エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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すいません、よく分からずに消しましたがこれは大阪と京都2面から見た話となっております。


第53幕 金星

 

 

 

 

 

 

 

比古清十郎の下へと戻り、苦心の末飛天御剣流奥義、天翔龍閃を会得した剣心。

山を下りて麓の駐在所から馬車で警察署の前まで来ると斎藤が剣心と信女を出迎えた。

 

「よう、平日の午後に馬車で来訪とはまるでどこぞの御大尽の様だな。で、どうだ?人斬りに戻る決心はちゃんとついたか?」

 

「さあ、どうでござるかな」

 

「まあいい。急ぎの話がある。さっさと上がってこい。五月蝿い奴も、今は飯を喰いに出ていて丁度いい」

 

斎藤は剣心の変化に気づきつつも今は志々雄の京都破壊計画の阻止の為、時間がないので、剣心と信女に中へ入る様に促す。

 

((五月蝿い奴?))

 

斎藤の言う五月蝿い奴が一体誰の事を指しているのか気になりつつも剣心と信女は警察署の中へと入った。

 

「「京都大火!?」」

 

警察署の資料室には斎藤、剣心、信女の3人の姿があり、剣心と信女はそこで張と捕縛した志々雄一派の工作員から聞いた志々雄の計画を聞いて驚きこそしたものの剣心と信女は何処かに引っ掛かりを覚えた。

 

「京都大火は今夜11時59分決行予定…これはまず間違いない」

 

「妙でござるな」

 

「そうね‥‥」

 

「お前達もそう思うか」

 

「確かに京都は日本にとっては歴史のある名所だけど‥‥それに、志々雄一派がいくら強いとしても数においてはこっち(警察)の方が圧倒的に勝っている‥‥」

 

「そうだ、故に奴らの戦法は必然的に奇襲と暗殺に重点が置かれている。だが、そんな奴等がこんなにも簡単に情報が漏れてしまっては奇襲も暗殺も成功するはずもない。奴らにとって情報の漏洩は何よりも憂慮すべき死活問題の筈だ‥‥」

 

「そうね」

 

「確かに‥‥」

 

「だから俺はこの地下牢にいる張にも志々雄からの刺客が差し向けられるものと考え、ずっと此処で網を張っていた。だが その気配は一向になかった‥‥」

 

「まるで『張から好きなだけ情報を得て下さい』と、言わんばかりね‥‥となると、京都大火はあくまでも囮‥‥本命は別にある‥‥ってことかしら?」

 

敵に捕まった張に対してあの志々雄が何もしなかった事に違和感を覚える信女。

これまでの志々雄のやり方を考えるのであれば、張に暗殺者が送り込まれても不思議ではない。

にも関わらず、志々雄は張を生かしたままだ。

どう考えても志々雄らしくない。

 

「信女の言う通り、どうやらこの京都大火の裏には十本刀の一員にすら全く秘密にされている何かもう1つ、別の狙いがあるようでござるな‥‥」

 

地図を広げた斎藤の隣で顎に手を当てて考え込む仕草で地図を覗き込む信女は先程から考えていた事を話し出す。

 

「ねぇ、斎藤」

 

「ん?」

 

「京都大火は池田屋事件の時に殺された維新志士達の計画をマネしているのよね?」

 

「ああ、国盗りも復讐も同時に楽しむ志々雄の事だ、必ず別の狙いにも、何かそういう遊びがあるはずだ」

 

「遊び‥‥池田屋事件‥幕末‥維新志士‥国盗り‥‥っ!?狙いは幕末の天下分け目の戊辰戦争・鳥羽伏見の戦いの時よ」

 

「鳥羽伏見の戦い?」

 

「ええ、あの鳥羽伏見の戦いの時に慶喜は、味方を欺き大阪湾から船で江戸へ逃げ帰り その行動が幕府軍の士気を削ぎ、逆に官軍の士気を上げる大きな要因になった筈よ‥‥思い出しただけでもイライラする‥‥」

 

鳥羽伏見の戦いの事を思い出したのか信女は若干顔を歪める。

あの戦いで井上、そしてその時の戦傷で山崎が死んだのだ。

信女にとって慶喜の行動は許せるものではなかった。

 

