モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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捕食者とこの島の王

「ウォォゥ……」

 足に力を入れては、身体を支えきれなくて地面に崩れ落ちる一匹のアプトノス。

 

 

「私の力になろうとしてくれてるんだよね……?」

 私は彼女の頭を撫でながら、そう言う。

 

 さっきイビルジョーに攻撃された農場のアプトノス、ジェニーとはずっと友達だったから。

 あなたは私の心配をしてくれるんだよね。でもね、大丈夫。

 

 

「あなたは後でムツキが手当てしてくれるから、そこで待っててね。私は大丈夫……他のアプトノスに協力して貰うから」

 アランはイビルジョーをバリケードの外に出す作戦を頼んでから、ジャギィ達と戦っているイビルジョーの下に行ってしまった。

 

 数ではジャギィ達が多いし、アランも居てきっとイビルジョーは倒せると思う。

 でも、イビルジョーが村の方まで逃げたり暴れたりしたら村が無くなってしまう。

 

 

 だから、私はバリケードの門に走った。

 

 手動式の門は、ロープを引っ張って開ける物。

 辺りには運が良いのか悪いのか、アプトノスの姿が無い。

 

 

「一匹……ここに連れて来ないといけないんだよね」

 ここ一週間、野生のアプトノスをこのバリケードの中に入れた時は臆病なアプトノスを追いやる感じで門を潜らせたんだよね。

 その時は村の人に門を開けて貰ったから私は剣を持ってアプトノスを追い掛けるだけだった。

 

 ただ、今回は違う。

 アプトノスをここに連れてきて、門を私が開けて、アプトノスをそこに留めておかないといけない。

 

 

 アプトノスに、私の言葉は通じない。

 

 捕食者を見たらアプトノスは何処かに逃げてしまうと思う。

 辺りにアプトノスが居ないのも、ここから目に見える所にイビルジョーが居るからだろうし……。

 

 

 

「どうしたら……」

 

 やらせて欲しい。そんな事を私は言ったのに、全く良い案なんてなかった。

 アランは出来るなんて言っていたけど、私はアプトノスの生態なんてそんなに知らないし、それを生かせる頭脳もない。

 

 

「どうしたら良いか……分からないよ」

 

 

 もしも、気の知れたジェニーだったらいう事を聞いてくれたかも知れないけど。

 

 人と竜は相容れない。

 アプトノスだって、モンスター。

 

 

 私達は分かり合えない。

 

 

 

「───そんな事、ない」

 

 

 ロアルドロスは私達を無害だと認めてくれた。

 

 

 ジャギィ達は私達にボスを委ねてくれた。

 

 

 リオレウスは私達の行動を学んでくれた。

 

 

 

 ダイミョウサザミさんと私は───友達になれた。

 

 

 

 私は、気が付いたら走っていた。

 理屈は分からない。どうしたらどうなるとか、私は分からない。

 

 私は気持ちを伝える事しか出来ない。

 

 だから、それをする。

 

 

 

「アプトノスさん!」

 少し走って、木々の陰で座っているアプトノスを見付けて話し掛ける。

 

 この言葉が通じてるかなんて分からない。

 それでも、この気持ちを伝えないといけないと思って息を吐いた。

 

 

「お願い、力を貸して欲しいの。あのイビルジョーをあそこの門から外に出したい」

「ウォォゥ」

 私の言葉に、声に、音には反応して首を上げるアプトノス。

 

 この子には、メリットの無い話だと思う。

 力を貸したって、この子が危険な目に会うだけ。

 

 

「あなたをここに無理矢理連れて来たのに……本当に勝手でごめんなさい」

 アランに掛けてもらったペンダントを握りながら、私は話し掛ける。

 

「私の勝手だって、私の我が儘だって……分かってる。でも、力を貸して欲しいの…………お願い」

「ウォォゥ」

 私からそっぽを向けて、地面の草を食べ始めるアプトノス。

 

 

 

 そう……だよね。

 

 人と竜は───

 

 

「ウォォゥ!」

「───ふぇ?!」

 かと、思ったら。アプトノスに首根っこの防具を掴まれて持ち上げられた。

 襲われてるのかと思ったけど、私はそのままアプトノスの背中に乗せられる。

 

 

 ど、どういう事……?

