モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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狂竜と世界の異変

 降り頻る雨のような温水が身体を流れていく。

 

 

 頭上から肩、背中を伝って足の先まで。

 身体を洗い流す温水は適温で、気持ちが良い。

 

 ある程度身体を流したら、流れていた温水よりも少し暖かい湯の塊に身体を沈めます。

 全身を包み込む、熱いとも暖かいとも取れる温水が身体を芯から暖めてくれる。

 

 

 正直熱いんだけど、そのくらいが丁度良い。

 

 

「ふひぃ…………生き返る」

 ここは、貸家の銭湯。このバルバレでも珍しい銭湯付き貸家を経営するキャラバン隊の管理する大きな浴場です。

 ちゃんと男女で分けられているし、安い家賃が売りなんだけど使用はハンター限定。

 

 女性ハンターは男性より少ないのが現状だから、この浴場は殆ど私の貸切のような物です。むふふ。

 

 

「……お、おっさんみたいだよ? ミズキ」

 思わず漏れた私の声に、私の正面に立っていた一人の少女が反応した。

 ただ、完全に居ないという訳ではないのだった。しまった……間抜けな声を隣人に聞かれてしまった。

 

 

 頭の上で一つに纏めた黒い髪。

 その少女を上から端的に表すなら———ボン、キュ、ボン。

 

 出るとこは出て引き締まるところは引き締まっている、女の子として完成されたその身体は私から見ても羨まし———素敵な体格。

 私と同い年で、私と同じくハンターをしている彼女。ヤヨイ・ハルノは私達が借りている貸家の別の部屋に住む隣人だった。

 

 

「隣、良い?」

「良いよ」

 断りだけ入れて、湯に浸かると私の隣に座るヤヨイ。

 横目で彼女の身体を見ると、横から見てもその身体の凹凸が良く目立つ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 なぜ、人によってこうも成長の仕方が変わるのか。

 

 

 

「クエストの帰り?」

「ううん、今から行く所。行く前に温泉で気分をリフレッシュ。これ、私の故郷じゃ常識なの」

 この貸家に来て、つまりバルバレに来てもう少しで一月程が経つんだけど。

 

 隣の部屋だから良く顔を合わせるし、今この貸家に居る唯一の女の子だから。

 私とヤヨイは知らず知らずの内に良く話す仲になっていました。

 

 

 これって、友達って事で良いんだよね?

 

 同世代の同性の友達は初めてだったりする。ヤヨイと話してるのはとても楽しいです。

 

 

「どんな所なの?」

「温泉が有名で、のどかな所かな。とっても良い村だよ!」

 うーん、私はモガの村以外の村をあまり知らないから、それだけじゃどんな所なのか分からない。

 でも、ヤヨイが良い村って言うんだからきっと良い村なんだろうな。

 

 

 

「そっかぁ……いつか行けると良いなぁ」

 せっかく村を出たんだから色々な所に行ってみたい気持ちはある。

 

 ただ、そもそも私はアランの拠点であるタンジアにも戻れない始末。このままじゃダメだよねぇ……。

 

 

「今日はどんなクエストを受けるの?」

「え、えとぉ……薬草か……キノコ採取…………かな」

 ヤヨイは最近ハンターを始めたばかりの駆け出しハンターだったりする。

 それなのに、先輩の私が彼女と殆ど変わらないというのは……どうなんだろう。

 

 

「は、初めはそんな物だよ!」

「そうかな……。私としては、早くモンスターを狩れるようになって! 実家のお母さんを安心させたいだけど」

「そ、そっか……」

 彼女の立派な志に、私はたじろいでしまった。

 

 

 私と同い年位の女の子が、一人でモンスターを狩れるようになろうと頑張っているのに対して。

 私がしている事といえば……その真逆。

 

 

「今日こそは、私のウォーハンマーでケチャワチャくらい…………ぃゃ、オルタロスくらい……倒……せたら、良いなぁ?」

 どんどん自信を消失していくヤヨイ。

 