「官軍の勝因を志々雄が皮肉を込めて自分の勝因にしようとしていたら、目標は京都じゃなくて東京よ。今の政府の中枢は京都ではなく、東京だもの‥政府を転覆させるなら、京都は二の次の筈よ‥‥」

 

「成程、京都大火はあくまで作戦の第一段階!船による海上からの東京砲撃が奴の真の狙いでござるか」

 

「考えたな、京都大火は人目と人員を引きつけるためのいわば布石‥‥ならば志々雄一派と警官隊の全面衝突があった方が派手でいい。だからわざとこちら側へ情報を洩らす真似をした訳か‥‥あやうく出しぬかれるところだったぜ」

 

志々雄は京都に居るので東京は大丈夫‥‥政府の連中は恐らくそんな事を考えている可能性がある。

しかし、そんな時に志々雄が海上から東京を砲撃したら東京は‥‥政府の機能はどうなるだろうか?

恐らく東京中が大パニックに陥るだろう。

 

「海上に出たらこっちの手は打てなくなるわ」

 

「それだけは絶対避けねば!時間がない!急ぐでござる!」

 

新月村の件から、例え東京の明治政府に志々雄の東京湾からの東京砲撃を知らせても恐らく政府は海軍に出動命令を出さないだろう。

むしろ、志々雄を乗せた彼の船を海上で撃沈すれば志々雄を海の藻屑に出来るかもしれないのに、それをやらないし、やれない。

そう考えると、志々雄の言う通り、明治政府は弱々しい政府なのかもしれない。

だからこそ、志々雄を海へ出す訳にはいかない。

剣心は急いで大阪湾へ行こうと資料室を出た時、

 

「で、俺はまた置いてけぼりってか?」

 

ゴッと鈍い音を立てて、左之助は剣心を殴り付けた。

殴られた剣心は驚きと呆然とした顔で左之助を見た。

 

「今度はそうはいかせねぇぜ」

 

「さ、左之、どうして警察(ここ)に!?」

 

「『どうして京都(ここ)に?』って、お前の力になってやるために決まってんだろが!」

 

左之助の打撃で眩暈を覚えた剣心は体勢を崩したが、そこを左之助が片腕1本で剣心の身体を支えた。

 

左之助の力強い言葉に、剣心は下を向いたまま笑った。

 

「そうか‥‥」

 

「『足手纏い』になるの間違いだろうが」

 

「あんだと!」

 

「2人とも悪ふざけは後にして、今は大阪に急ぎましょう」

 

「そうだな、時間がねぇんだったな!積もる話は走りながらだ!」

 

「大阪まで走れるか ボケ。馬車だ 馬車」

 

「あ"ー!!どうしてテメェはそう揚げ足取りばっか――!!」

 

此処の警官に馬車の手配を任せ、馬車が来るまで部屋で待っていた時、剣心は信女に近付いた。

 

「ん?どうしたの?緋村」

 

「信女、すまぬが紙と筆を貸して貰えぬか?手紙を書きたい」

 

「手紙?誰に出すの?」

 

「葵屋の皆に‥‥彼らはこの京都を幕末の頃から見守り続けてきた‥‥その力が今度の京都大火の阻止に役立つでござる」

 

「成程」

 

剣心は信女から紙と筆を借りると早速今回の志々雄の計画、京都大火について警戒する様に手紙を書いた。

ただ剣心が手紙を書いている時、

 

「緋村‥‥」

 

信女が剣心に声をかける。

 

「おろ?なんでござるか?」

 

「‥貴方、字が下手ね」

 

「はうっ!!」

 

「これ、葵屋の皆は読めるかしら?緋村の字が下手で何が書いてあるかわかりませんでした。そのせいで京都は火の海になりました‥では、済まされないのよ」

 

「‥‥」

 

信女に自分の字を指摘されてショボーンと落ち込む剣心。

そこで、信女が代筆し、名前の部分は剣心本人が自分の名前を書いた。

 

「それじゃあ、この手紙を葵屋に届ける様に手配しておくから」

 

「あ、ああ‥頼むでござる」

 

信女と剣心のやり取りを見ていた左之助は、

 

「あの女、随分と物事をばっさりと正直に言うな」

 

と、信女の態度にちょっと引いていた。

 

「それが、信女でござるよ」

 

しかし、剣心は慣れた様子で答える。

 

「俺には分かんねぇな‥‥剣心、あの女の何処に惚れたんだ?」

 

