エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第36幕 抜刀斎

 

 

 

日が暮れて薄暗い神谷道場の中では幕末の元志士と元新撰組の2人が対峙し、死闘とも言える壮絶な戦いを繰り広げていた。

斎藤が放ったのは、対空式の牙突、牙突参式。

牙突から牙突への連撃は隙がなく、ましてやリーチの長い斎藤にとっては、さらに攻撃の範囲も剣心より広くなる。

 

「剣心!!」

 

薫の叫びが道場に響き剣心の脇腹から血が吹き出す。

剣心は咄嗟に体を捻り、串刺しだけは何とか避けた。

しかし‥‥

 

「腰をひねって串刺しだけはさけたか。思ったよりはいい反応だ。だが…詰めが甘い!!」

 

斎藤はさらに斬りつけると、抜刀斎の頭を蹴り飛ばして壁に叩き付けた。

 

「突きを外されても間髪入れずに横薙ぎの攻撃に変換できる‥‥変術の鬼才、新撰組副長、土方歳三の考案した平突きに死角はない‥‥まして、俺の牙突ならば、なおさらだ」

 

 

斎藤は再び牙突の構えをとる。

序盤は斎藤が剣心を圧倒していたが、剣心は斎藤と戦っていく内に緋村剣心から緋村抜刀斎へと立ち戻り始めた。

 

「…立て斎藤。十年振りの闘いの決着が、これしきではあっけないだろう…」

 

斎藤の牙突を切り返し、彼を道場の壁に叩き付けた後、剣心は冷たい声で壁の向こう側に居る斎藤に声をかける。

 

「フ…フフ…本当は力量を調べろとだけ言われていたが…気が変わった」

 

斎藤はダンッと足を付き、立ち上がる。

壁に叩き付けられた為、額から血を流しているが、斎藤は痛がる様子もなく、反対にニッと笑いながら、

 

「もう殺す」

 

そう言い放つ。

 

「寝惚けるな。『もう殺す』のは、俺の方だ」

 

剣心も斎藤にそう言いかえすが、一人称がいつもの『拙者』から抜刀斎時代の『俺』に変わっていた。

それを聞き、薫はショックを受ける。

 

「止めて…だれかあの二人を止めて…」

 

薫の悲痛な叫びなど今の剣心には耳に入る事はなく、剣心と斎藤の戦いは尚苛烈して行く。

左之助はこの戦いを止められるのは幕末の京都の戦場を体験した者だけだと言う。

しかし、神谷道場の面々の中で幕末の京都を体験した者は剣心以外居ない。

薫たちにはこの戦いを止めることが出来なかった。

そんな中、剣心の逆刃刀と斎藤の刀がぶつかり合い、斎藤の刀が折れた。

 

 

その頃、東京の町中を一台の馬車が物凄い速さで走っていた。

 

「今井君」

 

「何かしら?」

 

「齋藤君がその神谷道場に入ってからどのくらい経つ?」

 

「‥‥約4時間と半ね」

 

信女は向かい側に座った人物から時間を尋ねられて懐中時計を見て、答える。

 

「そうか‥川路君、もっと急がせてくれ。あの2人にはこの国も明暗がかかっている。急げ、手遅れになる前に」

 

「ハッ」

 

川路が返事をし、御者にもっと馬車のスピードを上げる様に伝える。

 

その馬車が向かっている神谷道場では‥‥

刀が折れたにも関わらず、斎藤は戦う事を止めず、牙突の構えをとる。

 

「相変わらず、新撰組の連中は引く事を知らんな」

 

「新撰組隊規第一条、士道に背くあるまじき事…」

 

迎え撃つ抜刀斎に向かって、斎藤は叫ぶ。

 

「敵前逃亡は士道不覚悟!!」

 

斎藤の放った折れた刀を剣心は素手で払った。

斎藤は素手のままで剣心へと向かって行く。

神谷道場の皆はこれで剣心に勝負ありかと思われた時、

 

バチィッ!!

 

斎藤はベルトの留め具の金属部分で剣心の逆刃刀を弾き落とし、剣心の身体に拳の連打を浴びせた。

ベルトを使ってまさか、逆刃刀を弾き落とすなんて神谷道場の皆も剣心自身も予想外だった。

 

「これで…終わりだ!!」

 

素早く上着を脱ぐと、抜刀斎の首を絞め上げた。

剣心の首からは骨がミシミシと軋む音が聞こえる。

 

「締め技!窒息死させる気だ!」

 

「そんな生易しいもんじゃねェ。ありゃあ…首の骨をへし折る気だ」

 

弥彦と左之助が驚愕の表情を浮かべる。

 

「無駄だ、悪あがきはよせ!!」

 

斎藤自身はこれで勝負がついたと思ったが、

 