 

 

「あ、アプトノスさん……?」

 私……モンスターに乗ってる?!

 

「ウォォゥ……っ」

「協力して……くれるの? だって、あなたには何───ぅぁっ」

 私が言おうとする前にアプトノスは走り出す。

 

 辿り着いた場所は、バリケードの門。

 

 

「アプトノス……さん?」

「ウォォゥ」

 私が降りても、アプトノスさんはその場に立って動かない。

 

 真っ直ぐに私を映すその瞳は、早くしろとでも言っているよう。

 

 

「手伝って…………くれるの?」

「ウォォゥ」

 こんな……事って。

 

 こんな…………素敵な事って。

 

 

「……っ」

 感心してる、場合じゃないよね。

 本当は、もっともっとお話したい。仲良くなりたい。

 

「あなたは私が守るから……力を貸してね」

 そうとだけ言って、私は門を開ける為のロープを引っ張る。

 

 

 よいしょっと、ふいしょっと…………あれ?

 

 

「んんんんん……っ!」

 ろ、ロープが動かない……。

 

 重い。私、力無さ過ぎ……っ?!

 

 

「私……こんな事すら出来ないなんて……」

 か、考えて。バカだって分かってるけどこんな時くらい考えて……っ!

 

「ウォォゥ」

「アプトノスさ───わ……っ!」

 鳴き声に振り向けば、アプトノスさんがロープを噛んでいてそのまま引っ張ってくれる。

 そのままロープを固定木に繋げば、その間は門は開いたまま。

 

 

 これで後は、イビルジョーをこの門の外に追い出すだけ。

 その為にアプトノスさんは門の外側にいて貰う。ここから先はあなたの世界。

 

 私を置いて逃げたって、誰も文句は言わない。

 

 

 

「ウォォゥ」

 私の身体に、頭を擦り付けてくるアプトノスさん。

 私のしようとしてる事……分かってるのかな?

 

 なんで、いう事を聞いてくれるのかな……。

 

 

 

 とっても不思議な体験。とっても不思議な感覚。

 この子は野生のアプトノス。それなのに、まるで私の心が伝わったかのよう。

 

 

「後は……アランがイビルジョーを近くにおびき寄せるから。私達はイビルジョーを引き連れて外に出なきゃね」

「ウォォゥ」

 力を貸して下さい。

 

 

「あなたは、私が守るから」

 そう言ってから、私はアランに準備が出来たら使うように言われた打ち上げタル爆弾を使用した。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 合図の爆発。

 モンスター達の声にかき消されそうな音だが、俺はそれを聞き逃さなかった。

 

 

 ミズキ……本当にやり遂げるとはな。

 

 

 後は、俺の仕事だ。

 

 

 

「ジャギィは……」

 後は、どうやってイビルジョーを門に向かわせてアプトノスを狙わせるか。

 

 ジャギィ達に囲まれたイビルジョーは、小柄で俊敏なジャギィ達に狙いが定まらずに押されている。

 だが、それもコイツがあのままの状態でいる間だけだ。

 

 

 アイツが本気を出せば、ジャギィ達が幾ら束になって掛かろうが形勢はひっくり返る。

 そうなれば俺が何をしようがアイツの気紛れで村やバリケード内の生き物を巻き込んで暴れるだろう。

 

 例え倒せたとしても、俺にそれを止めるまでの力は無い。

 

 

 

 だから、今やるしかない。

 今押しているこの時に、奴をバリケードから追い出す。

 

 その為には───

 

 

「お前の群れの力を貸して貰う……」

 ボウガンを構えて、俺は門の方向に走る。

 

 イビルジョーは纏わり付くジャギィから距離を置こうと足を動かしているが、四方から囲まれて動けない状況。

 なら、その包囲網に穴を開ければイビルジョーは自然とその穴を突破してくる筈だ。

 

 

 門の方向を背に、イビルジョーの側面に通常弾を打ち込む。

 かなり遠くから何発も、打ち切ってはリロードしてその横腹に弾丸を叩き込んだ。

 

