スピリットが遊戯王モンスターになってた件   作:ドロイデン

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2.5章 再炎の儀式
コラボ 儀式使いの戦士①


「しっかし、流石高級ホテルの自販機というべきか……品揃えも意外と多いな」

 

 右手でレモンスカッシュのペットボトル飲料を選択しながらそう言ってる俺に、亮は少し苦笑いをしていた。

 

「そうっすね、コーラとかスポドリなら良く見かけるっすけど、流石にレモンスカッシュとかマッ缶が売ってるとは思わなかったっす」

 

 全くもって同じくだ。というかこんな高級ホテルに来てまでマッ缶を飲みたいと思うやつがいるのか?

 

「そう言いつつマッ缶1本買ってると説得力ないっすよ」

 

「ま、その通りだわな」

 

 そんな感じで自販機前で談笑していたその時、右の腰に付けていたデッキケースから仄かな熱を感じた。何事かと思っていた次の瞬間、壁を挟んだ所からドサリという音が聞こえた。

 

「なんだ?今の音?」

 

 不思議に思い音の方向に向かってみると、そこには何やら丸い玉のようなアクセサリーを頭に重ねて身につけていた青い髪の少年が倒れていた。

 

 慌てて近寄ってみると、若干焦げた匂いはするが、どうやら気絶してるだけで呼吸とかはちゃんとしていた。

 

「どうするっすか、兄貴?」

 

「どうするって言われてもな……」

 

 普通なら病院に送るべきなのだが、俺のデッキが熱くなった所から見ても何か関係がありそうだし……

 

「……しゃあない、俺の部屋に連れてくぞ」

 

「ウッス!!」

 

 

 

「お、どうやら起きたみたいだな」

 

 運び終えてすぐさま売店からおにぎりやらサンドイッチやらを買い込んで(腹が減ってはなんとやらだしな)戻ってみると、丁度良く目が覚めた所だった。

 

「まさかホテルの廊下でいきなり倒れてたからな、仕方ないから俺の部屋に運んだけど文句は言うなよ」

 

 俺はそう言いながらおにぎりとサンドイッチのどちらが良いか尋ねた。

 

「……ここは?」

 

「ん?ここは俺の先輩の親が経営してるホテルのスウィートだぜ。さっきも言った通り、お前は廊下でいきなり倒れてたところを俺と俺の友人が運んだんだよ」

 

 俺はそう言いながらさっき買ったレモンスカッシュをグビグビと飲む。

 

「しかし、随分と酷く焦げてたけど、デュエルディスクは……大丈夫じゃなそうだな」

 

 見た感じだいぶ年期の入った感じにボロボロで、雷にでも撃たれたのか、真新しい焦げあともチラホラと見える。

 

「俺はそっちに詳しくは無いけど、ここまでボロボロだと直す方が苦労しそうだな……主に金銭的な意味で」

 

 ここまで機能的に逝ってるとオーバーホールか、安く済ますなら買い直すほか無いと思う。そうなれば少なくとも三万近くは掛かるだろうな……。

 

「詳しく見てみないと分からないが、これくらいならパーツを取り換えれば何とかなるだろう」

 

 どうやらそっち系の知識があるところを見ると、記憶がないとかそういう感じじゃなさそうだな。

 

「ま、それは今は良いや……と、そういや名乗ってなかったな、俺は風山蓮だ。蓮って呼んでくれ」

 

 俺がそう名乗ると、

 

「……俺はユーキだ」

 

 と名乗った。しかしユーキ、その名前を聞いたとき何となく既視感を感じた気がしたが、まぁ別に大丈夫だろう。

 

「ユーキか……ま、しかしあれだな。とりあえずシャワーでも浴びてこいよ。ちょうど知り合いにデュエルディスクに詳しい人間が居るから、その人に見てもらえば良いしな」

 

「なぜ初対面の俺にそこまでする?」

 

 俺の言葉に疑問符を付けながら聞いてくる。まぁ確かにその通りなのだが……

 

「まぁ……こっちもちょっとした訳有りなんだよ。ギブアンドテイクってやつだよ」

 

 下手にカードが反応したなんて言って頭おかしいと思われるのも嫌だしな。

 

