大切な探し物   作:八代の地面

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先日のニコ生でアイドルマスターシリーズにどっぷりハマってしまった私です。
さて、今回はかなり「ぐちゃぁ」っとしています。色々と。
それでもよろしいという方は是非見てって下さい。
それでは、どぉぞ。


信じているから

「ユリス先輩は雅也さんが。そして天霧先輩は──私がお相手します!」

 

そう言って構えを取るウェンディの少し斜め後ろに雅也が立つ。どうやら本当にウェンディが前衛を務めるようだ。

これには綾斗とユリス、観客、実況もざわついてた。

 

『こ、これはどういう事でしょうか…?ウェンディ選手はまだ何か隠しているのでしょうか?』

『そう考えるのが妥当ですが、一色選手が前衛でも充分押せると思いますし...ウェンディ選手が天霧選手の相手をするのは少々荷が重いかと...』

 

「まったく...つくづく底が見えないペアだ」

 

「何の意図があるのか。しっかり見極めないとね」

 

「そうだな。しかし相手の策をただ見て待ってやるほど甘くはない。行くぞ、綾斗!」

 

ユリスの気合の入った掛け声とともに綾斗がウェンディに仕掛ける。

 

 

だがウェンディは綾斗の動きなど全く気にすることなく、目を閉じすぅっと大きく深呼吸を始めた。

 

(なんだ?星辰力が少し高まっているような...)

 

それを見てウェンディの行動に注意を払うが──

 

「集中力が足りてないぞ、綾斗!アイスメイク《氷欠泉》!」

 

綾斗の足元から、氷でできた間欠泉が無数に噴き出てくる。それをジャンプで躱すが更に雅也は、

 

「《大槌兵》!」

 

今度は空中にいる綾斗目掛けて上から氷のハンマーが降り注ぐ。

 

「──フッ!」

 

綾斗は空中で体を捻り《黒炉の魔剣》でそれを切り裂き、砕けた氷と共に着地地点にいるウェンディ目掛け急降下する。

 

だがそれを狙っていたかのようにウェンディは目を開き急速に星辰力を高め足に集中させ──

 

「天霧辰明流──腑牙躯!」

 

「天竜の──鉤爪!」

 

 

急降下の勢いを乗せた《黒炉の魔剣》とウェンディの蹴りがぶつかる。しかし、ウェンディの足元がその重さに耐えきれずにヒビを入れ始めた。更にそこへ横に回っていたユリスの魔法が放たれる。

 

「咲き誇れ──赤円の灼斬花!」

 

「させないよ!雷竜の──咆哮!」

 

すかさずそれを雅也がブレスで無理矢理消しカバーする。それを確認したウェンディが今度は手に星辰力を集中させる。

 

「天竜の──砕牙!」

 

「──ぐっ!?」

 

剣で押し切ろうとしていた綾斗へ攻撃が入る。星辰力を防御に回し何とか綾斗は耐えるが大きく後ろへ吹っ飛ばされた。体制を空中で立て直し着地をする綾斗を、

 

「火竜の咆哮!」

 

「──フッ!」

 

今度は炎のブレスで雅也が着地の瞬間を狙うが、それも綾斗が《黒炉の魔剣》で薙ぎ払う。そしてそのまま雅也へと突っ走り出す。

 

「雅也さん!」

 

ウェンディがフォローへ向かおうとするが──

 

「行かせんぞ!咲き誇れ──栄裂の炎爪華!」

 

ウェンディの向かう地点を予測しユリスの技が炸裂する。

だが走るスピードを落とし、止まったかと思うとウェンディは思いもよらぬ行動を取った。

 

「!?何を──」

 

ユリスの炎が数メートル先で噴き上がる前でブレスを放つ準備を始めたのだ。

 

 

(見切られたか…いや、だがあの向きでその星辰力のブレスを撃てば一色もタダでは済まんぞ!?)

