モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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旧友と大海の王者

 ──辞めろぉぉぉおおおお!!──

 思い返す。

 

 

 アイツに全てを奪われた時の事を。

 

 

 

「……アイツと同種の化け物が、この島に居る」

 もしかしたら、この時を待っていたのかもしれない。

 

 俺が探しているアイツ(・・・)ではないだろう。

 だが、だとしても、ソイツはアイツと同じ存在だ。

 

 

 この世に存在して良い生き物じゃない。

 

 

「なら、俺はお前を…………殺す」

 

 

 何処に居る。

 

 ミズキ達は村に居てもらっている。

 着いてくると煩かったが、流石に連れて来る訳には行かなかった。

 

 

 アイツの恐ろしさは良く知っている。

 

 

 剣を、ボウガンを握る手が勝手に強くなった。

 

 

 

「何処に居る……」

 早く探し出して、始末する。

 

 そうすれば、道は開かれる。

 

 

 アイツを殺す為の道が。

 

 

 

「…………早く出てこい───殺してやる」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「ねーモモナぁ」

「まーたどったミャ、ミズキ」

 防具を着て、完成した新しい武器を背負ってから農場に立ち寄る。

 

 

 ロアルドロス、それにあのハンターさんが亡くなってからもう一週間が経っていた。

 

 あの後ギルド関係の人が来て状況の説明だとか、事情聴取だとかでとても忙しかったの。

 気球船なんて初めて見たし、つい二日前まではその気球船が島の上をずっと飛んでいた。

 

 

 それでも、そのイビルジョーっていうモンスターは見つからなくってギルドの人達は撤退。

 ずっと探していたのに見付からないなんて、なんだか変だよね?

 

 それで、当面は島に滞在している上位ハンターのアランがこの事に関して責任を持つ様に言われたらしい。

 

 そんなの大変な筈なのに、アランは二つ返事で請け負ったみたいで。

 

 ここ一週間はとっても忙しかった。

 島のアプトノスも凄く減っていて、私は彼らを村の近くに避難させる為にずっと追いかけたり後ろから押したり。

 だけど、村を囲うバリケードの中に避難させたし。これで孤島の生態系は少しの間でも護られるのかな……?

 

 

 そうやって私も働き詰めだったし、皆それぞれ忙しそうにしてたから、ハンターさんが亡くなったっていう実感はなんだか薄くなってしまった。

 私はなんだか嫌だけど。村の皆がまた暗くなるよりは、良いのかな……?

 

 

「……モモナに話し掛けるくらいだったら毒キノコに話し掛けた方が良いみゃ」

「「酷い」」

 それで、私が農場に来たのには理由があります。

 

 

 それは完成した武器の事。

 加工屋さんも忙しくてつい先日完成したばかりの、出来立てホヤホヤ。

 

 

「……うみゃ、新しい武器出来たんだ」

 その事に気が付いてくれたミミナ。うん、そうなんだけどね。

 

 その武器が問題なんです。

 

 

 

「どう?」

 ダイミョウサザミさんの素材を使ったいかにも如くな盾、それとヤドの角を使った一振りの剣を構えて私はモモナとミミナに新しい武器を披露した。

 

「格好良い片手剣ミャー!」

「……良い盾と剣、みゃ」

 デスヨネー。ソウオモウヨネー。

 

「これ、双剣らしいんだよね」

「「は?」」

 二人とも、語尾忘れてるよ。

 

 

「加工屋さんから出来た武器を貰う時にね? 片手剣と双剣じゃ似ててもちげーが、うまくやんな! って」

「あのジジイついにボケたミャ?」

 酷い。

 

「……それで、聞いたのみゃ?」

「勿論。私はこれ、片手剣ですよね? って。そしたら加工屋さん。ばかやろう、立派な双剣に出来上がってるじゃねーかこんにゃろうめって」

「「あのジジイボケたわ」」

 語尾、忘れてるよ。

 

 

 武器の名前はクラブホーン。カタログを見せて貰えばそこには本当に双剣って書いてあったんだよね。

 その事を二人に伝えると「ギルドがボケてるわ」とまた語尾を忘れて仲良く声を重ねていた。

 

 確かに、盾の先には申し訳程度に鋭い爪が伸びていて一応何かを斬る事は出来そう。

 だとして、どう考えても、これは、盾。盾だよ。

 

 

 双剣って盾を捨てて剣を持ったんじゃないの? 盾捨てきれてないよ?

