エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

5 / 58
更新です。


第4幕 非番

 

 

~side剣心~

 

あれから俺は信女と何とか話し合う機会を探ったが、いざそうなるとなかなか機会が訪れなかった。

新撰組は京都の治安維持活動を名目としているので、基本隊士達は複数で行動をするので、信女一人という機会がなく、昼間、信女以外の隊士を切り捨て、話そうと思っても昼間では関係のない者達を巻き込んでしまう恐れがあるし、人目につきやすい。

夜は警戒が厳しく、長々と話すことは無理。

正直、八方塞がりだ。

しかし、信女の周りを探っている内に彼女の新撰組での生活が少しずつ分かって来た。

どうやら、信女は男装して新撰組に居る様子で、新撰組内では今井異三郎と名乗っている。

そして、役職は監察方兼新撰組三番隊組長補佐という役職についているという。

入隊してから僅かな間で準幹部の役職についているのは、信女の剣の腕か?

それとも信女の正体を新撰組の幹部連中が知っているためか?

それについても信女に尋ねる必要がある。

しかし、俺も四六時中新撰組の屯所を張っている訳では無いので、信女の非番の日を知ることは出来なかった。

そんなある日、俺はアレを見てしまった‥‥

 

その日、俺は京の町を歩きながら、どうやって信女と話す機会が得られるのかと模索していると、

 

「それにしてもその着物とても、よくお似合いですよ、今井さん」

 

と、信女の苗字が聞こえたと思って、声のした方を見ると、其処には女物着物を着た信女の姿があった。

 

 

此処で少し時間は過去に戻る。

 

~side信女~

 

この日、非番だった私は沖田さんに誘われて京の町に来ていた。

そして、定番となった甘味処巡りをした。

お団子や餡蜜もいいけど、やっぱりドーナツ‥ポンデリングが食べたい‥‥。

この国にドーナツが来るのは一体いつになるのだろう?

私がドーナツに思いをはせながら、お団子を食べていると、

 

「あ、あの‥‥今井さん‥‥」

 

「何?」

 

「今井さん、その‥‥着物とかって、興味ありませんか?」

 

「ん?」

 

沖田さんにそう言われて、私は着物屋に来た。

 

 

~side京のとある着物屋~

 

「すみません」

 

「はぁーい」

 

沖田と信女が着物屋の暖簾をくぐり、沖田が声をかけると、店の奥から女将が姿を現した。

 

「あら?沖田さん」

 

「どうも」

 

「それで、今日はどういった御用でしょうか?」

 

「実は、この子、訳あって、男装をしているんですけど、たまには本当の姿にしたいと思いまして‥‥」

 

「‥承知しました。では、此方へ‥‥」

 

女将は沖田の頼みを聞いて、信女の手を引いて、店の奥へと姿を消した。

こういった店は個人の秘密を大事にしてくれる。

故に信女が本当は女だと言う事を他に言い触らさないと沖田は分かっていた。

そして、暫くして、

 

「お待たせしました」

 

女将が信女と共に戻って来た。

 

「あっ‥‥」

 

沖田が信女の姿を見た時、彼が言葉を失った。

信女は元々の素材が良かった為か、化粧はうっすらと施し、浅葱色にオレンジ色の蝶が刺繍された着物に白いリボンを着けていた。

 

「どうでしょう?沖田さん。今井さん、べっぴんさんになりましたか?」

 

女将が沖田に尋ねた。

 

「え、ええ‥‥今井さん‥とても良くお似合いですよ」

 

「そ、そうかな‥‥」

 

「そうですよ」

 

それから、沖田と信女は店を出て、京の町を散策した。

信女は何時も腰にぶら下げている刀、袖に仕込んでいる小太刀が無いのがどうにも慣れないのか、ソワソワとちょっと落ち着かない様子。

それもそのはずで、信女自身、女物の着物を着るなんて、前の世界に居た頃を合わせても数える程度しかない。

そんな信女に沖田は、

 

「それにしてもその着物とても、よくお似合いですよ、今井さん」

 

改めて着物姿の信女を褒める沖田。

そこへ、

 

「信女‥‥」

 

信女の耳に見知った声が入る。

 

「っ!?」

 

信女が慌ててその声がした方に顔を向けると、

 

「‥緋村‥‥」

 

まぁ、同じ京の都に居るのであるから、こうして遭遇する確率が全くないとは言い切れなかったが、まさか、刀が無いときにこうして会うとはマズイ状況だ。

剣心は腰に獲物をちゃんと帯びている。

 

「へぇ、人斬り抜刀斎が白昼堂々と新撰組の前に現れるとは、大した自信ですね」

 

沖田が不敵な笑みを浮かべて信女を守るかのように剣心の前に立つ。

 

「新撰組一番隊組長、沖田総司‥‥」

 

「光栄ですね、人斬り抜刀斎に名前を憶えてもらえるなんて‥‥」

 

沖田は愛刀の柄に手をやる。

しかし、剣心は刀を抜こうとはしない。

 

「沖田さん、今日の私達は非番であり、新撰組隊士じゃありませんよ」

 

信女は非番の日に白昼堂々と斬り合うなと言う。

 

「緋村も今日のこの場は引いて、此処で斬り合えば、大事になる」

 

「‥‥」

 

信女の言う事も尤もであり、剣心はこの場は引いた。

ただ、引いた時の剣心の顔は悔しそうだった。

沖田と斬り合えなかった事が悔しかったのではなく、女の‥‥本当の姿になった信女と一緒に歩いていた沖田に嫉妬していただけだった。

信女も剣心の意を酌んだのか、こっそり、剣心に口パクであるメッセージを伝えた。

剣心がすんなりとこの場から引いたのはそのメッセージを瞬時に理解した事も関係していた。

剣心が引いた後、沖田は、

 