 

 

そのユリスの視線の先で既に、雅也の目の前に綾斗が迫ってきている。このまま咆哮を撃てば雅也諸共攻撃することになるだろう。

 

それでも尚、ウェンディは星辰力を練り雅也は綾斗を迎え撃つ構えを取る。

 

そして──

 

「天霧辰明流──」

 

(──ドンピシャッ!)

 

 

ニヤリと笑う雅也の足元に一瞬、魔法陣が現れたと思った瞬間──

 

 

綾斗の目の前にブレスを放つ直前のウェンディが突如現れた。

 

「天竜の──咆哮!」

 

「ッ──!?ぐあああぁ!」

 

既に構えていたウェンディが一瞬早くブレスを繰り出す。

《黒炉の魔剣》に星辰力を集中させていた綾斗は竜巻のようなブレス攻撃をまともに喰らってしまい、先ほどのような受け身も取れず吹き飛ばされ、そのまま土埃を上げ壁に激突する。

 

「綾斗!」

 

吹き飛ばされる綾斗を目の当たりにし、ユリスはこの一瞬で何が起きたのか理解が追いついていなかった。

 

(ウェンディが何故急にあの場所に!いや、それなら一色は一体何処へ──)

 

「こっちもいくよユリス!」

 

「!?」

 

ユリスが必死に思考を巡らせる横から雅也の声が聞こえた。そこはウェンディが数秒前まで星辰力を練っていた場所。

 

 

「──まさか...場所を入れ替えて!?」

 

 

それに気付いたユリスはようやく状況を理解するが…

 

 

「火竜の煌炎!」

 

「っ、ぬぁぁ!」

 

 

巨大な炎がユリスを焼き尽くさんと叩きつけられた。

ユリスは技が直撃する直前、何とか自身の周りに炎の壁を展開するが即席の壁ではやはり簡単に押し切られてしまった。

 

 

もはや雅也達の得意技である不意をつく作戦。この決勝戦でもその真価を発揮し、この試合を見ている全ての人間に『互角かそれ以上』

の印象を与えていた。

 

 

『何が起きたのでしょうかぁ!一色選手とウェンディ選手の位置が一瞬にして入れ替わったぁ!?』

 

『魔法陣が一瞬見えたように思えましたが…二人が入れ替える魔法の星辰力を練る様子は全く無かったのですが…?』

 

 

実況すらもこの一方的な展開に追いつけていない。確かに雅也は迎え撃つ構えを取っただけで、星辰力を練ったのは入れ替わった直後だ。ウェンディからもそのような星辰力を感じ取れなかった。

 

「くッ──」

 

ブレスが直撃しまだ意識がハッキリしていない綾斗は、何とか起き上がると、必死に頭を働かせ、ある一つの考えに辿り着く。

 

(二人からは確かにそんな気配は感じなかった...なら自動的に入れ替わり魔法が発動した...?でもあの局面でそんな都合のいい話が──)

 

あるハズがない、普通はそうだ。

 

だが完璧に不意をつくあの瞬間を、雅也はこの一撃を狙っていた?

 

この時を──

 

最初から──?

 

 

綾斗の記憶がこの答えを見つけるべくフル回転する──

 

 

 

『じゃあ今回も頼んだよ、ウェンディ』

 

 

 

「まさか、あの時既に!?」

 

試合開始直後、雅也がウェンディの肩にポンと乗せた。その時既に雅也はウェンディに魔法を仕込んでいたのだ。ウェンディを自身の場所と入れ替える魔法を、しかも時限式──

だから発動した時、綾斗ですら気付けなかった。

 

綾斗がぼやけたピントをその少年に合わせる。その少年は振り返り「その通り」と笑みを浮かべた。

 

「俺が誘導したんだよ、戦局を。あの瞬間、あのタイミングで魔法を発動させ不意をつく。一秒もズレる事なく。最初から...ね。わざと攻撃を外したり、タイミングの調整するの大変だったよぉ。でもあくまでこれは次の舞台の準備でしかないのさ!」

 

攻撃を何とか凌いだユリスは荒い呼吸をし、膝をついて何とか立ち上がった。視線の先では高らかに第二ラウンドを宣言した雅也がとてつもない量の星辰力を高め──

 

