エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
~side剣心~
あの日の夜も俺は、新撰組から逃げている同志を助ける為、夜の京の町へと繰り出した。
「いたぞ!!」
「こっちだ!!」
「くっ、もはや此処までか‥‥」
案の定、新撰組の追手に見つかり、逃げている同志が居た。
「後は俺が引き受ける‥‥お前達は逃げろ‥‥」
「緋村さん!!」
「あれはっ!?」
「赤髪に左頬の十字傷‥‥間違いない‥‥アイツは‥‥」
「人斬り抜刀斎」
「さあ、早く行け」
「かたじけない」
同志が礼を言って逃げて行く。
この先、無事に逃げ切れるかは、アイツらの運次第だ。
新撰組の別働隊に見つかるかもしれないが、そこまでは面倒を見切れない。
俺は今、目の前に居る敵を斬らなければならないからだ‥‥
「逃がすな!!」
新撰組隊士は同志を狙って切りかかって来る。
しかし、連中はどうも平隊士の様で、俺の敵ではない。
「ぐあっ!!」
「ごふっ!!」
「ぎゃぁぁぁっ!!」
平隊士を片付け、刀に着いた血を拭っていると、
「みぃーつけた」
突如、この場には似つかわしくない声がして、振り向くと其処には余りにも意外な人間が立っていた。
「‥‥お主‥もしや‥‥信女か?」
「久しぶり‥緋村」
其処に居たのは、新撰組隊士の証である浅葱色のダンダラ羽織を纏った今井信女だった。
今井信女‥‥かつて、俺が剣の師匠である比古清十郎に拾われた時、同じくその場に居た女だ。
ただあの時は、ほんのさっきまで俺以外の人の気配なんて感じなかったのに、何時の間にかあの場所に倒れていた。
師匠は何かの縁だと言って俺と一緒に信女も拾っていった。
それから俺は信女と共に剣の修行をした。
しかし、信女は男の俺よりも剣の上達が上だった。
師匠が言うには信女は元々剣の才能があったと言う。
故に山に来た時は、信女に嫉妬した。
しかも身長まで俺を抜いていった。
師匠は剣の腕どころか身長までも抜かれた俺をからかった。
無性に腹がたったので、黙らせてやろうと斬りかかったら、いとも簡単に返り討ちにされた。
俺が山を下りる少し前、信女も10代となり、体つきも女らしくなった。
ある日、わざとではないが、水を汲みに行ったとき、偶然滝つぼの近くで水浴びをしている信女の姿を見た。
その時の信女は当然水浴びをしていたので、衣服を脱いだ生まれたままの姿であった。
俺は思わず信女のその姿に見とれてしまった。
水に濡れた黒みがかった藍色の髪、白い肌に膨らんできた美しい乳房。
信女は俺が見ている事には気づいていないのか、暫くの間水浴びをしていた。
俺はと言うと、信女が水浴びを終えて、着替えてその場から立ち去るまで、ずっと信女の姿に目が釘付けとなっていた。
それからだった‥‥
俺が信女を一緒に修業を共にする仲間から一人の女として意識する様になったのは‥‥。
しかし、山の下では動乱となり、力を持たない者達が傷ついている事を知る。
早々に動乱を終わらせ、信女と一緒になりたいという気持ちから俺は山を下りることを決心した。
そして師匠にその旨を伝えるも意見が合わず、一日中揉めた末に俺は師匠の下を飛び出した。
勿論、その時信女も誘ったが、信女は、
「私はあの人に負けたままじゃ、私の気が済まない。だから、剣心とは一緒に行けない」
信女の言うあの人が師匠である事は直ぐに分かった。
信女は意外と負けず嫌いな所があり、これまでずっと師匠に負けてきた事を気にしていた様だ。
故に師匠に勝つまでは此処に居ると言う。
師匠同様、信女も負けず嫌いで頑固な面もあった。
だからこそ、俺は早々に動乱を終わらせ、信女を迎えに来ようと決意し、山を下りた。
山を降りた俺は、長州藩で身分も経歴も問わない兵、奇兵隊隊士の試験場へと向かい、そこで俺は桂さんから実力を買われ、影で幕府の要人暗殺を請け負う人斬りとなった。
全ては動乱を終わらせ、弱者が虐げられない新時代を‥信女と平穏に暮らせる世の中を作る為に‥‥
そんな暗殺者としての任を全うしていく中で、見廻組幹部の暗殺を行った際、俺はその場に居合わせた従事の男と斬り合いとなり、左頬に一つ目の傷を付けられた。
その後も暗殺を続けて行く中、新時代のためとはいえ人斬りとしての自分に疑問を抱き始めた最中、俺は一人の女と出会った。
出会った女、雪代巴が俺の近くに住み、一時的に身を隠す際に夫婦として大津で暮らすことになった。
だが、所詮仮の夫婦‥俺は巴を一度も抱くことはなかった。
そして、巴の正体は幕府側の影の暗殺集団、闇乃武の協力者であった。
闇乃武の首領である首魁と一騎討ちの中、それまでに首魁の団員との闘いで五感の中で視覚・聴覚・触覚を一時的ながら失い俺は目が見えていない状態でほぼ捨て身の攻撃を首魁に斬り込んだ。
その時、巴は首魁と俺の間に割り込み、首魁を短刀で斬り、俺は巴を斬ってしまった。
巴が俺に斬られた時、巴が持っていた小刀が手から抜け落ち、俺の左頬に二つ目の傷が付き、俺の左の頬の傷は十字傷となった。
その後、巴が残していた日記を見つけ、中を読んでみると以前、京都で俺は巴の許嫁であった男性を斬っていたことを知り、新時代が来たらもう二度と人は斬らないと俺は心に誓った。
京都に戻った俺は、影の人きり役を志々雄真実と言う男に影の役を任せることになった。
桂さんが言うには俺と同じ位剣の腕が立つ男だと言う。
しかし、今日まで顔を合わせた事は一度も無い。
影から表に立った俺は、先陣を切って幕臣達と戦う「遊撃剣士」として今日まで剣を振るって来た。
そんな中、俺はアイツと‥‥信女と再会をした。
京に信女がいると言う事は、信女は師匠に勝てたのだろうか?