 

 

 

「……もう片手剣として使った方が良いみゃ」

 なんて愚痴っていると、ミミナからそんな提案を頂きました。

 

 うーん、それで良いのかな?

 双剣を双剣として使う必要が絶対ある訳じゃないし。

 

 

「クラブホーンは片手剣」

 暗示を掛けながら、私は農場のお手伝いに専念。

 

 本当は、アランのお手伝いをして一刻も早く森の異変を解決したいけど……。

 もう、あんな事を起こさない為に。

 

 

 

「ミズキー、お客さんニャ!」

 でも私は何も出来ないから農場のお手伝いをしていると、村の方からムツキが走ってきてお客さんだと声を掛けてきた。

 お客さん? 私に? お父さんはちゃんとお店に居るのに?

 

 疑問には思ったけど、呼ばれた訳だし行かないとね。

 だから私は二人とジェニーに挨拶をして、村に戻った。

 

 

 

 

「君が、この村のハンターのミズキちゃんだね。私は見た通りギルドナイトをやっている、カルラ・ディートリヒだ。よろしく」

 そう言って私に手を出してくるのは、赤い服のような装備を着たハンターさん。

 

 この服みたいな装備は、ギルドナイトというギルド直属のハンターさん?(私はよく分かってない)に支給される防具。

 

 ギルド直属で働いて、危険なモンスターの討伐に先陣を切ったり、今回のような異常事態を調べたり、時にはハンターさんの違反についても取りしまう役割を持った大変なお仕事。

 それが、ギルドナイトらしいです。

 

 

 そんなギルドナイトのカルラさん。

 整った金髪は私より綺麗で一瞬女性かと思ったけど、声とか身体つきを見るに男性みたい。

 でも女として、劣等感を感じる綺麗な顔をしています。

 

 

「よ、宜しくお願いします!」

「うん。宜しく」

 そんな彼の手の甲には、綺麗な赤い宝石のついた物が付いていた。

 なんだろう? これ。……うーん、アランが戒めだとペンダントにしてる石に似てる気がする。

 

 

「綺麗な石ですね」

 そんな石はアランの物とは違って欠けてなくて、何やら装飾品になっているみたい。

 でもギルドナイトの装備って感じではないし。何か特別な意味でもあるのかな?

 

「あぁ……これかい? そうだね、綺麗だろう? お守りなんだ」

 アランとは違って、お守りと言った彼の目は───でも何処となくアランに似ている気がした。

 

 

 気のせいかな?

 

 

「え、えーと。ところでギルドナイトさんが私に何か用なんですか?」

 私はリオレウスを許可なしに狩ろうとした事がある。ま、まさか私、捕まっちゃうのかな……?

 

「森の異変の原因、イビルジョーの退治をしようと来たんだけど。森に詳しい君に手伝って貰いたくてね」

 爽やかな笑顔でそう言う彼の言葉に私は内心ホッとしたのも束の間、アランに言われていた事を一つ思い出します。

 

 

 ──俺がアイツを殺すまで、絶対に森には行くな──

 

 

 アランはきっと、私の事を心配して言ってくれたんだと思う。

 未熟な私が、ロアルドロスやハンターさんを喰い殺したその生き物に会って同じ眼に合わないようにって。

 

 でも私は、アランにモンスターを殺して欲しくないって思っちゃってる。

 おかしい事だっていうのは、分かってるんだけどなぁ。

 

 

「ごめんなさい……私、アランに森に入るなって言われてて」

 それでも、私はギルドナイトの人にはそう言って断る事にした。

 

 私が勝手な事をして、誰かに迷惑を掛けるのは……もう嫌だから。

 

 

 

「アラン……本当に此処に居たのか」

 あれ? アランのお知り合い?

