スピリットが遊戯王モンスターになってた件   作:ドロイデン

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第六羽 羽休むは過去

「さて、とりあえずこれで全員揃ったかしらね」

 

 さて、机に座った俺達は劔菜先輩……今は劔菜部長のありがたいお言葉というか、大会のルールについて話すこととなった。

 

「まず参加人数は五人まで……蘭さんがプロデュエリストだから出場はできないから、今いるそれ以外のメンバー……私、椿姫、裕司、亮、そして蓮の五人で出ることになるわ」

 

「それはさっきも聞きましたけど……具体的に誰が出るかはどうやって決めるんですか?」

 

 実際俺はまだ本格的にこの世界で遊戯王を始めてまだ数日、大会ルールなど分かるわけもない。

 

「各試合毎に、運営からどの対戦形式になるか組み合わせが決まり次第手渡されて、それを各チームが試合開始30分前までに誰が出るか記入して提出するの」

 

「ついでにデッキのその場での改良は、基本的に試合直前の各チームに用意される控え室でのみ許されてる。だからそれ以外の場所でデッキを広げるのはルール違反になるから気をつけなさい」

 

 そう言われるが、俺個人が持ってるカードなどたかが知れてるし、何より俺のデッキ自体が結構珍しいカード扱いだから、そこまで……

 

「蓮、君は大きな勘違いをしてるみたいだから言っておくが、試合内容は公式で必ず動画アップされる。つまり対策を取られることになる……よって、試合に出場したなら必ず相手は対策を取ることになる」

 

「つまり、最初に対戦する選手以外は、相手のデッキを確認して、それに対するメタカードを自分のデッキを崩さないようにいれるのが定石ね」

 

 なるほど、言われてみれば確かに相手のモンスターの対策をするのは言われてみれば当然だろう。

 

「ついでに言うと連、アンタのデッキは両方とも一番対策が難しく無いから、すぐにメタカードを入れてくるでしょうね」

 

 その言葉に俺は首を傾げる。すると劔菜先輩が口を開く。

 

「連、君のデッキは両方とも基本的にエンドフェイズに永続魔法の効果で展開するデッキだ。しかも効果自体がシンプルだけに、『エンドサイク』や『虚無空間』、『大天使クリスティア』一枚で充分デッキその物を封じることができてしまう」

 

「???どういう?」

 

 『サイクロン』はともかく、流石に後者のカードについては知識が全くといっていいほど分からない。

 

「兄貴、『虚無空間』と『大天使クリスティア』にはお互いのモンスターの特殊召喚を封じる効果があるんす。つまり、『切り株都市』も『天文台』も意味を成さなくなるって事です」

 

 あ、なるほど……ってちょっと待て!!

 

「そんなことされたら『トランスターン』や『暴走召喚』も封じられるじゃねぇか!!」

 

 そう、俺のデッキのキーカードや、トークンを特殊召喚する『ジョーニン・トンビ』すら使えなくなる。文字通りデッキそのものが封印される危険性があるのだ。

 

「まぁそうだろうな……だから場合によっては別のデッキをもう一つ作って貰わねばならないな」

 

 別のデッキ……詰まる所マルチデッキプレイヤーに暗に指してるのだろうが、個人的には微妙だった。

 

「けど、俺にはそこまでカードが……」

 

 事実だ。あれから自宅を汲まなく捜索したが、遊戯王のカードはそこまで多くは出なかった。

 

「ふむ……ちなみに聞くがどのシリーズぐらいのカードまではある?」

 

「確か……『ZEXAL』編のカードと汎用魔法・罠カードがそれなりって所です……」

 

 そのため持ってるカードの大半が『No.』主体、そう考えるとデッキ構成するのはかなり厳しい。

 

「シンクロテーマのアンタが、エクシーズオンリーしかないって……でも、それなら方法はあるわね」

 

「そうだね姉さん……それだったら『ホープ』、『インゼクター』、『銀河光子』、『聖刻』、『エヴォル』に『マーメイル』とかなりあるしね」

 

 結構なシリーズが出てきたが、俺としては殆どピンとこない。

 

「えっと……それってどういったデッキなんです?」

 

「……『ホープ』はメインデッキをレベル4モンスターでエクストラの『希望皇ホープ』を呼んでから、『RUM』と『ZW』っていうサポートカテゴリーを組み込んで戦う……一時期最強レベルを誇ったデッキ」

 

「『インゼクター』は昆虫族でカテゴリーされていて、墓地や手札から『インゼクター』を装備したり破壊することで、相手フィールドを除去したり、はたまたエクシーズ召喚するデッキですね」

