ダンボール戦機 禁忌の箱を守りし幻影 作:砂岩改(やや復活)
鈴鹿とのバトルから三日後、ゼフィランサスの調整に手を入れつつカイトはアングラビシダスに向けて一人で準備を行っていた。
残念ながらその間、三人とはあまり話を出来ておらずどう仕上がっているかは不明だった。そして当日…。
(相変わらずガラの悪い連中の溜まり場だなここは)
話してみれば中々、面白い人物ばかりだが見た目が悪いがために絵面がすごいことになっている。
「バロンだ!」
「おぉ、お前。アルテミスの出場権持ってるくせにまた参加するのかよ!」
「また俺たちを楽しませてくれ!」
ナイト・バロンの姿で会場に姿を表したカイトは周りの人々に声をかけられながらメイン会場が見える位置まで移動する。なにも言わずに道を開けてくれるのはかなり気分がいい。
「諸君、アングラビシダスにようこそ。俺はレックス、この大会を俺の名で開くこと光栄に思え…」
伝説のプレーヤーレックス。その姿に観衆の目が向けられる。
「アングラビシダスは破壊の祭典。ルールがないのがルール、バトルはアンリミテッドレギュレーションのみで行われる。なおかつ、今回はここで優勝した者にLBX世界大会アルテミスの出場権を与えてやる!最強のLBXプレーヤーを目指し、存分に腕を振るい、ぶっこわしてやれ!」
「うおぉぉぉ!」
「雰囲気に飲まれちゃダメだ。この中にイノベーターの刺客がいるんだからな」
「あぁ…」
「結局、カイトは来てくれなかったわ」
この10日間、ずっと部屋にこもりっぱなしのカイトを心配しているアミ。そんな時に応援に駆けつけたリュウとミカが現れた。
「二人ともここは初めて?」
「郷田さんいるときはいる」
「俺は初めてなんだ。すげぇバトルが見られるんだろうな、楽しみ」
(アミ…。リュウやミカまで来たのか)
レックスの言葉に反応した観衆が雄叫びを上げる中、カイトは2階の観客席にバンたちの姿を確認し移動する。
「では発表する。運命の対戦カードはこれだ!」
「俺の対戦相手は?」
「お前が山野バンってのは?」
バンが自身の対戦相手を探そうと身を乗り出していると背後から大男が出現する。
「お前のLBXの首を頂くぜ」
通称、首狩りガトー。地下世界では名の知れたプレーヤー、それがバンの相手であった。
「久しいな、ガトー」
「おう、バロン。オメェが出るって聞いて嬉しかったぜ」
「なにあの仮面…」
ガトーの大きさに驚いていたバンたちは突如出現した仮面の男に更に警戒する。
「てめぇとかち合うのは決勝戦か。今度こそおめぇのLBXの首を刈ってやるぜ」
「ふっ、いつも通り叩き潰してやるさ」
バロンと呼ばれた人物はガトーと話し終えるとバンたちを一瞥してその場を去る。その際に周りにいた人たちが彼に対して道を作る。その異様な光景を見ながらバンたちは仮面の男の背中を見つめるのだった。
ーー
選手の準備コーナーで作戦会議をしていたバンたちは相手のガトーについて話していた。
「首狩りガトーか…」
「バトルの最後に相手のLBXの首を切り落とす派手なパフォーマンス。アングラビシダスじゃ、かなり人気らしい」
「それも気になるけど。私はあの仮面の男が気になるわ。ほら、カズと2回戦で当たる」
仮面のせいだろうか、異様な気配を持つあのプレーヤー。アミは凄く気になっていた。周りの反応から見ればかなり有名なプレーヤーだということは想像がつくが。
カズは準備期間中に郷田から受け取った選手データを見て話し始める。
「闇の男爵、通称ナイト・バロン。アングラビシダスに突如出現した仮面のプレーヤーで無数の地下大会を何度も制覇している奴だ。オリジナルのLBXを使って高い操作技術を持っているらしい」
俗に言う優勝候補筆頭という奴だ。こいつもイノベーターの刺客かもしれないと思うとゾッとする。一体どういうバトルをするのか…。
ーー
(第一回戦Aグループはバンだけか…)
カイトは観客席で試合を見つめる。Bグループにはアミ、カズ、転校生のジン、そしてカイトがいる。文字通りギュウギュウずめであった。
カイトが考えている内にガトーとバンの試合が始まる。最初は逃げの一手であったバンだがいつもの調子を取り戻して反撃してきたがガトーのルール無用の戦い方にアキレスが右腕をもがれてしまった。
(バン、これがアングラビシダスという場所だ)
腕をもがれ、負けるかに思われたバンであったが咄嗟の機転と新しいアタックファンクションによりガトーを撃破。一応の窮地を脱したのだった。
(俺の番だな…)
アキレスの性能もバン自身の腕もかなり上がっていることを確認したカイトは仮面の下で笑みを浮かべながら会場に向かうのだった。
ーー
「いくぞ、ムシャ!」
カイトの相手は中年のおっさん。LBXはムシャ、獲物は大きな斬馬刀。
「出撃…」