いや、それ以前に何故、信女が新撰組の恰好をしているのだ?
困惑する俺に対して信女は、
「その目つき‥‥随分と変わったわね‥‥人殺しの目‥‥それに血の匂いが凄いわよ‥‥」
と、俺の目つきと身体に染み込んだ血の匂いを指摘して来た。
信女の言う通り、俺の目は信女と一緒に居た時と比べ、きつくなり、完全に人斬りの‥‥人殺しの目だ。
それに身体からも血の匂いがしている。
人斬りとなってからは何を飲んでも血の匂いしかしていない。
信女は其処を的確に突いて来た。
「でも、身長はあまり変わっていない‥‥」
「ぐっ、身長の事は言うな‥‥」
信女はやはり、性格は変わっていない。
負けず嫌いな所もあったが、馬鹿正直な所もあり、なんでもズバズバと口にする。
その難儀な性格故か、よく師匠にド突かれていた。
俺は昔の事を思い出し、心の中で笑みを零した。
心の中とは言え、笑ったのはいつ以来だろうか?
そんな俺に信女は、
「まぁいい‥‥今の私は新撰組隊士‥そして、今の貴方は維新志士で私達は敵同士‥‥さあ、斬り合い‥‥ましょう」
いきりなり斬りかかって来た。
やはり、信女は新撰組の隊士となっていた。
つまりは俺の敵になっていた。
それから何合か斬り合ったが、決着はつかなかった。
ピィー
ピィー
辺りからは新撰組の呼び笛の音が聴こえる。
このままでは新撰組の奴等が此処に集まって来る。
すると、
「今夜は此処まで‥‥」
信女は刀を鞘に納めた。
「信女‥‥」
「早く行って‥‥邪魔が入る‥‥」
「‥‥」
俺は信女に色々聞きたい事、話したい事があったが、信女の言う通り、このまま此処に居ては何かとマズイ。
此処は信女の厚意に甘えて、俺はこの場から去って行った。
新撰組の隊士となった信女と再会してから、数日間、俺は信女の事ばかりが頭から離れなかった。
男所帯の新撰組の中で、女の信女が居て大丈夫だろうか?
一番の心配はやはりそれに尽きる。
成長した信女はやはり美しい女になっていた。
そんな信女を新撰組の連中が慰みモノにしていないか気が気でなかった。
「どうした?緋村。上の空の様だが?」
「うわっ、か、桂さん」
いつの間にか俺の近くには桂さんが居た。
敵意が無かったとはいえ、あそこまで近づかれていて気づかないなんて、俺も少し腑抜けたか?
「で、どうした?緋村。何か悩みでもあるのか?」
桂さんは、俺の近くに腰を下ろす。
「‥‥」
俺は信女の事を桂さんに話すか少し迷ったが、信女が長州に来てくれれば、心強い。
そう思って俺は思い切って桂さんに信女の事を話した。
「ほぉ~緋村と同じ流派の‥‥」
「はい。女ながらも剣の腕は確かです。俺が保証します」
「しかし、その者は今、新撰組に居るのだろう?まぁ、よく女ながらも新撰組に入れたと思うが‥‥」
「ええ、どういった経緯で彼女が新撰組に入ったのかは分かりませんが、此方側についてくれれば、俺としても心強い味方となります」
「‥‥その者の説得はできそうなのか?」
「わかりません‥でも、やってみる価値はあります」
「よかろう。その者の説得は君に任せよう」
「はい」
こうして俺は信女を説得する事になった。
・・・・続く
ではまた次回。