ダンボール戦機 禁忌の箱を守りし幻影 作:砂岩改(やや復活)
「す、すげぇ」
「ええ、準決勝のレベルしゃないわよ」
バロンとジンの戦いは他の試合と比べ隔絶していた。まさに死闘、これ程の戦いが繰り広げられるとは思わなかった。その証拠に会場は歓声に沸き上がり収まらない。
「でもあの設計思想のLBX…」
「どうしたの、リュウ?」
「え、いやぁ。何でもないよアミちゃん」
カイトと同じLBXの部品マニアであるリュウはバロンの陸戦型ガンダムを見て彼のジムシリーズを連想させた。あのバーニアにおける超駆動、出力は従来のシリーズの桁違いだろうが全体的な開発思想が完全に一致している。
「……」
一階の脇で休憩しているバロンを見つめるリュウはその正体に気づいたのだった。
ーー
その後、バンとジンの決勝戦。準決勝の熱気に当てられていた観客もさらにヒートアップし、二人は激戦を繰り広げた。
拮抗する両者の戦い。その結果は実に呆気ないものであった。超稼働を見せたジ・エンペラーはシステムの加負荷により機能停止。
激戦の中、勝利を掴みとったのはバンとなった。
(運も実力のうち。それに勝敗は誰の手に渡るか分からなかった。いい勝負だったなバン)
大盛況の中、アングラビシダスは幕を閉じ。カイトは一足早く会場を後にする。先にブルーキャッツに先回りしておかねばならないからだ。
「カイト!」
「お疲れ、遅かったな」
そのしばらく後。ブルーキャッツに上がってきたバンたちはカウンターでコーヒーを楽しんでいたカイトを発見した。
「貴方こそ、いつ来たの?」
「先程な、そろそろ終わる頃かと思ってな。それで、檜山さんから聞いたぞ。優勝したそうじゃないか、分かったのか?」
「そうだ、卓也さん。少し調べてほしいことが!」
「あぁ、なんだ?」
カイトの横に座っていた卓也はバンの表情を見てすぐにパソコンを取り出すのだった。
「ポイント539-934。海道ジンは確かにそう言ったんだな?」
「はい」
「海道ジンが刺客だとはな…」
「まさか。そのポイントは…」
「あぁ、海道義光の屋敷だ」
そう言うと卓也は義光の写真を出すとアミが驚く。
「先進開発省の大臣じゃない!」
「先進開発省?」
バンとカズが首を傾げるのを見てカイトはため息をつきながら捕捉説明をする。
「LBXを管轄する省だよ。9年前から先進技術庁長官を務め続けて財前宗助内閣になってから、LBXの扱いを巡り財前と政敵として対立している人物だ。海道義光はLBXの兵器化を推し進めている人だ」
「そして海道財閥総帥でもあるとんでもない大物だ。そいつがイノベーターの黒幕」
「そして、海道ジンは海道義光の孫なんだよ」
「あいつが海道義光の孫…」
海道ジン。確かにミステリアスな人物手はあるが根っからの悪人と言うわけでは無さそうだが。まぁ、それはおいといて現在において彼は敵だというのは間違いないだろう。
「そいつ、そいつが黒幕か…。すぐに取っ捕まえましょう!」
「無理だ。イノベーターの仲間は警察にも潜んでいる。下手をすれば俺たちも危ない」
会議に参加していた郷田が声を出すも敵は巨大すぎる。現時点ではどうしようもない。
「助けに行きましょう。せっかくバンのお父さんの場所が分かったのだから」
「だが海道義光の屋敷に山野博士が囚われてるとなると」
「助け出すのは難しいな」
「やっぱりそこも」
「奴は政府の要人だ。屋敷には何重ものセキュリティーが張り巡らされている」
確かに裏で何をやっていようと彼は政府の重要人物。下手すればこちらが犯罪者として吊し上げられる。
「助け出すのはかなり難しいな」
「どうすればいいのか…」
「コレばかりはどうしようもないな…」
すぐにいって解決するものでもない。
「手伝わせて貰えないかしら」
「あなたは…」
「リナ」
「海道邸のデータならここにあるわ」
名は石森リナ。彼女はどうやら知り合いのようでレックスと卓也たちと話すとUSBを渡す。どうやらその中にデータが入っているらしい。
