エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第52幕 執念

 

 

 

 

 

 

此処で時系列は約半日程過去に遡る。

ようやく京都に到着した斎藤は、早速この町の警察署の署長と面会する。

 

「長旅ご苦労。予定より随分と遅れたな」

 

「ちょっと、道中で一事件ありましてね‥‥」

 

「早速ですまないが、藤田君」

 

「何でしょう?」

 

「実は先日、町中で挙動不審な男を警邏中の警官が取り押さえたのだが、その男が志々雄一派の工作員で、志々雄がどうも京都破壊の計画を練っている様なのだ」

 

「京都破壊‥ですか‥‥」

 

「うむ、残念ながら、その男は志々雄から詳しい内容までは聞かされていなかった。そこで、もう1人、計画の内容を知っていそうな彼を尋問してそれを聞き出して欲しい」

 

「彼?」

 

「志々雄直属の特攻部隊『十本刀』の1人。通称“刀狩”の張。本名は沢下条張だ」

 

「分かりました。では、早速参りましょう」

 

留置場へと着き、その“刀狩”の張の居場所を尋ねる。

 

「それで署長、先日捕らえた志々雄一派の張と言う男は?」

 

「ああ、あの奥だ」

 

署長は張の居る牢屋へと斎藤を案内する。

 

「ところで署長、佐々木の奴は今何処に?」

 

斎藤は信女の行方を尋ねる。

 

「緋村剣心‥あの人斬り抜刀斎がなんでも剣の修行に入るとかでその世話をするので、しばらく彼と行動を共にすると言ってから音信不通となっている」

 

「そうですか‥抜刀斎が修行を‥‥」

 

「ああ、彼の修行が終われば、志々雄など簡単に討伐できるはずだ」

 

「‥‥」

 

(ならばいいのだがな‥‥)

 

志々雄の討伐がそう簡単に出来るのかと不安視する斎藤だった。

その最中、斎藤はある牢屋の前で立ち止まる。

 

「ん?どうかしたのかね?」

 

「‥‥貴様か?」

 

斎藤は牢屋の中に居る留置人に目をやる。

其処には、

 

「おう、相良左之助、堂々の京都到着だ」

 

不敵な笑みを浮かべた左之助が居た。

 

「ヘヘ、思惑通りだぜ。闇雲に足で剣心を探すより、まず警察の厄介になって、テメェを押さえる。その方がより早く、確実に剣心にぶち当たるってもんだ。もっといい表情(ツラ)をしろよ。こちとら、わざわざ険しい中山道を修行しながら来てやったんだぜ」

 

不敵な笑みを浮かべる左之助。

 

「知り合いかね?」

 

署長が斎藤に左之助との関係を尋ねると、

 

「いえ、全く」

 

斎藤はあっさりと左之助との関係を否定した。

 

「単なる人違いか頭がいかれているか‥どちらにしろ、鬱陶しいので暫く、此処に閉じ込めておきましょう」

 

「逃げるかテメェ!開けねーなら自分で開けるぞ!いいな!!」

 

留置場から左之助が吼える。

下らん、やれるものならやってみろと言わんばかりに斎藤が息を吐いた瞬間、木で出来た牢はもの凄い勢いと音を立てて壊れた。いや、壊れたと言うより、粉々に砕けたに近かった。

 

「驚いたかコラ、以前の俺と同じだとナメてかかると、テメェもこうだぜ」

 

「き、貴様」

 

「署長、こいつの始末は私がつけます。上で待っていて下さい」

 

では任せたぞと、上に上がる署長。

そして斎藤は左之助に近付く。

 

「テメェには聞きたい事が沢山あるが、まずは東京でのケンカの決着をつけるのが先‥‥ってコラァ!!」

 

左之助の話を無視した斎藤はしゃがみ、牢の残骸を手に取った。

 

「成程。技の発想は唐手の『透し』と同じ様なものだな。最も、威力は比べものにならんか‥‥で、俺の言った防御のいろははどうした?」

 

立ち上がって聞いた斎藤の問いに、左之助はお茶らけた様に笑いながら首を左右に振る。それを見てこめかみに青筋を浮かび上がらせた斎藤は左之助の胸倉を掴んだ。

 