 

 ギルドナイトに知り合いが居るんだ……アラン、凄いな。

 

「知り合いなんですか?」

「え、あ、まぁ……ね。うーん、なるほど…………ならアランには私が上手く言おう。大丈夫だ、私はこれでも見た通りギルドナイト。腕は確かだよ」

 試してみるかい? と、背中の太刀をチラッと見せる彼の表情は含みのある笑顔で大人っぽい。

 

 

「え、えーと……」

 確かに、ギルドナイトをやっている人なら腕は立つはず。

 

 そんなギルドナイトさんを連れて行けば、もしイビルジョーっていうモンスターが現れても……アランと彼なら楽に倒せるんじゃないかな?

 私が彼を連れて行けば、この村の───アランの手助けにもなるんじゃないかな?

 

 

 ───私なんかでも役に立てる。

 

 私は、そう思って大きく息を吸ってからこう答えた。

 

「手伝わせて下さい!」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 場所は変わってモガの森。

 

 

「ラギアクルスの……子供ですか?」

「ギルドも完璧にはその生態を把握してはいないんだけど、イビルジョーに効果のある属性として電気が一つ挙げられているんだ」

「だからってなんで、子供なんだニャ?」

 着いてきてくれたムツキと共に、私はギルドナイトのカルラさんを連れて島の反対側に向かっていた。

 

 

「子供のラギアクルスなら安全に陸地に誘導出来る。そして、子供と言えどラギアクルスならイビルジョーにも有利が取れるだろ? だから二匹には争って貰う」

「それで弱ったイビルジョーを倒すって魂胆かニャ? アランもギルドナイトさんもモンスターに馴れ馴れしいのはなんか似てるニャ」

 それなら、安全だとは思うんだけど。ラギアクルスの子供はどうなるのかな……?

 

「それで、ここ最近小さなラギアクルスが現れるようになった場所があるだろう? そこへ案内して欲しい」

 彼はそう言って私に道を譲る。この先は君の方が詳しいだろう? と、頼られるのは村のハンターとしては嬉しかった。

 

 

 ただ、少しだけ気になる事が。

 ムツキはアランと似てるって言ったけど、私は何か違う気がするんだよね。

 

 きっとアランは……モンスターを自分の為に利用しようとしない。

 これだってまた、私の勝手な思い込みかもしれないんだけど。

 

 

 でも、カルラさんの言っている事は正しい。

 やっぱり私はおかしいのかな? なんて思うんだ。

 

 

 

「この付近……だと思います」

 私がカルラさんを案内したのは、村から反対側に位置する所。

 

 丁度、初めてアランと会ったあの入江の近く。

 その入江には確かジャギィの群れが居るんだよね。近付かないようにしなきゃ。

 

 

 ここ最近、と言うには少し昔なんだけど。

 この付近でラギアクルスの小さな個体がよく見つかるようになったの。一年くらい前かな?

 ラギアクルスってこれまで幼体が確認された事がなくて、その幼体は研究の為に要観察対象だったんだよね。

 

 そんなラギアクルスの子供に今回は協力して貰う……のかな?

 

 

 

「子ラギアは……あぁ、居た居た」

 不敵に笑う彼は、海岸沿いを目線に捉えて背中の太刀に手を伸ばす。

 

「ありがとう、ミズキちゃんにムツキ君。君達は下がっていてね」

 そして、私達に注意だけ促すと彼はその太刀を抜いて海岸に向かっていく。

 

 彼は子供のラギアクルスに悟られない速さで近付くと、青と桃色の合わさった太刀を───その足に叩き付けた。

 

 

「グォォォゥ?!」

 子供と言っても、産まれて一年も経てばとても身体は大きくなる。

 

 まだまだラギアクルスとしては小さな身体だけど、その全長は優に十メートルを越していた。

 大きくなったねぇ、なんて感心してる場合じゃない。

 

 え、攻撃したの?! 協力して貰うんじゃないの?!

 

 

「待つニャ!」

「え、でも、止めなきゃ!」

 出そうになった私の足を、抑えて止めるムツキ。

 

 だって、あんなの可哀想だよ……っ!