「これでなんとかなりそうね…カイト?」
「……」
道が開けてきたと安心するアミに対してカイトはなにも反応せず自分の目の前にあるコーヒーを見つめるのだった。
ーー
「海道邸の設計図よ」
「よく、手に入れられたな」
「海道邸を設計した会社のネットワークに侵入したの。これで侵入ルートを見つけられるはずよ」
卓也のパソコンからデータを呼び出して設計図を見るがコレだけではキツイ、解析用のコンピューターが欲しいところだ。
「これで突破口が開けるな」
「私、あの人結構好きかも。行動力あるし格好いいし」
「アミは目指さなくていいから」
「なんでよ」
リナに尊敬の眼差しを送るアミにカイトは咎める。
「これ以上、アクティビティになられたらこっちの心臓が持たない。何年、寿命を縮めればいいんだ?」
「確かにな」
「もう、カズまで…」
状況が状況なだけに小さく笑う三人だがカイトの目だけが笑わずにリナを見つめていた。
「これを詳しく解析する場所が必要なの。どこかあるかしら」
「だったら、あそこにいくしかないな」
「とうとうコイツらを連れて行くかよ。気がのらねぇな」
「そろそろ頃合いだろう。バンたちはもう仲間だ」
卓也の言葉に郷田は渋るがレックスも賛成しとある場所に連れていかれることになった。
「なんの話?」
「来れば分かる」
車に乗せられ、その場所とやらに連れていかれている時。レックスは卓也とリナの関係について語りだした。
三人は元々、タイニーオービットの研究開発室で共に働いていたらしい。その後、イノベーターに捕まりなんとかレックスは脱出していたらしい。
「目的地はあれだ」
「トキオシア、あれデパートじゃ?」
トキオシア、街中によくある巨大なデパートだ。イメージ的にはイ◯ンなどが近いかもしれない。
車は慣れたように駐車場に降りていくと車ごと地下深くまで降下し様々なルートを使って辿り着いた場所は最新設備が揃う基地であった。
「ようこそ、シーカーへ。シーカーはイノベーターのような組織に対抗するために作られたテロ対策ユニットだ」
卓也たちの大まかな説明を終えてバンたちは周りをみわたしていると違う扉から見知ったメンバーが顔を出した。
「おう、アミちゃん」
「みんな、どうして?」
「コイツらも仲間だ」
「LBXに対抗するのはLBXだ。スペックはもちろんのこと、それを操作するプレーヤーにも高い能力が求められる。つまり君たちだ」
「これまでの様々な研究から、LBXの操作は大人よりも子供たちの方が上手いと言う結果が出ている。そこで我々は子供たちをシーカーに加えることにしたんだ」
合理的な説明は分かったが人道的にそれはどうなのかと問いたいがそれは野暮と言うものだろう。
「そんなこと言われても」
「やるしかないわ。イノベーターの陰謀を知ってしまったからには」
「う、うん」
(ヤバイ、格好いい。惚れなおしてしまいそう)
いまだに怖じけづくカズにアミが一喝するのを見たカイトは下らないことを頭に浮かべながら周りの話を聞く。一通りの話し合いが終わるとカイトのそばにリュウが駆け寄ってくる。
「リュウか。頼まれていた機体の準備が終わったぞ」
「あぁ、前に言ってた奴な。ありがとよ」
カイトは鞄にしまっていたケースをリュウに渡す。するとリュウはさらに近くに寄ると耳打ちをする。
「なぁ、少し気になったんだけどよ。ナイトバロンって…」
「んなわけないだろ」
リュウの言葉を最後まで聞かずに押し退けたカイトは彼を追い払うのだった。おそらくLBXを見て気づいたんだろうが今、バラされるのは困る。
このシーカーに集まったプレーヤーは10人。皆、それぞれのLBXを机に並べると壮観である。
「みんな聞いてくれ。シーカーはここに新たに戦力を得た、山野博士を救出しイノベーターの陰謀を阻止するためにこの少年ちとともに戦おう!」
卓也の言葉にその場にいたシーカーのメンバーが大きく頷くのだった。