エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第5幕 立場

 

 

 

 

剣心と信女はある旅館の一室にて互いに向き合いながら、座っていた。

この旅館は幕府、維新志士両方が密会や会合に使用する旅館で、そこで働く従業員らも秘密厳守をモットーにしているので、こうして維新志士の剣心と新撰組の信女があっていることに関しても一切干渉して来なかった。

 

「それで。話というのは何かしら?」

 

信女が早速、剣心に話したい事とは何かを尋ねる。

 

「あ、ああ‥単刀直入に言う。信女、俺の所に来ないか?」

 

剣心が信女を長州へ‥維新志士側へ来ないかと誘う。

 

「剣心は‥‥」

 

「ん?」

 

「剣心は何故、あの時、比古の反対を押し切って山を下りたの?」

 

信女は剣心にあの時山を下りた理由を剣心に尋ねる。

 

「それは‥早く動乱を終わらせ人々を救いたかったからだ。この動乱で多くの弱い人々が傷つき、苦しんでいる。その人達が平和に暮らせる日が一日でも早く来るのであればと思って‥‥」

 

「なら、どうして、維新志士なの?」

 

「えっ?」

 

「幕府側でもよかったんじゃない?」

 

「‥‥」

 

信女は剣を振るうのであれば、何も維新志士側ではなく、幕府側でもよかったのではないかと言う。

確かに未だに徳川幕府は健在で、それに弓を引いているのは長州であり、いわば長州は賊と認識されている。

会津を始め、東北の各藩は幕府側であり、薩摩は未だにどっちつかずであるが、戦況によっては幕府側につく可能性もある。

そんな中、敢えて長州側についている剣心の心情を尋ねる信女。

 

「‥‥剣心は‥もしかして幕府に失望しているんじゃないの?」

 

「っ!?」

 

信女のこの一言で、剣心をビクッと身体を震わせる。

確かに剣心が幕府に対して期待をしていると言えば、それは嘘になる。

財政難、そして鎖国を続けていたせいで、諸外国との技術力が大幅に遅れているにも関わらず、それを認めず、今や弱体化している徳川幕府。

諸外国とまともにやりあう事が出来ずにのらりくらりとするか弱腰に諸外国の言いなりとなりかけている徳川幕府。

そんな幕府の体制の結果が野党や賊の増加を生み出し、あの悲劇が起きたのだ。

そう思えば、剣心は心のどこかで幕府を恨んでいたのかもしれない。

 

「ならば、何故信女、お主は幕府側に居る?」

 

剣心は、信女に幕府側に属している理由を尋ねる。

 

「維新志士達の夢‥‥新時代‥‥それって要は徳川の座っている権力と言う名の椅子に自分達が代わりに座りたがっているって事でしょう?」

 

「‥‥」

 

「でも、数多くの維新志士達の分、全てにその権力と言う名の椅子は用意されているの?」

 

確かに維新志士と言っても人間であり、様々な思惑や夢を持った人間がおり、それらすべての維新志士達の夢がかなうとは限らず、役職だってすべての維新志士達がつけるとは限らない。

権力を持つのは強い力を持っている一部の者だけ‥‥皆が皆、平穏に暮らせる夢の様な世の中をつくる。

それは維新志士達の大前提なのかもしれないが、あくまでそれは壮大な夢物語だろう。

 

「貴方達維新志士が造った新時代とやらで、貴方は何をやるの?敵も‥味方も裏切って、誰も居なくなった瓦礫の上に作られた権力と言う名の砂の城の上でふんぞり返っているだけ?そんな砂の城、すぐに崩壊するに決まっているわ‥そんな砂の城に居るくらいなら、地べたで這いずり回っていた方がマシ」

 

前の世界でも幕府側についていた信女としてはこの世界でも志士は好きになれなかった。

故に剣心の誘いを断った。

 

「それで、貴方の誘いを断った私を貴方はどうする?この場で斬る?」

 

信女は剣心の動きに警戒しつついつでも袖に仕込んだ小太刀を取り出せるようにする。

剣心には袖に小太刀を仕込んでいるのは見られている。

本当ならば、剣心が斬りかかって来た時の為の秘匿武器だったのだが、あの無粋な輩のせいでばれてしまっているが、丸腰で剣心とやりあって勝てる程、剣心は弱くはない。

だが、本音を言えば、剣心を斬りたくはない。

 

「‥信女‥お主の答えがあくまで幕府と共にあるのであれば、俺はもうお前を誘う事はないし、止めもしない」

 

「一つ訂正して‥私の居場所は幕府ではなく、新撰組よ」

 

「そうか‥‥」

 

「それで、どうするの?此処でやる?」

 

「いや‥お主は、今日は新撰組隊士、今井異三郎ではなく、飛天御剣流の同門、そして、一人の女、今井信女なのだろう?」

 

「そうね」

 

「ならば、今日の俺は人斬り抜刀斎ではなく、一人の男、緋村剣心としてこの場に居る‥‥同門の仲としてだ‥‥」

 

「‥‥」

 

「それで、その‥‥同門の今井信女に一つ頼みがあるのだが‥‥」

 

「何かしら?」

 

剣心は信女にある頼みごとをした。

 

そして‥‥

 

 

京の市中にある一組の男女が歩いていた。

ただ、身長は女性の方が高いので、その光景はまるで姉弟のようにも見えた。

 

