エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
「えっ?」
急に後ろから剣心に抱きしめられ信女は少し動揺する。
「ひ、緋村?」
「信女、どうしても拙者はお主に甘えてしまう。このまま東京に戻りお主の言うようにして平和を噛み締めながら余生を過ごしたい」
「なら戻ればいいじゃない。丁度お迎えだって来ているんだし‥後は私と斎藤に任せて‥‥」
信女は剣心の背まで腕を回して甘い声をかける。
剣心はそんな信女の顔を手で振り向かせて自分の目の前まで持ってきて、
「だがそれと同じぐらい拙者はお主の隣に居たい。」
「.....」
信女は黙って剣心の言葉を聞いていた。
剣心は目を瞑りながら、
「今回の仕事を引き受け、お主とした旅はとても心地よかった。もし叶うならもっと旅をしていたい」
激しく真剣に信女に告白するような気持ちで剣心は話していた。
剣心の言葉を聞いて信女の心にどれぐらい響いているのだろうか...そんなのは分からないだが
「それには平和が誰もが県と県を自由に行き来でき、夜も皆がゆっくり眠れる世界でお主といたいのだ。信女‥それには志々雄に勝って平和を手に入れるだけでは足りぬ、志々雄に勝ってお主も無事にいる世ではないと.....だから拙者も戦おう拙者の世界には薫殿達だけでなく信女お主もいるのだから。」
ここまで聞き終わると小さい声で、
「...ばか」
「信女?」
「‥緋村‥」
と身を屈めて次の瞬間剣心の顎めがけて頭突きを入れる。
「おろ~」
倒れ地面に激突する剣心。
「の、信女~不意打ちは酷いでござるよ~」
はぁ~とため息を履いて思いっきり見下して信女は言った。
「こんな攻撃も躱せないでどうやって私を守るの?どうやって志々雄に勝つの?」
いつつと顎を抑える剣心は上に目線のある信女に、
「い、いや~それはこれから強くなって...」
「そんな覚悟しかない人はこの修行で死ぬわよ。まったく、本当にバカで身の程も知らないで女を口説く言葉並べれば私がぐらつくとでもそれに急に抱きしめるなんて‥‥こういうのをセクハラって言うのよ、セ・ク・ハ・ラ」
「せ、セク?」
聞き覚えのない言葉に首を傾げる剣心。
「女子の身体に勝手に触れたら捕まるわよ、ヤらしい」
「そ、そんなつもりは...それにバカと言うならお主の方でござる」
「?」
「お主と斎藤だけではキツイから声をかけたのであろう?それなのに‥‥」
次の瞬間物凄い勢いで自分の隣を何が通り過ぎ、青ざめながら後ろを見るとそこには大木に刺さった信女の刀を見て信女の方に向き直すと信女はゴキゴキっと指を鳴らして
「ごめーん。手が滑った~」
完全に棒読みな信女。
「次は外さない」
どうやら攻撃を否定したのではなく完全に攻撃して外したことを指していた。
刀を木から引っこ抜き鞘に納める信女。
「わ、悪かったでござるよ」
「へぇ~何が?一体何が悪かったのかな~?」
「え、えっと~」
考えている内に既にボコられている剣心。
剣心は必死に信女を抑えようとしてやっとのことで抑える。
だが、体勢が不味かった。
剣心は信女を地面に押し倒し、信女の両手を抑えている状態だった。
しかも運悪く‥‥
「おい、お前ら帰りが遅いと思って来てみたら一体何してんだ?」
比古が帰りの遅い2人の様子を見に来ていた。
そんな比古を見た瞬間信女は、
「助けて~緋村に犯される~」
また棒読みで言うが剣心にとってはたまったもんじゃない。たちまち剣心は悲鳴をあげるように
「そ、それは卑怯でござるよ~信女~」