 彼女はハンマーを使うハンター。一緒に狩場に出た事はないんだけど、普段から朝のトレーニングやこうやって狩りの前のリフレッシュというのも欠かさない一生懸命な人だ。

 私と違ってちゃんとハンターを出来ると思うし、努力家で真面目で、何よりスタイルが良い。

 

 きっと将来はバルバレを代表する美少女ハンターになってると思う。

 

 

「……羨ましい」

 そんな言葉を落としながら、私は顔も半分お湯に浸ける。

 何を食べたらそうなるのか。

 

 

「え、え? ん? そういえば、ミズキはなんでお風呂に?」

「アランとの朝の稽古の汗を流すって理由もあるけど……。一番はムツキが臭いって言うから、かな」

「え? 臭い?」

 あのババコンガの放屁の臭いが、まだ取れてないんです。

 

 アレから一週間は経ったから、人の嗅覚じゃ感じられない程度にはなったんだけど。

 メラルーであるムツキは臭いに敏感らしくて、まだ臭うみたいなんだよね。

 

 

 だから、私はこうして偶に時間を見付けてはお風呂に入ります。

 まだ臭うのかなぁ……。

 

「ムツキって、ミズキの部屋に居るメラルーさん?」

「うん、私のお兄さん」

「んぇ? お兄さん? お兄さんは、あの銀髪のイケメンの人じゃなくて?」

「アランはお兄さんじゃないよ?」

 そう答えると、ヤヨイは眼を丸くして私の両肩を掴んだ。ぇ、何。

 

 

「か、彼氏さんなの?! あの人、ミズキの彼氏さんだったの?!」

「え? 違うけど」

「えぇ?! じゃぁ、何なの?!」

 アランが私の何……かと聞かれれば。そういえばどう答えて良いか分からない。

 

 

 旅の仲間? いや、旅をしてる訳じゃないし私が勝手に着いて来ただけだし。

 

 師匠? いや、アランは色々教えてくれるけど弟子入りした覚えはない。

 ババコンガの一件以来毎朝稽古は付けてくれてるけど。

 

 

 ならば、アランは私の何なのか。

 

 考えると分からなくなって来てしまった。

 

 

「わ、分からない」

「ミズキ……あの人に嫌な事されたりしてない? 大丈夫?」

「???」

 なんで、ヤヨイは心配してるのだろうか。

 

 

 アランは良い人だよ。うん。

 

 

「ミズキが良いなら……良いんだけど。何かあったら言ってね? 私達友達なんだから!」

 友達……っ!

 

「ぅ、うん! ありがとぅ、ヤヨイ!」

「ミズキ可愛い……」

 なんかヨダレ垂れてるけど大丈夫かな、ヤヨイ。

 

 

「そういえば、クエストは?」

「あ、そろそろ行かなくちゃ。私先に上がるね! それじゃ!」

 そう言うとヤヨイは急いで湯から出ては、私に身体を向けて手を振ってくれる。

 

 

 その後振り向いて、何処とは言わない立派な物を揺らしながら浴場を後にするヤヨイ。

 そんな彼女を見ながら、私は自分の胸元に手を当てた。

 

 

「本当に同い年なのかなぁ……」

 身体は温まるのに、心は何故だか冷たくなる。

 

 

 そんな、不思議な入浴でした。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 バルバレは物流が盛んな街だ。

 

 

 まだ日が昇りきっていないこの時間でも、外では商人やその客が声を張り上げる。

 この商品は幾らだ、これと交換してくれ、この値段で買わせてくれ。

 

 流れる物は食料品から鉱石、モンスターの素材まで様々。

 

 

 そんな商売が行われている地域を抜けると、大きな建物が目に映る。

 

 移動式集会所。

 バルバレが誇る街の中心たるこの集会所の端に、バルバレでは珍しい気球船が泊まっているのを確認した。

 

 

 手紙を送って一週間。やっとご到着という訳か。

 

 

 急ぎ足で集会所に向かうと、見慣れては居るが集会所で出会うのは初めての人物と眼が合った。

 

