「これは、一体どういう事なんだ?」
士郎は目の前の事についていけず、思わず呟く。
考えてみれば今日はおかしなことだらけだ。学校で襲われ、地獄の様な所に行き、帰ってこれたと思ったらまた同じ男に襲われ、今金髪の少女が自分の事を
しかも、戦っているのがまた異常なのである。少女も男も学校のグラウンドで見た時と同じように、常人では考えられない速さで動き回り、踏み込むと地が捲りあがり、得物がかち合うと火花が飛び散る。
しかも、自分の背丈より少し小さい普通に考えるなら華奢な少女が槍を持った男に負ける所か競り勝っているのである。
力の差もあるのかもしれないが、要因の一つとしては彼女の武器にあるのだろう。彼女の武器は一見何も無いように見える。しかし、目を凝らすとそこにはもやの様なものがあり、戦い火花が飛び散っている所、武器は確かに存在するようだ。男はそれで相手との距離感がうまく取れないのかとてもやりにくい様子で、苦い顔をしている。
「卑怯者めっ!自らの武器を隠すとは何事か!」
「どうしたランサー?止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行く」
「その前に一つ聞かせろ。貴様の宝具、それは剣か?」
「さあ、どうかな。斧かも知れぬし、槍かも知れぬ。いや、もしかすると弓かも知れぬぞ、ランサー」
「ぬかせ、剣使い!」
男は、そう言いながら槍を構える。
「もう一つ聞かせて貰うが、ここいらで分けって訳にはいかないか?」
「断る。貴方はここで倒れろ。ランサー」
「そうかよ。こっちは元々様子見のつもりだったんだがな」
男は槍を持つ手の力を強め、何時でも投げれる体制をとる。
端から見ていた士郎からでも分かるように、男の雰囲気が先程とは比べ物のない位に豹変する。そこから放たれる一撃はどんなにかわそうとも、決して逃しはせぬと言うような様子だ。
少女も何かを感じ取ったのか剣を構え直し、これから来る攻撃に対し対応出来るように、身構える。
「その心臓、貰い受ける───!」
男がそう言い放ち、槍を投げる動作に入った時である。
「そうはさせませんよ」
上空から声が聞こえたと思ったら、男の真上から金棒を持った男が落ちてくる。そして、そのままランサーの脳天へと金棒が叩きこまれた。
余程強い力でぶん殴られたのか、ふぎゃっ!、とランサーは地面にめり込み、頭からは白い煙が出ている。
突然の出来事に対して、さすがの少女も少し呆然としている。
「あなたは一体何なのですか!?何処の英霊だかは知りませんが、騎士の戦いに横出しをするとは、恥を知りなさい!」
少女は激怒して金棒の男に怒鳴り付けるが、その男は涼しい顔をしてこう答える。
「こちらとしては仕事で来ているものでして、この場合こうするのが一番手っ取り早いと思ったので、騎士の戦いとか知った事ではないですね」
「なっ……!?」
この答えに対し少女は、眉間にしわを寄せ、更に激怒し、今にも飛びかかりそうになる。
「貴女は確か、アルトリア・ペンドラゴンさんでしたよね?前の聖杯戦争にも参加されていたようで、貴女は特殊な立ち位置で釘をさせなかったとはいえ、まさかまた出て来られるとは」
「なっ何故、それをあなたが……!?」
少女は、今までの様子とは打って変わって、見るからに狼狽し、顔色も青白くなる。
「それについては、落ち着いてから話しましょう。取りあえず今はこの場をどうにかしましょう」
そう言いつつ、男はふらつきながらも立ち上がったランサーに対して振り返る。
「起きられましたか、気絶させるつもりでやったのですが。やはりお強いですね」
「チッ、やられっぱなしは性に合わないし、聞きたいことも色々あるが、マスターの命令もある事だ。ここは引かせてもらう」
そう言うや否や、ランサーは敷地の外へと跳躍し逃走をはかる。
「状況が悪くなると一目散に逃げ出す。……まるで犬ですね」
「犬って言うなーっ!!」
よっぽど言われたく無かったのか、ランサーは逃げながら叫ぶ。
「正に負け犬の遠吠えですね。アーチャーさんっ!ランサーが逃げ出したので後をお願いします!」
男が叫ぶと塀の上に突然男が現れる。士郎の見間違えでは無ければ、学校にいた赤い服を着た男である。
「了解した。マスターがここにいる坊主に用がある見たいなのでここに置いていかせて貰うぞ」
「分かりました。くれぐれも深追いはしないようにお願いします」
赤い男は、言葉は発せずに首を縦に振り。夜の暗闇へと消えていった。
「さて、では話し合いといきましょうか。それでいいですか?アルトリア……いえセイバーさん?」
「私はマスターがそれで良いと言うなら従うまでです」
「そうですか、ではあなたはそれで構いませんか?」
「待ってくれ、話すもなにもこれは言ったらどういう事なんだ!?」
「ふむ……、仕方のない事かも知れませんがかなり取り乱させれていますね。なにから話したものか」
男はそう言い、悩み始める。そこで更なる人物が現れる。
「その説明は私に任せて貰っても良いですか?鬼灯さん?」
「なっ!?」
士郎は門から現れた人物に今日何度めか分からない、驚愕をする。
「取りあえずこんばんは、衛宮くん」
「お前は、……遠坂っ!?」
そこに現れた少女は、士郎のよく知る人物だったのだから。
ここまでお読み頂いてありがとうございます。
ようやく鬼灯様を現世にちゃんと出すことが出来ました(笑)
鬼灯様が現世に来てからここに来るまでの話はまた追々という事で