 

 

「さぁ、大人しくなるんだ!」

「グォォォゥ!!」

 自らをいきなり攻撃して来た敵を前に、身体を捻って距離を置こうとするラギアクルス。

 

 大きな顎を持った頭の後頭部に伸びる角と、海みたいに綺麗な蒼い甲殻。背中にはとても綺麗な赤い突起が並んでいる。

 大海の王の名に相応しく、水中での生活に主を置く事に適した身体付きは流線型で巨大な身体にもしなやかさを感じさせた。

 

 

 こんなに立派なのに、まだ子供だと言われているそのラギアクルスを彼は逃さない。

 

 

 

 距離を置いたはずのラギアクルスに一瞬で詰め寄り、踏み込んで切り上げ、そのまま上げた太刀を振り下ろす。

 

 

 

「グォォォゥ!!」

「そら! どうした!」

 一方的に攻撃されるラギアクルスの、怯んで下がった頭にカルラさんは太刀を叩き付けた。

 

 

「クォォォゥッ!」

 

 

 

「あ、あんなの……可哀想だよ」

「ニャ、でも……ギルドナイトさんには考えがあるんじゃないかニャ……?」

 で、でも……。

 

 間違っているのは……私?

 そう、それは考えたら簡単に分かる事。

 

 当たり前の事。

 

 

 竜が人に簡単に協力してくれる訳がない。

 

 

 人と竜は───相容れない。

 

 

 

「もう少し大人しくして貰おうかな!」

「クォォォゥッ!」

 その太刀が、ラギアクルスの左眼を斬り付ける。

 

 吹き出る鮮血と、焦げ臭い匂いがその眼はもう二度と開かない事を悟らせた。

 

 

 

 ───こんなのはおかしい。

 

 

 ───おかしいのは、私なの?

 

 

 

「よーし、良い子だ! こっちこっち!」

「グルォォォオオオオ!!」

 そうやって考えている間に、怒ったラギアクルスを引き連れてカルラさんは島の中心に走って行く。

 怒らせて、イビルジョーの居る陸地まで連れて行くのがカルラさんの目的だったんだ……。

 

「お、置いてかれちゃった?」

「追い掛けるニャ!」

「う、うん!」

 私も、ラギアクルスを追いかけるようにしてその場を去るんだけど。

 

 

 ───なんだか、背後から嫌な視線を感じたんだよね。

 

 なんだったんだろう……?

 

 

 

 

「これって……」

 砂浜を抜けて、川を少し登った所。

 

 私がそこで見たのは、横たわって眠る子供のラギアクルスの姿だった。

 

 

 こんな所でラギアクルスが寝てるなんて……凄く不思議。

 ただ、それはアランが見せてくれた光景とはまるで違う。

 

 ラギアクルスは全身ボロボロで、苦しそうに目を閉じて、眠らされている。

 

 

 足元で起動しているのはシビレ罠。だから、多分カルラさんは捕獲用麻酔玉を使ったんじゃないかな?

 弱ったモンスターを眠らせて捕獲する為のアイテムなんだけど。こんな事に使って良いのだろうか……?

 

 

「カルラさん!」

「お、ミズキちゃん。うん、君のおかげでラギアクルスは無事に使えそうだ」

「使う……っ」

「え? あー、言い方を間違えたかな? 協力、して貰うのさ」

「こんなの……」

「ニャ……」

 ねぇ、間違ってるのは……私なの?

 

 

 隣で苦しそうに目を閉じるラギアクルスを見ながら、私はそんな事を考えていた。

 

 確かに、森の異変は解決しなきゃいけない。

 でもそれは私達ハンターの仕事で、この子達は関係ない。そうだよね?

 

 

 私がおかしいの……?

 

 

 私が間違ってるの……?

 

 

 

「……さてと、後はイビルジョーを待つだけかな」

 何でだろう。

 

 

「さ、ミ■キちゃ■。後■私に■■■君■■■■■■■■■■■■」

 この人が何言ってるのか、分からない。

 

 視界が真っ白になる。黒い線だけが見える。

 

 

 

 するべき事だけが分かる。

 

 

 

「ムツキ、閃光玉」

「ニャ?!」

「閃光玉!!」

「ニャ!!」

「ぇ、ミ■■ちゃ■?!」

 閃光玉を投げたムツキを抱いて、私は全速力で走った。森の中へ、彼の眼の届かない所まで。

 

 

 

「……っぁ…………な、なんだったんだ……? ふ、まぁ……良いかな。僕はアイツを回収できれば……それでね。ラギアクルスもゲットで一石二鳥───いや一石二竜ってね。アッハハ」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 なんでか全速力で走っていたので疲れてしまった。息が荒い。

