エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
小田原を過ぎ、ある山の中で、出会った追剝少女の巻町操。
盗まれた金を小田原の両替屋に戻しに小田原まで戻って来たのだが、操が倒した男連中は小田原の宿場町でヤクザ達とつるんでいるめんどい連中だった。
操が‥正確には操に倒された男連中が盗んだお金を元の持ち主の所へ戻した後、再び京都へと向かおうとした中、剣心、信女、操の3人は橋の両方からこの宿場町を牛耳っているヤクザ連中に挟み撃ちにされてしまった。
「いたぞ!!」
「こっちだ!!来い!挟みうちにしろ!!」
「な、何でこんな早く!?」
操はどうしてこんなにも早くヤクザ連中が集まっているのかを不思議に思っていた。
「貴女が山の中で倒した男の1人、まだ意識があったわ‥貴女、仕事が粗いわね」
信女はその理由を操に話す。
「気づいていたならソレを先に言いなさいよ!!」
「元々は貴女が蒔いた種でしょう」
大勢のヤクザが迫っている中でも信女は至って冷静だ。
「このアマァ さっきはよくも」
先程、山の中で操に倒された男の1人が声を荒げて言い放つ。
「ちっ、しつこいなァ ざっと30人か‥あんた剣客なんでしょう?そっちの人は手伝ってくれなそうだし 半分 任せていい?」
「やれやれ…今は人と関わりたくないというのに…」
「え?」
「何気取ってんだ!?このチビ!」
「てめえも死ねや!!」
イラッ
ヤクザのこの一言が信女を無性にイラつかせた。
とりあえず、無関係な筈の剣心に殺すなんて言うのだから、ちょっと信女もイラッと来た。
「ふぅ~‥‥盗みを働いたお主らも悪ければ追い剥ぎをした操殿も悪い、拙者達も付き合うから両成敗という事で勘弁するでござるよ」
剣心は刀を抜いて、そのまま橋を斬ろうとした。
「待ちなさい、緋村。貴方はまさか、この橋を斬るつもり?」
「あ、ああ。そうでござるが?」
「そんな事をしたら、貴方は器物損壊罪よ。それに橋を斬れば明日の朝、大勢の人に迷惑をかける事になる。分かっているの?」
信女は剣心が橋を斬ろうとしたので、それを止めた。
「う、うむ‥‥では、致し方ないか」
剣心はやれやれと言った様子で逆刃刀を構える。
「この追剝少女は私が後でお仕置きしておくから、今は眼前のゴミ虫を片付けましょう。片方‥‥任せる」
前髪の影で目は見えなかったが、この時信女の口は三日月型になっていた。
剣心は操にご愁傷様としか言えなかった。
「わ、分かったでござる。だが信女‥‥」
剣心は信女が眼前のヤクザ達を斬り殺さないか心配になった。
「緋村、貴方の言いたい事は分かっている‥‥大丈夫よ、殺しはしないわ。こんな斬り殺す価値にも当たらないゴミ虫共なんて‥‥」
信女は抜刀し、刃を返す。
「ね、ねぇ、ちょっと‥‥」
操が信女に声をかけるが、
「貴女は其処にいなさい。くれぐれも私や緋村に近づかない様に‥巻き込まれても責任は負えないわ」
信女は操の言葉を無視して、操に自分や剣心から離れる様に‥‥橋の中心から動かない様に言う。
「えっ?ちょっと、それってどういう‥‥」
操が信女に尋ねる前に信女も剣心もそれぞれダッと駆け出し、両端にいるヤクザ達を次々と薙ぎ払っていく。
そして、剣心も信女も最後の1人を倒した。
橋の上にはうめき声をあげるヤクザ達が転がっている。
「へぇ~アンタ達、なかなかやるじゃない」
ヤクザ達を片付けた後、操が剣心と信女に声をかける。
「でも、やっぱり、あたしが探している人達の方がもっと凄いけどね」
「さようでござるか」
「幕末の激動の中で江戸城を影で守り抜いた人達だもの」
「っ!?」
「今頃何しているのかな?蒼紫様や御庭番衆のみんな‥‥」
操のその一言に剣心はかつて観柳邸にて戦ったあの忍者達の姿が脳裏を過ぎった。
「四乃森‥‥蒼紫‥‥」
そして、その忍者達のお頭の名前を呟いてしまった。
「えっ!?」
操は剣心の呟きを聞き逃さなかった。
先程、自分は四乃森の名前しか言わなかったが、剣心は明確に四乃森蒼紫のフルネームを呟いた。
「アンタ‥蒼紫様のことを知っているの?御庭番衆のみんなは元気にしている?ねぇ?」
操は剣心に四乃森、そしてその部下達が今どうしているかを尋ねる。
