ダンボール戦機 禁忌の箱を守りし幻影   作:砂岩改(やや復活)

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第6幻 罠

 

 

 

 

 夕暮れの土手に1人佇んでいたのはカイト、彼は目の前で流れる水を眺めながら思考に浸っていた。

 

(ジムカスタムが手も足も出なかった)

 

 ジムカスタムは一言で言えば最高傑作だった。癖もなく扱いやすい上に性能は他のLBXに比べ高く、様々な武装を装備できる。

 しかし結果はどうだ、同じワンオフ機であるハカイオーに一矢も報えずに撃墜されてしまった。

 

(まだジムカスタムより高い水準を維持するためには)

 

 操作性を犠牲にして性能を突き詰めていくのが妥当、しかしその際に大きな問題が発生する。自分で扱える代物になるか…と言う疑念だ。

 

「やってみるか…」

 

 出来る限り最高の機体を作り出す。そう決めたカイトの顔は実に生き生きしていた。

 

ーーーー

 

「はぁ…」

 

 ハカイオーを見事、撃破した日の晩。アミは自宅で大きなため息をついていた。

 

「どうしたの、アミ?カイト君と喧嘩したの?」

 

「そんなんじゃないよ」

 

「じゃあ、カイト君に何かあったの?」

 

「なんでカイト限定なのよ!」

 

「だって貴方がそんな顔してるときはカイト君と喧嘩したときかなにかやらかした時ぐらいだもの」

 

「う…」

 

 母親に図星を着かれ思わず黙り込むアミ、親というものは本当に子供をお見通しだと、身をもって痛感したアミは黙って頷いた。

 

「まぁね、私が思い上がらなきゃ。カイトのLBXは壊されずに済んだのに」

 

 LBXが壊されたショックは大きい。その上、ジムカスタムはカイトが0から丹精込めて作った作品、ショックもそれだけ大きいだろう。

 

「大丈夫よ、そんなんでへこたれてたら貴方と長い間付き合うなんて無理よ」

 

「お母さん…」

 

 母親の言葉にアミはジト目で返すが母は気にせずに夕飯を作り続ける。

 アミはお世辞にもお淑やかな女性とは言い難い、言いたいことははっきり言うし何よりもすぐに動いてしまう行動派だ。

 そんな性格故にアミは小学生の頃はよく誰かと衝突していた、特にカイトに対しては遠慮が無く一時期はよく喧嘩していた。

 

「貴方が大泣きしながら帰って来たのは驚いたわね」

 

「昔の話よ」

 

 そんな彼女が場をわきまえるようになったのは小学生の5年生の終わり頃、いつもと変わらずにアミとカイトが喧嘩をしていた時に起きた。

 

「アミなんて大っ嫌いだ、顔も見たくない」

 

「っ!」

 

 そんな彼の言葉は当時も強固だった彼女のメンタルを容易く破壊した。そんな彼女は眼から涙を浮かべ泣き腫らしてしまったのだ。

 

「時間は必要かもしれないけどあの子は大丈夫よ。未来の旦那を信じなさいよ」

 

「だ、旦那って!?」

 

「楽しみねぇ」

 

「もう、お母さん!」

 

 愉快に笑う母を見て思わず赤くなるアミ、その表情は満更ではなさそうだった。

 

ーーーー

 

「駄目だ!」

 

 たった数時間で資料と設計図のなり損ないの山に埋もれた部屋でカイトは大きな声を出した。

 

「やっぱり参考にするLBXを買ってくるか」

 

 個人的にはアキレスをバラして見たいのだがあれはバンのであるためにあまりよろしくない。それにバラして組み立てられるのかは分からないために迂闊に触れない。

 

「明日、橋の下に行ってみるか…」

 

 橋の下とは非公認の露天商がならぶエリアの事でたまに商品に出来なかった試作品が出回っていることがある。もしかしたら掘り出し物があるかもしれない。

 

「行こう…」

 

 そうと決めたカイトは帰宅してから片時も離れなかった机から立ち上がり足の踏み場もない部屋を移動する。器用に移動した彼はベットに倒れ込み眠りにつくのだった。

 その時、時計は朝の5時を示していたのは彼は知るよしもない。

 

ーーーー

 

「カイト、カイト!」

 

 翌朝、学校に行くためにアミたちは彼の家を訪ねたが応答がないばかりか中に人の居る気配がなかった。

 

「先に行ったのかな?」

 

「分からないなぁ、妙に静かだけどな」

 

 昨日の件もあり、様子を見に来たバンとカズは少しだけ浮かない顔で話す。

 

「カイト…」

 

「大丈夫だって、アミ。カイトの事だからひょこっと居たりするよ」

 

「そうそう、アイツ。根に持つタイプじゃないだろ」

 

「とりあえず学校に行ってみようよ」

 