 

 

 身体が痛くなるくらい、とにかく全速力で走ったみたい。

 なんでだろう……。何がしたいんだろう、私。

 

 

「い、いきなりどうしたんだニャ……?」

「分からない……」

「どーいう事ニャ。……そんなに、嫌だったかニャ?」

「ぅ、うーん……」

 多分、そうなんじゃないかな。

 

 私は自分が間違ってるって、分かってるのに。

 それでも嫌だった。だから、逃げ出したんじゃないかな。

 

 

 ……バカだな、私。

 

 

 何も出来ない癖に。

 人の力になりたいとか思いながら。

 

 こんな事すら出来ないなんて。

 

 

 そう思ったら無性に悔しくて、悲しくて、涙が出てくる。

 

 泣いたって何も変わりはしない。

 そんな事すら、私は受け容れられない。

 

 

「……っぐ、ぅ……ひっく…………っ」

「よーしよし。ミズキは優し過ぎるニャ。そんな優しいミズキだから、そうやって思っちゃうのも仕方ないニャ」

 言いながら、ムツキは座り込む私をギュッと抱いて頭を撫でてくれた。

 

 ありがとう、ごめんね、ムツキ。

 

 

「だから、とりあえず今日は帰ろうニャ。大丈夫ニャ、あのラギアクルスは要観察対象で、ギルドの人が易々と殺させる訳ないニャ」

 うん、そうだよね……。

 

 

 そうだよね……?

 

 

「だから、きっと終わったら無事に───」

「ギルドナイトの人が子供のラギアクルスをあんなに痛め付けるのって……おかしくない?」

 ムツキの言葉を遮って、私はそんな事を口にする。

 

「そ、それはそうだけど……ニャ?」

「あの人本当に……ギルドナイトなのかな?」

「そ、それを疑うのは野蛮ニャ。ギルドナイトを嘘で語るなんて犯罪以外の何物でもな───ぁ」

 ムツキもおかしい事に気が付いたみたい。

 

 ただ、カルラさんはアランの知り合い。

 だから……悪い人じゃないと思うんだけど。

 

 それでも何か、引っかかる事が多過ぎる。

 

 

「ぅ……これ以上考えたって何も分かんないよぉ……」

 珍しく回転してくれた私の頭だけどもうダメみたい。パンクしそう。

 

「バカなのに変な事考えるからニャ」

 酷い。

 

「……っぅ…………ひっ……っ」

「わ、わぁっ?! ごめんニャ! 言い過ぎたニャ……」

「う、ううん……。私……結局何も出来───」

「誰だ!!」

「「っぁ?!」」

 俯く私の背後から聞こえる大きな声。

 

 振り向くと、そこにはもう見慣れた蒼い防具を着た男の人が怖い顔で立っていた。

 

 

「あ、アラン……っ?!」

「……お前達か。……アレだけ森に入るなと言っただ───」

「アラン!!」

「……っぉ?!」

 アランが何か言っているけど、無視してその懐に飛び込んだ。

 

 固い防具を大きく揺すっては、私は口を開く。

 

 

「助けて!!」

「……は?」

 呆れとか、困ったとか、そんな表情でアランは私を見ていた。

 でも、ちょっとだけ考えてから「どうした?」と返してくれるアラン。

 

 私は何も出来ない。

 でも、アランならこの現状を変えてくれるかもしれない。

 

 

「ニャ、とりあえず落ち着くニャ。森であんまり大声を出すのも、ニャ?」

「あ、ぇ……そ、そうだね。ごめん……」

 落ち着いて、深呼吸。

 

 私が焦ったって、何も出来ないのだから。

 

 

「今朝ね、カルラってギルドナイトの人が村に来たの。それで……イビルジョーをなんとかする為に力を貸してくれって」

「……カルラ? ギルドナイト?」

 あれ? 知り合いじゃなかったのかな?