しかし、剣心は答えるに答えられなかった。
その理由は四乃森の部下である般若達は皆、観柳に殺され、生き残った四乃森は行方不明となっており、今何処に居るのか知らなかった。
そして、もう一つの理由が‥‥
「ねぇ、追剝少女‥‥」
操の背後でダークオーラ全開の信女の存在の為であった。
「何よ?今、大事な話をしている最中なの、悪いけど引っ込んでいて」
操は剣心のみしか見えておらず、信女はアウト・オブ・眼中だった為、信女のダークオーラに気づいていない。
「ねぇ、それで蒼紫様は何処に居るの?」
「‥‥」
「ねぇ、聞こえていないの?ねぇってば!!」
「み、操殿‥‥後ろ‥‥後ろを見るでござる」
剣心は震えながら、操に後ろを振り向くように促す。
「後ろ?‥げっ!?」
「さっき、言った筈よね?『貴女にはお仕置きをする』って‥‥さあ、いらっしゃい。向こうで少し、O・HA・NA・SHIをしましょう」
其処には美しいけれども見ていると寒気を抱く様な笑みを浮かべた信女が立っていた。
そして信女は操の襟首をつかみ、森の中へと引きずり込んでいく。
「えっ?ちょっ!?あたしはアイツに蒼紫様の事を‥‥」
当然操は暴れて信女を振りほどこうとしたが、信女の手は外れる事無く、信女と操が夜の闇の中へ消えていく。
それから少しして‥‥
「ぎょぇぇぇぇー!!」
森の中から操の絶叫が木霊した。
「‥‥」
剣心が操の叫びを聞き、ビクッと身体を震わせる。
しばらくしてツヤツヤ肌の信女と足取りがフラフラで目が虚ろな操が戻って来た。
「‥信女、操殿に何をしたでござるか?」
「‥‥知りたい?」
笑みを浮かべたまま剣心に尋ねる信女。
「い、いや、遠慮するでござるよ」
「それじゃあ、先を急ぎましょう。今回の事で遅れた時間を稼がないと」
「あ、ああ‥‥」
信女と剣心は再び歩み始めるが、操も2人とある一定の距離を保ち、着いて来た。
足取りがおぼつかないとき、剣心は心配そうに振り返ったりしていたが、暫くしてから、足取りは元に戻った。
あの時、操の身に何があったのか?
それは流石に信女には聞けなかったので、後日、どうしても気になった剣心は操にあの時の事を尋ねた。
すると、帰ってきた返答が、
「あれ?あたしあの時、信女様と何かあった?」
「の、信女様!?」
と、光を宿さない単色の目(レイプ目)で操は剣心に尋ね返してきた。
信女の事を様付けで呼ぶ操に剣心はドン引きした。
人は過去の出来事において、あまりにもショックな出来事を経験すると、脳の防衛本能が働き、その時の記憶を排除する事がある。
これを逆行性健忘と言う。
操にとってあの時の事はまさに思い出したくもない出来事だった様だ。
剣心も操の思い出したくもない過去の事をこれ以上ほじくり返すのは余りにも酷だと感じて、これ以降、操にあの時の事は聞かなかった。
東海道を歩く中、後ろから操が着いてくる。
その際、信女も剣心も無表情のままただひたすら歩いている。
「それで、緋村」
「なんでござるか?」
「あの変態‥もとい、御庭番衆の連中はどうなったの?」
操に聞こえない様に小声で剣心に四乃森達の事を尋ねる信女。
「あの時、聞いてなかったでござるか?」
「四乃森が逃走したって事だけで、他の御庭番衆がどうなったかは聞いていないわ」
「‥死んだでござる」
「死んだ!?」
「しっ、聞こえると不味いでござる」
2人でチラッと後ろに居る操を見ると1人でポージングしながら何かを大声で叫んでいる。
(恥ずかしい‥‥)
「走るでござるか?」
「そうね」
タッタッタッタ‥‥
剣心と信女は顔を合わせて頷くと小走りで先を急ぐ。
すると、操も速度を上げて着いてくる。
「何よ!!チビ、赤毛、×傷、男女、廃刀令違反、悪趣味着物!」
「チビだってさ、緋村」
ププ、と笑って剣心を見るとちょっと落ち込んでいる。
操は、信女は四乃森の事を知らないと判断したのか、信女には毒は吐かなかった。
それ以前に何故か、信女には毒を吐けなかった。
吐こうとすると、無意識に体が拒絶反応をしてしまうのだ。
「一応 緋村 剣心と言う名前があるから、それで呼んで欲しいでござるよ。あと、拙者は廃刀令違反ではござらん。ちゃんと許可書をもっているでござる」
「それじゃあ その名前で呼んだらみんなの事教えてくれる!?」