「信女は何だかんだで、優しい女性でござるよ」

 

(アイツのどこが優しいのか俺には分からん‥‥)

 

剣心とは違い、信女との付き合いが長い訳ではない左之助には信女の優しさは分からなかった。

そして、葵屋へと宛てた手紙を手配した後、信女が剣心の所へと戻ると、

 

「信女、やはりお主も大阪に‥‥」

 

「当たり前でしょう」

 

剣心が信女に大阪へと行き、志々雄の船出の阻止に参加するのかを問うと、信女は即答する。

 

「まっ、そこの鳥頭よりは十分役立つさ」

 

「斎藤テメェ!!」

 

やがて馬車の用意が出来ると剣心と信女は図らずも再び騎乗の人となった。

街道を大阪に向かって大急ぎで走る馬車。

 

「翔ぶが如く。翔ぶが如く!翔ぶが如く!!目指すは大阪、いざ行かん!!」

 

左之助は馬車の屋根の上に居た。

斎藤曰く煙と何とかは高い所が好きだそうだ。

 

ドスッ

 

「っと!」

 

「ちっ、ハズしたか」

 

「斎藤‥‥」

 

車内では志々雄一派の話しをしていたが屋根の上で叫ぶ左之助が癇に障ったのか迷い無く愛刀で屋根をぶっ刺した斎藤に剣心は目が飛び出すほど驚いている。

 

「斎藤。これ、一応借りものなのよ。後で帰さないといけないのだから、傷物にしないで」

 

信女は信女で馬車の屋根に刀傷をつけた斎藤を咎める。

 

「テメェ!!斎藤、何しやがる!?」

 

「五月蝿くて話が出来ん、少し静かにしていろ」

 

「口で言えば済む話じゃないの?」

 

「話を続けるぞ」

 

「ちょっと!!ナチュラルにスルーしないで!!」

 

(なちゅ‥するー‥‥コイツは何を言っているんだ?)

 

(時々、信女の言う言葉理解できないでござる)

 

「京都の方には5000人の警官を配置してある。数では志々雄側の約10倍、これだけ置いとけばとりあえず京都大火は防げよう」

 

「信女、出る前に書いた手紙は‥‥」

 

「大丈夫、ちゃんと届けるように手配しておいたわ」

 

「抜刀斎、あれは何なんだ?」

 

「警官の数で500の兵は止められても、500の火種までは止められぬ。京都大火を防ぐには、幕末の昔から京都を見守り続けた彼らの力が必要でござるよ」

 

「大阪の警察の方には電信で連絡したが、人手はほとんど京都の方に割いてしまったから大阪湾に包囲網を敷くのはまず無理だ」

 

「悔しいけど今の所、志々雄の思い通りって訳ね」

 

「加えてこの馬車をどんなに早く飛ばしても大阪湾に着くのは12時前後‥時間的に見ても手当たり次第捜索していては間に合わんな。どうする?」

 

「ウダウダ言っていても仕方ねぇだろう」

 

屋根の上から聞こえる左之助の声に3人は反応する。

 

「例え失敗しても砲撃の一度や二度で壊滅する程、東京はヤワじゃねぇし、ここまで来たらあとは全力でぶつかるだけさ」

 

ドスッ

 

「ぢ!?」

 

今度は斎藤の刀の刃先が左之助の尻に刺さった様だ。

 

「ちょ、斎藤‥また貴方は‥‥」

 

再び馬車の屋根を傷物にした斎藤に呆れる信女。

 

「黙っていろと言っただろうがこのボケが、話のコシ折りやがって」

 

「左之、志々雄は何も東京壊滅を狙っているのではござらんよ」

 

「そうね、恐らく緋村の言う通り‥‥」

 

嘉永六年

浦賀沖にペリーが来航し、幕府に開国をせまった。

これが幕末の動乱のきっかけとなった、

いわゆる黒船来航‥‥。

初めて見聞きするその怪物に太平の眠りをさます。

上嘉撰たった四杯で夜も眠れず、

と狂歌にまでうたわれるほど江戸の町は狼狽した。

その時とその後の幕末の動乱の恐怖と不安は江戸が東京になった今でも人々の心の奥に確実に潜んでいる。

志々雄は人々のそうした恐怖心、不安感を高める目的があった。

 