 

 私の話を聞くアランは、なんだか不思議そうな表情をしている。

 

 

「いや、カルラが生きてる訳がないか。人違いだろ」

「え、人違い? いや、でも、多分。えと、カルラさんはアランの事知ってたよ……?」

「……そいつは、金髪か?」

「うん、私と同じ色」

「…………。まぁ、良いか。で、どうしたんだ?」

 そう答えるとアランは、不機嫌そうな表情で少し考え込んでから口を開く。

 二人はどういう関係なんだろう……?

 

 

 それから私は、カルラさんがラギアクルスの子供を利用しようとしてる事、カルラさんに頼まれてラギアクルスの居場所に案内した事。

 それと、カルラさんがラギアクルスにした事をアランに伝えた。

 

 

「ギルドナイトがそんな事をする程、イビルジョーを危険視している……。それとも───」

 そこまで言って、アランは歩き出す。

 

「あ、アラン? 何処に行くの……?」

 私、また置いてかれるのかな。

 

 また、何も出来ないのかな。

 

 

「……何をしてる、早く案内しろ」

「ぇ……」

「ほらミズキ、早くするニャ」

「ぇ、ぇと……」

 うん、このくらいなら。このくらいなら私にも出来るよね。

 

 

「止めるんだろ? そのバカを」

「うん……っ!」

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

「以外と早かったね。閃光玉で私を止めてその間にアランを連れてくるなんて……私は中々君を見くびっていたらしい」

 さっきの場所に戻ると、何故か起きているラギアクルスの子供を背に彼は私達に向かってそう口を開いたの。

 

 

 ラギアクルスに背を向けるなんて危ないと思ったんだけど、目覚めている筈のラギアクルスはさっきまで自分を攻撃していたカルラさんに攻撃しようとはしなかった。

 何が……起きてるの? アランみたいに、モンスターと仲良くなれる……の?

 

 

 でも、彼にはアランに近いけど全然違う物を感じる。分からない。私には彼が分からない。

 

 

「ただ、ちょっとだけ遅かったかな。こいつはもう、私の部下だ」

 カルラさんはラギアクルスの前脚を蹴りながら、そう言った。

 そんな事をされたのに、ラギアクルスは気にも止めないで私達を睨み付ける。

 

 なんで……? どうして?

 

 

「不思議そうな顔をしているね、うん。やっぱり初めて見る人の顔は新鮮だ、忘れられない」

 そう言うと、彼はあの赤い宝石がある左手を空へ掲げる。

 

「なら、これも見せてあげなきゃね。───ライドオン! ラギアクルス!!」

 そう言った瞬間、彼の宝石が光ってそれと同時にラギアクルスが動き出した。

 

 飛び上がった彼の下にラギアクルスが入り込んで、危ない───って思ったのも束の間。

 カルラさんはラギアクルスの背中に飛び乗って、その場で堂々と立ち上がったの。

 

 

 あの凶暴なラギアクルスを手懐けて……背中に乗った?!

 

 

「儀式は無しだけど、まぁ……ちょっと大人しくさせれば後はこいつが何とかしてくれる」

 そう言いながら赤い宝石を私達に向けるカルラさん。

 あの石に……何か秘密でもあるの?

 

 え? もう、何が、何だか、分からない。

 

 

「まさか……本当にカルラ、お前だったのか」

「やぁ、アラン。何年ぶりだ? ヨゾラはどうした? その剣、ヨゾラのだろ?」

 アランは武器を構えて、そう言って話し合う二人。

 

「あ、アラン! 人に武器を向けたらダメなんだよ?!」

 しかも、相手はギルドナイトの人。捕まっちゃうよ……?

 ていうかアランは驚かないの?! モンスターに乗っちゃってるけど?!

 

 

「俺はラギアクルスに向けているだけだ」

「へ、屁理屈ニャ……」

 そうとだけ言って、アランは足を進める。

 え、えと、争い事はダメだよ……?

 

 

「ヨゾラなら死んだ───俺が殺した」

 そして、アランはそう言ったの。

 

 

 ぇ───殺した……?

 

 

「お前……何を言ってる?」

 その言葉に驚いたのは私だけじゃなくて。

 ラギアクルスに乗ったままのカルラさんも目を丸くして、そう答えた。

 

 

「お前も、村の皆も……ミカヅキもヨゾラも俺が殺したような物だ。お前が生きていたのは……驚いたけどな」

「あ……あぁ…………そう、だね。そうだ」

 目を閉じて、カルラさんはそう返事をする。

 

 アランは……何を言ってるの?

