目を覚まして最初に見たのは、見覚えの無い白色の天井だった。どうやら感触からベットに寝かせられてるのは分かったが、どうにも身体中激しい痛みが襲ってくる
「ん、気がついたみたい」
と、椅子に座ってチュッ○チ○ッ○ス舐めながら本を読んでいた蘭が、まるでいつも通りの無感情な声をかけてきた。
「……ここは?」
「劔菜先輩の家が所有してるホテルの一室、家まで運んでもよかったけど、ミーティングもしたいからって」
ミーティング……その言葉に俺はガバッと起き上がろうとするが、
「ウッ……!!」
「無理に起きるのはやめた方がいい、リアルであんな爆撃を食らったんだから」
痛みで思うように動かず、蘭から呆れるような声を頂くことになった。
「……予選は」
「一応ブロック2位だから大丈夫、数日開けて来週から地区大会本選」
「……そっか」
一応納得するが、それでも気分は全くもって晴れない。
「……悪い、少しだけ一人にさせてくれ」
「……分かった」
彼女はそう言うと立ち上がり、先程まで自分が座ってた椅子に、持っていたのだろう俺のデッキケースを置いた。
「……あんまり思い詰めたらダメだからね」
そう言って出ていく彼女に俺は何も言わなかった。
「……くそ」
悔しさ混じりにそう呟く。圧倒的だった、絶望的だった、壮絶だった……そう言うしかないほどに奴のデッキは強力で、かつ繊細に作り上げられた戦術、そしてそれを使いこなせる頭脳……どれもこれも俺以上の使い手だった。
別段負けるのは仕方ないし、負けた分はそれ以上に研究すればいい。けど、
『その程度の盆百で雑魚なデッキを使うとは、貴様、やはり『破壊神』ではなくなってしまったようだな』
奴の放ったその言葉は、俺のプライドを粉々にする程の衝撃だった。同時に、『魔龍帝ジークフリード』の一撃で俺の心が折れた。それを示すように後半は精細の欠いたデュエルをしてしまった。
悔しい以上に、自分自身の打たれ弱いメンタルに腹が立った。今回、全くもって何も出来なかった同然の結果が、さらに無性に歯噛みしたくなった。
「……」
おもむろにデッキを取り、中のカードを確認する。どのカードも自分が強いと思えるように組んだ一枚、けど、それ以上じゃない。
ほとんどのカードが寄せ集め同然の組み方をされてるこのままじゃ、多分勝ち続けるのは難しいだろう。それでも……
「次は……俺が絶対に勝つ」
「俺達が……ッスよ兄貴」
と、まるで見計らったように現れた亮に若干驚く。
「聞いてたのかよ」
「偶々ッスよ、なんでもかんでも一人で背負い込むのはダメだと俺は思うッス」
そう言って持っていたレジ袋からお握りを二つ、俺の好きな昆布おかかと鮭わさびマヨネーズのそれを渡した。
「強くなるにもまず体から、これ食べて元気つけてください兄貴」
「……おう」
勘のいい弟分の言葉を聞きながら、強くなることを誓うのだった。
「そうか……蓮は大丈夫そうだな」
隣室、椅子に座りながら2Lペットボトルのジュースをがぶ飲みしていた劔菜はニヤリと笑いながら呟いた。
「毎度のことで突っ込むのもアレだけどさ、劔菜ってホント令嬢ってイメージから掛け離れた事するよね」
「偏見というものだろそれは……それに洒落た高級なものより、安くて旨いこういうのだからこそ、やけ酒ならぬやけジュースにもってこいだろ?」
「そりゃそうだけどさ……だからってコーラがぶ飲みに手元にスナック菓子って、それこそニートゲーマーみたいだよ?」
僕の注意に我関せずという態度を取り続けてる劔菜にいつもながらに溜め息をついてしまう。
「……そんなに悔しかったの?」
「……悔しいで済めばこんなことはしていないさ。準備は怠ってなく、寧ろ少ない時間で研究した。それでも結果は惜敗だ、圧倒的に格が違うというやつだろう」
その言葉に僕も重く頷く。事実、仮に僕があの天使使いと戦ったとして、確実に勝てるかと聞かれれば確実にノーと言える。
僕の相手だって、結局的には僕が勝てたからいいものの、もしあの『ストライクジークヴルム』使いの相手が劔菜だとしたら、もしかすればストレート負けだったと考えても不自然はない。
「正直言おう……私達はまだまだカードを使いこなせていないと思っている」
「……どうして?」
「なに、それこそ私達のモンスターの元の敬称を考えれば一発だろう?」
そう言われて成る程と苦笑する。確かに劔菜の言う通りだとすればそうだろう。だが、
「言っては悪いけど、それでも亮と蘭は……」
「それこそいらない心配だ、それに亮と蓮は既に第一段階に踏み込んでいる。いや……既に蓮は二段階目か」
二段階目……その言葉が現す意味は……
「……確かに、でなければ
「その通り……詰まる所……私達はまだ強くなれる」
「――なら、頑張るしかないわね」
と、いつのまに戻ってきたのか、レジ袋片手に壁に寄りかかる姉……椿姫の姿があった。
「後輩たちが進歩してるのに、先輩が負けるわけにはいかないものね」
「そうだな……実力で負けてたとしても、それ以外で負けるわけにはいかないからな」
「僕たちの場合、経験の質だね」
僕が笑ってそういうと二人とも小さく笑った。
「忙しくなるぞ……」
「地区大会予選の決勝は一週間後だからね……」
「勝ち進んで、絶対に決勝に行くんだから!!」
僕ら二年生の絆……元から固く結び付いていたそれが確かに、確実に深くなったのは言うまでもなかった。
屋上、冷たい夜風を浴びながら私は空を眺めていた。
「……」
『随分と、悩んでるようだな』
取り出した一枚のカードから聞こえた声に、私はムッとして睨む。
「……私が何で悩むの?」
『さあな、我はお前ではあるまいてお前の考えなど分からん』
「……貴方を使えば、仮にあの『龍帝』とかいう奴に勝てた?」
私がそう聞くと、謎の声はくぐもった声で笑う。
『勝てたかどうかで聞けばそうだろうな。でなければ、貴様の
「試すような口調だけど、本心ならどうなの?」
『…………正直言うなら分からん、見た限りだが、あのデッキの展開力は主のそれと同じと言って過言なし、仮に戦うとすれば、どちらが先にエースを出せるかに勝負がつく』
それに、とその声の主は続ける。
『奴もまだ、自分の真のエースを隠しておる。そのカード次第では、我ですら勝てないと見ても不思議ではない』
「……かつて、異なる世界を統べた王の切り札だったあなたが?」
『その時と今とでは状況もカードプールも違う。故に、我が最強だとは大声で言えないものよ』
貴様の思い人の切り札のようにな、とそれは続けた。
「……どういう意味?」
『なに、すぐに分かることよな主よ』
そう言うと一切その声は聞こえなくなり、仕方なしにカードをしまった。
イッタイナンノカードナノカナァ~(すっとぼけ