悪女に引っかかり完全に金をむしり取られた哀れなオスと同じ声が山に響くぐらい大きな声を上げた。
剣心はやはり信女には一生敵いそうにない。
添い遂げて夫婦になっても彼は信女の尻に敷かれそうだ。
「ほぉ~俺の山の中で強姦たぁ~いい度胸をしているじゃねぇか‥‥なぁ、バカ弟子‥最後に何か言い残す言葉はないか?」
比古の背後にはメラメラと燃える炎が見えた。
「まぁ、悪ふざけはこれぐらいにしておきましょう。緋村に強姦何て出来る度胸がある訳がないし」
「まぁ、それもそうだな」
剣心をからかうだけからかった信女は何事もなかったかのように冷静な態度を取り、比古と共に彼の家に向かう。
「あっ、ちょっと!!待つでござるよ~信女~」
剣心も慌てて後を追った。
しかし、一見冷静に見える信女だが、心の中では、
(なんか胸のドキドキが止まらない‥‥全く、緋村があんなことをするからよ‥‥)
信女は決して他の人‥特に剣心には知られまいと必死でこの胸のドキドキを隠す様に平然を装った。
だが、
「お前も女と言う訳だな、信女」
比古が信女の耳元でボソッと囁く。
「っ!?」
比古のその言葉を聞いて信女はビクッと体を震わせる。
「安心しろ、今のお前の様子にあのバカ弟子は気づいていない。だが、意外にもあのバカ弟子はモテるみたいだ‥‥添い遂げるなら首に縄を結ぶぐらいしないと横からあっさりと取られるぞ」
「わ、私は別に‥緋村の事なんて‥‥」
「少しは自分に正直になれ」
「い、今はそんな事よりも志々雄の件を片付けるのが先決の筈よ」
そう言って信女は速足で比古の家に向かう。
「やれやれ、俺の弟子はどいつもこいつも不器用な奴ばかりだな」
比古は足早に去って行く信女を見てやれやれと呆れる。
だがその反面心の中では、
(これからお前かあのバカ弟子が死ぬかもしれねぇから、未練は残さねぇ方がいいんだけどな‥志々雄との戦いは決して生易しいものじゃねぇぞ)
比古は真剣な眼差しで信女を見る。
話しを聞く限り、志々雄は今の剣心や信女よりも実力は上かもしれない。
そんな奴とこれから戦うのだ。
剣心が‥‥信女が‥‥その両方が死ぬ可能性もあるのだから‥‥
比古、信女、剣心が比古の家に戻り、再び彼が木箱に腰を下ろし、比古が剣心に薫たちから聞いた剣心の10年間の事を確認するかのように尋ねた。
「コイツ等から聞いたんだが、おまえこの10年流浪人になって人助けしながら全国を歩いていたんだってな。15年も時間を遠回りしてやっと飛天御剣流の真の理を自然に会得したのか、それとも人斬り時代に殺めた命への償いか?」
「…両方…でござるよ。目の前の人々が苦しんでいる、多くの人が悲しんでいる、どんな理由があろうとそれを放っておくなど俺には出来ぬ」
剣心は敢えて自分の一人称を『拙者』から抜刀斎時代の『俺』と言って意志が固い事を比古に伝える。
「比古‥‥」
「ん?」
「私からもお願いするわ」
先程、あのような事があったが剣心はもう東京に戻れと言っても戻らないだろう。
ならば、彼の生存率を少しでも上げる為にも奥義の伝授は何が何でもしてもらわなければならない。
「フン…信女にまで頭下げられちゃあな。しかもバカ弟子のくせにここぞと言う時には一人前に吠えやがる‥‥いいだろう。ついてこい!飛天御剣流最後の奥義、お前に伝授してやる!」
立ち上がった比古が言うと信女は口元を少し緩め、嬉しそうにしながらもしっかりと頭を下げ感謝の意を表した。
そしてあれだけ奥義の伝授を渋っていた比古が剣心に奥義を伝授すると言う発言を聞いて剣心と薫は驚いたかのように目を見開いた。
