ダンボール戦機 禁忌の箱を守りし幻影 作:砂岩改(やや復活)
日本、某所。そこの谷底には一台の車と人形が設置されていた。それを遠くから銃を構え狙うのは黒いLBX、その機体は照準を合わせると手にしていたスナイパーライフルを撃ち放つ。
放たれた弾丸は人形の胸を貫き車のエンジンを貫き破壊する。
「いかがですか海道先生、我が社の製品は?」
「素晴らしい…」
「この距離で目標を正確に撃ち抜く命中度。暗殺用に開発しただけはあるかと」
「暗殺用LBX、アサシンか…」
自慢げに話しているのは神谷重工の最高責任者である神谷藤五郎。彼は眼鏡を直しながらアサシンの高い性能をアピールする。
「計画を実行に移せ」
「はい…」
神谷の説明に満足した首謀者、海道義満はニヤリと笑いながら後ろに控えていた者に計画開始を告げる。
「……」
そ様子を少しだけ離れたところで見ていたのは和服を着た女性。長い髪を風で揺らし日本の大和撫子を連想させる出で立ちだがその顔は実に残忍な表情であった。
ーー
「うーん」
「今までナイトフレーム傾向だったから気分を変えてクノイチのようなストライダーフレーム傾向にしない?」
エジプト事件から一晩明けた翌日、北島模型店に集まったアミたちは新たなる機体制作のために悩むカイトに意見を出していた。
「郷田さんみたいなブロウラーフレームが好き」
「ミカ、お前はストライダーフレームだろ?」
「ストライダーフレームは使いやすい…」
「あ、そう…」
カイトのツッコミに対し、当然のように返すミカを見て皆は頭に浮かべた疑問に対してのこれ以上の詮索を止める。
「ブルドにしろよ、ブルドに。銃火器も装備できて何と言ってもパンツァーフレーム、あの二足歩行じゃ出来ない何でも踏み潰す感じ」
ついでに言えばカズのウォーリアーは長期入院中。エジプトとの戦闘でダメージを受けすぎたせいで修復不可能となってしまった。
それに対しお詫びとしてカイトは陸戦型ジムをカズに提供、現在陸ジムがカズの(仮)LBXになっている。
「キャタピラ型なら作ってるんだよな何回か」
「うぉ、なんだこれ!」
そう言って彼が取り出したのはガンタンク、それを見たリュウは思わず叫び喜ぶ。
「長距離砲戦用のキャノンに中距離戦闘対策に腕がガトリングになってるのか、射撃精度の安定のためにキャタピラなんだな」
「流石、リュウ。よくわかる男だ」
LBXの機械工学系に関してはリュウは他の人と比べても比較にならないほどの知識量を持っている。そう言った点では2人はとても相性が良いのだ。
ーーーー
「結局どうするの?」
「悩むなぁ、これを機に作りを大変換しても良いかなと思ったんだけど」
皆で話し合ったが結局の所、なにも決まらずに全てが終わってしまった。
「ジムカスタムの上位版で良いんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけど。具体的なコンセプトがないと」
機体を1から作るというのは言葉にするほど簡単ではない。具体的な目標が無ければ失敗に終わるのは目に見えている。
「じゃあ、取り敢えず全部考えてみたら?」
「ん?」
バンの言葉に思わずカイトは聞き返し同じく疑問を待ったカズとアミも彼に視線を向ける。
「いや、迷うんだったら全部考えてみて一番良いのを作れば良いんじゃない?」
「それだ!」
バンの言葉に思わず歓喜の声を上げるカイト。彼の反応には驚いたが何とか方針が決まってよかった。そんな時、話していた4人に1人の男性が声をかけてきた。
「山野バンくんだね?」
「え、はい…」
「俺は宇崎タクヤ、優秀なLBXプレイヤーの君たちに頼みたいことがあるんだ」
宇崎タクヤと名乗った男性の話を聞き4人は思わず顔を合わせるのだった。
ーーーー
「奢りだ…」
「え、あぁ…。ありがとう、えっと」