「もし今見知らぬ船がたとえ1隻でも突然 東京湾に現れ都市に向かって砲撃を開始すれば東京は間違いなく大混乱に陥る」

 

「今の政府にそれを鎮めるだけの力はないわね‥‥」

 

「東京はすぐさま無法地帯と化し政府機能は停止するって 寸法さ」

 

「そして、その混乱に乗じて、政府の要人を暗殺、国の利権を奪う‥‥志々雄らしいやり方ね。暗殺を行いつつもその中に巧みな策を講じて利権を掌握する‥‥流石、地下組織を束ねているだけあって彼には妙なカリスマ性があるのでしょうね」

 

「成程な。よーくわかったぜ、事態は刻一刻逼迫しているってな。ならばなおさらの事、飛ぶが如く!!のおっ!」

 

左之助が叫ぼうとしたその瞬間、斎藤がドスドスと天井を突きまくる。

屋根は刀傷だらけとなり、信女はもう、何も言わなかった。

 

「御者!上のゴミをふり落とせ!!」

 

「あんだと!!コラ!!」

 

「緊張感の欠片も無いわね」

 

「‥‥」

 

信女が呆れながら言い、剣心も唖然としていた。

 

馬車が大阪湾に近づいている頃、時間は間もなく深夜12時に差し掛かろうとしている。

大阪湾には数多くの船舶が停泊している。

その中から志々雄の船1隻を探すのは困難だ。

 

「それで、緋村、どうやって志々雄の船を探す?」

 

「幕末の頃の経験則から言うと、人斬りが仕事を遂行するため動くのに好条件が2つあった‥‥1つ"夜の闇"に紛れる。2つ"人混み"に紛れ込む‥‥」

 

「1つ目の条件は既に満たしているな」

 

斎藤がチラッと馬車の窓から外を見る。

辺りは深夜の為、真っ暗で外灯の灯りがまばらにあるだけで、人の気配はない。

 

「2つ目、人混み‥‥つまり沢山の船の中に自分の船を紛れこませる。人斬りの中でも志々雄は拙者の跡を継いだ人斬り‥‥こんな時、奴はどんな方法でそれを成すか"人斬り抜刀斎"ならば手に取るようにわかる。恐らく志々雄は自分の船に何らかの擬装を施して民間船に紛れて堂々と停泊させている筈だ」

 

 

午前0時少し前、大阪湾。

 

大阪湾が見えてくると、信女と剣心は馬車の窓から身を乗り出し、志々雄の船を探した。

 

「剣心、どれだ!どれが志々雄の船だ!?」

 

「あれだ、あの大きな木造船!!あれだけが蒸気を吹いて出港準備をしている」

 

「よし 止めろ!」

 

大阪湾に辿り着き馬車を降りて遠目に見える志々雄の船を睨む。

一方、木造船に乗っていた志々雄は、船着き場にいる4人を見て小さく笑った。

 

「フッ、よくここが解ったな。それだけは誉めてやるぜ」

 

志々雄は持っていた望遠鏡で4人の顔を確認する。

 

「緋村抜刀斎、斎藤一、今井信女‥‥ん?知らんのが1人混じっているな」

 

「えっ?」

 

志々雄は望遠鏡を隣に居る宗次郎に渡した。

 

「ああ、あれは確か、緋村さんの友達でえっと‥確か‥‥」

 

「相楽左之助。東京では名の知れた喧嘩屋だという事ですが、横の3人に比ぶれば、はるかに劣る戦力です」

 

宗次郎も左之助の事は知っていた様だが、名前が出てこなかった。

そこで、方治が志々雄に左之助の素性を教える。

 

「ふーん‥‥要するにただの雑魚か」

 

 

志々雄は左之助には大した興味を抱かなかった。

 

「ぶぇっくしょいぃ。フッ、敵さん、俺達の揃い踏みに驚いてやがるな。だが、驚くにはまだまだ早いぜ」

 

志々雄がまさか自分の事を雑魚扱いしているとは知る由もない左之助は志々雄の船を睨む。

 

「さて、これからどうする?」

 

志々雄の船は見つけた。

しかし、問題はどうやって志々雄の船を止めるかだ。

 

「とにかくまず船まで潜って忍び寄るでござるよ。それから船底に」

 