「‥‥これが貴方の頼み?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

信女はやや無機質な声で剣心に尋ねる。

今、信女の服装は先日の非番の時、沖田に薦められたように女物の着物を着て剣心の隣を歩いている。

剣心の頼み‥それは非番の時でいいから、今井異三郎ではなく、今井信女として‥女性本来の恰好で自分と付き合って欲しいと言うものだった。

まぁ、信女としては剣心の事が気になって山を下りてきたので、彼の頼みを聞いてあげたのだった。

 

 

それから、数日後の夜‥‥

 

この日も剣心は遊撃剣士として仲間の維新志士達のために剣を振るっていた。

そんな中、剣心は宿命ともいえる出会いをした。

新撰組の平隊士を切り捨てた後、剣心の眼前には新撰組一番隊組長の沖田とまるで狼を人間にした様な目つきの鋭い男が立っていた。

 

「また会いましてね、緋村さん。貴方の飛天御剣流、益々凄みを増して来たみたいだ‥‥」

 

沖田は剣心に不敵な笑みを浮かべて愛刀を抜刀する。

すると、

 

「沖田君‥‥君は下がっていたまえ‥‥」

 

沖田の背後に立つあの男が沖田に下がる様に言う。

 

「心配はいりませんよ、僕だってこれでも新撰組の一番隊組長なんですよ」

 

沖田はあくまでも下がらないと言うが、

 

「だが、今は身体を病んでいるのだろう?」

 

「っ!?」

 

今まで医者以外に隠して来たことを的確に指摘され、沖田は動揺する。

 

「俺の目は節穴じゃないよ‥」

 

そう言いながら、剣心の方へと歩み出す。

 

「‥‥あの男は‥‥人斬り抜刀斎は‥‥この新選組三番隊組長、斎藤一が獲る!!」

 

斎藤は抜刀して剣心に斬りかかる。

当然、剣心も斎藤の斬撃を迎撃する。

 

(三番隊組長‥‥そうか、この男が、信女の上司か‥‥)

 

剣心が目の前の狼の様なこの男が新選組における信女の上司だと知る。

斬撃の後、互いに距離をとると、斎藤は左手一本で刀を持ち、右手で剣先を乗せ、剣心に照準をつけ、

 

「死ね、抜刀斎!!」

 

斎藤は物凄い勢いの平突きを剣心に繰り出して来た。

剣心はそれを紙一重に躱した。

しかし、それは本当に紙一重で、あとほんの僅かに反応が遅れていれば、串刺しになっていた。

 

「くっ」

 

「ちっ」

 

斎藤は自慢の左片手平突き、牙突を躱された事が悔しかったのか、思わず舌打ちをする。

そして、再び両者は距離をとる。

斎藤も剣心もにらみ合いながら、互いの動きを警戒する。

 

(フッ、沖田君や永倉さんが、夢中になるのも分かる。俺の牙突を躱したのは維新志士達の中ではお前が初めてだからな‥‥)

 

斎藤は新撰組幹部がしきりに抜刀斎に夢中になる理由がわかった。

そして、信女が以前言ったように、抜刀斎とは一対一で邪魔される事無く、斬り合いたいと言う理由も同時に理解した。

 

(確かに、お前との斬り合いに他の奴が入るのは余りにも無粋だな‥‥)

 

命のやり取りをしているにもかかわらず、斎藤は心の中で笑っていた。

それから何合も斎藤と剣心は斬り合ったが、結局決着はつかず、斎藤のほんの一瞬の隙を見計らって剣心はこの場から離脱した。

 

「逃げられちゃいましたね、緋村さんに‥‥」

 

剣心と斎藤の勝負が終わった後、沖田は斎藤に声をかける。

沖田自身も抜刀斎との決着は一対一でつけたいと思っているので、今回の斎藤と抜刀斎との戦いに水を差さず、静観していた。

そして、今回の勝負の結果、剣心の逃亡と言う形で斎藤の不戦勝となったが、斎藤や沖田達一流の剣客にとっての本当の勝利とは、相手の首を討ち取ってこそ、真の勝利なのだ。

相手が生きている限り、勝利ではないのだ。

 

「まぁ、奴が生きていれば、また斬り合う機会もあるだろうさ」

 

斎藤はそう言いながら、刀を鞘に納刀した。

 

「でも、次は僕が緋村さんとやりますからね」

 

沖田は次に剣心と対峙した時に剣心の相手は自分がやると言う。

 

「そうか‥しかし、抜刀斎は一人、当然討ち取れるのは只一人‥早い者勝ちだ」

 

「ああ、酷いですよ、斎藤さん。今回は譲ってあげたんですから、次は絶対に僕の番ですよ」

 

「しかし、今井の奴も抜刀斎を狙っているぞ」

 

「えっ?信女さんも!?」

 

沖田は咄嗟の事で、信女の名を口走ってしまう。

 

「信女?それが今井の本当の名か?」

 

「あっ!?」

 

沖田はしまったという顔をしたが、時すでに遅し、斎藤にはしっかりと信女と言う名前を聞かれてしまった。

 

「あ、あの‥この事は信女さんには‥‥」

 

「分かっている、聞かなかった事にしておいてやる」

 

「ぜ、絶対ですからね」

 

沖田は慌てて斎藤の隣に並んで、確認をとった。

 

(沖田君も‥‥そして、あの抜刀斎も信女に惚れていると見える‥‥まったく、面倒な女だよ、アイツは‥‥)

 

斎藤はやれやれと言った感じで夜の京の町を歩いた。

 

しかし、この先、時代の渦は大きくなり、時代の流れが加速して流れて行った‥‥。

 

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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