「よう! お前さんか。ガールフレンドはどうした?」

 ウェスタンハットの下に白髪を伸ばす初老。しかしまだ若さを感じる快活な口振りでそんな挨拶をして来たのは恩人、我らの団の団長だった。

 

 

「……ガールフレンドではありません」

「おっと、はっはっは! そうだったそうだった。それで、お前さん一人でどうした?」

「荷物が届いてるんじゃないかと思いまして。団長さんは?」

 俺は軽く質問に答えると、団長にも同じ質問を返す。

 

 

 ハンターではない団長がこの場に居るんだ。目的も同じだとは思うが。

 

 

「なら、お前さんと同じだ。気球船が来てたな? アレはタンジアギルドからの荷物船。タンジアの知り合いに荷物を送って貰ったから、アレに乗ってる筈なのさ」

 親指で建物の外にある気球船を指差しながら、そう言う団長。

 色々な所を旅しているとは聞いたが、まさかタンジアにまで知り合いが居るとは。

 

 

「そういや、お前さん達に言うのを忘れてたな。俺達は今日バルバレを発つ予定だ」

「……そうなんですか?」

 我らの団はキャラバン隊。そして団長には目的があると言っていた。

 

 ならば、ずっとバルバレに居る事はないと思っていたが。

 こんなに早くなるとは思っていなかった。

 

 

「あぁ! 我らの団のハンターも、中々腰が座ってきた所だ。仲間も集まった。だから、今度は船を作ろうと思ってな!」

「船……ですか?」

「おうよ! ナグリ村って所なら、それが出来るかもしれないらしくてな。俺達の船だ。完成したら、お前さんも一度見てやってくれ!」

 そう言いながら俺の肩を何度も叩く団長。この人は普通に力が強いのだから遠慮して貰いたい。

 

 

 しかし、船か。タンジアに向かったりしてくれるのなら、是非乗せてもらいたい物である。

 

 

「しかし……すみません。俺達はまだ団長に恩を返せていない」

「恩? 俺はお前さん達に恩を返させるような事はしてないさ。ただ、一緒に旅をしたかっただけだ! お前さん達を見てるのも楽しかった。俺が恩を返したいくらいだよ」

 この人は聖人か何かなのか。

 

 

「団長……。……いえ、でも……いつかかならずこの恩は返します。また会いましょう」

「あぁ、お前さん達が何処へ行こうが俺達はもう仲間だ。旅をしていればまた会える……そうだろう?」

 そう言うと、団長は拳を俺に向けてくる。

 

 俺はそれに無言で答えた。団長の堅い拳は大きく、暖かい。

 

 

「俺達は荷物を受け取ったら直ぐ発つ予定だ。お嬢ちゃんには、宜しく伝えといてくれよ!」

「はい、勿論です。本当に、ありがとうございました」

「おぅ。またな!」

 快活な笑顔で返事をしてくれた団長は、ギルドの受付へ振り向く。

 

 

 さて、俺も荷物を受け取るとしようか。

 

 

 

 定期的に、バルバレはこうやって気球船もやって来る事が多い。流石は全てが集う場所と言われている事はあるだろう。

 

 今回バルバレに到着したのはタンジアギルドからの気球船だ。

 都合良く事が運んでくれていれば、俺やミズキの防具とあいつからの手紙が来ている筈だが。

 

 

「えー、ソフィアさん。モガの村、アイシャさんからの手紙ですよ」

「お嬢への手紙か! それは俺が受け取っておこう」

 聞き覚えのある名前が差出人の手紙を受け取る団長。我らの団に、アイシャの知り合いが居たとは……。

 

 

 こうやって、荷物は名前を呼ばれて受け取る。

 自分の名前が呼ばれるのを待っていると、先に団長が呼ばれたらしく。

 

 荷物を受け取った団長は俺に手を振りながら、集会所を後にした。

 きっとまた会えるだろう。彼らの事はあの、我らの団に入ったハンターに任せるとしよう。

 

 

 

 ところで、だ。

 いつまで経っても自分の名前は呼ばれる事が無かった。

 