「けっ!誰がテメェの言いなりにするかってんだ!防御なんざ、俺の性に合っちゃいねェ!俺は俺のやり方で闘わせてもらうぜ!」

 

「チッ、予定外の事件で手駒が不足しているというのに、使えないヤツめ」

 

「あっ、逃げるのかテメェ!」

 

「俺は忙しいんだ。お前と遊んでいるヒマはない」

 

「そうかい。じゃあこいつは俺の不戦勝って事だな」

 

「ああ、好きな様にしとけ」

 

「‥‥あ゛ーっ。やっぱり納得いかねェ!勝負!勝負!!勝負せい!!勝負だ!!‥‥って、なんだ?その部屋?他の牢に比べて随分厳重じゃねぇか」

 

喚きながら斎藤を追いかけていた左之助が目の前の扉が目に止まり静かになった。

その部屋は通常、木で出来ている留置場ではなく、分厚い鉄の扉で出来ていた。

 

「当たり前だ。此処に居るのは今回の事件に於ける第一級重要人物‥抜刀斎と今井が京都到着早々に捕えた‥‥」

 

斎藤は署長から預かった鍵を鍵穴に差して開ける。

ギィィィ‥‥と無機質で重量感のある音を立てて開いた扉の先には両手を手枷で封じられ、右足には足枷である鉄球を付けられている1人の男がいた。

 

「志々雄直属の特攻部隊『十本刀』の1人‥‥“刀狩”の張」

 

大人しく座っている男は片目を開け、のんびりとした声で話し始めた。

 

「なんや随分騒がしかったなァあんたら。こちとら、いい気分で寝てんやさかい。もちっと静かにしてえな」

 

「余裕だな。とりあえず、まずは質問したいことがある」

 

「なんや?」

 

「先日、神戸で起きた事件だ。やっと集結が完了した志々雄討伐隊‥軍と警察からより選った剣客約50人がたった1人の賊の手に掛かり、一夜にして壊滅した。志々雄の配下に、この様なマネが出来る奴がいるかどうか答えろ」

 

「居るで‥目の前にいる、十本刀の張という男なら、そんなん朝メシ前やで」

 

「本気で答える気はないか?」

 

「心外やな。ワイは本気で言うてんのに」

 

「質問に答えるかわりに裏に手を回して釈放してやってもいいぞ」

 

「別にワイ、シャバに未練などあらへんさかい」

 

「要するに、志々雄が怖いってワケか」

 

此処で斎藤と張の会話を黙って聞いていた左之助が口を挟んだ。

 

「ヘタに釈放されても、敵に捕まるヘマをしたおまえを連中が生かしておくわけない。逆に言えば、此処にいた方がまだ安全って事だからな」

 

「なんやこのトリ頭。ごっつムカつくわぁ」

 

「ムカつくのはこっちだぜ。臆病なくせして、へらず口ばかり1人前のホウキ頭が」

 

「ワイは別に志々雄様も死ぬのも怖かあらへん。ただ、お前らのよーなつまらん奴の言い成りになるのが嫌なだけやと言うとんや」

 

「つまらん‥‥」

 

神経がブチっと切れた左之助はペッと口にくわえていた魚の骨を吐いた。

 

「テメェは運が無えな。俺は今、京都についてから一番機嫌が悪いとこなんでェ。俺がつまるかつまらねえか、正々堂々と勝負だ!!ホウキ頭!」

 

「オウ、望むところや!!トリ頭!!」

 

左之助と張は「トリ」「ホウキ」の言葉の応酬を繰り返した後、

 

「いいか。このワイに勝ったらなーんでも質問に答えたる!だが、負けた時はどうなっても知らんでェ。そこのスダレ頭!ボケっとしとらんと合図や!!」

 

漸く口を割るつもりになった。

 

「怖いもの知らずも程々にしとけよ」

 