「クォゥッ」

「ウォゥッ」

「グゥッ」

「ウォォオオゥッ!」

 ジャギィにとっては、仲間ではない俺からの攻撃は不安要素でしかないだろう。

 誤射だろうが背後から撃たれたらたまらないと、イビルジョーを囲う包囲網に穴が空いた。

 

 

 ドスジャギィからすれば面白くない話かも知れないが、悪いがここでは戦っていられないんだ。

 

 

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

 隙を見付けたイビルジョーは、俺が作った穴を抜けて向かってくる。

 

「あぁ……そうだ。こっちに来い!」

 それを確認してから、俺は武器をしまって走った。

 

 

 俺に狙いを定めたのか、追いかけてくるイビルジョー。

 

 それを追うジャギィ達。

 

 

 全部引き連れて、ミズキが待つ門に走る。

 

 直ぐに彼女は視界に入った。この距離ならイビルジョーに抜かれる事もないだろう。

 門は開閉済み、ミズキは良くやった。

 

 

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

 美味そうなアプトノスを見付けたからか。イビルジョーは俺から視線を門の方へとズラす。

 

 コイツを門の外へ出してしまえば、後はミズキには逃げて貰えば良い。

 だから、此処だけは頑張ってくれ。

 

 

 俺が必ず守───

 

 

「───な……っ!」

 俺が武器に手を伸ばした、その瞬間だった。

 

「グォォォラァァァアアアアッ!!!」

 イビルジョーは急に加速し、俺の真横に並んだかと思えば次の瞬間には抜き去って行く。

 その巨体でそこまで走れるのかコイツは……っ!

 

 

「させるか……っ!!」

 約束したからな。アプトノスもミズキも、俺が守ると。

 

 

「……っ。き、来たぁ?! あ、アプトノスさんは私が守るから……っ!!」

「ウォォゥッ」

「グォァァァッ!!」

 イビルジョーは門を抜ける。急停止し、目の前に立っていたアプトノスに狙いを定めたのだろう。

 

 

 その大顎が開き、振り下ろすのはイビルジョーにとって簡単な話だ。

 目の前の生き物を喰う。その為に生きている、生きる為にそうするだけ。

 

 

「……っ。アプトノスさん……っ!」

 震えながらアプトノスの前に立つ彼女を見ては、似ても似つかない誰かが脳裏に浮かび上がった。

 

 その小さな身体に襲いかかろうとするイビルジョー。

 

 

 このままでは間に合わない。

 

 

「グォゥッ!」

「悪いが力を借りるぞ、ドスジャギィ!」

 人間の俺より早く走れるドスジャギィが、俺の真横を通り過ぎる。

 その瞬間、俺はドスジャギィの首に腕を回してその身体にしがみ付いた。

 

 加速する身体。振り落とされないように、速度を上げるドスジャギィの背中にしっかりと肩を掛ける。

 人の足では到底ありえない速度で、俺達はイビルジョーに近付いていた。

 

 

 通常弾を放ちながら、片手剣を抜く。

 

 イビルジョーまで五メートル。

 

 

 その大顎が開き、振り下ろされた。

 

 

「グォァァァッ!」

「……っ」

「はぁぁぁぁ……っ!!」

 間に合わせる。ドスジャギィの腹を踏み場にして跳躍し、背面にボウガンを射った反動で加速。

 ミズキとの距離一メートルに迫るソイツの頭に、跳びながら片手剣を叩き付けた。

 

 

「グルォォォア?!」

 勢いの乗った剣撃、そしてドスジャギィのタックルでその巨体は遂に横に倒れる。

 だが、それだけでイビルジョーは朽ちはしないだろう。

 

 それでも、奴をバリケードの外に出す事は出来た。

 

 

「あ、アラン……っ。怖かった…………あ、ありがとね!」

「ウモォォゥ」

「何とか……なったか。ドスジャギィのおかげだな」

「ドスジャギィの?」

 ドスジャギィが居なかったら……。……考えるのは野暮か。

 

 

「ミズキ、良くやった。後は門を閉めて中で待ってろ」

 ジャギィ達が出て来たのを確認してから、俺はミズキにそう言う。

 

 その間にもイビルジョーは体勢を立ち直し、しかし周りを囲むジャギィ達には見向きもしていなかった。

 その眼光は真っ直ぐと……ドスジャギィと俺を睨み付けているようにも見える。

 

 

 お前は何を見ている。

 

 

 門が閉まる音がした。

 

 

 これなら、お前が本気を出そうと何も考えずに戦うだけだ。

 

 

 

「…………来い、殺してや───」

「ねぇ、アラン」

 は?