 怪訝に思いつつも待っていると、遂に荷物の受け取りが終わってしまう。

 

 

 都合が悪かったか。

 そう思って諦め、集会所を後にしようと振り向いた矢先。

 

 目の前に羽帽子が映った。

 

 

「はい、どもー、アランさん。お久しぶりです」

 目線の少し下。ベージュ色の帽子に半分隠された瞳で俺を見ながら、ソイツはそんな軽い挨拶をしてくる。

 

 

「ウェイン……? まさか、本人が来るとはな」

「意外でしたか?」

 そう言いながら、辺りを確認する一人の黒髪の青年。

 

 青年というには若い童顔の下に着るのは、帽子と同じ色をしたコートだ。

 それはギルドナイトと呼ばれるギルド直属のハンターが着る制服のような物で、ギルドナイトスーツと呼ばれている。

 

 

 そんなスーツを着崩して着用する彼を、周りの人間は気に掛けて居る様子だった。

 

 それもそうだ。

 ギルドナイトはギルド直属のハンター。噂では対ハンター用ハンターとまで言われている。

 そんな人物が目の前に現れれば、警戒や興味といった感情が何かしら湧く物だろう。

 

 

 

「タンジアのギルドナイトであるお前が、態々バルバレまで来るとは思ってなかったからな」

「いやいや、アランさんの為なら例え火山だろうが砂漠だろうが」

 目の前の男は全くそんな事を思っていなそうな表情で、頭から帽子を取りながらそう言った。

 

 

「思ってもいない事を……」

「そんなことないですよ。まぁ、今回は積もる話があったのとタイミングが良くて足を運んだ訳ですが。その積もる話がですね……ここじゃ大声で話せない事もあるので。良い場所知りませんか?」

 男は饒舌にそう語ると、質問の回答を待った。

 

 積もる話、か。

 

 

 一週間程前、俺はこの男に手紙を出した。丁度ミズキがババコンガの放屁に晒された日の事だったか。

 

 その内容は三つ。

 一つは突如狂った様に暴れ出したアルセルタスの事について、ギルドナイトだから何か知っているかと問いた内容

 もう一つはリーゲルさんの行方。彼が無事なら、俺達の防具を送っても欲しかったし単純に彼の安否が心配だった。

 最後にカルラの事だ。ギルドナイトになっていたアイツの詳細。ギルドナイトの事はギルドナイトに聞いた方が良いだろう。

 

 

「今住んでる貸家の近くに物凄く高くて滅多に客が居ない酒場がある」

「それ、僕が持つんですよね?」

「そうだな」

「ったく、アランさんと居ると赤字ですよ。まぁ、貸家の近くだっていうなら蒼火竜砲の事も見に行けますし丁度良いです。僕が出しましょう。案内よろしくお願いします」

 彼に言われるまま、俺は集会所を後にする。

 

 

 ギルドナイトが後ろから付いて来るなんて光景は、バルバレでは珍しかったのか道行く人々が視線を彼に移した。

 

 

 ベージュのギルドナイトスーツ。

 それを着崩して飄々と歩くコイツの名はウェイン・シルヴェスタ。

 

 タンジアギルドのギルドナイトの一人であるが、俺との関係は武器商人と客。

 俺の持つライトボウガン蒼火竜砲【三日月】はウェインの母が経営していた武器屋の特注品で、コイツしか整備が出来ない物だ。

 

 

 七年の腐れ縁になるが、ウェインがギルドナイトになったのはつい最近の事。

 その特権を、俺は度々利用させて貰っている。

 

 

 

「さーて、何から話した物か。あー、やっぱり錆びてるし。弾薬庫汚いし。あーもー、これだから杜撰な人は」

 貸家に寄って。何故か胸元を触りながら考え事をしていたミズキを無視し、樽を磨いていたムツキには出掛けると声を掛けた。

 貸家のボックスに置いてあった俺のライトボウガンを持って、ウェインを待たせていた酒場に立ち寄る。

 

 

「どうせまた無茶な使い方をしたんでしょうに。ノズル溶けてるし。あー、もう、一度バラさないとダメですねコレ。お金取っても良いですか?」

「……なら要らん」

「……分かりましたタダでやります。どうか使ってやって下さい」

 勿論、要らないなんて事はない。この武器はアイツの形見なんだから。

 

 

 そう思って、俺は癖で胸元を握り締めた。

 しかし、手は空気を掴むだけで何にも触れられない。

 

 そういや、アレはミズキにやったんだったか。

 

 

「……あれ? ペンダントは?」

「知り合いにやった」

「ミズキちゃんにですか?」

 ん?

