロス達も、辛いんだよね。
アランの言葉が通じたかのように、ルドロス達はロアルドロスから離れていく。
でも、それは見捨てたとかじゃなくて私達を囲むように見守る感じで。
「……良く、皆を護ったな。安心しろ、もう子供も生まれる時期だ。…………それに、アイツは俺が殺す」
そう言いながら、アランは片手剣を背中から抜く。
ダメだよ、アラン。
「グゥ……ォ…………ェ……」
「……安らかに眠───」
「待ってアラン!」
私は、アランのその剣を止める。
「……ミズキ」
「ミズキ、ロアルドロスが苦しそうなの分かってあげるニャ……」
うん、分かってるよ。
「アランは、殺しちゃダメ」
そう言いながら、私はアランの片手剣を取り上げた。
アランは……本当は殺したくないんだ。その戒めを握る手で分かる。
「だから、私がするね」
「ミズキ……お前」
「…………グゥ……ェ……」
苦しいよね。私が今───
「ミズキ───……っ、よせ!」
───楽にしてあげるから。
「グルォォォォオオオオオオ!!!」
ロアルドロスの額から吹き出す鮮血。それと同時に、背後の遥か遠い所でとてつもなく大きな鳴き声がこの島に轟く。
木々は揺れ、波が立ち、風は嫌な気配をピリピリと感じさせた。
な、何……っ!?
「ニャ?! なんかヤバいニャ……」
「この鳴き声は…………っ!!」
アランはそう口にするが早いか、私に片手剣持たせたまま鳴き声のした方向へ走って行ってしまう。
え、ちょ、アラン?!
「ま、待ってよアラン!」
私も追い掛けるんだけど、アランが速くて全然追いつけそうにない。
何をそんなに急いでいるの……?
その先に何があるの……?
「お前は来るな! 村に戻っていろ!」
「そんな事言ったって! それに片手剣!!」
「なんでボクも走ってるのかニャ。戻った方が良いと分かってるのにニャ……」
そこからアランは岩陰に隠れてしまって見えなくなる。この先は確か、この前アランと行ったあの場所。
岩場を超えると、見渡しの良い砂浜が見えて来る。アランもそこに居て、彼の足元には真っ赤な何かが見えたんだ。
その赤が視界に入ると、私の身体はまた止まってしまう。
「……あれって」
その赤い何かは、今朝見た何かに似ていた。
ハンターが使う防具。それに
「……ニャ?! か、帰ろうニャ。見ない方が良いニャ!」
「ハンター……さん?」
──まぁ、アレだ。頑張るお嬢ちゃんに俺からの気持ちとして受け取ってくれや。その代わり、帰りも美味いものを頼むぜ!──
優しい、今朝お店にご飯を食べに来てくれたあのハンターさんが脳裏に映った。
嘘だよね。
見間違いだよね。
「こんなの……って」
「ニャ、ミズキ?!」
アランの下に駆け寄る。はっきりと目に映るのは、防具ごと右半身を何かに食い千切られた……男の人。
「…………もう少しの間は生きてるか」
アランのその言葉は、まだ生きてるけどもう直ぐ死ぬって言う意味。
ハンターさんは真っ赤に充血した焦点の定まらない眼で私達を見ていた。
まるで、自分の末路を悟ったかのような。諦めた人の表情。
「ハンターさん……」
「…………ま……さか。嬢ちゃんが…………ハンターだったとは、な。俺も口が…………滑った、か」
何を……言っているの?
「……話せ、全部。お前は何者だ。何を捕獲しようとした。仲間はどうした。…………お前はもう死ぬ、全部話せ」
冷たく言うアラン。なんで? なんでそんなに酷く言うの……?
「アラン?! なんでそんなに冷たい事言うの?! この人は───」
「密猟者、だ」
……ぇ?
「…………嬢ちゃん、ありが……な。でも、そいつの言う通り、さ」
密猟者……? え? この人は……ハンターさんだよ?
「そ、それでも……だって……」
この人は……あんなに優しい人だった。なのに、なんで? どうして?
「……まさ、か。こんな事になるとは……思わなかったのさ。三ヶ月前
言いながら口から血を吐き出すハンターさん。
「も、もう喋らなくて良いから! ハンターさん死ん───」
「話せ」
「アラン!!」
アランに詰め寄るけど、彼は私の事なんて見ないでハンターさんを睨み付ける。
どうして……? どうして……優しくしてあげないの?
「………………良いんだよ、嬢ちゃん」
「ハンターさん……」
なんで……。
「……俺は、悪人だ。んなこた、分かってるさ……だから、嬢ちゃん見たいな子を巻き添えにしない為に…………来たってのに、このザマだ」
「この島にソイツを連れて来たのはお前の仲間という事だな?」
「あぁ……そうだな。…………でも、悪気があった訳じゃ……ねぇ。俺達は人々の為に───」
「そんな事は聞いてない」
「…………ハハッ、そう、か。お前は俺達と同じ眼をしてる……だから、分かると……思ったんだがな。なんか、……違うのか、ね」
同じ眼……?
「ソイツは、イビルジョーだな?」
「…………ご名答」
そう答えると、ハンターさんは静かに眼を閉じる。
まるで責任は果たしたとでも言うように、満足気な表情で。
「…………お前、強いな? なら…………後の事、頼んだ……ぜ。その嬢ちゃん……の…………事も」
「……言われなくてもそうするつもりだ。勝手な事を言うな」
アラン……。
「………………嬢ちゃん」
「ハンターさん……?」
「……………………飯、美味かった…………ぜ」
動かなくなる彼の身体に吹き付ける風は、とても冷たかった。
はい、ジョーさんでした←
設定として現状この作品での孤島にはイビルジョーは生態系に含まれておりません。
なら、なぜイビルジョーが孤島に居るような発言が為されているのか。進んで行く物語の中ではっきりとしていく……筈です。
今回の言い訳。
現実世界でハーレムを作る所がロアルドロスと一致しているライオン。
このライオン。ハーレムな上に餌は自分で取らずに雌に取らせます。なんて幸せな人生かヒモかよと思われがちですが、他のオスや侵入者から縄張りを守るのはオスの役目だそうです。
ロアルドロスもそんな感じなのかなー、と。まぁ、勿論独自解釈な訳ですが。
なんと、この様な作品にファンアートを描いて下さる方が……っ!!
とても嬉しかったです。せっかくなので、ここで紹介させて頂きます。
【挿絵表示】
アランさんは格好良いしミズキもムツキも可愛らしくてとっても素敵な絵を頂きました><
しかも描いてくださったのはあのモンハン飯のしばりんぐさんです。私の人生がこんなに優遇されてて良いのだろうか……。天罰が来る気がする。
さて、不定期なのですがそろそろモンスターハンターXXの発売日も近いので更新が遅くなるかもしれません。
また次回お会い出来たら幸いに思いますm(_ _)m
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。