 

 居る筈のない。そんな彼女の声が聞こえた。

 

 

「私はどうしたら良いかな?」

 短い金髪。蒼色の純粋な瞳は俺にそう問いかけてくる。

 

 アオアシラの素材を使った防具はボロボロで、それでもダイミョウサザミの素材を使った武器を構えて、彼女は俺の背後に立っていた。

 

 

「門の中で待っていろと言っただろ……っ!!」

「……っ、ぁ、ぇと…………で、でも!! 私は……この村のハンターだし。…………ちゃんとアプトノスさんはバリケードの中に避難させたよ?」

 お前が避難しろ……。

 

 

「まぁ、アレニャ。ミズキは言い出したら聞かないニャ……」

「お前、こいつの事が大切なんだろ……? なら早く連れ帰れ」

 何故か隣にムツキまで居るから、俺はそう言って念を押す。

 お前だってミズキが危険な目に会うのは嫌だろ。

 

 

「出来たらそうしてるニャ……。ボクだって本当はあんな化け物の近くに居るなんてごめんニャ……」

「だったら……っ!」

「でも、ミズキの守りたい物はボクが守りたい物でもあるニャ。それにこんなバカな妹、ボクが居てあげなきゃ……ニャ?」

 そう言うネコは、ポーチから砥石を二つ取り出して俺とミズキに渡してからこう続ける。

 

 

「剣磨けニャ。サポートなら、ボクにお任せ」

「絶対に───」

「「?」」

 こいつら……本当に村の事が大切なんだな。いや、俺や島の生き物の事も大切なんだろう。

 

 

 本当に、甘い奴だ。

 

 

「───絶対に死ぬな」

「うん!」

「うニャ!」

 

 

 

「グォォォオオオラァァァァォアアアアアアッ!!!」

 これまでで、一番大きな咆哮を上げるイビルジョー。

 

 それと同時に、奴の姿は変貌する。

 興奮状態になり膨れ上がった血管が浮き出て、全身の筋肉が赤く膨れ上がった。

 ミズキやジャギィ達が着けた傷、さらに過去に負った傷までもがその影響で開き、体液を滲ませる。

 

 

 

「……っ、何?! 怒ってるの……?」

「……そうだな」

 懸念していた、バリケードの中で奴がこの状態になる事だけは避ける事が出来た。

 

 ここからが奴の本気。こうなった奴を止めるのは容易ではない。

 その証拠に周りを囲むジャギィ達を無視して、イビルジョーはその大顎を大きく持ち上げる。

 

 

 狙いは数メートル離れた俺かドスジャギィか。

 

 ならば───

 

 

「───ブレスか……っ!」

「わっ?!」

「ニャ?!」

「グルォゥッ! ウォゥッウォゥッ!!」

 二人を抱えて、後ろに跳ぶ。何かを察知したのかドスジャギィもイビルジョーから距離を取って、群れに知らせるように鳴いた。

 

 だが……それは遅い。

 

 

 次の瞬間、イビルジョーは何もない空間へとその大顎を下す。それと同時に口外へ放たれる赤黒いエネルギー。

 それは火でも、雷でもない。

 

 イビルジョーは自らの首を振り、赤黒い煙のような何かで前方を薙ぎ払う。

 

 

 数匹のジャギィはドスジャギィの命令で射線から離れていたようだが、二匹がそのエネルギーに巻き込まれる姿が眼に映った。

 

 赤黒いソレに振れた瞬間、身体の中から弾けるように身体を四散させるジャギィ二匹。

 それを見てミズキは身体を強張らせた。あの時、間に合わなかったら彼女も同じ目にあっていたかもしれないからだろう。

 