 

 なぜ、ウェインがミズキを知っている。

 

 

「なぜお前が知っている、っていう顔をしてますね。いや、リーゲル氏の安否を調べろと言ったのはアランさんじゃないですか。あ、蒼火竜砲は一日預かりますね」

 そう言うとウェインは、ライトボウガンを風呂敷に包んでから水を一口飲む。

 そうして、水が減ったグラスを揺らしながらこう続けた。

 

 

「結論だけを言うと、リーゲル氏の生存は確認出来ました」

 そうして出た言葉は、そんな曖昧な台詞。

 

「どういう事だ?」

「直接は会えなかったんですよ。彼はタンジアには帰って来なかった。その代わり、彼からタンジアに手紙が届いたんです。……船がモンスターに襲われてタンジアとは別の場所に行く事になった。アランさんとミズキちゃんの荷物をバルバレって所に預けたから取りに来てくれってね」

 バルバレって……ここだと?!

 

 

「なんというすれ違い。それで、さっきバルバレからタンジアへの荷物を確認してみたら見事にリーゲル氏の名前で荷物がありましたね。事情を話して荷物はちゃんとアランさんの貸家に届けて貰えるようにしておきましたけど」

「まさか探していた荷物がずっと近くにあったなんてな……。それで、リーゲルさんのその後は?」

「手紙にはそれ以上の事は書かれていませんでした。まぁ、無事なのは確かでしょう」

 なら、良いが。

 

 

 彼にはまだ聞きたい事が幾つかあった。

 

 また、会えるだろか。

 

 

「カルラというギルドナイトに着いては、申し訳ありませんが調査が足りませんでした。少なくともタンジアギルドにはその名前の人物は存在しません」

「……そうか」

 と、なると他の街のギルドナイトという事か……?

 

 あいつは今、どこで何をやっているのだろうか。

 

 

 

「さーて。ここから先が、大声では言えない事ですね」

 そして、ウェインは再び羽帽子を深く頭に乗せると少しだけ間を空けてから口を開いた。

 

「アランさんの言っていた、モンスターが狂った様に暴れ出す現象は他にも確認されています」

「……そうなのか?」

 アレが……他にも?

 

 

「暴れる他にも、体液が黒くなったり焦点の合わない瞳が不気味に光ったり。……時には死んだ様に動かなくなった後、復活したとか」

 それは、いつかバルバレの集会所の受付嬢が言っていた噂に酷似していた。

 あの時は酔っ払いの戯言だと思っていたが。まさか事実だったとは。

 

 

「この件、ギルドは裏で既に動いています。まずこの状態になったモンスターを狂竜化モンスターと命名しました」

 狂った竜、で狂竜か。案外的を得ているかもしれない。

 

 

「そして、その狂竜化モンスターからウイルスらしき物を最近検出した様です。しかし、モンスターが狂竜化する理由は未だに不明」

 肝心な所は分からず、か。

 

「狂竜化はこのバルバレを中心に世界各地に広がりつつあります。対峙した狩人へのウイルスの感染も確認されていて、ギルドは今全力を尽くして原因究明に当たっている所です」

「人に感染する……?」

 ふと、アルセルタスの時を思い出す。

 

 

 アルセルタスが身体中から出していたあの黒い靄を、ミズキも身体から出していた。

 アレが、ウイルスの感染だというのだろうか?

