エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第39幕 信頼

 

 

 

 

 

「緋村、貴方は本当にこれで良かったの?」

 

東京から東海道への入り口にて信女は剣心に尋ねる。

 

「今ならまだ、引き返せるわよ」

 

信女の言う通り、今なら神谷道場に戻る事が出来る。

ただし、此処から一歩先に出ればもう引き返すことは許さない。

故に信女は剣心に本当の最終確認をしたのだ。

 

「信女‥‥お主は何か勘違いをしているでござるよ」

 

「勘違い?」

 

「京都へ行くのは拙者の意志でござる。決して明治政府から依頼された訳でも命令された訳ではござらん」

 

「緋村‥‥分かった。せいぜい足手纏いにならない様に私が背中を支えてあげるわ」

 

信女はそう言って東海道への一歩を踏み出し、剣心も後に続いた。

 

そして剣心が京都へと旅立ってから数日後‥‥

 

左之助は剣心が流浪人に戻り黙って京都へ行った事に腹を立てていた。

弥彦や左之助は大久保が暗殺された事で剣心は京都へ行く筈がないと予想していた為に剣心が京都へと旅立って行った知らせは左之助にとってまさに寝耳に水だった。

彼はかつて、剣心に『俺の許しなしに勝手に流浪れるなよ』と言っていた。

それを剣心は左之助に黙って京都へと向かってしまった。

剣心の行為は男と男の約束を破った裏切りに等しい行為だったのだ。

赤べこ屋で店内の物に八つ当たりをして、半ば妙から店を追い出される形で店から出て行くと、道端の火消し桶とかにも八つ当たりをしていた。

そんな左之助の姿に通行人はおろか、普段は善良な一般人に当たり屋をして、こずかい稼ぎをしている社会不適合者達も道の隅でガタガタと震えていた。

左之助は剣心の後を追い、京都へと向かう事にした。

京都へ行って剣心を一発殴らなければ、気が済まないと意気込んだ。

そこで、京都までの旅費を親友の月岡津南に借り、京都へ向かおうとした。

月岡家を出た時、左之助は弥彦とぶつかった。

 

「テメェ、どこぶつかっていやがる!?」

 

「うるせぇ!!テメェこそ、この大変な時にブラブラしてんじゃねぇ!!探したじゃねぇか!!そんなことより、薫がヤベェんだよ!!とても俺一人の手じゃ…?」

 

「弥彦、お前…尾行られたな。」

 

弥彦が言葉を切るのと、左之助が視線を動かしたのはほぼ同時だった。

左之助の視線の先には斎藤が立っていた。

 

「どこへ行く気だ?」

 

左之助と弥彦を鋭く睨みつける斎藤。

 

「京都に決まってんだろう。なんか文句あるか?」

 

「ああ、困るんだよ。お前等の様な、弱っちいのについて来られちゃな。相手の弱点をつくのは、戦術の基本中の基本。お前等が京都へ行けば、志々雄は必ず狙ってくる。だが、今の抜刀斎では、とてもお前等全員を守りきる事は出来ない…だから奴はお前らを置いて京都に旅立った。」

 

「なんだと!?」

 

斎藤はビシッと左之助を指さし、宣言するかのように言い放った。

 

「抜刀斎にとって、お前等の存在など…弱点以外の何でもないんだよ。」

 

斎藤の言葉にショックだったのか、左之助の手から荷物がスルリと落ちた。

 

「‥そうか、俺は剣心の弱点で守り切れないからアイツは‥‥」

 

「そういう事だ…俺がせっかく刃衛の真似をした猿芝居までうって、やっとそれをヤツに悟らせたというのに…お前等が京都へ行ったら全てがパアになる。お前等の出る幕じゃない…大人しくこの東京にいろ」

 

「そうはいかねぇ!!それを聞いて尚更、あいつをブン殴りたくなったぜ!!どけ、斎藤!!どかなきゃ力ずくでいくぞ!!」

 

「その言葉、そっくり返すぜ」

 

「うりゃぁぁぁ!!」

 

左之助の拳をかわした斎藤は、先日自分がつけた肩の傷を殴りつけると、左之助の身体をそのまま地面に打ち付け、その傷を靴の踵で踏み付けた。

 

「汚ェ!!汚ねぇぞ!!さっきから治りきってねェ肩の傷を…」

 

弥彦は斎藤の戦い方が卑怯だと言う。

 

「言ったろ…相手の弱点をつくのは戦術の基本中の基本。卑怯でもなんでもない。『正々堂々』なんて通用しない。これから京都で始まるのは、殺った者勝ちの『殺し合い』なんだ…お前等如き若僧の出る幕じゃない。大人しくここにいろ」

 

「嫌だね!!」

 

背中の竹刀の柄に手を掛ける弥彦と懐に忍んでいる炸裂弾を取り出そうとする津南。

 

「弥彦、克、お前らは手を出すな!!‥痛かねェ。全っ然痛かねェんだよこんな傷…こんな傷より…剣心に弱点扱いされた事の方が万倍痛えんだよ!!」

 

