モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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狩り人と龍の物語

「───つまり、死んだと見るのが一般的でしょうね」

 肘をついた手の上に顎を乗せながら、ウェイン・シルヴェスタはそう言葉を落とす。

 

 怒隻慧───イビルジョー。

 俺がずっと探していた竜との戦いから、既に一月が経とうとしていた。

 

 

 

「天廻龍シャガルマガラ。あなた方の前に現れたこの古龍こそ、巷を騒がせた狂竜化の原因であったゴア・マガラの真の正体だった訳ですよー。あらまビックリー」

 あの時───ミズキが呼んだ龍が、まさか古文にしか載っていなかったような古龍だったとは思いもしない。

 シャガルマガラとミズキは心を通わせていたのだろうか。絆の力を捨ててしまった俺には、それが分からなかった。

 

 まず、ミズキ本人に聞いても「よく分からない」が答えな訳だが。

 

 

 

「狂竜ウイルスの根源である、シャガルマガラと戦った怒隻慧のその後の行方はまたピタリと途絶えてしまった。周辺地域に出没情報もなく、普通に考えたらシャガルマガラに殺されたか……そうでなくとも狂竜ウイルスで死んだのだとギルドは決定付けたようですよ───死体は出て来てませんけど、ね」

 あの後、アキラさんの指示で再び調査団が結成され遺跡平原は隈無く調査が行われた。

 だが、その結果はウェインが語る通り。怒隻慧の足取りは、また完全に途絶えている。

 

 

「……死んだと思うか?」

「バカにしてるんですか? ……そんな訳ないでしょ」

 半目のまま溜息を吐くウェインはハッキリとそう口にしてから、こう言葉を付け足した。

 

 

「そもそも奴さんは何回もギルドの監視から完全に姿を眩ませてるんです。今回に至っては別地域にまで出没した始末ですから……死んでいるとは到底思えませんよねぇ?」

「……だろうな。だが、また見失ってしまった」

 やっと見付けたアイツをみすみす逃したのは俺の腕がまだ足りなかったからか。

 だが、あのままミズキが戦いを止めなかったら……アキラさんや俺達はどうなっていただろう。

 

 

 ……死んでいたかもしれない。

 

 

 

 まだ足りないのか。俺の手は奴に届かないのか。

 

 ……いや、それでも。あいつは殺さなければいけない。

 次こそ……次に奴を見付けた時こそは、必ず仕留めてみせる。

 

 

「まぁ、どの道直ぐには見付からないでしょうね。本当に死んだって可能性もゼロじゃないでしょうし」

 羽帽子を拾いながらそう言ってウェインは立ち上がった。どうやら話は終わりらしい。

 

「で、アランさんはどうするんですか? タンジアに戻ります?」

「……そうだな。奴が消えた以上は、ここに居る理由が今はない」

 情報量ならタンジアもバルバレも同じような物だが、それなら拠点があるタンジアに帰った方が幾分かは過ごし易いだろう。

 今の貧乏生活を続けたい気持ちなんて、微塵ともないしな。

 

 

「ついにミズキちゃんを家に連れ込む訳ですね?」

「頭か顔どっちが良い?」

「その手を下ろして。……冗談ですよー、アランさんってそういうの興味なさそうですしー。あ、もしかしてホモなんで───ぁ痛い痛い痛い痛ぁぁあああ!!」

 軽く腕を捻り上げると飛び退いて地面を転がるウェイン。

 このアホ砂漠のど真ん中に捨てて来てやろうか。

 

 

 

 ミズキをどう思っているかと聞かれれば……正直分からない。

 

 

 無理矢理付いて来た奴だが、俺はなんやかんや彼女に甘い節があるしな。

 

 その理由はきっと……過去に捨てた道をミズキが歩こうとしているからだろう。

 俺はそんな彼女を見ていたいんだと思う。俺が見られなかったその先を彼女に見せたいんだろう。

 

 

 だから、ミズキにやましい感情はない。

 確かに……俺にとっては大切な存在になりつつあるのかもしれないけどな。

 