「俺を助ける事に何のメリットがあるんだ?」

 

「ま、深く考えんなって。人の親切にはある程度素直に受け取っておくのが、ある程度の信頼関係を結ぶにはちょうど良いんだよ。それに高級ホテルのスウィートでシャワーなんて中々に体験できないしな」

 

 俺はそう言いながら何となく買っておいたマッ缶をユーキの座っているベットに置くと、カードキーを持って入り口のドアを出ようとした時だった。

 

「ならありがたく使わせてもらうが1つ忠告をしておく、あまり人を信じない方がいいぞ。もし俺が犯罪者だったらどうするつもりだったんだ?」

 

「……悪いがそりゃ痛いほど知ってるんでな、けど、何もかも疑って掛かってたら何も信じられなくなる。そんな風にはならないって、妹の墓前に誓ったんだよ」

 

 俺は歯を噛み締めながらそう言って出ていくと、ドアに寄りかかるような体勢となったあとにため息をついた。

 

「……居るんだろ、社長さんよ」

 

「おや、やはり気づいていたかな?」

 

 いつも通りの神出鬼没さで登場する社長に再びため息をつく。ここカードキーがないと入れない仕組みなんだけど……

 

「それで、君がこうして話しかけてくるとは珍しいじゃないか」

 

「とぼけんな、あのユーキってやつ……もしやアンタが言ってた組織の人間って事じゃ無いよな?」

 

「その可能性は多分0だね、少し監視カメラを覗いてみたけど、彼、何処からともなくあの場に現れて、あの場で気絶してたから」

 

 かなりの問題発言をしていたが、とりあえずそこは置いておこう。今はそれどころじゃない。

 

「正直に言えば、俺はあの龍帝に勝てるとは思えない」

 

「ほう?何とも弱気だね、君ともあろうものが」

 

「茶化すな、俺が勝てないって言うのは単純に相性の問題だ、アニメの台詞じゃないが、幾ら数で圧倒できても、究極の一には勝てないってのが良く分かった」

 

 俺のデッキは数を揃えて、底上げした火力で連打するのが常套手段、だがそれも揃える前に潰せるあの火力を前には意味を為さない。

 

「だからこそ聞きたい、アンタから見て、俺はその相性を覆せるほどの力を持っていると思っているのか?」

 

 俺の疑問に、社長は頤に手を当てて少し考える。

 

「正直に言えば、恐らく君一人の力では難しいだろうね。それほどまでにあの戦いにおいて龍帝使いは強力な一と言わざるをえない」

 

「やっぱり「だが」」

 

 だが、と社長はイラっとする程の笑顔で続けた。

 

「それは君一人の場合だ。君のデッキは、いや()()()()()()()には、必ず側にいる者が、君の魂とそのデッキに存在している」

 

 そう言うと社長は背を向け、

 

「彼とデュエルをするといい、恐らく彼とデュエルをすればそれについて何か分かるだろうさ」

 

 

 社長との会話を終えた俺はやれやれと思いながらカードキーを使って中に入る。すぐそばのシャワールームから水音が聞こえてる事から、やはりシャワーは浴びてるのだろう。

 

「しっかし……カードが……か」

 

 机の椅子に座りながら、社長から言われた言葉と不思議な現象を思い出す。さっきのデッキの熱、微かにだが心地よいような風も感じた。あれはいったいなんだったのか……

 

「は、アニメじゃあるまいし、カードに精霊が宿ってるとでも言うのかね」

 

「何ぶつぶつ呟いているんだ?」

 

「うあだ!?」

 

 いきなり声を掛けられ驚いた俺は椅子ごとひっくり返り背中をぶつける。

 

「お、おま……シャワー浴びてたんじゃねぇのかよ」

 

「シャワーは軽く済ませただけだ」

 

「そうかよ。で、だ……これからっていうか……」

 

 俺はそう言いながらユーキのデュエルディスクをチラリと眺める。

 

「取りあえず、こいつを直さないとな。これで代金はどうにかなるかどうか……」

 

 そう言って取り出したのは、使用するであろうデッキの物ではないカードの束だった。しかもご丁寧にスリーブまで付けてある。

 