そう言って吸っていたタバコを放り投げる。

落ちていくタバコを2人は真剣な表情で見る。

ジッとタバコが床についた瞬間、2人は動き出す。

張は足枷の鉄球を左之助の頭部に当てる。

しかし、彼の予想外なことは左之助が常人の何倍も打たれ強い事だった。

頭部に鉄球をくらっても左之助はビクともせず、逆に左之助は二重の極みで張の手枷を破壊する。

白けたのか張は、「答えてやるからさっさと質問してとっとと失せい」と斎藤の質問に答えてやるからさっさと出て行けという。

しかし、結果は斎藤の一人勝ちである。

まず神戸での事件の犯人について、精鋭50人を1~2時間と言う時間制限付きで殺れるのは十本刀に2人のみだと言う。

その2人は、天剣の宗次郎と盲剣の宇水‥‥。

しかし、宗次郎は神戸での事件の時、犯行現場の神戸とは反対の東日本に居たので実行は不可能。

よって犯人は、もう1人の十本刀、盲剣の宇水の犯行だと張は言う。

宇水は元々幕府側の剣客だったが、幕末のある日、志々雄と対峙し両目を斬られて以来、志々雄への復讐のために修行を重ね、ついに剣術の1つの究極の型『心眼』を開き、そして今は『スキあらば、いついかなる時でも斬りかかって構わない』条件で志々雄の仲間になったと言う。

だが、同じ幕府側に居た斎藤は宇水と言う名の剣客に心当たりはなかった。

そしてもう1つ、京都破壊計画については、志々雄はかつて自分と同じ維新志士達が計画していた京都大火‥‥。

しかし、計画を練っていた旅館池田屋を新撰組が強襲し、計画は破綻したが、志々雄はそれを十本刀が集結次第行うと言う。

張の話ではそれは間もなくらしい。

左之助も斎藤も理由は様々であるが、京都大火は阻止しなければならなかった。

その為には剣心と信女を急いで探す必要があった。

 

その剣心と信女はと言うと、比古の経過を見守っていたのだが、いつしか眠りについてしまった。

だが、僅かな物音で信女が目を開けると其処には普段の様子と変わらない比古清十郎の姿があった。

 

「比古‥‥起きたのね」

 

「ああ‥ここまで深く寝入ったのは何十年ぶりだろうな‥‥」

 

「私の時の様に異例な事が起きたわね」

 

「まさか、二度も奥義を伝授して生き残るとはな‥‥こんな事、飛天御剣流の歴史でも俺が最初で最後だろう」

 

「ふふ、そうね‥貴方はいろんな意味で超人だから‥‥」

 

「だが、俺はお前に奥義を伝授した時に死んでいてもおかしくはなかったんだがな‥‥」

 

比古はチラッと自らの身体を見る。

そこには今回、剣心との修行でついた刀傷の他に古い刀傷があった。

 

「あの時は、本当に自分の死を覚悟したわ‥‥あんな感覚はこれまでの人生で初めてだったし、私自身も比古のあの姿を二度も見るとは思わなかったわ」

 

信女は比古に奥義を伝授してもらった時の事を思い出す。

 

 

剣心が山の下の現状を憂い比古と喧嘩別れして山を下りた後も信女は山に留まり続けていた。

そして、奥義の伝授を受ける日‥‥

 

「いくぞ‥‥信女‥‥」

 

「.....えぇ」

 

外套を脱いだ比古を初めて見た信女はこれまでの人生で初めて恐怖を抱いた。

刀の柄を握る手がカタカタと震えている事に気付く。

初めての経験‥‥でもこれが間違いではないのは今の自分でも分かる。

あの人は自分に涙を‥悲しむと言う感情を教えてくれた。

そして、比古は自分にあの人以外で自分の師となり恐怖と言う感情を教えた。

殺気も剣気も内に秘めている筈なのに嫌でも伝わって来る比古の殺気と剣気。

 

(これがこの男、比古清十郎の本気?.......疼く...疼いてくる。あの頃の私が...本能(私が)戻ってくる)

 

外套を脱いだ比古の実力は自分が知るあの男並ではないかとさえ思える。

天に使えながら天に辿り着いた鴉と‥‥

そしてそれと呼応するように久々に自分の中の血を求める本能と言う奴が目覚めてくるのがわかった。

信女も比古の九頭龍閃を初見した時、飛天御剣流の奥義が神速を超える超神速の抜刀術であると見抜き、抜刀術の構えを取る。

 

飛天御剣流‥‥九頭龍閃!!

 

比古から9つの龍が信女の命を狩る為に迫りくる。

 

死ねない‥‥あの人の約束を果たしていないのに‥こんな所で私は死ねない!!

 

死ぬわけにはいかない!!