 ただあいつは少し無防備というか、危なっかしいというか。その点はかなり心配だ。

 変な奴に捕まりそうになったら、モガの村の皆から彼女を託された身としてミズキを守る必要がある。

 

 

 ……そうだ、ミズキは俺にとって守る存在だ。そういう関係では決してない。

 

 

 

 

「ったく酷いなぁ……冗談ですよ冗談。ギルドナイトに手を出すなんて良い度胸ですね」

「いや今のはお前が悪いだろ、知らん。……所でウェイン、相談があるんだが」

 ギルドナイトなら何を言っても良いと思うなよ。

 

「人の腕を捻っておいて相談───あ、はい、なんでもないです。ご用件は?」

「帰るなら俺達をタンジアまで連れて行ってくれないか? 船に乗る金がないんだ」

 タンジアに帰ると簡単に言っても、物事はそう単純ではない。

 

 

 バルバレとタンジアはそれなりに距離が離れていて、簡単に行き来出来る関係じゃないからな。

 それこそウェインが乗って来た気球船でもない限りは、見通しのつかない長旅をする事になってしまう。

 

 

 

「あー、船ですか。それなんですけどねぇ…………無理です」

 ただ、ウェインから返って来た返事はそんな言葉だった。

 さっきの腹いせの冗談かと思ったが、目をそらす彼の表情は言いにくい事を言うようなそんな表情だ。

 

「……は?」

「いやぁ、僕はセルレギオスの調査がありましてね。タンジアには少し帰れないんですよー」

 今回の狂竜ウイルスの一件で未知の樹海に生息していたセルレギオスの多くが、全世界へと生息域を拡大したらしい。

 この事で世界の生態系は多少なりとも狂うだろう。一匹の龍が残した爪痕がそれだけ大きいのだから、古龍が生きた災害と言われるのにも納得がいく。

 

 そして生態系の大幅な変化を懸念した故の調査に、ウェインが抜擢されたという事だろう。

 

 

 と、なるとつまり。

 

 

「お前を足に出来ないという事か」

「アランさんって僕にだけ辛辣過ぎません?」

 

 

 これは……困ったな。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「釣れないねぇ……黄金魚」

「釣りは待つ物ってお父さんが言ってたニャ。って、ミズキ引いてるニャ」

 え? 本当?!

 

 

「わっ?! 本当だ。……っとぉ!」

 目を離していた釣竿が大きく揺れていたので、力一杯振り上げます。

 釣り糸の先端で元気に跳ねるお魚さん。釣れた、ようやく釣れました。

 

「黄金魚!」

「いやそれはサシミウオだニャ」

 あ、うん。知ってたよ?

 

 

「……ですよねぇ。ぐぬぬ」

 サシミウオを拾い上げて、また釣り竿を池に落とす。

 

 私達は遺跡平原のキャンプ近くにある池で、朝から釣りをしていました。

 目的は黄金魚3匹。昼過ぎになるけど、収穫はゼロ。

 

 なぜ……。

 

 

 

「このままだと、またご飯が魚とキノコだけになるニャ」

「……嫌だ」

 相変わらず、私達は貧乏です。

 

 遺跡平原の生態系がここ最近の色んな事でおかしくなって、モンスターの狩猟の殆どが制限されているのも原因だったり。

 キノコ狩りや魚釣りも一応狩場で行う以上はハンターの仕事だけど、モンスターを狩猟するのと比べれば報酬は文字通り桁違いだしね。

 

 

「ならつべこべ言わずに黄金魚釣るニャ。エビフライが待ってるニャ!」

「エビフライ……っ!」

 最近……食べてないなぁ。

 

 

「……」

「アラン、どうしたの?」

 いつも以上に無口なアランの顔を覗き込みながら、私はそう尋ねた。

 水面に向けられてはいる眼だけど、どこか遠い所を見ている気がする。

 

「……ん、いや、なんでもない」

 少しだけ私を見ると、アランはまた水面を静かに眺め出した。

 

 

 

 

 あの日から───怒隻慧と呼ばれたイビルジョーと戦ってから、アランはずっとこんな感じです。

 

 

 私自身、必死だったからなのか……なんであんな事が出来たのか覚えてないんだけど。

 