「アイスメイク《城壁》!」

 

みるみると地面から造られた氷の壁はあっという間にドームの天井へ到達した。簡単には破れない厚さ。近くで見るものを圧倒する氷壁がステージを分断してしまった。

 

壁の手前には雅也が、壁の向こう側にはウェンディと綾斗。

これで、ユリスと綾斗が引き剥がされた形になった。これこそが雅也の狙っていた場面ということなのだろう。

 

(やられた...元から一対一に持ち込む作戦だったというわけか。完璧に誘導された...あの転移魔法による奇襲も確実に私と綾斗を分断する為の...だが...)

 

「解せないのは、何故お前が綾斗の相手ではないのか、だ。お前のパートナーには悪いが、ウェンディでは実力、経験が足りないのではないか?」

 

所々、先程の攻撃で焼けてはいるもののまだ戦える。ユリスは立ち上がり真っ直ぐに雅也と相対する。

 

「それはウェンディは綾斗に勝てない、と言いたいのかなぁ?」

 

「いや、今更お前達の実力を見誤るわけにはいかんのでな。だがそう考えるのが自然だったのでな」

 

「そうだねぇ...俺もユリスの立場ならその考え方はごく自然に出てきたさ。まぁこれが──

 

 

 

俺が考えた作戦だったら、の話だけどね」

 

 

 

(この作戦を考えたのは一色ではないと言うのか!?)

 

思わず声に出しそうになるのをユリスは何とか心に留める。これ以上表に出そうものなら自分達は一色ペアに読み勝てない。それを認めてしまうからだ。それを知ってか知らずか雅也は続ける。

 

「ウェンディからこの作戦を聞いた時は驚いたよぉ。自分が綾斗の相手をするって言い出してねぇ。でも俺は驚き以上に嬉しかった。

だってこの作戦はウェンディが勝てるって俺が信じなきゃいけない。そして俺が信じて任せてくれるってウェンディも信じてたからさぁ」

 

 

まるで思い出話をするように嬉しそうに話す雅也。

 

「だから信じた。仮に俺がこの作戦を考えたなら躊躇ってたかもしれない。でも俺を信じて作戦を話してくれたウェンディを、俺は何よりも信じるよ」

 

恐らくこんな真っ直ぐな表情の雅也は、壁の向こうのウェンディですら見たことがないだろう。その表情を見たユリスは確信する。

 

「...やはり変わったようだな。一色」

 

「おかげさまでね」

 

フフッ、と二人は笑う。

 

 

「さて、他に聞きたいことは無いかなぁ?」

 

「いや、充分だ。お前がどれだけパートナーを信じているかよく分かったさ。だが私も綾斗を信じている。向こうの二人も同じく我々の事を。ならば互いの期待に答えるとしよう」

 

空気が変わる

 

覚悟を決めた者同士、一切手は抜かない

 

壁の向こうのパートナーの為に

 

絶対負けられない

 

 

「いくぞ、一色──」

 

ユリスが星辰力を解放させようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

ドゴォン!!

 

 

 

 

と壁の反対側で爆音が轟いた。

 

そしてユリスは雅也のあっけらかんとした声と共に、信じられない光景を目にする。

 

 

 

 

 

「あぁ、でもユリス。

 

 

 

 

これは『綾斗が勝てない』ように出来てるから」

 

 

 

 

 

爆音の中心には先程とは『桁違い』の星辰力のウェンディが

 

 

 

 

そして、抉れた地面の先には綾斗が倒れ込んでいた──




ちなみにこの決勝戦の話はあと二話ほどで終わらせる予定です。
月二話ペースなので来月にようやく一区切り付けれるのかなと思います。それまでお付き合い頂ければ幸いです。
もっとペース上げれればいいんですけどね(泣)
それではグフフ私は担当アイドルをムフフ眺めながらここら辺でグフフ(殴
それではここまで読んでくれた方、ありがとうございました!

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