対するカイトは陸戦型ガンダム。あの時に出現したパンドラに似せた白いLBX。背中に箱らしき物を背負うその姿はパンドラとは違いかなりゴツいがその無骨さの中でも密かな美しさがあった。
(悪いが一瞬で決めさせて貰う)
なぜか、仮面を被ると変なスイッチが入ってしまう。別に悪いことではないのだが仮面を被った方が恐らく、強い。
《では、バトルスタート》
「行くぜおらぁ!」
「……」
大きな斬馬刀を振りかざしながら正面から突入してくるムシャ。あっという間に距離を詰めたムシャは微動だにしない陸戦型ガンダムに斬馬刀を叩き落とす。
…筈だった。
取り回しの良い小型のシールド。その先端は鋭く尖っており攻撃にも転用可能。そのシールドを振るい振り上げられた斬馬刀の柄部分を攻撃、斬馬刀を弾き飛ばした。
「な、なんだと!?」
武器を失い、一旦退こうとするムシャ。カイトはその首根っこを掴み逃がさない。そして手にしていたマシンガンの銃口をムシャの胸に着け接射。
「や、やめろ!」
ゼロ距離からの攻撃になす術もないムシャはすぐさまブレイクオーバー。僅か数秒の決着、倒れたムシャを見ることなく帰還するガンダム。
「出直してこい…」
「くそ…」
一瞬の決着。それはジンも同じようで互いに目が合う、一瞬だけ睨み合う両者はなにも言うことなく舞台から身を引くのだった。
「あの二人、凄い…」
一瞬の決着を見ていたバンはその強さに思わず言葉を失うのだった。
ーー
(次はおそらくカズだろうな)
カイトは陸戦型ガンダムの調整をしながら次の対戦について考えていた。実際に何度も戦闘を見て、実際に触れたから分かる。ハンターの性能はとてつもなく高い。総合的な性能はハンターの方が上。
「なら、戦術で上回るしかないか…」
二回戦はすぐに始まる。次は確か仙道とか言う奴とカズ、カイトの試合だった。
その後、カイトの予想通り二回戦にはカズが上がることになった。
「今度はアイツか…」
「うん、凄い強かったよ。一瞬で敵を倒したからね」
ステージの前で既に腕を組みながら待っているバロンを見ながら警戒するバン。それに気づいたカイトは仮面越しに三人を見つめる。
(つらい…)
「気を付けなさいよ」
「分かってるよ。じゃあ、行ってくるぜ!」
完全に敵視され精神的に来ていたカイトと意気揚々にステージに上がるカズ。二人は対立しLBXをステージに下ろす。
「go、ハンター!」
「陸戦型ガンダム、出撃」
ステージは都市、狙撃が生かせる絶好のステージ。相手の獲物はマシンガン、ならここはセオリー通り、ロングレンジからの狙撃によって叩く。
《では、バトルスタート》
「行くぜ!」
《アタックファンクション スティンガーミサイル!》
(開幕からか!)
ハンターの背部から放たれる誘導ミサイルが陸戦型ガンダムに降り注ぐ。カイトは素早くマシンガンで二発撃ち落とすが残りの4発が機体に襲い掛かった。
「よっしゃ!」
相手の虚を着いた攻撃、これでやられるとは思っていない。カズは素早くハンターを移動させ狙撃の体勢を整えた。
「爆煙が晴れたら蜂の巣にしてやる」
(甘いな…)
爆煙が籠る地点にハンターは照準を合わせて待機する。しかしそこには既に陸戦型ガンダムの姿はなかった。そこに落ちていたのは奴が持っていたマシンガンのみ。
「いったいどこに?」
地理的優位はこちらにある。カズは辺りを見渡しながら周囲を警戒する。
そんなハンターの視角、彼が陣取っているビルより少し低いビルの屋上の影にカイトは隠れていた。手には両手式のキャノン砲、背中に懸架していたコンテナから取り出した武装だ。
「確か、カズくんと言ったな」
「な、なんだよ」
「スナイパーの弱点は視野が狭いことだ!」
「後ろだ、カズ!」
「なに!?」
バンの言葉は既に遅く、陸戦型ガンダムの放った弾がハンターに直撃。ビルから叩き落とされてしまう。
「くっそう…」
「スキがありすぎる!」
いつの間にか地上に降りていたカイトはキャノン砲を持たせたままガンダムを突撃させる。慌てて応戦するカズだがシールドと分厚い装甲に阻まれてあまりダメージを与えられない。
「もらった!」
キャノン砲の砲身がハンターの胴体に突き刺さり持ち上げれる。そこからのゼロ距離射撃、ハンターは空高く撃ち上げられた。
「ハンター!」
空中で逃げ場のないハンターはキャノン砲による更なる追撃を逃れられず撃破。ブレイクオーバーしてやられてしまった。
「うおぉぉぉ!」
カイトの容赦のない攻撃になす術もなくやられたカズは呆然とし観客は歓声を上げる。
「その強靭な脚力は狙撃位置に素早く移動するためだけかね?狙撃だけでは勝てないぞ…」
カイトはそう言い残すとステージから降りて待機場所に向かうのだった。
今回はカイト無双。次回、カイト対ジンの対決果たしてどんなバトルが繰り広げられるのか?