「この店のマスター、檜山だ」
「ありがとう、檜山さん」
クラシカルな雰囲気の店《ブルーキャッツ》の店内にはバンたちを除けば人がいなかった。
「では遠慮無く」
アミはオレンジジュースだったがそれを除いた3人は渡されたコーヒーを一口飲む。特にカイトの飲み方は様になっており映画のワンシーンのような感じだ。
「やっぱりインスタントとはかけ離れてるなぁ」
「ここで焙煎しているからね。深みがちがうよ」
本当に美味しそうに飲むカイトを見て気分を良くしたのか檜山は笑いながら話す。すると彼はバンに視線を向けた。
「君のLBXを見せてくれないか?」
「え、はい」
檜山の突然の申し入れに戸惑うバンだがすぐにカバンからアキレスを取り出しカウンターに置く。
「触ってもいいかな?」
「うん」
デスロックシステム対策のためかバンにわざわざ許可を貰って触る檜山はマジマジとアキレスを見つめる。
「アキレスって言うんだ」
「素晴らしいLBXだ」
「え、見ただけで分かるの?」
「あぁ、パーツは最新式。それにメンテナンスも充分にしてあるようだな」
檜山の高い観察眼に驚かされるカイトたち、それに対しバンは喜々として話す。
「カイトがメンテナンスを教えてくれたからほとんどは自分でやってるんだ。細かいところはキタジマでやって貰ってるけど」
「へぇ、君はどんなLBXを使うんだい?」
「今はちょっと代理なんですけど、これを」
カイトが出したのはジムキャノンⅡ、それを見た檜山は目を大きく見開き、小さな声で呟く。
「ナイト・バロン…」
「あれ、そっちの人だったか…。くれぐれも内密でお願いします」
「あぁ、分かった」
カイトの裏の顔を知っていた檜山に対し彼も少しだけ驚きながら他人に漏らさないように言葉をかける。それを見ていたアミたちは不思議そうにその会話を聞いていた。
「好きか、LBX?」
「うん、大好きだよ!」
アキレスを返しながら檜山はそう質問しバンは迷いなく答える。LBXを愛している人は多く居るがここまで愛している人は中々居ないだろう。
そうやって話していると宇崎が店の奥から箱を持ってきた。
「君たちを呼んだのはこれを見せるためだ」
「LBX…」
「名前はハンター、パーツも装備も最新式、かなりの性能だ」
パッケージの絵柄からしてみれば狐のようなワイルドフレーム、装備は大型のスナイパーライフルと言ったところか。
「すげぇ、このLBX」
「組み立ててみるか?」
「え、いいの!?」
あまりの格好良さに見とれていたカズを見て宇崎は組み立てるように進めた。
「あぁ」
「やる!」
宇崎の許可も貰いハンターを喜々として作るカズ。ウォーリアも修復可能かどうかの瀬戸際、そんな時に彼が惹かれるLBXが目の前に現れるとは、これは運命と言うべき出来事だろう。
「格好いいわね」
「うん!」
「どんな性能なのか是非とも見てみたいな」
デザイン通りの格好良さにテンションが上がるアミとバンに対しカイトはそのハンターの性能に興味津々なようだ。
テンションが上がっていた4人を見て檜山と宇崎は目を合わせ静かに頷く。
「君たちにここに来て貰ったのは単にこのLBXを見せるためではない。これから話すことは他言無用、絶対に秘密で頼む」
彼の真剣な表情で話される内容、この時から世界を揺るがす陰謀に彼らは巻き込まれてったのだ。
機体解説
ジム・カスタム
カイトが開発したオリジナルLBX。
高い性能と高い操縦性の両立を目指して開発された機体で後にカイトが開発するガンダムシリーズの前身となった機体。
分厚い装甲による高い防御力を持ちながらも全身のスラスターで通常のLBXより高い機動力を確保した高性能機。
これはカイトの開発した全ての機体に言えることだが後にこう言った思想のLBXをMSフレームと呼ばれることになる。