 

「な、なんなんニャあれは!」

「龍属性エネルギーのブレスだ」

「りゅう……属性?」

「他の属性を喰う程のエネルギーで、当たると身体中の力を喰われてあのジャギィみたいになる」

 ジャギィ自体龍属性には強い耐性があるが、イビルジョーのブレスにはその耐性以上の力があって耐え切れなくなった身体が四散したんだろう。

 

 

「あ、アラン……助けてくれてありがとう」

「絶対にアレには当たるな」

 念を押してから、立ち上がる。

 

 ボウガンに徹甲榴弾を装填。片手剣に会心の刃薬を塗り、ミズキにも刃薬を渡した。

 

 

「ウオァッゥ! ウオァッゥ! グルォォゥッ!!」

 仲間を葬られた怒りからか。地面を蹴り、ドスジャギィは息を荒げる。

 こちらも準備は万端。後はイビルジョーがどう動くかだ。

 

 

 ……焦るな。…………だが、確実に殺せ。

 

 

「グルォォァァァアアア!!!」

 大技に期待した結果が出なかったからか、それとも関係なしにただの怒りからか。

 大きな咆哮は空気を揺らして、木々をしならせる。

 

 無造作に振られた尻尾が地面を抉った。

 それが合図だったかのように、ドスジャギィの鳴き声と共にジャギィ達は再びイビルジョーを囲い始める。

 

 

「ウォィッ!」

「ウォゥッ!」

 周りから囲み、数で攻めるのがジャギィ達の戦い方だ。その牙で、その爪で、飛び掛かってイビルジョーに攻撃を───

 

「グラァァッ!」

 ───攻撃を仕掛けようとした飛び掛かるジャギィを、イビルジョーは一匹その大顎で嚙み砕く。

 つい先程まではジャギィの俊敏さに反応出来ていなかったイビルジョーだが、ここに来て反応速度も上がったらしい。

 

 膨れ上がった筋肉が、あの巨体の俊敏さを支えているのか。

 

 

「ギャィァッ?!」

「ギャィ?!」

 一匹、二匹と、イビルジョーは自らの周りを囲むジャギィ達を嚙み砕き飲み込んでいく。

 お前達はそうやって、いつもいつも喰らう。それしか知らないかのように、化け物が……っ!!

 

 

「ギィァッ?!」

「……っ」

 またもその大顎に噛み付かれたジャギィの頭に、俺は徹甲榴弾を打ち込んだ。

 絶命し、これ以上苦しむ事はないジャギィの脳天に刺さった弾丸はその身体を飲み込もうとするイビルジョーの口内で炸裂する。

 

 

「グラァァォォァッ?!」

「ウオァッゥ!!」

 怯んだ隙を見て、速度を活かしたタックルをイビルジョーに仕掛けるドスジャギィ。

 それに続くジャギィ達がイビルジョーに飛び掛かる。

 

「す、凄い……」

「本当にモンスター同士で戦ってるニャ。しかも押してる? 勝てるニャ?」

 そうかもな。

 

 

 見た目だけは、押している様に見える。

 

 

「ミズキ、まずはあいつの動きを掴め」

 俺はそう言ってから、ボウガンに弾をリロードして背負い直す。

 

 ジャギィ達は畳み掛けるなら今だと思っているのだろう。だから、ドスジャギィも前に出た。

 だが、このままではジャギィ達はおろかドスジャギィも殺られる。

 

 

 確かに、ドスジャギィ達との共闘で戦況はこちらに理があると言って間違いはない。

 だが、だからこそ形成が一気に傾くのだけは避けなければならない。

 

 

「とりあえずミズキは木陰で待機だ。ムツキも、状況を見極めろ良いな?」

「う、うん!」

「ガッテンニャ!」

 二人に言い聞かせて、俺は走る。

 

 

「ウォゥッ」

「ウゥッ」

「クォゥッ」

 

「グラァァッ!」

 一斉攻撃に、傷を増やしながら立ち止まるイビルジョー。

 

 これまでより暴れ回らないその姿は、まるで弱っているかのようにも見える。だが、違うな。

 