斎藤が振り返ると、左之助が立ち上がっていた。

そして再び斎藤に殴りかかった。左之助に殴られた斎藤は衝撃に飛ばされ、壁に激突する。

 

「どけ斎藤!!俺は京都へ行く!!京都で俺がヤツの力になれるって事を…この拳で証明してやるぜ!!」

 

左之助の言葉に、弥彦と津南は明るい笑顔を見せた。

 

「『拳で証明してみせる』…だと?」

 

「おうよ!!」

 

「ふっ、よく言うぜ、この前は俺にぼろ負けした癖して」

 

「なに!!」

 

斎藤の言葉にカチンときた左之助。

 

「挑発に乗るんじゃねぇよ!!」

 

弥彦が左之助に冷静になれと注意を入れる。

すると、斎藤はおもむろに腰に帯びていた日本刀を外し、

 

「相手が刀だから勝てませんでした…なんて言い訳は御免だからな。今回はお前に合わせてやる…拳の勝負だ。」

 

斎藤は左之助の戦意を完全に削ぐため、左之助の提案に乗った。

弥彦からは油断したら蹴りが飛んでくるぞ!!と言われたが、斎藤はホントに拳のみで左之助の相手をした。

 

左之助の突進からの渾身の一撃が斎藤を襲う。

斎藤曰くバカの一つ覚えかと思われたが、そこから繰り出された拳の乱れ打ち。

弥彦と津南は、今度は左之助に軍配が上がるかもしれないと思った。

左之助が斎藤と戦い、そして剣心との戦いを見て、彼なりに研究した斎藤の攻撃を、後の先をとる返し技と考え、返す隙を与えない為の攻撃だった。

そして、最後に大きな一発を斎藤に与えた。

しかし、

 

「フン…俺の拳は後の先の返しだと?笑わせるな…」

 

斎藤は左之助の拳の乱れ打ちを全てガードしていた。

左之助が呆気に取られた瞬間、今度は斎藤の強烈な乱れ打ちが左之助を襲った。

そして、顎への一撃を受け、左之助は倒れた。

 

「わかったか?お前は、俺や抜刀斎、そして信女にさえ、実力も経験も、ありとあらゆる面で遠く及ばない。俺達からすれば、お前など…口うるさいだけのヒヨッコに過ぎん。」

 

斎藤は冷たい目で左之助を見下ろしていた。

 

「うるせぇ‥‥」

 

左之助は斎藤を睨みつけるとゆっくり立ち上がった。

 

(まだ、動けるのか?)

 

斎藤も左之助のしぶとさには内心驚いた。

 

「だからなんでぇ!!!俺は京都へ行く。誰がなんと言おうとな!!うっ‥‥」

 

立った途端にガクリと左之助の身体が揺れた。

斎藤の最後の顎への一撃が足にきているようだ。

 

「お前は…京都へは行けん。」

 

斎藤は左之助に止めを刺すべく、刀を持たないが、牙突の構えをとる。

 

「あれは!!‥‥よけろ!!左之助!!そいつをくらったらマジでヤバい!!」

 

「無理だな、顎への一撃が足にきて、立っているのがやっとだ‥‥どんなにいきがろうが、あがこうが…お前はただのヒヨッコに…過ぎん!!」

 

斎藤の拳が左之助の顔面に入ったが、

 

ミシッ‥‥

 

「なっ!?」

 

左之助は両手で斎藤の手首を挟み込んだ。

 

 

「どうでェ。ヒヨッコにだって、てめえの腕を潰すくらいは出来るんだぜ。ちったぁ驚いたか?」

 

「貴様…」

 

「てめえも剣心も最初から今の強さだったわけじゃねェだろう?ヒヨッコだからって甘く見るんじゃねぇぞ」

 

「ふん」

 

斎藤は右の拳で左之助の頬を殴りつけると、くるりと背を向けた。

 

 

「止めだ。何を言ってもやっても、一向にわからんバカをこれ以上相手にするのは、時間と労力の無駄だ。京都に行きたくば勝手に行け。そしてさっさと殺されてこい…」

 

「なに!?」

 

「天性の打たれ強さに自惚れて、防御のいろはも知らない奴は…どの道長生きできん」

 

そう言い残し、斎藤は去って行った。

斎藤が去り、津南が手当てをしてやると申し出た。

左之助が上着に手を掛けた時、

 

(あのヤロウ‥‥)

 

左之助は去って行く斎藤の後姿を睨む。

何故ならば、あれだけ左之助に拳を打ち込んでいながら、最初の肩の傷には一撃も入れていなかった。

斎藤は本当に左之助に会わせて拳の戦いをしていたのだ。

左之助は今の自分と斎藤や剣心との間に確かに高い差を感じたが、京都につくまでの途中でその差を少しでも埋めてやると意気込んで京都へと向かった。

そして、左之助の他にも密かに京都へと向かった人物がいた。

観柳邸にて仲間を失い、そして剣心に敗北した元御庭番衆御頭、四乃森蒼紫その人だった。

彼は剣心との戦いの後、仲間の亡骸を葬った後、樹海で修業した後、新たな戦闘スタイルを身に着け、剣心が居るとされる神谷道場へと出向いたが、剣心は既に京都へと旅立った後だった。