「今井さん、もしかして緋村さんと知り合いなんですか?」

 

剣心との関係を尋ねた。

 

「‥昔‥一緒に剣の修業をした同門の仲よ」

 

信女は斎藤から自分と剣心の関係を新撰組の仲間には話すなと言われたが、今の剣心とのやり取りを沖田に見られては、隠すことは不可能だ。

それに沖田も斎藤同様、新撰組隊内で信女と剣心との関係をベラベラ喋るような輩ではない事はこれまでの付き合いでわかっていた。

だからこそ、信女は沖田に自分と剣心との関係を話した。

 

「あの‥‥今井さん」

 

「何?」

 

「その‥‥今井さんの本当の名前‥なんて言うんですか?」

 

沖田は信女の本当の性別は知っていても本当の名前は知らなかった。

 

「それって口止め料?」

 

「まぁ、そんなモノです」

 

沖田はいたずらっ子の様な笑みを浮かべて信女に本当の自分の名前を尋ねてきた。

 

「信女‥‥今井信女‥それが本当の私の名前‥‥」

 

「信女さん‥‥じゃあ、今度から二人っきりの時はそう呼びますね、信女さん」

 

「‥好きにしなさい」

 

信女は半ば諦めた感じで沖田に本名を呼ばせた。

 

それから、数日後‥‥

 

信女の姿は京の町のとある茶店に居た。

彼女は今回、土方に無理を言って、今日は休みにしてもらったのだ。

団子とお茶を食べながら信女はある人物を待っていたのだが、彼女はまだ待ち人が来る前に、料金を払ってその茶店を出た。

 

「お代、此処に置いておきますね」

 

「はい、毎度」

 

信女は団子を咥えながら、茶店を後にし、京の町を当てもなく、歩き回りそして、人気の無い、裏路地へと入る。

そして、不意に立ち止まる。

すると、信女の前には浪士が二人、後ろから一人が信女を挟む様に立ちはだかった。

 

「何か用?」

 

「新撰組、三番隊組長補佐、今井異三郎とお見受けする」

 

「だったら?」

 

「天誅を下す!!」

 

そう言って、浪士達は刀を抜く。

どうやら、この浪士らは維新志士達の様だ。

 

「丸腰でうろつきまわるとはまさに飛んで火にいる夏の虫」

 

確かにこの維新志士が言うように信女は今、腰に刀を帯びていない。

 

「覚悟!!」

 

維新志士が信女に斬りかかって来た。

すると、信女は手を一度、袖の中にしまい、次に出すとき、彼女は何かを握っており、それを眼前の維新志士の一人向かって投げた。

 

「ぐぎゃぁぁ!!」

 

すると、突如維新志士の一人が悲鳴をあげる。

彼の目には団子の串が突き刺さっていた。

これは、先程信女が居た茶店で食べていた団子の串だった。

 

「なっ!?」

 

いきなり目に走る激痛にその維新志士の勢いは止まり、突如仲間が何らかの攻撃を受けた事で、他の維新志士達の勢いも止まる。

信女はその隙を見逃さず、目の前の維新志士達に接近し、袖の中に仕込んでいた小太刀で失明した維新志士を斬り、隣にいた維新志士の心臓を小太刀で貫く。

そして、その維新志士の脇差しを抜いて、背後の維新志士に向かって投擲する。

 

「ぐはっ!!」

 

投擲された脇差は背後の維新志士の心臓を貫き、その維新志士はその場に倒れた。

丸腰かと思っていた信女であったが、この物騒な京の町を丸腰で出歩くわけがなく、両方の袖の中に小太刀を仕込んでいた。

二人目の維新志士の心臓に突き刺さった自分の小太刀を抜き、血を振り払い、両手の小太刀を袖の中に仕込み直す信女。

そして‥‥

 

「緋村‥‥そこに居るのでしょう?出てきたら?」

 

背後に声をかけた。

 

「信女‥‥」

 

すると、背後から剣心が現れた。

沖田と共に剣心と出会ったあの日、信女は剣心にこの日、あの茶店であう事を口パクで伝えたのだが、どうも無粋な輩が信女の周りに張り付いていたので、敢えておびき寄せてこうして片付けたのだ。

あんなのが居たのでは落ち着いて剣心と話す事も出来ない。

しかも相手は剣心と同じ維新志士。

新撰組隊士である自分と剣心が出会っているのを見られたら、剣心が裏切り者として処断されるかもしれない。

其れゆえに信女はあの無粋な輩を消す必要があった。

剣心としてもその無粋な輩の存在には気づいていたのだが、相手は同じ維新志士。

信女と会うだけで、同志を斬ることが出来なかった。

しかし、剣心自身もあの信女がそう簡単にやられるとは思っていなかったが、まさか、袖の中に小太刀を仕込んで、あんな方法で同志を斬るとは思ってもいなかった。

 

「私に話があるのでしょう?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

信女はついさっき人を殺したにも関わらず、そんな事など無かったかのように普段通りの態度で剣心に尋ねる。

剣心も信女の態度に若干引きはしたが、信女と話があるのは事実。

 

「場所を変えよう‥‥此処は話し合いをするのに相応しい場所ではない」

 

「そうね‥‥」

 

流石に人の死体が転がっている場所では、長々と話すにはあまり相応しい場所ではない。

それに誰かに見られたら厄介だ。

今日、京の町で人の死体が転がっていても何ら不思議ではないが、下手人だとバレルと何かと面倒だ。

ただでさえ、維新志士と新撰組隊士がこうしてであっているのだから‥‥。

剣心と信女は場所を変えて、話し合う事にした。

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。