「デュエルのカード?まぁ一概には言えないけど、最新のカードとか希少価値の高いカードはそれなりに売れるけど、それでも高くても3~4千円程度だぞ?コモンとかなんか1枚一円になるかも分からないしな。」

 

 幾らデュエル資本主義に傾倒してるとはいえ、あくまでも娯楽の一つだ。アニメとかじゃあるまいしとんでもない金額とかはまずあり得ない。

 

「それにデュエルディスクの個人認証システムも必要になるしな。そっちはまぁ俺が付き添えばなんとかなるだろうけど、それでもデュエルディスクの正規パーツを買い揃えるならそれこそ傷無しのホルアクティ最低5枚無きゃ無理だろ」

 

「安心しろこのデュエルディスクは手作りで、中古でもなんとかなるだろう」

 

「いやデュエルディスク手作りって……まぁカード売るにしてもそれなりの枚数無いとな……どれくらい持ってるんだ?」

 

 ケースを見た感じ、多く見積もっても百枚前後、全てURカードならともかく、普通のレアやSRもあるなら、高く見積もって3~4万前後だろう。

 

「ざっと100枚と言った所だろ。もっとも売れるかどうかは分からんけど。」

 

「まぁ見た感じ状態もまずまずだからな・・・下手な買取りする所じゃなければ三万ぐらいは行くかな・・・多分」

 

 となると明日はユーキを連れてあのカードショップに行かないといけないわけか。まぁ今日の明日だし都合が言いと言われればそうなんだが。

 

「まあ実際に売ってみれば分かるはずだ。」

 

 そう言ってユーキはカードをしまうと立ち上がり、

 

「それじゃ俺はこのへんで。色々ありがとうな。」

 

 そう言ってユーキは部屋を出ようと……ってオイマテ!!

 

「ちょい待ち、いったいどこに行くつもりだ?」

 

 俺はそう言いながらユーキの足を止める。

 

「生憎今はもう深夜近くだ。カードショップも閉店してるし、コンビニぐらいしか空いてない。それなのにどこへ行くつもりなんだ?」

 

「そうか。寝ていたから時間の感覚が分からなかっただけだ」

 

 俺はその言葉に、やはり隠そうとするのかと舌打ちをする。ならば

 

「それに、お前このホテルのカードキーを持ってるのか?当然だが、見た時のお前は連れが居なかった。先輩の話だと部屋の鍵とエレベーターの移動装置、非常階段の出入口は連動してるんだ、持ってないのにどうやって移動する腹積もりなんだ?」

 

 俺はそう言いながら腕に付けていたデュエルディスクを構える。

 

「悪いが俺はお人好しだが、頭が悪い訳じゃねぇんだ。下手に動けば俺はモンスターでお前を攻撃しなきゃならない。だがそっちはデュエルディスクが使えない、どうやってもお前が不利だぜ」

 

 半分は嘘だった。正直言えば俺にはあの龍帝使いみたいに攻撃を実体化させることはできないし、何よりこの程度で目の前の奴が諦めるとは到底思えない。

 

「別に俺も鬼じゃない、どうせ身動きが取れないなら、今夜はここに泊まっとけ。今すぐ動こうが明日すぐに動こうが結果は同じなんだ、こっちも今日は色々あって余計な体力を使いたくないんだ」

 

 ここまで言えば、脳筋でもない限り騒ぎを起こして悪目立ちするのは嫌がる。だから

 

「……ならそうさせてもらう」

 

 大人しく部屋に戻ってくれる。やはりこいつ自身脳筋じゃないし、普通に理解ができると見ても大丈夫だろう。

 

「分かってくれりゃそれでいい」

 

 俺はデュエルディスクをしまうと、軽く伸びをする。

 

「はぁ良かった、最悪うちのプロとか先輩と亮の家の黒服連中にお願いしての大捜索になるかもしれなかったからな。そうならないだけ安心だ、うん」

 

 そう言って俺はさっきまでユーキが寝ていたベッドの隣にあったベットに靴を脱いで横になる。さらにカードキーをデュエルに挿し込む。

 

「んじゃそっちのベッドは使っていいから、俺は寝させてもらうぜ」

 

 そう言って俺は目を瞑り、ゆっくりと眠るのだった。


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