 

 

「全部お前が悪い。あの卵を持ち帰ってあの親を呼んだ……お前が悪い。村の皆を殺したのはお前だ、ヨゾラと二人だけで逃げたお前の仕業だ……ッ!! ミカヅキの事すら……お前は見捨てたんだ」

「違───それは……っ!」

 

「黙れクズが……。名残惜しげに首に絆石をぶら下げやがって。お前に…………絆を捨てたお前にそれを持つ権利なんて無いんだよ!!」

「…………っ。……なら、お前はどうなんだ?」

「……何?」

 ボウガンの銃口を向けて、アランはこう続ける。

 

 

「儀式も無しにモンスターを絆石で無理矢理操る。……そんな物が、ライダーか? そんな物が……お前の目指していた物か?」

「何を言うかと思えば。僕はライダーとしてお前の知らない高みに居るんだ! ちゃんと絆はあるさ、僕はラギアクルスに協力を得ている。……僕には目的がある、その為に───」

 その言葉を遮ったのは、アランのボウガンから放たれる銃声だった。

 

 

「ちょ、おま───」

 また、発砲。

 

 

「あ、アラン?! お話の最中じゃなかったの?!」

「そうだぞお前! 昔からそうだよな?! その最低な性格直せよ!!」

 カルラさん怒ってるよ?!

 

「……なんで態々お前の話を聞いてやらなきゃいけないんだ」

「外道ニャ、この人外道ニャ」

 さっきまでの空気は何処に行ったのか。

 

 

「グォォォォッ!!!」

 一方で、アランが撃った弾は全部何にも当たらずに空へと消える。

 ただ、目の前を通るそれにビックリしたのかラギアクルスは大きな声を挙げて暴れ出した。

 

「っぉ、なぁっ?! お、落ち着けラギアクル───っぁ?!」

 バランスも取れなくて、カルラさんは地面に落ちてしまう。

 アランの狙いは、これ……?

 

 

「グォォォォッ!!」

「お、落ち着けラギアクルス! 私の声が聞こえないのか!」

 そう言うカルラさんには見えていない。

 

 

 

 子供を助けに来た、親の姿が。

 

 

 

「カルラ……」

「なんだよ!」

「絆なんて、無いんだ。……人と竜は、相容れない」

「お前───」

「グォォォオオオオオッ!!!」

 轟く咆哮、振り向くカルラさんはラギアクルスが二匹に増えているのを見て腰を抜かして倒れてしまう。

 私も、怖い。だって、子供を痛めつけられた親のラギアクルスの表情は……とっても恐ろしく感じたから。

 

 子供の倍はあるその巨体が、カルラさんを睨み付ける。

 

 

「……っ、こいつ親か?! なんでこんな陸地まで───がぁぁ……っ!」

 立ち上がって太刀を抜こうとするカルラさんだけど、何かが青く光ってカルラさんの動きを止めてしまった。

 

「くっそが……っ! モンスター風情が! 殺してやるぞ、お前達なんていつか全滅させて───ひっ」

「グォォォオオオオオッ!!!」

 あ、危ない!

 

 

「そこまでに、してくれないか」

 カルラさんが、大きな顎に噛み付かれる寸前の所でラギアクルスを止めたのは……アランだった。

 

「グォォォ……」

 あのラギアクルスが……大人しく止まってる?

 

 

「もう、俺の顔は忘れたか……?」

「グゥゥゥ……グォォォ!」

「グォォォォッ!」

 アランの言葉で? ラギアクルスは子供も一緒に連れて海の方へと帰っていった。

 本当に不思議な光景。さっきまでとは、また別の……素敵な光景。

 

 ど、どういう……事? 何が起こってるの?

 

 

「アラン……お前……」

「勘違いするな。お前には聞きたい事が山程ある……だから、助けただけだ」

「いや、でも……そもそもなんで親が。なんでお前がラギアクルスを手懐けられる…………お前はもうライダーじゃないだろ!」

 さっきから偶に聴こえる、ライダーって何なのかな?