 

「人への影響は……? 人も感染すれば、モンスターのように狂うのか?」

「いえ、人間は感染しても理性を失ったりはしないようです。ただ、免疫力と筋力の低下により著しく体力を奪われるようになる。……なぜか、人は直ぐに完治するようですが」

「……そ、そうか」

 だが、ミズキに現れた表情はまた違った気がした。

 人によるのだろうか……?

 

 

「と、まぁ。実際この狂竜化とそれを発症させる狂竜ウイルスに関しては分からない事の方が現状多い。たーだ、それに関係しているかは分かりませんが……狂竜化が確認されだしたここ最近になって、このバルバレ付近で未知のモンスターが二種確認され出しました」

「未知の? ギルドが把握していないモンスターという事か?」

「はい……一匹は」

 声を低くしてそう言うウェイン。

 

 

 何故か俺を横目で見てから、彼はこう続ける。

 

 

「……一匹は、僕達が血眼になって探してる怒隻慧(どせきけい)です」

「…………は?」

 今……なんて言った?

 

「聞き違いじゃありませんよ。ただ、間違いの可能性もありますが」

「……どういう事だ。詳しく説明しろ」

 俺の大切な物を全て奪ったあのモンスターが、バルバレ付近に居る……?

 

 

 そんな事は有り得ない。

 

 

 アイツはタンジア付近に生息していた筈だ。

 

 

「四年前、ヨゾラさんを殺した怒隻慧はその後姿を眩ませた。四年間、ずっと探していたのに見付からなかったのはなぜか……? そもそも探す場所が間違っていたのかもしれない。奴には大陸を超える力があったという、可能性」

「イビルジョーが海を泳いだってのか?」

 そんなバカな事があってたまるか。

 

「アレが規格外なのはアランさんだって知っているでしょう。それに、半身だけが怒り喰らうイビルジョーになっているイビルジョーなんて誰が見間違うのか。……既に小さな村が一つ消えています。討伐に向かったハンター四人の内三人が死亡し、一人は両足と片手を失いました。その生き残った一人はこう言っていたようです。体の半分はイビルジョー、もう半分は───悪魔だった……ってね」

 その特徴は、俺が探し続けていた怒隻慧の特徴その物だった。

 

 

 本当に、大陸を渡る能力があるとでも言うのか……?

 

 

「まぁ、他のイビルジョーが怒隻慧と同じ状態に陥ったという可能性も捨てがたいですが……。そこら辺は今日僕と来た姉さんがもう調査に乗り出していると思います」

「あの人も来ているのか……?」

「それだけ重要案件って事ですよ。このバルバレを取り巻く環境がね」

 そこまで言ってから、ウェインは残っていた水を飲み干して店主に変えを要求する。

 少しの沈黙の後、店主が水の変えを持って来てウェインはそれを半分飲んでからまた口を開いた。

 

 

「もう一匹は全くの未知のモンスターです。ギルドにデータが無かった、新種のね」

「……新種?」

「目撃情報が曖昧なんで、確りと断定は出来ませんが。……四肢に一対の翼があり、体色は黒、眼球が確認されないというのがそのモンスターと対峙して生き残ったハンターの証言でした」

 特徴を聞けば、古龍の種に同じ様な特徴を持ったモンスターを思い出す。

 だが、俺の知っているモンスターにウェインが言った特徴を全て持つモンスターは居な———いや、待てよ?

 

 

「まさか……あの時船を襲ったモンスターなのか?」

「……ぇ、対峙した事あるんですか?」

「リーゲルさんの船の上でな。対峙した瞬間に海にミズキが突き落とされて、俺はそれを助ける為に飛び込んで……それきりだが」

「と、なるとリーゲル氏の手紙にあったモンスターがゴア・マガラ……」

「ゴア・マガラ……?」

 それが、あのモンスターの名前なのか。

 

「あ、その新種の名前です。とある伝承に伝わるモンスターに似ている事から名付けられたとか何とか。……今は筆頭ハンターという方々が調査に乗り出している所らしいですね。しかし面白い情報が手に入りました。リーゲル氏はゴア・マガラと海上で対峙して生存している……詳しく話を聞きたいですねぇ」

