ダンボール戦機 禁忌の箱を守りし幻影 作:砂岩改(やや復活)
「はぁ、はぁ…」
「待て!」
警告音が鳴り響き非常事態を告げる赤い照明に包まれた施設を全力で駆ける女性。
それを追い掛けるのは黒服の人物達、黒服達は全力で走る女性に対しいまだに追い付けずにいた。
「はぁ…っ!」
施設の出入り口に辿り着いた女性は降りてくる隔壁を見ると思わず足を止める。
迫る隔壁、追っ手…女性の決断は前進することだった。
迫る隔壁に対し身を滑らせ出口に出る、それと同時に隔壁は閉まり追っ手は追跡を中断せざる得なかった。
ーーーー
「お待たせ」
「おう、遅かったな」
「何してたのよ」
ミソラ町の北島模型店、そこに訪れたカイトは手提げのケースを持っていた。
それを迎え入れたのは友人の青島カズヤことカズとアミの二人、いつものメンバーだったがカイトは疑問の声を上げる。
「バンは?」
「それがまだなんだよ」
「遅れてごめん。さぁ、やろうぜ!」
カズの呟きと共に姿を表したのは話題の人物、山野バンだった。
「遅かったな」
「アナタが言える立場なの?」
「う…」
カイトの言葉に対し反応したのはアミ、彼女の言い分はもっともで思わず苦い顔をしてしまう。
そんな光景をヤレヤレとしながら見ているカズ、そんな中、バンは持っていたカバンから雑誌を取り出していた。
「ごめんごめん、今週のLマガ今日が発売日だったから」
「しまった、今日発売だったのかよ」
「バン、カイト。いらっしゃい」
いつも通りの他愛ない話しをする中、店内の奥から2人の男女が姿を現す。
「今日は遅かったな」
「「店長、沙希さん。こんにちは」」
明るく声をかけた2人に対しバンとカイトも元気良く返事をする。
「4人とも来て見ろ。面白い物があるぜ」
4人はこの店の常連で基本的に店の中で入り浸っているため仲が良い、今回のようにレアものを拝ませてくれるのは常連の特権という物だろう。
「見ろ。今日入荷した新型だ」
「アキレス」
白を基調とした新型機がパッケージに描かれておりまさしく騎士をイメージした機体だろう。大きな楯とランスがそのイメージをさらに際立たせている。
「「「すげぇ!」」」
期待に胸を膨らませ箱を丁寧に開けていくとそこにはパーツがびっしりと並びその高いデザイン性を感じさせる。
「ステキなデザインね」
「アーマーフレームのみのパッケージか」
「コアスケルトンが無いと使えないな」
カイトを除く3人がそれぞれの感想を述べる。
基本的にLBXは基本フレームであるコアスケルトンとその装甲であるアーマーフレームがセットで着いてくる。つまりこの機体は経験者用の上級者向け向けのパッケージと会うことになる。
「タイニーオービット?アキレスなんて機種無かったはずだけど」
「そうなんだよ。問屋から新製品だと送られてきたんだが、カタログにも載ってないんだ」
「つまり、超レアモノってこと凄え欲しい!」
カイトの指摘を受けて同じく頭を悩ます店長、だがそれを聞いたバンのテンションはうなぎ上りだ。
「無理無理、どうせお前の財布事情じゃ買えないし。母ちゃんがLBXやるの許してくれないだろ?」
「そうなんだよなぁ。でも近いうちに手に入れてやる!」
「健闘を祈るぜ」
新製品が入る度に繰り返されるバンとカズの掛け合いに笑って目を合わせるアミとカイトだった。
「それじゃ。気を取り直してやるか!」
「おう!」
新製品のアキレスで盛り上がった所、バンの言葉で全員がキタジマに来た本来の目的を思い出す。
「バン」
「サンキュー、カイト」
早速LBXバトルを始めようと言う時にカイトはバンにジム改を手渡した。