 意気消沈するアミを見て慰める二人。調子の良いことばかり言っていることが分かってても二人は言葉を重ねながらアミを学校に向かわせるのだった。

 

ーー

 

 そんな彼らを心配させる中、カイトは自室で深い眠りについていた。

 

「あと5分…」

 

 昨日の夜更かしが原因で寝坊していただけであった。

 

ーー

 

「カイト…」

 

「アミちゃん、大丈夫?」

 

「ごめん、リュウ。ちょっとそっとしてくれる」

 

 学校にもカイトが来ていないと分かったアミは自身の机の上で突っ伏し、死体の如く動かなくなった。

 

「アミ、重傷だな」

 

「仕方ないよ、あれからカイトに会えてないらしいから。アキレスを手に入れられたのもカイトのお陰なのに」

 

 休み時間を利用して様子を見に来たカズはアミの珍しい状態を見て気の毒にしか思えなくなってきた。

 彼の休みは学校の間でも噂になっている。今まで、無遅刻無欠席の彼が休んだのだから当然と言えば当然だろう。

 

「無断欠席らしいね」

 

「あいつ、超が着くほどの優等生だもんな」

 

 機械バカという点を除けばカイトは理想の生徒と言っても良い。病気を除いては無遅刻無欠席、成績は優秀で運動神経も悪くないし容姿もある程度整っている。

 

「そこら辺をぶらぶらしてるかもしれないから学校終わったら見てくるわ」

 

「カズ、なんでそう思うんだ」

 

「落ち込みたいときは家じゃなくて外をぶらぶらした方が楽だからな」

 

「頼む、俺はアミの様子を見てるよ」

 

「そうだな」

 

 仕方ないと言わんばかりに頭も掻くカズ。

 もしタイミングが違えばハカイオーの犠牲になっていたのは彼のウォーリアだっただろう。ある意味、カイトに助けられたカズは少なからず恩を感じていたのだ。

 

ーー

 

「やってしまった…」

 

 川の土手で大きなため息をついていたのはカイト。彼は先程、起床したばかりで家に居る気もなれずにぶらぶらとしていたのだった。

 

「今までにない程、熱中していたせいでこんな事になるなんて」

 

 再びため息をつくカイト。だが終わってしまったことを後悔していても仕方がない。時間はもうすぐ授業が終わる頃、当初の目的だった橋の下で物色した後に北島模型店でアミたちに謝ろう。

 

「行くか…」

 

 そう言うと目的地に向けて歩き始めるのだった。

 

ーー

 

「やあ、君。LBXを捜してるのかい?」

 

「あぁ、よく分かったね」

 

 目的地に辿り着いたカイトは物色を開始しようと辺りを見渡していると一人の露天商が話し掛けてきた。

 

「だったらどうだい、見ていかないかい。安くしておくからさ」

 

「へぇ」

 

「よりどりみどり、好きなのを見て行ってよね」

 

 露天商が出していたのはズール、ムシャ、タイタンなど最新モデルからロングセラーモデルまでと多岐にわたっていた。

 

「随分と揃えてるね」

 

「そうだろう」

 

「おじさん、その顔はもっと良いのがあるって顔だね」

 

「おや、分かったかい。実は一点ものの超レアLBXがあるんだよ」

 

 露天商はニヤリと笑うと奥の方から黄色いLBXを取り出し台に乗せる。

 

「名前は《エジプト》接近戦に強いタイプで同じタイプのウォーリアに比べたら3倍も出力があるぜ」

 

「見たことない奇抜なデザインだね」

 

 凶暴そうな顔に反し肩にはピエロのような大胆な絵柄がある。

 

「どうだい?」

 

「エジプトって言うんだから砂漠戦に強いのかな」

 

「そうだよ、脚部の設置性が高くて滑りやすい砂漠でも問題なく運用できる」

 

「開発メーカーは?言って置くけど既存のメーカーじゃないって事は分かってるよ」

 

 既存のメーカーは試作品含め全て見るだけ見てきた彼はこのLBXが新たな企業の試作品だと踏んでいた。

 

「か、神谷重工だよ」

 

「あの大手重工メーカーか…」

 

 あまりにも迫ってきたカイトに気圧され思わず口を滑らす露天商。

 

「良いね」

 

 実際に手に持ちエジプトを眺めるカイト。その時、エジプトの目を見た瞬間、気が遠くなるのを感じたのだった。

 

 

 

 





 どうも砂岩でございます。
 今回はエジプト編の前編と言う事でやっていきました。次回はエジプト対アキレスですね。

 話は変わりますが投稿の件です。
 投稿時間と日は出来るだけダンボール戦機の放送時間を心がけていました。よく遅れて出していましたが…。
 そして次回からはこんな駄文を心待ちにされている方々がいると分かったので出来るだけ早くやっていきます(出来るだけ)。
 完成した日の19時半に投稿することにします!

では最後まで読んで頂きありがとうございます!


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