 

 

 それに私、また何も出来なかった……ね。

 

 

「ラギアクルスの子供は鳴き声で親を呼ぶんだよ。あの親子はお前が交わした偽りの絆なんかよりよっぽど固い絆で結ばれているんだ」

「……っ。ライダーの事を馬鹿にする気か、お前は」

「俺はもう、ライダーじゃないからな。……さて、全部吐いて貰おうか」

 カルラさんは、今回の事を色々と知っているのかな?

 

 

 密猟者の事とか、イビルジョーの事とか。

 

 

「…………するな───」

「……カルラ?」

「───ライダーを……馬鹿にするな!」

 そう言って、立ち上がって。またあの赤い石を天に掲げるカルラさん。

 

 そして、こう叫ぶ。

 

「ライドオン! サクラ!!」

「ヴゥゥァァアアアッ!!」

 瞬間、何処から飛んできたか分からない一匹の飛竜にカルラさんは連れ去られてしまった。

 

「え、えぇ?!」

 アレは……リオレウス? それにしては赤というより桃色の身体をしている。

 

「……リオレイア亜種。サクラ、生きていたのか……」

 リオレイア亜種?!

 

 

「僕は人間の味方だ。答えられる所だけ答えようか」

 リオレイア亜種の背中に、さっきみたいに乗って私達を見降ろしながら彼はこう口を開いた。

 いや、本当、どうなってるの。

 

 

「この村にイビルジョーを連れてきてしまったのは僕の仲間達だ。僕には黙っていたようだが……連れ戻そうとした仲間が死んでやっと耳に入ったんだよ」

 仲間? もしかして……あのハンターさんの、事?

 

「そしてそのイビルジョーは……アラン、お前の孵化させたアイツ(・・・)だよ」

「な……」

 アランが……孵化させた?

 

 

「あいつは私の計画に必要だからね、こっそりと育てていた訳だけど。こんな所で逃げてしまって、回収しようと思ったんだ。だからラギアクルスに力を借りようとしたのに……お前達は邪魔をした」

 で、でも……それは。

 

「……お前のやり方は間違っている」

「そうか、なら自分の力でなんとかしてくれ。ただ……私も鬼じゃない。村人の避難には全力で協力させて貰う。……誰も、死なせない為にね。行くぞ、サクラ」

「ヴゥゥァァアアアッ!!」

 方向を変えて、飛び去っていくリオレイア亜種。なんで……言う事を聞いてるの? どういう事?

 

 

「待て……カルラ!!」

「言っておくが、ギルドに私の事を言ったって無駄だぞ。僕が何のためにこの服を着ているか、考えるんだな」

ギルドナイトなのは本当……なのかな?

ギルドナイトで、密猟者の仲間なのかな……? カルラさんは。

 

 

「自らの産み落とした悪に喰われ、滅びろ───裏切り者」

 リオレイアの飛行速度はとても速くて、カルラさんは一瞬で視界から消えてしまう。

 

 

 立ち尽くすアランに私が気になっている事を聞いても、彼は何も答えてくれなくて。

 

 ただ、沈んで行く夕日を見ながら村に帰るだけだった。




ついに十話まで書き上げる事が出来ました……。皆様の応援のお陰でございますm(_ _)m
十話まで書いてやっとモンスターハンターストーリーズらしい要素が出て来ましたね。

ライドオン、初めて行ったのはなんと新キャラでした。
カルラを簡単に説明すると、現役ライダーのハンターでギルドナイトで密猟者です。もう滅茶苦茶ですが、ギルドナイトである事で全てを揉み消してる感じ。アランとは幼馴染。


今回の言い訳。
公式設定ではラギアクルスは幼体が確認されていません。なので、今回も全力独自解釈。
近しい現実の生物であるワニは爬虫類で唯一子育てをする種らしいです。鳴き声で異性や親へのコミュニケーションも取るらしく、今回は鳴いて親を呼んで貰いました。

アランの言う事を聞いて素直に帰った理由ですが……文字(ry
アランが村に来る時、既にラギアクルスと接触していたのです。プロローグ参照。
その時に何かあったんだよ。きっとそうだよ()
これに関してはもう、なんか、ごめんなさい……。


さて、物語も動き始めました。一章はそろそろクライマックスです。


また、次のお話でお会い出来ると嬉しく思います。ではでは。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。

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