 

当時、信女はまだあの世界へ戻る事を諦めていなかった。

いつかは元の世界へ戻れることを信じていた。

元の世界へ戻ってあの人との約束を果たさなければならなかった。

だからこそ、信女は今まで感じたこともない恐怖の中で生存本能が開花されたのだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

信女は自身の生を掴む為、果敢にも比古を迎え撃つ。

 

ガキーン!!

 

比古の冬月と信女の刀がぶつかり合う。

2人が交差した時、信女は無我夢中の事で受け身を取れずに地面に転がるが、素早く刀を拾って、体制を立て直す。

 

「「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥っ!?‥‥何故みねで放った?」

 

息も絶え絶えな信女が比古を見ると、其処には比古が立っていた。

 

「.....幼女とはいえ、私から何本もとった人に、1本とっただけじゃ気に入らないからよ」

 

「.....フンっ、末.恐ろしい...ガキめ‥‥」

 

振り返った比古の身体には一筋の刀傷がついていた。

信女は緊張の糸が切れ、それと同時に膝が笑い地面に倒れる。

 

「懐かしいな‥‥お前は確かに童の頃から剣の腕に天武の才があった。だが、あの時は腕が良くても腕力が釣り合っていなかった‥それに直前でお前は器用に刃を反した‥‥だからこそ、俺はこうして生きているわけだがな」

 

比古が信女に奥義を伝授して生きている訳を語る。

彼の言う通り、信女が奥義を会得した時、信女がまだ小さく力が弱かった事、そして逆刃刀と同じく、刃を反して峰打ちにした事、そして比古が今よりも若かった事が影響していた。

 

「だが、あのバカ弟子と共に俺の所に来た頃、あのバカ弟子が笑い茸を食った時以外、お前はほとんど無表情だったな‥あの奥義の伝授の時、やっとお前の怯える顔を拝めることが出来た‥あの時の顔は忘れなれないな‥‥」

 

比古は信女が恐怖で震えている時の顔を思い出し、クックッと思い出し笑いをする。

 

「なっ!?」

 

「あの時のお前、思わず漏らすんじゃないかと思ったぜ」

 

「ちょっと、女性に対して漏らすとか失礼じゃない!?私は緋村と違っておねしょなんてしてないし、あの時も漏らしてなんかいないわ!!」

 

信女は羞恥で顔を赤くしながら比古に抗議するかのように言う。

 

「それにしてもこのバカ弟子は、何時まで寝ているんだ?俺達がこうして会話をしているのに起きる気配もねぇ」

 

比古はチラッと剣心を見る。

剣心は壁に背中を預けてスースーと寝息を立てている。

 

「テメェの師が生死の境を彷徨っていたかもしれねぇって時にこのバカ弟子は‥‥」

 

「緋村も疲れが溜まっていたのよ‥ここ最近は毎晩遅くまで貴方と打ち合っていたのでしょう?」

 

「それは、このバカ弟子があまりにも弱くなっていたからだ。奥義は伝授してやったが、これで本当に志々雄とやらに勝てるのか?」

 

「今は分からないわ‥‥でも、奥義を伝授する前の緋村だったら、確実に志々雄に負けていた…でも、こうして奥義を伝授してもらって“生”への執着が少しは着いただろうから、そこまで無茶な事はしない筈よ」

 

「ふん、だといいがな‥‥」

 

そう言って比古はツカツカと眠っている剣心に近づくと、

 

「何呑気に寝入ってんだテメェは!?」

 

「ぐぇ‥‥」

 

ゲシッと頭を蹴られた衝撃に剣心は目を覚まし驚きその姿を見つめた。

 

「テメェの帰りを心待ちにしている人間が大勢いるんだろう!?ぐずぐずしてねェでとっとと山を降りやがれ!!」

 

「し、師匠!」

 

剣心の目の前には普段通りの姿の比古清十郎が立っていた。

比古の無事な姿を見て感極まったのか思わず飛びついた剣心をヒラリと避ける。

剣心はそのまま向かい側の棚に激突する。

 

「俺は男に抱き着かれて喜ぶ趣味はねえんだ、気安く飛びつくな」

 

(でも、ビジュアル的に腐女子には人気がありそうだけど‥‥)

 

信女は前の世界にいる腐女子と呼ばれる女の子達なら、喜びそうなシチュエーションだと心の中でそう思った。

 

「けど良かった、あの薬がしっかり効いたんだ」

 

「ああ?こんなん効くかよ、大体 こいつは俺が出鱈目に調合したエセ薬じゃねェか」

 

「え、エセ薬‥‥」

 

(じゃあ、緋村はそのエセ薬のおかげで笑い死を免れた訳ね‥‥緋村の身体ってどんな構造をしているのかしら?)