 

「『銀河光子』はアニメの天丈カイトのデッキをイメージすれば良いとして、『聖刻』は高レベルのドラゴンをリリースして特殊召喚するっていう珍しいスタイルのデッキ、リリースされると今度はデッキから通常ドラゴンを持ってこれるから、それを組み合わせて高ランクエクシーズモンスターで殴る事を主体としたビートダウンよ」

 

「『エヴォル』は恐竜族デッキで、エクシーズ召喚して出てくるモンスターが『神の宣告』を使えるっていうデッキだね。あと『マーメイル』は召喚や特殊召喚といった物から、墓地へ送られたりしたら、別の『マーメイル』を持ってくるデッキだね」

 

 流石はプロデュエリトと先輩方、ある程度のデッキコンセプトは暗記しているらしい。が、個人的に言わせてもらえば……

 

「どれも鳥関係ないな……」

 

 そう、はっきり言えば俺は無類の鳥好きであり、趣味にバードウォッチグを兼ねた登山をするほどだ。バトスピで勝ちづらい『シシグイ』をメインにしてるのも(他人からは他のXレアがエースに見られてるが)それが関係してる。

 

「それを言われれば見も蓋もないがな。だが、そのデッキでは勝ちに行くには厳しいのも事実だ」

 

「けど……このデッキは俺の……」

 

 俺が言いたいことが分かったのか、劔菜先輩はため息をつく。

 

「ならはっきり言う、蓮、お前のデッキでは地区大会が精々だ。やるからには優勝を狙う私たちにとって、それではダメなんだ」

 

「!!でも……これは……」

 

「……蓮、なんでそんなに拘るの?」

 

 蘭が意味不明と言うように聞いてくる。

 

「……だって……俺と『シシグイ』は……()()()()()()

 

「?どういうこと?」

 

「……シシグイは確かに強力なモンスターだ。だが、それは数があればという話であって、単品では殆どが無力なんだ」

 

 劔菜先輩が分かるように説明してくれる。

 

「当時、『シシグイ』が登場したときはその能力から複数枚出せば、上手くいけばかの『F・G・D』ですら殴り倒せる程の火力を出せるとして少しだけ有名になった。が、同時に欠点でもあった。なぜか分かるか?プロデュエリト?」

 

「……フィールドのモンスターの数?」

 

「そうだ。遊戯王において、フィールドのモンスターは5体と決まっている。が、そこに『シシグイ』を三体出すとしよう、そうなったとき、他の高火力シンクロ、エクシーズモンスターを召喚できないという事になった」

 

 それはバトスピにおいても同じで、バトスピでのコスト要因たるコアは有限、幾らコアブーストしてもその数には限りがある。そして、幾らシシグイがコストが5と低くても、3体もフィールドに存在すればかなりコアを圧迫する。そして攻撃力をブーストするためにスピリットを増やそうとすれば、レベル1のモンスターは大量に現れるが、紫のようなコアを外されれば、それだけで戦線が崩壊する。

 

「故に『シシグイ』はその優秀な能力を無価値とされ、当たっても外れ扱い、名ばかりのUR、当初は換金要因と酷く言われ、誰からも使われないという運命を受けたカードなんだ」

 

「……もしかして、蓮がデッキに殆ど鳥獣族しかモンスターを容れないのも?」

 

「そうだ。『シシグイ』は単品で通常召喚するにはアドが悪すぎる。そこで当初から『トランスターン』や『リビングデッドの呼び声』等からの『暴走召喚』で一気にフィールドアドを取るスタイルだったんだ。自身の能力も、風属性モンスターに、フィールドの鳥獣族を参照にする、つまり、必然的に数の少ない風属性・鳥獣族を組み合わせたデッキを作る以外に他ならなかった」

 

「ついでに、『シシグイ』はレベル5だから『トレード・イン』や『アドバンスドロー』、『七星の宝刀』の対象にならないから手札に来たら確実に腐る事になるから、所謂『事故物件』とさえも言われてたわ」

 

 さらにバトスピでも、シシグイ軸にしても、他人から『結局三枚手札に来なかったら何もできないじゃんw』とか、『それ入れるならスザクロス三積みの方がまだワンチャンあるからw』といわれ、ネトオクでも三枚で3桁を切った事もあるほどに不憫な扱いを受けているカードなのだ。

 

「けど、それとあんたと同じってどういうわけよ?」

 

「…………俺には一人、妹が居ます。そいつは俺なんかよりも勉強ができて、運動もできて、人付き合いも良くて、誰から見ても()()でした」

 

 ――話されるは、俺の過去。そして、俺の闇。


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