 イビルジョーに負けそうになったあの時に……私はジャギィさんやババコンガさん───そしてゴア・マガラさんの助けを借りてあの場を乗り切る事が出来ました。

 

 あの後ベースキャンプでジャギィさん達と別れてから、あの不思議な感覚は感じなくて。

 何回か遺跡平原にも来たんだけど、ジャギィさんと再会する事はなかった。

 

 

 一応、お金が貯まればアランの拠点があるタンジアに向かう予定なんだけど。

 それまでには、またジャギィさんに会いたい……。なんて、変な事を思っちゃう私もいます。

 

 

 

 

 怒隻慧───イビルジョーは、もう遺跡平原には居ないみたい。

 

 大怪我でタンジアに戻ったアキラさんの命令で、ギルドの調査が遺跡平原全域に入りました。

 結果的に見付かったのはゴア・マガラ───いや、天廻龍シャガルマガラが残した抜け殻だけだったらしいです。

 

 

 あの金色に輝く、ゴア・マガラさんの本当の姿。

 それは、古文とかに乗ってるような物凄く珍しい古龍だった。

 

 ゴア・マガラはシャガルマガラの幼体らしくて。

 ……あの場所でゴア・マガラさんから感じたのは、そういう事だったんだって。難しいけど、何となく分かった気がする。

 

 

 シャガルマガラはとあるキャラバン隊に所属する、ハンターさんが討伐したらしいです。

 つまり、あのゴア・マガラさんはもうこの世界には居ない。

 

 

 

 でも、それで良いんだと思う。

 私達は相容れない。どうしても倒さないといけないモンスターは、やっぱり居るんだと思う。

 

 だから、私達は───狩り人はモンスターと戦うんだ。

 

 きっとお互いにその事を知っているから。

 

 

 自分達が生きる為に、戦うんだ。

 

 

 

 私はそう思う。

 

 

 

「日が沈んだニャ……」

「……そうだね」

「クエスト失敗だな」

「あぅ……」

 

 一方で、怒隻慧イビルジョーのその後の事は分からないらしいです。

 

 

 シャガルマガラさんと戦ったあのイビルジョーはどうなったんだろう?

 遺跡平原や周辺から目撃情報はさっぱりなくて、シャガルマガラさんとの戦いで倒れたのかな? なんて思ったけど。

 死体どころか、何の痕跡も近くからは見付かってないらしい。もしかしたら、まだ生きているのかもしれない。

 

 

 イビルジョーを見るアランの眼は……怖かったな。

 

 きっと、まだアランはあのイビルジョーを殺そうと思ってるんだと思う。

 時折遠い所を見ているのは、その事を考えているから。

 

 今でこそいつもの表情をしてるけど、まだ心の中にはあのイビルジョーの事が残っているんだ……。

 

 

 

 怒隻慧───イビルジョー。

 あのイビルジョーは……アランにとってどんなモンスターなんだろう。

 

 

 ──あの時から俺は!! お前を殺す為だけに生きて来たんだ!!──

 

 アランの言葉が頭の中で繰り返される。

 

 

 怒隻慧。あの竜は……一体───

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「あ、アラン……ご飯は……」

「家でキノコと魚だな」

「えぇええ! もうこんな夜遅くなんだよ?! 家で料理してたら凄く遅くなっちゃうよ?」

 夜遅く集会所に着いてから、そのまま家に帰ろうとするアランを私は引き止めた。

 

 夜遅くとは言っても集会所はまだ賑やかに人々が談笑している。お酒を飲んだりご飯を食べたり。

 集会所はハンターにとってご飯を食べる場所でもあるのです。つまり、私が何を言いたいかと言うと───

 

 

「食べていこうよ……っ!」

 ───お腹が減ったから、早くご飯が食べたいって事。

 

 

「……このままだとタンジアに戻れずにずっと貧乏生活だぞ」

「ぐぅ……っ」

 そんなぁ……。

 

「おぉ! お前さん達、また会ったなぁ!」

 流石にこれ以上わがままを言う訳にも行かなくて、諦めて帰ろうとしたその時。

 聞き覚えのある声が背後から聞こえた。渋みのある低い声は、落ち着いた声色とは裏腹に大きな声だ。

 