「何だかんだいって飛天御剣流の剣客として志々雄を放っておくわけにはいかんだろう。今から新しい弟子を探して仕込むには時間がない」
「師匠」
「俺自身が出張れば一番てっとり早えんだが、今更そんな面倒臭ぇ事は御免だ。お前が責任を持って志々雄真実を喰い止めてみせろ」
「はい!!」
もう日が落ちているにも関わらず、時間を無駄にしたくないと言う事なのだろう。剣心と比古は早速奥義の伝授の為の修業に入った。
「剣心‥‥京都に来たの…やっぱり怒っている……?」
「……半分、もう半分はどこかほっとした。志々雄一派はどこに潜んでいるかわからぬから、十分気をつけるでござるよ」
信女は剣心の世話役の為、比古の家に残った。
そして、薫たちにもう夜なのだから今日は泊まっていくかを尋ねると、薫たちは下宿先である白べこに戻ると言う。
夜の中に女性と子供‥しかも剣心の関係者と言う事で道中、志々雄一派が襲ってこないとも限らないので、信女は薫達を下宿先である白べこ、操を葵屋に送っていくことにした。
その道中にて‥‥
(き、気まずい‥‥)
操は気まずさを感じていた。
信女も薫も一言も口をきかずただ淡々と歩いているだけ‥‥
弥彦もその気まずさを感じたのか、この空気に対して息がつまりそうな思いになった為かこの空気を破る為に薫に話しかけた。
「今から白べこに戻るのか?何だよこんな夜中に帰る事ないじゃんか」
「剣心は奥義を得るための修業に入ったのよ。私達がいたら修業の邪魔になるわ」
「そうか‥‥」
薫の言葉を聞いて剣心の現状を理解したのか弥彦はそれ以上何も言わなかった。
反対に、
「でも、それで貴女は良かったの?」
此処で信女が薫に対して問う。
「えっ?」
信女から声をかけてきたのが意外だったのか薫は面を食らう。
「確かに緋村は奥義会得の為の修業に入った‥それでも何か出来る事があると思うけど?事実、私は緋村と比古の世話役で残るし‥‥」
「剣心に会いたいって言う私の目的は果たせたから」
面食らった薫であるがやはり信女と顔を合わせるのが気まずいのか薫は直ぐに信女から顔を背けてしまう。
「そう‥‥」
薫の言葉を聞いて信女はそれ以上、深くは何も言わなかった。
ただ、そんな自分の態度に信女はやや嫌悪感を抱いた。
(私はずるい女なのかもしれないわね‥‥今、この人が緋村の傍に居ないって事に安心してしまう自分が居た‥‥残る様に説得しなかった自分が居る‥‥)
信女が人知れず自己嫌悪していると、
「まぁ、それなら家に泊まっていきなよ。好きなだけ」
操も薫に自分の家を下宿先として提供すると申し出た。
「飛天御剣流の奥義ってどんなのだろうな?」
そして弥彦は飛天御剣流の奥義が気になった様子。
「なぁ、アンタも確か剣心と同門なんだろう?やっぱり、アンタもその奥義は使えるのか?」
弥彦は信女に飛天御剣流の奥義が使えるのかを尋ねる。
「ええ‥昔に比古に習ったわ‥‥でも、内容は教えられない‥‥一応、門外不出の技だから」
「そ、そうか‥‥ま、まぁ、最強の奥義なら仕方がないか‥‥ん?最強‥‥?」
弥彦が最強と言う言葉に関して何か引っかかる。
「ん?どうしたの?弥彦」
「あっ、いや‥何か剣心に伝えておかないといけなかった事があった気がして‥‥」
「あっ、そうよ、蒼紫」
「そうだ、四乃森蒼紫だ」
「っ!?」
弥彦と薫の口から蒼紫の名前が出た瞬間、操の顔色が変わり、信女もピクッと反応する。
操が蒼紫の事を「蒼紫様」と言った事から操が蒼紫の仲間と判断した弥彦は竹刀を操に向けて警戒するが、そこを薫が宥めた後、剣心から聞いた御庭番衆達の最後を操に伝えた。