「がは!!」

 

剣心が鞘を使って斎藤の下顎を叩き上げた。

斎藤の腕が緩んだその隙に剣心は斎藤と距離をとり、荒い息をつきながら睨み合う2人。

 

「そろそろ…終わりにするか…」

 

「……そうだな…」

 

斎藤は手をゴキッと鳴らし、剣心は鞘をギュッと握りしめる。

 

そんな中、神谷道場の門前に一台の馬車が止まる。

信女は馬車が到着すると同時に川路達よりも先に馬車から飛び降り、齋藤と剣心が戦っている道場へと向かう。

そこで、彼女が目にしたのは力量を測るレベルの戦いではなく、生と死をかけた戦いとなっていた。

 

(斎藤ったら!!)

 

信女はすっかり任務を忘れて剣心と死闘を繰り広げている斎藤に呆れつつ、道場へと走って行く。

道場の入り口で剣心と斎藤との死闘を唖然と見ている神谷道場の面々の脇をすり抜け‥‥

剣心と斎藤がぶつかるかと思いきや、

 

キィィィィン!!

 

パシッ!!

 

齋藤と剣心の雄叫びと、薫の悲鳴。それに重なった金属音と乾いた音。

その場の時が止まったように思えた。

 

「あ、アイツ‥‥」

 

恵に肩を貸してもらっている左之助が言葉を発した。

薫達、神谷道場の面々の視線の先には斎藤の拳を右手で受け止め、左手に持つ刀で剣心の鞘を受け止める信女の姿があった。

 

「2人ともそこまでよ」

 

シーンと静まり返った道場に信女の凛とした声が響く。

信女の乱入と言う事で剣心は鞘を下ろし、斎藤も拳を引く。

 

「どういうつもりだ?今いいところなんだよ。信女、お前といえども、邪魔は承知しないぜ…」

 

斎藤が殺気に満ちた目で信女にそう言うと信女は‥‥

 

パンッ!!

 

斎藤の頬を叩いた。

 

「正気に戻りなさい、斎藤!!あれほど冷静に事を運べと言ったでしょう!?『抜刀斎の力量を測る』それが貴方の任務の筈よ!!」

 

信女も負けじと斎藤を睨む。

 

「今井、ご苦労だった」

 

其処に新たな来客が訪れる。

1人は警官服に身を包んだ警視総監の川路。

そしてもう1人は‥‥

 

「斎藤君。君の新撰組としての誇りの高さは、私も十分に知っている。だが、私は君達にも緋村にも、こんな所で無駄死にして欲しくない」

 

高そうな洋装を身に纏い、威厳に満ちた男が立っていた。

 

「そうか、真の黒幕はあんたか…元薩摩藩維新志士…明治政府内務卿、大久保利通」

 

剣心が洋装の男の正体を口にする。

しかしお子様の弥彦には大久保がどんな人物なのか知らずに首を傾げていた。

その間、信女は退室の為の後片付けをしていた。

斎藤の制帽と折れた刀、剣心の逆刃刀を回収する。

 

「手荒な真似をしてすまなかった。だが、我々にはどうしても君の力量を知る必要があった…話を聞いてくれるな」

 

「…ああ。力ずくでもな…」

 

大久保と抜刀斎の会話の直後、

 

ダッ‥‥タッタッタッタ‥‥

 

誰かが道場から走り去って行った。

剣心は大久保に注意が向いていたが、斎藤と信女はその気配を見過ごさなかった。

斎藤と信女はピクリと反応し、チラと視線を交した。

 

「フン‥‥」

 

斎藤は上着を取ると、剣心に背を向けた。

「久々に熱くなれたっていうのに、途端に白けちまった。決着はまた、次の機会に後回しだな。」

 

「命拾いしたな…」

 

「お前がな…」

 

斎藤は信女から刀を受け取り、そのまま道場を後にしようとしたが、其処を川路が引き留めた。

 

「待て、斎藤!!」

 

「任務報告、『緋村剣心の方は全く使い物にならない…が、緋村抜刀斎ならそこそこいける模様』‥以上」

 

斎藤は川路に『抜刀斎の力量を測る』と言う任務の報告を口頭で述べる。

 

「信女、行くぞ」

 

「‥‥ちょっと待って‥一つ確認したい事があるの」

 

「そうか‥‥外で待っている‥なるべく早く来い」

 

「ええ‥‥緋村、コレ」

 

「すまぬ」

 

剣心は信女から逆刃刀を受け取る。

 

「緋村、外に馬車を用意してある。来てくれ」

 

「此処で聞かせてもらう。この一件に巻き込まれたのは、俺1人では‥‥」

 