 

「団長さん?!」

「久し振りだな!」

 手を上げて挨拶をしてくれたのは、我らの団というキャラバン隊の団長さん。彼は路頭に迷っていた私達を救ってくれた人です。

 年季の帯びた白い髪の上の赤い帽子を机に置くその初老の人物は、私達に無言でここに座れとでも言うように開いている席の椅子を三つ下げた。

 

 

「積もる話があるんだ、ほらほら座れ!」

 少し強引にアランの肩を掴む団長さんは快活な声で私達を席に招く。

 アランも団長さんには逆らえないみたいで、苦笑しながらも団長さんの指示通り席に座った。

 

 私もそれに着いて反対側の席に座ると、その横にムツキが座る。

 

 こうなってしまえばご飯は集会所で食べるしかないね。エビフライ頼んじゃおっと!

 

 

「お前達飯は食ったか? 俺はまだ何だが、どうだ?」

「貸家で食べようと思いまして……。……節約中なんです」

 控えめにそう答えるアランは、私達に視線を向けて何かを諭すように眼を細くした。

 

 ぐぬぬ、意地でも集会所ではご飯を食べないつもりらしい。

 

 

「はっはっは! なんだそんな事なら俺に言え! 今日は奢りだ、好きな物を食うと良い」

「ぇ、いや、しかし……」

「良いから良いから」

 そういう団長さんは、アランとは逆に私達を見ながら片目を瞑ってメニュー表を取り出した。

 そうして好きな物を頼めと言わんばかりに広げられるメニュー表。アランは諦めたのか、溜息を吐く。

 

「困った時はお互い様と言うだろう?」

「しかし……俺達は団長さんになんの恩も返せてない」

「はっはっは! 相変わらず考えが固いなお前さんは。良いから選べ選べ。問答は食った後だ」

「は、はぁ……」

 申し訳なさそうに頭を下げるアランの横で、団長さんは声を上げながらアランの肩を叩いた。

 

 私も確かに申し訳ない気持ちはあるけど……今の団長さんを押し切って断るのは無理な気がする。

 

 

 

「目の前の誰かが困っていたら、黙って手を差し伸べる物だ。そうして繋がった輪は、いつか世界を繋ぐ大きな輪になる」

 受付のアイルーに注文を頼んでから、団長さんは話の続きのように口を開いた。

 大きな輪? 難しい話なのかな、私には良く分からない。

 

「はっはっは! そう難しそうな顔をせんでも。もっと柔らかく考えるんだ」

 柔らかく?

 

 

「例えば、そうだな。大袈裟に言うが、今俺がお前さん達を助けたとするだろう?」

 大袈裟じゃなくても助かってる気がする。

 

「そうして助かったお前さん達が、いつか困ってる人を助けたとする」

 いつか……誰かを。

 

 

 狩り人ならば、いつか誰かを助ける事はあると思う。

 そうでなくても……生きていれば誰かを助けるかもしれない。

 

 

「そうしてお前さん達が助けた誰かが、また誰かを助けたとするだろ?」

「……ぁ」

 そこまで聞いて、私は団長さんが何を言いたいのかやっと分かった気がした。

 

「そうして助け合えば、いつか誰かが助けた誰かに自分が助けてもらえるのさ。そうして世界が繋がっていくんだと俺は思っててな。そうして輪が世界中で繋がる……だから旅は辞められない」

 

 世界が繋がる。

 そう言って締めた団長さんは、運ばれて来た前菜に大胆にフォークを突き刺した。

 

 

「さぁ、分かったら食え」

 突き刺した野菜をフォークで持ち上げた団長さんは、笑顔でそう声を上げる。

 団長さんはとっても良い人だなぁ……。だから色んな場所で、色んな人と巡り合って、色々な体験をしてる。

 

 そして、その巡り合わせがゴア・マガラ───シャガルマガラとの戦いに彼等を巡り会わせたのかもしれない。

 

 

 その物語は、巡り巡って誰かを助けるんだと思う。

 