「いや、それとこれとは話が別でござる」
パァ、と嬉しそうな顔をした操をさらっと流し、期待させといて期待外れな解答をする剣心。
すると、気分を害したのか、
「フザケンなこの野郎!」
と剣心に操の蹴りが入った。
「おろ!?」
「面白い顔になっているわよ、緋村」
「教えろ!!一体、蒼紫様たちは‥‥」
操の蹴りを喰らった剣心であるが、早々に復活し、信女と共に走って行く。
「おい、コラ!!」
結局いつまでも着いてくる操に2人は溜息を吐いた。
(忍者ってやっぱりストーカーの部類に入るんじゃないかしら)
しつこく後を着いてくる操に信女はウンザリした様子。
「斬る?」
「止めるでござる」
「それじゃあ巻く?」
「巻くか」
信女の提案に剣心もそれに賛同した。
このままこの娘を連れて行けば、志々雄一派との争いにこの娘を巻き込んでしまうかと思ったからだ。
剣心と信女は互いに頷くと、東海道の道をそれて、脇の雑木林に飛び込むと一気に走りだす。
「あっ!?待て!!」
チラッと後ろを見れば、息は上がって手足は途中木の枝で切ったかぶつけたのか所々切り傷を負った操が着いてくる。
「結構早めに走っているのに頑張るわね、あの子」
「それだけ蒼紫に会いたいのだろう」
「でも、この先もずっと連れて行くの?」
「いや、それは危険でござる。何としてでも諦めさせる」
走る速度をもっと上げて目の前に迫った崖を飛び越える剣心と信女。
操はその時、石に躓き、剣心と信女が崖を飛び越えた瞬間を見逃した。
反対側に着地して、立っている2人の姿を見て、操は2人が諦めたのかと思ったが、眼前に広がる崖を見て、驚いて立ち止まっていた。
「鬼ごっこはもう終わり」
剣心と信女が踵を返そうとした瞬間 苦無が飛んで来たが、剣心が抜刀による風圧で谷底へと叩き落とした。
「もう諦めて、おとなしく京都へ帰れ。どう言ういきさつで蒼紫がお主を預かるに至ったのかはよく わからぬが、闘い続ける修羅道に生きる御庭番衆の中ではお主は常に危険にみまわれる。蒼紫もそれがわかってお主を京都の爺やの所へ置いていったのでござろう。想いを断ち切って忘れた方が良い。それがお主の幸せのためだ」
剣心は操に四乃森達の事を諦めるよう説得する。
操が踵を返し歩く背中を見つめる。
剣心も信女もこの時は操が諦めたのかと思い、2人が踵を返そうとした その瞬間、
「好き勝手な事言うな、このウスラトンカチ!!」
振り返った操は崖に向かって走り出してきた。
「何が忘れろよ!!忘れられないからこうして探しているんじゃない、一番 想っている人を忘れる事の一体 どこが幸せなのよ!!」
「無茶だ!!よせ!!」
気付いた剣心が声を張り上げるが、操は走るのを止めない。
「たぁ!!」
操は無理だと分かりながらも崖をジャンプした。
「くっ、世話の焼ける」
「信女!?」
操が飛んだ一瞬後に信女は地を蹴り崖に飛び出すと、ジャンプ力が足りなく崖に落ちていく操をキャッチして、崖の途中の岩場を踏み台にして再び崖の上に戻る。
崖の上に戻った信女に剣心が慌てて駆け寄って来た。
「どういった心境の変化でござる」
「ちょっとだけ見直しただけよ‥‥大事な人を想うこの子の気持ちに」
信女は自分の腕の中で意識を失っている操を見つめた。
「ハッ!?‥‥あ、あたし‥気絶?」
「起きた?」
「‥‥どうして‥あんた達 起きるまで待っていたの?」
「ああ、理由あって拙者達の旅はいつ敵襲を受けてもおかしくないでござる。そんな危険な道中 他の者を供には出来ん」
「ついてくるなら 私達から少し離れて他人のフリをして‥‥また こんな無茶されたら敵わない。ただ人質になるようなヘマはしないでね。貴女の事だから、ダメって言っても意地でも着いてくるんでしょう?」
剣心と信女の言葉を聞き、操が嬉しそうな顔をして、
「あたりまえよ!!あたしは絶対もう一度 蒼紫様達と会うんだ!!」
と言って剣心と信女の後を着いて来た。
「やれやれ」
操の諦めない言動に剣心は少々呆れると同時に諦める。
(だから言ったでしょう?緋村、物事の最初でフラグになるような言葉は言わないモノよ)
そんな剣心の様子を信女はジッと見つめながら、京都へと続く道を歩いて行くのであった。
・・・・続く
ではまた次回。