 

「ウオァッゥ!!」

 ドスジャギィのタックル。厳しい環境で鍛え上げやられたジャギィ達のボスの力が、今イビルジョーに叩き付けられる寸前。

 イビルジョーは突然大顎を上げて、振り下ろす。狙いはドスジャギィ。

 

 やはり、大物を釣り上げるためにジャギィ達を無視したか。

 

 

 アイツの子供というだけはあるのかもしれないな。

 

 

 ───だが、そうはさせない。

 

 

「ウオァ?!」

「はぁぁぁぁっ!!」

 ドスジャギィとイビルジョーの間に入り、片手剣を抜く。

 

 勿論、無策でそんな事をすればドスジャギィの代わりに俺がこいつの餌になるだけだ。

 だが悪いな、俺はそこまで甘くない。

 

 

 突進しようとしていたドスジャギィの横腹を踏み台にして、跳び上がる。

 振り下ろされる大顎を通り抜けては、イビルジョーの後頭部に剣撃を叩き付けた。

 

「グラァァッ!!」

 奴の興味が俺に映る。そして俺は、今飛び上がって空中。

 

 

 格好の餌だとでも思ったのか、大顎を開けて俺に向けるイビルジョー。

 そうも容易く、弱い所を俺に向けるとはな。

 

 

 なぁ、お前はその顎で何を喰らってきた。

 

 人を殺した事はあるか? そうでなくても、家族を殺して引き離した事もあるんじゃないか?

 

 

 空中で銃口をイビルジョーの口内に向ける。

 

 

「───死ね」

 言いながら、トリガーを引いた。

 

 弾ける弾丸は迷いなくイビルジョーの口内に吸い込まれて行く。

 

 徹甲榴弾の発射の反動で、後方にズレる俺の身体。

 その身体を追いかけようと口を開いたイビルジョーの口内で、弾丸は炸裂した。

 

 

「グォォラァァッ?!」

 喉を爆破され、悲痛の声を上げるイビルジョー。その巨体が大きく揺れて、しまいには横に倒れた。

 

 

「す、凄っ」

「飛んだニャ……あいつ本当に人間かニャ」

 失礼だな……。

 

 

「グルォゥ! ウォゥッウォゥッウォォォゥ!」

 身体を崩したイビルジョーに、統率の取れたジャギィ達の攻撃が降り掛かる。

 数で勝るジャギィ達に囲まれ、その鋭い爪で、牙で、ジャギィ達はイビルジョーの肉を割いた。

 

 

「…………ふっ」

 思わず笑みが溢れた。

 

 なぁ、どんな気分だ?

 

 

「グラァァ……ッ! ガァァァァッ!!」

 肉を裂かれる気分は。命を喰われる気分は。

 

 

 お前が他の生き物にして来た事だ。

 苦しいか? 辛いか?

 

 

 

 お前達はそういう生き物だ。例え同族だろうと、相手に恨みがなかろうと、お前達は無差別に命を喰らうんだ。

 

 これは、その罰だ。

 

 

「…………くっくっ」

 あぁ……清々しいな。───早く、アイツも殺したい。

 

「……あ、アラン……?」

「……ニャ」

 

 

「俺が殺す……」

 片手剣を抜いて、倒れもがくしないイビルジョーに近付いていく。

 このままジャギィ達に少しずつ殺されるのも悪くはない。

 

 だけどな、やっぱり俺の手でお前は殺さないとな。

 

 

「グォォラァァァァ……ッッ」

 全身をジャギィ達に裂かれるイビルジョー。

 もう、動けないだろう。逃げられないだろう。

 

 

 お前の親はな、そんな状態の奴も餌としか見てなかったんだ。

 

 女の子も、子供も年老いも、怪我で動けなくなった奴だって、餌としか見てなかったんだよ。

 

 

「───死ね」

 まずはお前からだ。

 

 

「───って!」

 背後から何かを言いながら、手を回して俺を止めたのはミズキだった。

 

「待って!」

「……なんだ。邪魔するな……っ!」

「落ち着いて! まだあの子、諦めてない!」

 ……は?