 

「世界は繋がってるんだ。誰かを助けないって事はな、その誰かが明日助ける筈だった奴の事も助けないって事になる。それもまた、巡り巡って自分の所に帰ってくるんだ」

 でも、それはきっと───

 

 

「だから言ってみな、困ってるんだろ? 俺に、俺を助けさせろ。……勿論この件に関しては俺も助けて欲しい事があるから頼んでるんだがな! はっはっは!」

 そう言って、団長さんは笑顔で大きく笑った。

 

 

 ───それはきっと、私達だけじゃなくて彼等も同じ何だと思う。

 

 

 

 世界は繋がっていて───廻っているんだと、私はそう思う。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「どうだぁ! 俺の───俺達のイサナ船の乗り心地はぁ!」

「凄いですっ!!」

 

 

 心地良い風。小さく見える、地図に載らない町バルバレ。豆粒みたいな人達が、その町で忙しなく動いているのが見えた。

 ぐんぐんと視界の高度が上がる。広大に広がる砂漠の反対には、遺跡平原が二つ目の景色を作って飽きない景色を作り出していた。

 

 

 

「ニャぁぁぁ!! 船は嫌なのにニャぁぁぁ!!」

「あんまり暴れると本当に落ちるニャルよ。ニャッハッハ」

「ワッハッハ、また元気なのが船に乗ったなぁ!」

「脅かすニャぁぁぁ!!」

 ムツキは元気だなぁ。

 

 

 

 私達は今、なんと団長さん達の飛行船───イサナ船に乗っています。

 

 この船はあのハンターさんや団員さん皆の力で作ったんだって。

 そんな中でもあのハンターさんの活躍は凄かったらしいです。今はクエスト中で此処には居ないんだけども、また会えると嬉しいなって思う。

 

 

 

 団長さんは、タンジアに着いた時に荷物を船に載せるのを私達に手伝って欲しいらしいです。

 

 なんでも、次の旅の為に資材を沢山買うんだとかで。

 なんだか私達を乗せてくれる為の口実にも聞こえたけど、あの後お酒が入った団長さんを止められる人はそこに居る無口な竜人さんしか居なかったんじゃないかな?

 

 

 そんな訳で、私達は無事にバルバレを発ってタンジアに向かう事が出来るようになったのでした。

 

 

 

「凄い景色だね、アラン!」

「……そうだな」

 遺跡平原の方をじっと見つめるアランに私は話し掛ける。

 

 きっと……探してるんだと思う、あの竜を。

 

 

 アランの中ではあの竜はきっと特別なんだ……。そう簡単には、頭から離れない程に。

 

 

 

 そういえば。そう思って私も遺跡平原を見下ろした。

 

 

 あの日から……あの竜達に私も会えて居ない。

 

 

 

 

 気持ちが繋がった気が来た。

 

 

 

 もっと近くに居たかった。

 

 

 

 もっとあなたの事を知りたかった。

 

 

 

 

 でも、私は人で。

 

 

 あなたは竜だ。

 

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

 

 

 あの素敵な出来事は、夢だったのかな?

 

 

 

 

「……。……ミズキ、こっちを見ろ」

「……ぇ?」

 唐突に、アランが指を指しながら私の頭を無理矢理動かした。

 

 その先にあったのは───

 

 

 

「ウォゥッ、ウォゥッ! ウォッ、ゥォッ……ウォッォッオッオッオッオッオッ」

 ───崖の上で遠吠えを上げる、一匹の小さな竜だった。

 

 

 片目の潰れた、薄紫の小さな身体。

 特徴的な扇型の耳は、気の所為か大きくなった気がする。

 

 

 

「……ジャギィ…………さん」

 その姿が目に入った瞬間、色んな物がこみ上げて来たんだ。

 

 言葉にならない気持ちが、どう言葉にして良いのか分からない気持ちが、沢山……沢山沢山こみ上げて来るんだ。

 

 

 後悔する。

 

 

 きっと、何もしなかったら後悔する。

 

 

 

「ジャギィさぁぁああん!!」

 私は、大きな声で叫んだ。

 

 遠くに居る彼に届くように、大きな声で叫んだ。

 

 

「ウォゥゥゥッ!」

 答えてくれた……っ!!