「ちょっと待った、船に穴開けるなら刀より もっといーもんがあるぜ。東京を出る時に克が手土産にくれた炸裂弾だ。着火作業の要らねぇ最新型を使えば、あんなぼろ船‥‥」

 

左之助は炸裂弾を取り出してニッと不敵に笑ったが、

 

「阿呆が」

 

それを、呆れたように斎藤は溜め息混じりで吐き捨てた。いきなり阿呆と言われた左之助はプルプル震えながら怒りを抑える。

 

「テメェという男はいつも、いつも‥‥いったい俺のどこが‥‥」

 

「気がつかんならド阿呆だ」

 

「とうとう『ド』が付いたわね」

 

「まーまー、左之、いくら着火作業が要らなくてもそれを持って海に潜れば当然 中の火薬がしける。そうなればどんな高性能でも不発に終わるでござるよ」

 

剣心は左之助を宥めつつ炸裂弾の短所を指摘する。

 

「つぅー訳だ。刀のないお前は大阪の警官隊が来るまでここで大人しくしていろ」

 

斎藤がそう言った瞬間、カッと眩しい光が射した。

そして激しい轟音とともに志々雄の船は突如爆発した。

 

「な、なんだ!?」

 

「志々雄の船が自爆!?」

 

「大砲の不発か‥‥」

 

「いえ‥‥表面の偽装を取り払っただけみたい‥‥」

 

土煙が立ち込める中、船の姿が次第に見えてきた。

それはさっきの木造船より小さいが、全体を甲鉄に覆われ、大砲を幾つも揃えた軍艦であった。

海軍の連中が見れば喉から手が出るほど欲しがりそうな一品である。

 

「こいつが東京を恐怖のどん底に陥れる明治の黒船、煉獄の真の姿だ!!ハハハハハ‥‥」

 

煉獄の甲板上で志々雄が高笑いをしている。

 

「甲鉄艦か‥あんな代物が一個人の手に入るようじゃ、どの道明治政府も長くないな。抜刀斎、今井、お前達、『斬鉄』は出来るか?」

 

「ああ‥ただし、海中でなければな」

 

「作戦変更ね。それにしても甲鉄艦1隻を購入できるなんて、志々雄の財力は一体どれくらいあるのかしら?」

 

(それにしても甲鉄艦か‥‥宮古湾での戦いを思い出すわね‥‥そうなると、大砲の他に甲板にも武器が積まれている可能性が十分にあるわね‥‥)

 

甲鉄艦を相手にすると言う事で信女はかつて土方と共に行ったあの海戦を思い出す。

木造船なら割りと簡単に船を止められるが、相手が鉄で出来ている甲鉄艦はそうはいかない。

そこで、剣心は左之助の方を向き、

 

「左之。拙者と斎藤、信女で敵の銃砲をひきつける。その隙にお主は小舟を探して、迂回して志々雄の船に忍び寄り、炸裂弾で敵艦の後方の機関部を破壊してくれ」

 

「でも、気を付けてね‥あの装備だと多分、甲板に回転式機関銃も装備されている可能性もあるから」

 

信女は宮古湾海戦の経験から志々雄の船には回転式機関銃も積まれている事を指摘する。

 

「いくぞ!!」

 

甲鉄艦がアームストロング砲を発射する。

船着き場の破壊とともに3人は海に潜った。

左之助は海へと潜った剣心に小舟を探している余裕はなく、長い時間、敵の銃砲を買わせるのかを問うが、海に潜った剣心はその問いに答えない。

その時、左之助は海に浮いているあるモノに注目する。

 

ザパァ――ン!!!

 

海から飛び上がり甲鉄艦の甲板に着地した剣心、斎藤、信女の姿を見て驚く志々雄の兵隊達。

 

「決死の特攻ようこそ‥‥と言いたい所だがまだまだ甘ぇなぁ‥‥」

 