「仕事熱心だな」

「一応ギルドナイトですからね。本業ではありませんが、怒隻慧が関わっているかも知れない以上……僕も動くしかない」

 お前の本業は……。

 

 

「今、バルバレを中心に異常な事が起きつつあります。狂竜化、ゴア・マガラ、そしてこの大陸での怒隻慧の出現……何が何処まで関係しているのかは不明ですが。……さて、アランさん。実はギルドナイトの特権を使えば今すぐにでもアランさんをタンジアへ送る事が出来るんですが、ここは一つ僕に使われてくれませんかね?」

「ゴア・マガラと怒隻慧の調査か……?」

 それをするなら、ミズキには悪いがあいつだけでもモガに返すしかないかもしれない。

 

 

 どっちのモンスターも、甘い考えでは殺されるだけだ。

 

 

「ご名答。……まぁ、ところがギッチョン。僕もそう大して大きな情報を持ってないので、アランさんにはバルバレに待機していて欲しいのですが」

「この地方に怒隻慧が居るなら、タンジアに戻る理由もない」

 アイツは……俺が殺す。

 

「わー、なんて心強い。では、宜しくお願いしますよ? 僕は明日、蒼火竜砲をアランさんに届けたら帰るんで。後は姉さんと宜しくやって下さい」

「何……」

 あの人と……一緒に行動しろと?

 

「そんな露骨に嫌がるとあの人喜びますよ」

「…………」

 やはり帰ろうか。

 

「大丈夫大丈夫、あの人も多忙ですからずっと近くには居ないでしょう。必要となったら呼び付けられるだけでね」

「まぁ……悪いのは俺だからな」

「ヨゾラさんの件で悪いのはアランさんだけじゃないですよ……」

 そう言うとウェインは席を立って、店主に席代を支払う。

 

 

 そして歩きならが帽子の位置を直して、こう口を開いた。

 

「……僕はハンターとしては駆け出し以下です。この件に関して協力出来るのは、申し訳ありませんが情報だけ。……後は、任せますよ」

「何言ってる」

「……はい?」

 俺も立ち上がり、ウェインの背後についてその低い頭に平手打ちをくれてやる。

 

「ちょー、何するんです」

「お前の武器が無ければ俺は戦えない。ソレの事は頼んだぞ」

「…………へいへい。ゼロゼニーになりますよっと」

 そう言うと、ウェインは一足先に店を出て行った。

 

 

 さて、ライトボウガンの事はウェインに任せれば問題無いだろう。

 

 俺は、明日からの身の振り方を考える必要があるか……。

 

 

 

 

「ミズキとはもう居られないかも知れないな……」

 あいつと居て、俺が進めなかった道を行くあいつを見ているのが俺は心地が良かった。

 

 ……それも、もう終わりかも知れないな。




も、モンスターが出ずに一話終わってしまった……。
けど、この物語的には重要な回になっております。


新キャラを二人も出して、次のお話でも新キャラが出るんですが……うーんペースが早すぎるかな。

一応簡単な説明をここに。


ヤヨイ・ハルノ
ミズキ達が住む貸家の隣人。綺麗な黒い髪が特徴。
スタイル抜群でミズキとは同い年(15)。
ハンターを目指し出したのは最近で、遠く離れたとある村からやって来たらしい。使用する武器はハンマー。

モンハンを好きな方は彼女の故郷がどこか分かる筈ですね←


ウェイン・シルヴェスタ
アランの旧友でタンジアギルドのギルドナイト。スーツの色はベージュで髪の色は黒。
アランとの関係はアランのライトボウガンを作った加工屋の店主が彼の母親であり、今現在そのライトボウガンの説明を理解しているのが彼という事。

私の書いている『とあるギルドナイトの陳謝』という作品にも登場するキャラクターです(露骨な宣伝)。


と、長くなりましたが今回はこの辺で(`・ω・´)
次回もお会い出来ると嬉しいです。

感想評価等お待ちしておりますよl壁lω・`)

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