あの絶叫のあと、何とかギャラリーを静めた俺達はプロデュエリスト……朱志那蘭と一緒に近くのハンバーガーチェーン店に来ていた。
「はぁ」
「大丈夫すか?兄貴?」
「だから兄貴言うなって……」
今日何度目かというこのやり取りに少しガックリしながら、俺は自分のコーラをストローで啜る。
「けど、まさかプロデュエリストがうちの学校に居たとは思わなかったすよ」
亮が小声でそういうと、当の本人は黙々と一番安いチキンのバーガーを五、六個置かれたトレイを持ってきてやって来る。
「ん、表舞台では紅いウィッグ被ってるし、それに普段他の人と関わらないから」
「そうですかい……」
何となく釈然としないが、俺もポテトを摘まんで一口食べる。
「でも凄いね」
「ん?何が?」
「君のプレイスタイル、あの時はああいったけど、ローパワーデッキをあそこまで巧みに使える人間はそうそう居ない。見たところ、デッキのモンスターって攻撃力2500以上ってエクストラデッキ含めてもそこまでないでしょ?」
「……まぁな」
事実だ。元々はバトスピでどれだけ低コスト爪鳥を早く展開して、パワーを上げまくって殴るかを目的としたデッキだ、必然的に高コスト高パワーなモンスターはとりわけ少ない。
「それに君のエースモンスター……多分『ゲイル・フェニックス』でも『ガルダーラ』でもなくて、効果で破壊された『シシグイ』でしょ?」
「……そうだ」
「確かにあのモンスターなら、『激流葬』とかでもない限りは召喚除去されないだろうし、ステータス的に『落とし穴』系のカードは効かない。三体だけでも攻撃力は2300、単純だけど強い」
……はっきり言ってここまで言われると逆に裏がありそうで怖くなる。実際、バトスピでは三体揃えようともコア除去封じモンスターがいなければすぐに崩れてしまうんだから。
「……けど、それでもやっぱり最強は私だよ」
「……ま、だろうな。アマチュアがプロデュエリスト相手に善戦したってところだろうし」
軽口風にそう言うが、実際負けたこと事態はかなり悔しいし、何よりデッキをうまく回せなかった事に対する苛立ちすらある。
「……そんなに悔しいならデッキ見てあげる?少しぐらいはアドバイスできるかもしれないし」
「…………」
彼女の申し出は素直に嬉しいものだったが、同時に大事なデッキを他人に見せてよいものかという葛藤もある。
「そんな睨まなくても、ただどうすればいいかアドバイスするだけ、それにどんな構築してるのか気になる」
「……ならいいけどさ」
仕方なくデッキを外して彼女に渡す。すると彼女は大雑把にカードを次々見ていき、約一分ぐらい観察すると、見ていたそれをもとに戻して軽くシャッフルして返してくる。
「…………」
「……メインデッキだけ見てはっきり言って良いなら、『シシグイ』に依存しすぎてるうえに、レベルがバラバラすぎる」
そう言われ少しだけムッとするが、まぁ当たってることなので何も言えない。
「特に『セッコーキジ』はそこまで能力が高くないから抜いて、代わりに『ハーピィ・レディ1』とか、もしくは『神鳥シムルグ』とか入れて攻撃力を増強すべき」
「それは……」
「『ゲニン・スズメ』も能力はそれなりに使えるかもしれないけど、それでもステータスが貧弱すぎるから抜くべき、逆に『チューニン・ツバメ』と『ジョーニン・トンビ』は基本的な軸に使えるから二枚じゃなくて三枚にするほうがシンクロ召喚も『シシグイ』を呼ぶにしても効率がいい」
「あの…………」
「あとデッキ枚数多すぎ、なにメインだけで55枚って?これじゃ『トランスターン』どころか『切り株都市』すら手に来ないで事故る可能性高い」
「うぐ………………」
「このデッキなら、少なくともモンスターは25、魔法10、罠が5から7の40~42枚のデッキにするのが一番回るし、何よりどのカードが来ても戦術が組める」
「……………………」チーン
ほぼほぼ完全否定である。まぁそりゃね?バトスピって一応デッキの枚数制限無いからね?コアブーストとかを入れて数で押す戦術だったから仕方ないよね……俺は悪くねぇ。
「……というよりも蓮、君他のデッキは無いのかい?どんなデュエリストでもサブデッキの一つや二つ持ってるはずだけど?」
「それは…………」
……一応あるにはあるのだが、鳥獣じゃないし風属性も入ってない、何より…………
「それ使ったら、絶対相手が嫌がる……」
「いやそれってどういう……」
「モンスター自爆特効させて相手だけにダメージ与えて永遠にループするスタイルの最悪ビートダウン」
「使用禁止、それ」
だろうね。少なくとも威嚇する咆哮とかバウンスするカードが入ってなかったら出された瞬間負け確定するし。多分禁止制限なら絶対に制限に入るだろうね。
「何なら今使っても良いけど?」
「……それって、私が勝てる可能性あるの?」
「出されてもデモチェン引ければワンチャンある」
「……やめておく」
残念と呟くと俺はふとデュエルディスクを確認する。
「げ!!わりぃ、おれ帰るわ!!」
「?どうしたんすかいきなり?」
「急がないとスーパーの特売に間に合わなくなるからよ!!片付け頼んでもいいか?」
「いいっすよ~というか、兄貴って一人暮らしなんすね?」
「……意外」
失礼だと思いつつ俺はハンバーガーチェーンから出て全速力で走り出す。特売開始まで残り30分。
「…………なぁ?なんでお前がここにいるの?」
さて特売から無事に帰還してマンションに辿り着いた俺は再び蘭と出会うことになった。
「……私の部屋、ここだから」
「……マジすか」
まぁ学生寮じゃないし、普通のマンションだからそういうのは問題じゃないけどさ……幾らなんでもどういう偶然だよ?
「……部屋は?」
「…………俺は438」
「……437」
はい、まさかのお隣さんでした。マジかよ……。
と、その時突然クゥーと不自然な音が聞こえてきた。まさかと思い隣の少女に目を向けると、顔を赤くしてそっぽを向いてる。うん、分かりやすい。
「……夕飯作ってやろうか?」
「……貸しは作りたくない」
「ならデッキで足りないカードを貸してくれ。それで取引といこう」
「…………………………………………分かった」
大分間があったが、そんなに考え込むことかな?
そう思っていた時期が俺にもありました。うん、だってね
「……」ガツガツモキュモキュ
まるでリスみたいに頬張ってるよ……というか既に丼で四杯目だし。
ちなみにここまでニラ玉炒め、唐揚げ、餃子と少なくとも四人分の量は出してるんだが、既に半分が彼女の胃のなかに消えてしまっている。
「……ご飯おかわり」モキュモキュ
「いやおい、少しは自重しやがれ」
……ちなみにこの食事によって一週間分の食料の半分が消えたのは当然であり、この女に二度と奢らないと心に決めた。