薫も恵と弥彦に促され、剣心の旅立った京都へと向かった。

家人が留守の間、恵が神谷道場の留守を預かる事となり、恵はその際、四乃森と鉢合わせをしてしまった。

その時、斎藤が四乃森に剣心の行き先と剣心が抱えている現状を説明した。

しかし、四乃森は志々雄には興味を示さず、神谷道場を後にした。

神谷道場を後にした四乃森は修行場だった樹海へと戻った。

だが、その時四乃森が見たのは仲間たちの墓前で宴会をやっている志々雄の部下、阿武隈四入道の姿だった。

彼らは仲間の墓石を椅子代わりにし、墓前を酒瓶や徳利、弁当のゴミや食い残しで汚していた。

その光景にちょっとキレた四乃森。

そして四入道の話を聞き、「志々雄が自分に会いたがっているので来い」との事だったが、四乃森はその誘いを断った。

逆上した四入道を返り討ちにした四乃森に大久保を暗殺した青年、瀬田宗次郎が四乃森を煽り、彼もまた京都へと向かったのだった。

 

 

さて、東海道の陸路にて京都へと向かった剣心と信女はと言うと‥‥

行きかう一般人が剣心の逆刃刀を見てひそひそと話している。

その殆どが廃刀令違反だと、剣心を批判する様な言葉ばかりだった。

また、近くの村の駐在が剣心を逮捕しようとやって来たが、信女が政府に言って発行させた剣心の帯刀許可書を見せると、渋々戻って行った。

 

「信女、何時の間にその様なモノを?」

 

「大久保が剣心の所に来た次の日よ」

 

「それなら、どうしてあの時渡してくれなかったのでござるか?」

 

剣心は信女が神谷道場に来た時、渡してくれればよかったのにと思い、信女に確認する。

 

「‥‥もし、渡していたら、緋村は私と一緒に京都へ行ってくれた?」

 

「えっ?」

 

今回、剣心が信女と京都へと一緒に向かったのは、信女が警官であり、警官の信女と一緒に居れば、他の警官から廃刀令違反として追いかけられないと言う理由から剣心は信女と共に京都へと向かった。

だが、剣心が帯刀許可書を持参していたら、京都までの旅路に信女を同行させただろうか?

いや、恐らくさせなかっただろう。

志々雄との一件で自分と行動を共にすれば、志々雄一派との争いに信女を巻き込んでしまうからだ。

本当ならば、この京都への旅路だって信女と共に行くのはちょっと気が引けたが、廃刀令違反で警官に追いかけられては時間の無駄であり、自分を追いかける警官を志々雄一派との争いに巻き込んでしまう可能性もあったので、それに比べたら、腕の立つ信女と一緒に旅をすれば、被害を最小限にできると考えたのだ。

 

「そ、それは‥‥」

 

剣心は自分の考えを信女に伝えるのを迷った。

 

「‥‥まぁ、緋村の考える事はお見通しよ。だから、帯刀許可書(コレ)は渡さなかったの」

 

「‥‥」

 

「ねぇ、緋村?私ってそんなに頼りない?それとも女だから、背中を任せられないの?答えて!!」

 

信女はちょっときつめの口調で剣心に尋ねる。

 

「私は緋村の事を思ってこれまで行動してきた‥ねぇ、貴方はどうなの?」

 

「別に‥‥」

 

剣心の答えに信女は驚きそして怒るだが剣心の言葉には続きがあった。

 

「拙者がこれまで剣を振るってきたのは弱い人の為でござる。いつも人の思いを背中に背負いそして前を見続けた。どんな者でも拙者は『守る』だけでござるよ。」

 

「それって結局、私が弱いって言いたいの?」

 

信女が不機嫌そうに剣心を睨む。

 

「いいや、お主は強いでも、強かろうが弱かろうが『守りたい』事に代わりはない。」

 

慌てた様子で剣心は何とか信女の機嫌を取ろうとする。

 

「そう」

 

信女の怒りはどこかに消えた。

 

「わかってくれたか」

 

「わかるわけないじゃない、貴方は私よりも下、どちらかと言うと私が貴方を守っている気がする.....でも一つだけ納得はした。貴方がとてつもない馬鹿だと言うことに」

 

かと、思ったらそうでもなかった。

 

「お、おろ~!?」

 

「ほら、さっさと歩く!!今日中に小田原辺りまでは行かないと5日以内に京都には間に合わないわよ!!」

 

信女は剣心の背中を蹴り、剣心を追い抜くと、早歩きでせかせかと歩いていった。

 

「ま、待つでござるよ~!!信女~!!」

 

剣心は慌てて信女を追いかけていく。

2人の京までの道のりはまだまだ続く‥‥。

 

 

 




すいません。昨日更新できなくてこの頃平日より休日の方が忙しく感じるぐらい.....すいませんでした。

でらまた次回。

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