 

 

 

 伝えなきゃ。

 

 

 

 言葉で。

 

 

 

 私の気持ちを。

 

 

 

 伝えるんだ。

 

 

 

「ありがとう……っ!!」

 ただ、その言葉を叫んだ。

 

 

「ありがとぉ……っ!!」

「絆石が……」

 叫んだ。

 

 

 

「ありがとぉおお……っ!!!」

 

 

 

 出会ってくれてありがとう。

 

 繋がってくれてありがとう。

 

 許してくれてありがとう。

 

 助けてくれてありがとう。

 

 注意してくれてありがとう。

 

 

 一緒に戦ってくれてありがとう。

 

 

 ……ありがとう。

 

 

 

「ウォゥゥゥッ!! ウォゥゥゥッ!!」

 鳴き声を上げるジャギィさんの後ろから、もう一匹の体格の良いモンスターが顔を出す。

 アレは……ジャギィのメス? ジャギィノス? もしかしてお嫁さん?!

 

「家族が出来たんだ……」

 これから、皆を守る長になるのかな……。

 

 

「元気でね……」

 やっぱり、私達は一緒には居られないね。

 

 

 

「……泣いてるのか?」

「嬉しいのかな。悲しいのかな……。……分かんないや」

 そう答える私の頭にアランの手が乗る。気持ち良く、優しい大きな手だ。

 

 

「……また会えるさ」

 人と竜は相容れない。でも───

 

「……だと、良いな」

 ───いつか、また廻り会うような気がするんだ。

 

 

 

 だって───

 

 

「世界は繋がって居るんだから」

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「それで、なんとそこでハンターさんがトトトーンとモンスターを!!」

「なんかこの人誰かに似てると思ったら、奴だニャ」

 

 

「……食うか?」

「あ、はい、頂きます」

 

 

 

 イサナ船での旅も、もう後半です。

 

 

 さっき昇った筈の太陽が、もう沈みそう。

 

 そう感じるような、楽しい時間だったんだと思う。

 

 

 

「しかし、怒隻慧ってそんなヤバいモンスターを追ってたのか。俺も噂は聞いた事があるんだがな」

 皆でご飯を食べている時間、お話はあのイビルジョーの話題になりました。

 

 団長さんは色んな場所で色んなお話を聞いてるから、あのイビルジョーの事も知っていたみたい。

 

 

 

「そんなにヤッバッイッモンスターなんですか? 怒隻慧っていうイビルジョーは」

「ん、なんでもなぁ。小さな村や、酷いと町を一つ消した事があるなんて話を聞くからな」

 村や町を……消す?

 

 

「……俺の故郷と、育った村を襲ったのがその怒隻慧なんですよ」

 ……ぇ?

 

「……なんと」

「……あ、アラン……そう…………なの?」

 知らなかった……。

 

 

 

「だから、俺はアイツを追う。もし情報があったら……俺に教えて下さる事は出来ますか?」

「……そうだな。もし、何か情報が見付かればだが。約束しよう」

「……助かります」

 ……なんだか、嫌だな。

 

 

 

「は、はいはーい! 湿っぽいお話は終わりです。もう少しでタンジアに到着、ここは我等がハンターさんの武勇伝をこの超☆メモ帳から引っ張り出して語る事にしましょー!」

 でも、アランはきっとあの竜の事を忘れる事は出来ないんだと思う。

 

「もう聞き飽きたニャ!」

 きっとこれからも、アランはあの竜の事を考え続ける。

 

 

「今回は特別ですよ!」

 私に何が出来るだろうか。

 

 

「何が特別なんだニャ……」

 何も出来ないのは、嫌だな。

 

 

「なんとなんと、アレです!」

 そう思ったんだ。だから、何もしないのは嫌だ。

 

 

「ねぇ、アラン……」

「……なんだ?」

 アランは私にあんな素敵な経験をさせてくれた。

 

 

 私だけが、アランに貰っている。

 

 

 そんなのは、嫌だな。

 