剣心はそこまで言うと、ハッとし拳を握り、自らの額を強く殴った。

彼は自分の一人称がまだ抜刀斎時代の『俺』になっている事に気づいた。

剣心の額からは血が流れるが、それを気にすることなく、彼は大久保に続きを言葉を言う。

 

「‥‥この一件に巻き込まれたのは拙者1人ではござらん」

 

剣心の口調と目つきが緋村抜刀斎から緋村剣心へと戻った。

その事に薫は喜んで剣心に抱き付くが、剣心は斎藤と死闘をして深手を負っている。薫は急いで恵に剣心の治療を頼む。

 

「‥‥」

 

このやりとりを見た信女は去り際、左之助に、

 

「緋村に伝えておいて‥後日、詫びに行くって」

 

「お、おう」

 

そう言い残し去って行った。

 

(やべぇよ、コイツが来たら修羅場確定じゃねぇか!!せめてコイツが来る日に嬢ちゃんが留守な事を祈るしかねぇな‥‥)

 

信女の言葉を聞いて左之助はこの後日、起こるかもしれない剣心をめぐって信女と薫の修羅場に戦々恐々した。

神谷道場を出ると、門前で斎藤は待っていた。

 

「見届けたか?」

 

「ええ‥‥緋村は人斬り抜刀斎よりも不殺の流浪人を選んだわ」

 

信女が残ったのは後日、神谷道場へ詫びを入れる事を伝えるのと、抜刀斎に立ち戻った剣心がこのまま抜刀斎でいるのか?それとも不殺の流浪人の剣心を選ぶのか?を見届ける為に残ったのだ。

そして、結果はご覧の通り、剣心は不殺の流浪人を選んだ。

 

「行くぞ、後始末が残っている」

 

「ええ」

 

神谷道場を後にした、斎藤と信女が次に向かった先は‥‥

 

「全くおろかね、あの渋海って人は‥‥」

 

フゥと溜め息をついた信女。

2人は渋海の屋敷‥‥彼の寝室の前にいた。

寝室の中からは渋海と赤末のやり取りが筒抜けである。

 

「信女、刀を貸せ」

 

「‥‥私が斬りたかったのに」

 

「これは俺の仕事だ。それに使うのはお前の刀だ。それで五分五分だろう?」

 

「‥‥なんか、釈然としないわね」

 

そう言いながら信女は渋々斎藤に自らの愛刀を貸した。

 

「そうか、斎藤は大久保の犬か…これはいい。斎藤に金を握らせて大久保の弱味をつかめば、次期内務卿も…」

 

「じょ…冗談じゃねぇ!!大久保みたいな超々大物を相手にしたんじゃ、命がいくつあってもたりねぇぜ!!そんな危ない橋を渡るのは御免だ。俺は安全な上海へでもトンズラさせてもらう、いいな?」

 

赤末が上海へと逃げ出そうとうするが、そうは問屋がおろさない。

彼が渋海の寝室を出ようしたその時、

 

「上海よりもっと安全な逃げ場があるぜ…」

 

この場には居ない筈の男の声がした。

 

「地獄という逃げ場がな…」

 

「あっ‥‥あっ‥‥」

 

赤末の前には斎藤が立っていた。

 

ザシュッ

 

それは余りにも一瞬の出来事だった。

音もなく襖を開けると、斎藤の刀は赤末の首をいとも簡単に斬り飛ばした。

ゴロリと無造作に転がった赤末の首を見て渋海は腰を抜かす。

 

「渋海、お前は一つ勘違いをしている。お前達維新志士共は自分達だけで明治を構築したつもりだが、俺達幕府側の人間も『敗者』という役で、明治の構築に人生を賭けた。俺が密偵として政府に服従しているのは明治を喰い物にするダニ共を始末する為‥‥明治に生きる新撰組としてな‥‥大久保だろうが誰であろうが、私欲に溺れ、この国の人々に厄災をもたらす様なら…『悪・即・斬』の名のもとに斬り捨てる…」

 

「ま、待て‥待ってくれ‥金なら幾らでも‥‥」

 

渋海は斎藤に金で命乞いをするが、

 

「犬はエサで飼える…人は金で飼える…だが、壬生の狼を飼う事は…何人にも出来ん!!」

 

ブシュッ

 

「あの頃の様に新撰組は新撰組、狼は狼。そして、人斬りは人斬り‥‥だろう?抜刀斎」

 

そう言い残し斎藤は信女に刀を返し、渋海邸を後にした。

一方、剣心達神谷道場の面々も大久保から今回の一件、志々雄の件を聞き、志々雄を暗殺してくれと頼まれ、一週間後の5月14日に返事を聞くと言われた。

5月14日‥‥この日が重大な日となる事を斎藤も信女も‥‥剣心達神谷道場の面々も知る由は無かった‥‥。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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