 

 

 なんで、分かったような事を───

 

 

「グォォォオオオラァァァァォアアアアアアッ!!!」

「───な?!」

 俺が振り返ってミズキを見ていると、背後から辺りのジャギィ達を薙ぎ倒す音と共に咆哮が響く。

 

 

 立ち上がったイビルジョーは手頃なところに倒れていたジャギィを口の中へ入れると、焦点の合わない瞳で辺りを見渡した。

 開き切った古傷や口、身体の穴という穴から龍属性エネルギーが漏れ、その姿は悍ましくさらに変貌している。

 

 眼は無機質に赤く光り、何を見ているか分からない。

 まるで、生き物では無い何かのようにそれは立ち上がっていた。

 

 

 

 イビルジョーは、何らかの理由で食欲の箍が外れて飢餓が暴走状態になる事があると聞いた事がある。

 ただそれは長く生き過ぎたりしたイビルジョーが陥る状態で、コイツに関してはカルラの言っていた事が正しければ七年しか生きていない。

 

 

 コイツがその状態になるなんて事が……あるのか?

 

 

「グォォラァァッ!!」

「ウォゥッ?!」

 その太い尻尾で、手近に居たドスジャギィを地面に叩き付けるイビルジョー。

 その足でドスジャギィを押さえ込み、大顎を開く。

 

 

「ウォゥッ!」

「グォゥッ!」

 しかし、ボスを殺らせまいと飛び掛かるジャギィ達を───イビルジョーは開けた口で嚙み砕く。

 

「ヴォ゛ゥ゛ッ!!」

「グルォォァァ……」

 化け物め……。

 

 

 ドスジャギィを失うのは戦力的に厳しい。

 

 だが、今あいつを助けようとするのは自殺行為だ。ジャギィと同じ眼を見るだけだ。

 

 

 逆にドスジャギィを捕食するイビルジョーに隙が生まれる。

 なぜあのイビルジョーが暴走状態に陥ったかは分からないが、これはチャンスだ。

 

 

 だから、ドスジャギィは見捨てろ。

 

 

 ドスジャギィはモンスターだ。仲間じゃない。

 俺達は共闘していただけだ。

 

 

 見捨てろ。

 

 

「グルォォァァ……ッ」

 

 

 見捨てろ……。

 

 

「グォ゛ゥ゛……ッ!」

 

 

 見捨てろ……ッ!

 

 

 

「ドスジャギィさん……ッ!」

 少女は走った。

 

「ニャ?! 辞めるニャ! ミズキぃ!!」

 

 

 

 忘れていた。

 

 

 彼女は、本当に優しい。

 

 

 自分を犠牲に出来るくらい、優しいって事を。

 

 

 本当に、ヨゾラに似ているって事を。

 

 

 

「グルォ……ククク、グルォォァァ……ッ!!」

 首を振り上げるイビルジョー。

 

 無策で向かっていくミズキに、ブレスを吐くのは簡単な事だ。

 

 

 

 嫌な風が吹く。

 

 

 ムツキの悲鳴は、声にならない。

 

 

 俺の手は、届かない。

 

 

 

 視界が黒くなる───その瞬間。

 

 

 広がった黒は、爆煙。

 

「ヴォァァアアアッ!!」

 圧倒的な熱が、炎が、辺りを覆い尽くした。

 

 

 

To be continued……




さてさて、本当に長くなってしまって申し訳ありません……。
まさかの三部構成。うーん、長いかな?

ここに来てアランの本領発揮です。エリアルガンナーって格好良いよね←
戦闘シーンは苦手なので、上手く伝えられているかは別として……。


今回の言い訳
龍属性って良く分からないですけど、自分なりの解釈がこれでした。
龍やられ状態になると武器の属性が封印されたりするらしいです。
他の属性を喰う、そんなイメージがありました。とりあえず強力なエネルギー、みたいな。


さてさて長く書いてきましたが、このお話も終盤ですね。
自分でも悩みながら、これで良いのか?と、書いています。読者様の期待に応えられていれば……なぁ。

また次回お会いしましょう。(もしかしたら閑話で番外編を投稿するかもしれません)。


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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