 

笑い死にしそうになった時、そのエセ薬で治った剣心の身体つきに疑問を持った信女。

一方、剣心は比古が生きているのは薬のおかげではないとすると何があって比古がこうして生きているのかを疑問に思った。

 

「じゃあ、何故‥‥」

 

剣心の疑問を解くカギは逆刃刀にあった。

逆刃刀を見ると柄の釘が外れかかっていた。

その為、力が刀に吸収され、威力が僅かに弱まった為であった。

最も、比古は『そこまで逆刃刀を駆使させた自分のお陰だ!』と、彼の自信家振りに信女は苦笑いした。

本来は師匠の命の代価を得なければならない飛天御剣流の奥義を会得した剣心。

奥義を会得した今、剣心と信女は山を下りる事になる。

去り際、代々受け継がれるという白外套を差し出した比古であったが、剣心は自分が白外套を纏った姿を想像してドン引きして、似合わないのでいらないと言って、信女は吹き出した。

 

「の、信女、笑うなんて酷いでござるよ~‥‥師匠、外套は遠慮します」

 

自分が受け継ぐのは飛天御剣流の理のみという剣心に手前勝手だと文句を言いながら小屋に戻って行く比古。

そんな比古に剣心は、自分が志々雄一派と戦っている間、志々雄一派の別働隊から葵屋の皆を守って下さいと頼む。

しかし、比古は「甘ったれるな」と言って剣心の願いを取り下げるかと思ったが、最後に「余計な心配は無用、さっさと志々雄を倒せ」と言って小屋の中に戻って行った。

その言葉から比古は頼みを聞いてくれると確信し、剣心と信女は山を下りた。

 

「それで、信女。これからどうするでござるか?」

 

「麓の駐在所にでも行けばなんとかなるんじゃない?そろそろ斎藤も京都に着いている頃だし」

 

「そうでござるな、っと、ここか‥‥御免」

 

駐在所かその近くで馬でも借りて京都へと戻るつもりで駐在所へと入る剣心と信女。

腰に刀をぶら下げた連中が来た事で駐在警官は警戒するが、剣心が帯刀許可証と信女が身分証明書を提示して事情を話すと‥‥

何故か馬は馬でも馬車で京都市内の警察署まで連れて行ってくれる事になった。

 

「まさか、こんなVIP待遇を受ける事になるなんて思わなかったわ」

 

「ん?びっぷとはなんでござるか?」

 

車内でどうでもいい事を話しながらも、奥義を会得した剣心は明らかに今までの表情とは異なる。

 

「やっと少しは成長したって所ね」

 

「ん?どうしたでござるか?」

 

剣心が信女の視線に気づいて尋ねてくる。

 

「なんでもないわ‥ただ、緋村が少しいい男に成長したって思っただけよ」

 

信女は窓の外を見ながらボソッと呟く。

 

「えっ?」

 

信女の言葉に剣心は目を見開く。

 

「信女、それはどう言う‥‥」

 

剣心が信女にその言葉の意味を尋ねようとした時、馬車はタイミング良く、(剣心にとってはタイミングが悪い)警察署の前で止まった。

肝心の部分を聞きそびれた剣心は面白くないと言う顔をする。

そんな剣心を尻目に信女は場所のドアを開けて警察署の前に降り立つ。

続いて剣心も馬車から降りると、

 

「よう、平日の午後に馬車で来訪とはまるでどこぞの御大尽の様だな。で、どうだ?人斬りに戻る決心はちゃんとついたか?」

 

警察署の中から斎藤が窓を開けて剣心に尋ねる。

 

「さあ、どうでござるかな」

 

顔を上げて斎藤を見た剣心の表情に斎藤も何かを感じたのか、それ以上の事は言わず、剣心と信女に上がってくる様に言うと窓の向こうへと消えていった。

何か志々雄一派についての情報を得たのかもしれないので、剣心と信女は警察署の中に入って行った。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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