操は般若達が死んだ事に当初は信じられなかった。
だが、相手があの回転式機関銃では流石の御庭番衆でも勝てない事は操でも理解した。
そして山を下りた後、
「それで、どっちに送ればいいの?」
「えっ?」
信女が薫達に葵屋と白べこのどちらに送ればよいのかを尋ねる。
「えっと‥‥」
「家に来なさいよ、薫さん」
操は葵屋を勧めるが、
「もうかなり夜遅くなっているわね‥‥翁さん心配しているんじゃないかしら?」
信女が翁の名を口にすると操の顔色がサッと悪くなる。
こんな夜遅くに帰ればきっと翁からのお仕置きが待っている。
「か、薫さん‥今日‥その白べこって所に私も泊めて」
「えっ?」
操は白べこに逃げる事にした。
そして翌日薫に頼んで翁に弁護してもらおうと考えた。
3人を白べこに送った信女は再び剣心が修業をしている山へと戻った。
信女が3人を白べこに送っている中、剣心と比古は夜にも関わらず、飛天御剣流の奥義の修業を開始していた。
「始める前に1つ言っておくことがある。最後の奥義を会得すれば、お前は俺や信女に匹敵する強さを得る事になるだろう。だが、自惚れるなよ」
「えっ?」
「お前1人が全てを背負って犠牲になって守れるほど、この時代は軽くない筈だ。そして同様に人1人の幸せも軽くない。お前が犠牲になればただお前に一目会いたいと願って京都に来た女が確実に不幸になる。そして‥‥」
「そして?」
「あっ、いや、なんでもない」
比古は薫が悲しむと同様恐らく剣心が死ねば信女も悲しむ事を伝えようとしたが、これからの修業の中、剣心が信女の事を意識しては修業に支障をきたすと思い信女の事は話さなかった。
「だが、これだけは覚えておけ、どんなに強くなろうとお前はただの人間‥仏や修羅になる必要はない‥‥話は終わりだ‥‥始めるぞ」
比古は修業に当たっての注意事項を伝え終わると愛刀、冬月を抜刀する。
こうして剣心の奥義会得の為の修業が始まったのだが、剣心の実力は比古が思っていたよりも下回っていた。
この腕では奥義会得の前に剣心が使い物にならなくなると思い比古はまず剣心に自分から一本とった後に奥義を教えると言う。
ただでさえ、時間がひっ迫している中、今は1分1秒惜しい。
剣心の剣に焦りが見えても仕方がなかった。
だが、焦れば焦る程、剣は単調となり比古からますます一本とるのが難しくなる。
次第に悪循環に陥る剣心だった。
その頃、葵屋にはある危機が迫っていた。
剣心の情報を得る為に蒼紫は志々雄と同盟関係を結んだ。
そして剣心の情報を得る為、葵屋を襲撃し翁を拉致、拷問にかけて剣心の情報を得ようとしたのだ。
しかし、志々雄が葵屋に放った強襲部隊はあっさりと翁達に返り討ちにあい全滅。
アジトに辿り着いた部隊のメンバーの1人はその場で息絶えたが背中に蒼紫宛ての伝言があった。
翌日、操達が葵屋に戻ると黒尉とお増が床の修理をしていた。
2人は操に翁が夕べ悪ふざけをして床をぶち抜いたと言うが、胸騒ぎを感じた操は押し入れを開けると昔翁が現役時代に使用していた忍び装束と武器が無くなっていた。
操は2人を問い詰めると2人は翁が蒼紫と決闘する事を伝えた。
2人から蒼紫と翁が決闘する事とその場所を聞くと一目散にその場へと向かった。
しかし、操が到着した時、決着はつき、翁は蒼紫に敗れた。
だが、全身を切り刻まれながらも翁は生きていた。
蒼紫が修羅となった事に操は傷ついたが、翁が残した手紙を読み、彼女は突如蒼紫に変わって御庭番衆お頭に自らがなる事を宣言し、剣心同様、御庭番衆を守りそして大切な人を守る事を固く誓ったのだった。
・・・・続く
ではまた次回