ダンボール戦機 禁忌の箱を守りし幻影 作:砂岩改(やや復活)
狙撃手の一番恐いところ。それは遠距離からの正確な射撃による攻撃、その考え方も間違ってはいないが厳密には違う。
狙撃手と対峙する際、恐怖心を煽られる最大の原因は相手の姿が見えないことである。
「多くの国民から支持を集めている若きリーダー。財前宗助総理の就任記念パレード、開始まで後五分となりました」
就任記念パレードの中間地点、そのビルの屋上にジムキャノンⅡで全周囲警戒をしているカイトの姿があった。
家から持ってきたラジオから流れてくるのはアナウンサーの声、カイトは中距離支援用に作られたセンサーで暗殺者を捜しているが反応は出ていなかった。
「みんな、現状を報告してくれ」
「こちらパレード中央地点のバン、アサシンはまだ見つからない」
「こちら中間地点のカイト、バンに同じく」
「パレード開始地点のアミ。こっちも同じ」
「パレード終了地点のカズ、こっちもいねぇ」
パレードの開始時間が早まり、現場に急行した4人はLBXを通して警戒するが怪しいのは見つからない。
「敵の動きの予測は?」
「まだだ、あと少しでパレードが始まってしまう…」
バンの言葉に対し焦っている宇崎の声が無線に響く。
子供に助けを求めてきた人に期待するべきではないのだがほんの少しかけていた期待を捨てて周りを見るカイト。
「小さなLBXを一体探すのは骨が折れるな…」
「そんなこと言ってないで探しなさいよ」
「分かってるよ」
探すと言っても高いビルが乱立したこの地域では狙撃ポイントは無数にある。ジムキャノンⅡの射撃予測ポイントは全て警官隊が配置されているため敵の影すら見当たらない。
「おいカズ。何をしているんだ」
「カスタマイズだ」
「今はアサシンを見つけ出すことが先決だ。ハンターの高精度照準機能を使って探してくれ」
「照準のズレを調整しないと使えないだろ」
カズがハンターの調整に入ってしまい終了地点の映像が途切れる。朝からハンターの命中精度不振に悩まされていた為だろうが少しだけタイミングが悪い。
「ねぇ、みんな。ちょっといい?」
「なんだ?」
「俺は今、取り込み中だ」
「どうしたの。バン?」
そんな時にバンがあることを思いつく。
「俺たちが敵の立場だったらどこで狙う」
「え、そうね。狙撃ポイントになりそうな所は警備が厳しいからパス」
「だよね、だから敵も警備が無いところを狙撃ポイントにするんじゃないかな」
当然の発想だ。暗殺者だって総理暗殺の罪で捕まりたくはないだろう。狙撃しやすく逃げやすい所から狙うはずだ。
「通りに面しているビルじゃなくてその奥のビルとかは?」
「この辺りはビルが乱立している。そんな事は出来るはずがない」
「でも暗殺者はそういう思い込みを利用するのかも」
「じゃあ、どうやって?」
「うーんと。銃弾を壁に跳ね返らせて狙うとか」
「跳弾か、それは角度的には無理だ」
跳弾は1度だけでも相当の技術力を求められる。あり得ない話ではないが計算上、1度の跳弾て通りまで銃弾を持っていくことは不可能な地形だ。
まぁ、世の中には銃弾を何度も跳弾させて目標を狙い撃つ化け物女子高生も居たりするがそれは別の話である。
「ねえ、ビルを貫通させて狙撃するのかも」
「ビルを貫通?」
「おい、そんな事は無理だと言っているだろう」
バンの突拍子な発言に思わず宇崎が口調を強くするが当の本人は確信に近い口調で話を続ける。
「タクヤさん。貫通させるのはガラスだけだったら可能でしょ。目の前にそういうビルがある」
「そんなものが…これは、中央に高い吹き抜けがある」
バンが見つけ出した建物にはガラスが張られた高いビルがありその予想は現実味をおびてくる。
「アミ、カズ、カイト。すぐにバンの所へ向かってくれ」
「分かったわ」
「……」
今までバンたちの会話を黙って聞いていたカイトは難しい顔をしながら目の前に広がるビル群を見つめていた。
(簡単すぎる…)
相手はプロの暗殺者だ。中学生がすぐに思いつくような所に配置するか。
「カイト、何をしている。バンたちの合流してくれ」
「分かった…」
そうは思っても他に当てはない。カイトは取りあえずバンたちと合流することにした。
「あのガラス越しにビルが見えるだろう。アサシンはあそこのどこかにいる」
「そうね」
「ハンターの照準機能を使おう」
「照準機能…」
ガラス越しにアサシンがいるか確認するためにカズはハンターを使って索敵を開始する。そんな時、カイトはとあることを思いついた。
「なあ、カズ。ハンターの高精度照準機能ってどこまで見れる」
「え?ライフルのスコープも一緒だとものすごい距離まで見られるけど」
「普通のLBXがライフルを持っている時よりもか?」
「あぁ、ざっとだけど二倍ぐらいは違うんじゃ無いか?」
「二倍、そんなに違うのか…」
「どうしたんだよ?」
カイトの要領の得ない質問に疑問の声を出すカズ。対してカイトは黙って喋らなくなった。
(もしアサシンがハンター並みの狙撃能力を持っているとしたら)
狙撃可能ポイントは格段に広がるはず。しかしここはビルが乱立していて距離を取るといっても…。
「どうしたのよカイト?」
周囲を見渡す彼を見てアミは不思議に思うが彼はそんな事、お構いなしに周囲を見続ける。その中に一際、高いビルが見える。
(あそこだ!)
直感に近い確信が彼の中で生まれ衝動的に走る。
「ちょっとカイト!」
「アミたちはそこを頼む。俺はあそこに行く!」
「いた!」
一際高いビル《ホリデービルディング》に1人で走るカイトをアミは追いかけようとするがカズの発見の声に足を止めたのだった。
「カイト、何をしている」
「簡単すぎるし非効率的だ」
「なに?」
アサシンを発見したビルから離れるカイトに慌てて話しかける宇崎は彼の言葉に面を喰らってしまう。
「低速とは言え常に動くターゲットを狙うにしては射角が狭すぎる。もし何かが起きれば修正、出来ないしガラスが割れて位置がバレる」
「しかしそれ以外の場所は考えられない」
「もし相手もハンター並みの狙撃能力を兼ね備えていたとしたら?暗殺のために特別に作ったLBXだとしたら?俺を操ってアキレスを破壊させようとした連中は態々、オリジナルのLBXを使ってきた」
冗談を差し引いてもあのLBXはかなりの高性能機だった。とても並みのLBXじゃない、それが今回のLBXも同じだったら。
「ちょっと待ってくれ」
カイトの言葉には十分な説得性がある。宇崎は彼の言葉を元に索敵範囲を広げてみると1つの候補を見つけ出した。
「ヘリポートのあるホリデービルディングか」
「ガラス張りのビルは任せて俺はそっちに向かう」
「分かった。頼む!」
宇崎の声を聞き届け通信を切ったカイトは全力疾走でそのビルに向かうのだった。
今回もかなり遅れてしまいました。申し訳ないです。
さて今回はこんな所でしたがカイトのカンが冴え渡っています。ついに次回は対アサシン戦になります。