此方が志々雄の考えを見抜けた様に、志々雄もまた此方の考えを見抜いていた。

案の定、甲板に回転式機関銃が持ち出される。

しかし、狙いは甲板に居る3人ではなく、偽装に使用した木造船の残骸の上を渡りながら此方に向かって来る左之助だ。

回転式機関銃が火を吹くが、左之助は下諏訪で会得した二重の極みを海面に使い水の壁を作る事によって回転式機関銃の弾丸を防ぎ、炸裂弾を投げる。

方治はたかが手投げ式の炸裂弾、外装に多少の傷はつくが、内部は破壊出来ないと踏んでいた。

しかし、左之助の炸裂弾は使用した左之助自身が思っていた以上に威力があった。

機関部は大破し、スクリューシャフトは折れ船尾では火災が発生して手に負えない状況となり、ボイラーには大量の海水が流れ込み、弾薬庫には火が迫りつつある。

スクリューシャフトが折れ、ボイラー室が浸水した事で、煉獄の蒸気機関は使用不能となり、自走が出来なくなる。

さらに弾薬庫に火が迫っているので、このままでは煉獄は爆発を起こし、沈没は確実となる。

甲鉄艦、煉獄の沈没の原因を志々雄は剣心達を甘く見ていた自分の隙だと認めた。

 

「志々雄さん。新月村の決着、やっぱり此処でつけます?」

 

志々雄の背後からスッと出て来た宗次郎は、沈没寸前の煉獄の甲板上で戦うかと尋ねる。

しかし、志々雄は、

 

「ああ‥ただし‥‥」

 

「ただし?」

 

「場所は比叡山の北東中腹、六連ねの鳥居の叢祠‥‥俺達のアジトでだ。そこでなら一切の邪魔は入らん。もちろん、当方は俺と十本刀だけで迎え撃つ!」

 

志々雄は剣心達に決闘を言い渡す。

斎藤は宗次郎と同じく沈没までまだもう少し時間があるので、この場で決着をつけようとしたが、其処を剣心が止めた。

 

「それじゃあ、信女さん。比叡山でお待ちしていますから」

 

「ええ、必ず行くわ。宗次郎」

 

信女と宗次郎は互いに声をかけあう。

その様子を剣心は面白くなさそうに見ていた。

そして、志々雄と宗次郎は部下の用意した脱出用の小舟に乗り込み沈みゆく煉獄を後にした。

 

「恐らく、この船の乗員は志々雄一派の中でも選りすぐりの忠臣。志々雄をおいて先に脱出などまずしない。ここで闘えば全員の脱出が遅れて必ず犠牲者が出る。敵であろうと、犠牲者が出ないに越した事はない」

 

小舟で遠ざかって行く志々雄達を見ながら剣心は煉獄の甲板上で戦わなかった理由を語る。

 

「相変わらず甘い奴だな。それで志々雄に勝てるのか?」

 

「さあ。ただ、これでもうこの先、無関係の人々を闘いに巻き込む事はないでござる」

 

「まぁ、緋村らしいと言えばらしいわね。でも、これで貴方の望む形になった訳ね」

 

志々雄達が去った海を見ていると、後ろの方で水音が聞こえ、『よっしゃあ!!』と左之助の声がした。

 

「相楽左之助只今到着!さあ、志々雄真実はどこだ!?」

 

左之助の空気の読めなさに斎藤は青筋を浮かべ、剣心は固まり、信女はノーリアクション。

 

「志々雄なら」

 

剣心は志々雄達が乗っている小舟を指した。それに左之助は、『あ゛ーっ』と声をあげ、小舟の方を向いて怒鳴り始めた。

 

「阿呆が‥‥」

 

「まぁまぁ、抑えて抑えて、今回の一番の功労者は彼なのだから」

 

「信女の言う通り、左之はお前が思っているより、ずっと頼りになる男でござるよ」

 

「言われずともその程度は百も承知だ。だが、それでも奴が阿呆である事には変わりはない」

 

こちらに背を向けて言う斎藤を見て、信女と剣心は苦笑する。

 

「――どうやら京都(むこう)も無事の様だな」

 

京都の方を見ると煙が出ている様子はない。

 

「確かに火の手は上がってないが、ここからではわからぬよ」

 

「でも、大火による消失は喰い止めたはずよ」

 

ボヤは兎も角、志々雄が計画した大火ならば、此処からでもうっすらと煙は見える筈だ。

しかし、京都方面からその煙は見えない。

 

「初戦は、俺達の勝利だ‥‥」

 

「そうね‥でも、この後がいよいよ本番。気を抜かない事ね。」

 

信女の言葉に剣心は顔を引き締め頷く。

勝利の余韻に浸りたいところだが、船が艦尾から沈みかけていたので4人は船を後にし、事後処理を大阪の警察隊にまかせ信女達は京都へと戻った。

 

 

・・・・続く


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