 

「あのイビルジョーの事……アランとあのイビルジョーのお話を、私に聞かせて欲しい」

「……なんでだ?」

「嫌かもしれないけど……。……私が出来る事を、探したいから」

 出来る事なんてないのかもしれない。今の私には。

 

 

 でも、いつかきっと。

 

 

 私も、アランに返したいんだ。

 

 

 

 

 沢山助けて貰った。

 

 

 だから、私もいつか……アランに返したい。私もアランと、世界の輪で繋がりたい。

 

 

 

「……良いぞ」

「本当?」

「ただ、長くなるからな」

 そう言うとアランは私の頭の上に手を乗せる。

 

「この話を聞き終えて、タンジアの俺の家でゆっくり話す」

「……うん!」

 大きな手は少し、揺れているような気がした。

 

 

 

「それではそれでは! 開け、超☆メモ帳!! これは……一人の狩り人と龍の物語!!」

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 一人の狩り人が、かの地へと足を踏み入れた。

 

 どこか懐かしさを覚えながら歩み寄るその先に、禍々しい空気の鎧を身に付けた龍の気配を感じる。

 

 

 一歩、また一歩、その足を気配に近づけた。

 

 

 そして、立ち止まる。

 龍を待つように。

 

 

 龍もそれを感じたのか。

 

 翼を広げ、空気の鎧を脱ぎ去った。

 

 

 お互いの眼が、初めて合う。

 

 幾度とも戦い合った両者は、初めてその瞳に好敵手の瞳を映し合ったんだ。

 

 

 

 その狩り人は強い。

 

 しかし、それでも、勝てないと分かっていても───

 

 

「グォァ……」

 その眼に宿した光で初めて眼にする好敵手。

 

 これまで何度も戦ってきたその相手を、龍はその眼に焼き付けるように自らの身体を狩り人の背後まで運ぶ。

 

 

 

 そして龍は、大空へ飛び立ちその翼を広げた。

 

 

 その狩り人に自らの全てを見せる為に。

 

 その狩り人に自らの全てをぶつける為に。

 

 

 最大の好敵手を、最大の敵を見下ろしてから、龍は地面へと降り立ち最強の敵へと視線を合わせた。

 

 小細工は無用。

 

 

 後悔は無い。

 

 絶望も無い。

 

 

 有るのは気持ちの良い、敵対心。

 

 自らの存在全てを賭けてでも倒したい相手への探究心。

 

 この世界は彼等の世界だ。

 

 

 弱肉強食。

 端的に世界の理を表すなら、その言葉が最も適しているだろう。

 

 弱い者は食われ、強い者が喰らう。

 

 

 ───分かっていても。

 

 

 勝てないと分かっていても。挑戦者は挑む。

 

 

 自らの何かを掛けて、戦うんだ。

 

 

 

「ギィァァァァアアアア!!!」

 

 それが、この世界の理だから。

 

 

 

 

 

 これは───狩り人と龍の物語




読了ありがとうございます。
これにて第ニ章完結です。ここまでお付き合いして下さった方々、関わって下さった方々全てに感謝を。

第二章はモンスターハンター4のストーリーに沿ったお話となりました。
あとがきではあまり語らずに、後で更新する活動報告で色々語ろうかと思います。暇な方は除いてやって下さい。


さてさて、第二章終わらせる事が出来ました。
重ね重ねですが、本当に皆様の応援のおかげです。

区切りもいいので、感想とか評価とか貰えると嬉しいのですよl壁lω・)


そいで、二章最後のファンアートご紹介。
グランツさんより、再び怒隻慧イビルジョーを書いて頂きました!!


【挿絵表示】


いやぁ、もう凄いのなんのってね。最高です、ありがとうございます。


詳しくはあとがたりで書きますが、第三章はこの怒隻慧のお話を掘り下げる予定です。
長くなるので、ここでは割愛しますが。


次回の更新ですが、少し遅れるかもしれません。
自分の中で確認したい事や、他ごとの用事もありまして……とほほ。出来るだけ二週に一回は更新したいですが。


ではでは、またお会い出来る事をお祈りしております。

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