カイトの持っているLBXは全て手造りで彼1人の手でフルスクラッチされたものだ。バンに渡されたジム改はトリントン基地に配備されていた白を基調としたタイプだ。
「バトルは2on2のチーム戦だな」
「おう」
「かかって来なさい!」
「行くぞ、バン!」
「あぁ、やってやろう!」
カズ、アミのウォーリアとクノイチと対峙するのはバンとカイトのジム改とジムカスタム。
「「「行くぞ(わよ)」」」
4機のLBXは地面を蹴り、お互いの期待に向けて加速するのだった。
ーー
「てぃ!」
「くっ!」
ステージは平原を模した場所、起伏の少ない地形は多くの戦いで利用されるスタンダードなステージだ。
カイトのジムカスタムは素早くマシンガンを撃ち放つが機動性の優れたクノイチの動きを捉えることが出来ない。
「貰ったわ!」
「まだ甘い!」
弾幕をかいくぐりクナイを振るうクノイチ、だがシールドを全面に押し出しタックルするジムカスタムに押され吹き飛ばされる。
パワー差もそうだが純粋な重さのぶつかり合いではジムカスタムの分がある。
「しまった!」
「そこぉ!」
吹き飛ばされ空中で体勢を整えるクノイチだったがジムカスタムは全身のスラスターを噴かしそれに追いつく、そして抜き放ったビームサーベルを振るう。
「間に合わない!」
ビームサーベルがクノイチの胴体に直撃、再び吹き飛ばされたクノイチは数回バウンドしブレイクオーバーするのだった。
「うわぁ!?」
「よっしゃ!」
バンとカズの戦いもちょうど終えたようでバンの歓喜の声が聞こえる。
「ちぇ、また負けちまった。強いな、その機体」
「そりゃ、俺がフルカスタムして作った機体だからな」
「酷いなぁ、俺だってちゃんと作戦を練ってやってるんだよ」
「それは自分の機体を買ってそれで戦ってからだな」
「そうなんだよなぁ…」
カズの言葉に帰す言葉もなくバンはうな垂れる。まぁ、こればっかりは家庭の事情なのでこちらからはどうすることも出来ないのが現状だが。
その後も何度かバトルを繰り返し外が夕焼けで明るくなっていた。
「もうこんな時間か、続きはまた今度だな」
「そうね。カイト、夕飯のお使い頼まれてるから付き合って」
「あぁ…」
「相変わらずお熱いこって」
「そうだね…」
もはや日常の出来事と化している2人の会話だが人の色恋沙汰に敏感な中学生にとっては充分、お腹一杯な2人だ。
「じゃあ、俺はLマガ買いに行くわ」
「あぁ、みんなじゃあね!」
それぞれ用事を済ませて帰る4人、店主と沙希さんに挨拶をして解散する。
「それにしても自作なのに凄い完成度よね。カイトの機体は」
「何事も自己満足さ。自分の納得できる物が出来るまでやったらおのずと良い物が出来るのさ」
「確かにね。自分が納得できない物なんて評価されないわよね」
「その通り。LBX制作もバトルも自分が納得できるまでやり通す。今だに終わりが見えないから面白い」
LBXの話しになると目を輝かせて笑う彼の笑顔、アミはとても好きだった。
「私の機体も作ってくれる?」
「もちろん!」
「でも作れるのかしら。貴方は重装甲の鈍足をスラスター無理矢理解決してるなら。私は薄い方が好みなんだけど」
「う…。そう言われるとちょっと難しいかも」
彼女の言葉に思わず苦しむカイト、確かに彼の戦い方はアミとは正反対だ。
素早く手数で立ち回るアミに対して彼は重装甲で護りつつ少ないチャンスを確実にものにする戦い方だ。
「まぁ。そこは追々と考えていくよ」
「いつまでかかるのやら」
呆れたように言葉を言い放つアミだがその表情は心底楽しそうであった。
楽しく談笑する2人、そんな2人が数年後には伝説のプレーヤーの1人として名を馳せるのはこの頃、誰も思いはしないだろう。