エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
『』の部分は英語だと思い下さい。
途中、横浜へと向かう陸蒸気にて、強盗事件が発生すると言うイレギュラーが起こりつつも時尾と信女は無事に横浜へと着くことが出来た。
伊豆へ行く時、陸蒸気を利用した信女であったが、あの時は直ぐに港へと向かい、そこから船に乗って伊豆へと向かったので、こうして横浜の町をゆっくり見物する余裕などなかった。
流石、国際港、横浜。
その街並みは首都、東京よりもヨーロッパの街並みに近かった。
行きかう人も日本人、中国人の他にイギリス、アメリカ、フランス、ドイツといった様々な人種が入り乱れていた。
「ほぇ~」
初めて外国人を見たのか、時尾は外国人の男を見てぼぉ~っとしている。
「時尾、どうしたの?」
「あっ、いえ‥うちの人も背が高いのですが、外国の男の方ってみんな背が高い人なんですね」
「まっ、食生活や住んでいる環境の影響でしょうね」
信女はスリに警戒しつつ、時尾と共に横浜の町を進んで行った。
時尾は外国製の洋服に興味を示し、ドレスや女物の洋装に目を奪われていた。
反対に信女は時尾と同じ女子なのに服については全然興味なさげだった。
「よろしければ、試着をしてみますか?」
「えっ!?良いですか?」
「勿論です」
「信女さん、信女さん、試着できるみたいですよ」
「そう、それは良かったわね‥‥」
「何言っているんですか、信女さんも一緒に着るんですよ」
「えっ!?ちょっと、時尾‥‥」
信女は時尾に腕を掴まれ、強引に試着室の中へと押し込まれた。
「結構強引」
「いいじゃないですか、折角なんですから」
こうして時尾に押されて信女は女物の洋装に身を包んだ。
「お二人とも、とてもよくお似合いですよ」
「そ、そうですか?」
「‥‥」
「折角ですから、記念にお写真をとってはどうでしょうか?」
「えっ?写真‥ですか‥‥?」
「はい」
幕末時に外国からカメラが入り、写真と言うモノが日本にも登場したが、この明治の世になっても『写真は魂を抜くモノ』 『1枚とると寿命が10年縮まる』と言う迷信を未だに信じている人もいた。
時尾もそんな迷信を信じている人の様で、写真と聞いて表情を強張らせている。
「そうね、折角だから撮ってもらえば」
一方、写真がどんなものなのか知っている信女は平然としている。
「で、でも信女さん、しゃ、写真は‥‥」
「『写真は魂を抜く』 『1枚とると寿命が10年縮まる』って言いたいの?」
「え、ええ」
「そんなの迷信よ」
「大体、写真を撮って魂を抜き取られたりしたら、明治帝はとっくに崩御している筈よ」
「‥‥」
時尾は信女の話を聞き、渋々写真を撮る事にした。
ただ、写真を撮る時も緊張しているのか時尾は顔が強張っていた。
笑みも何だが、ぎこちなかった。
写真を知っている信女も強張ったりぎこちない笑みではなかったが、無表情のままだった。
「はぁ、折角の写真なのに‥‥」
出来上がった写真を見ながら信女は愚痴る。
「だ、だって‥‥//////」
時尾も出来上がった自分の写真を見て、これは確かに無いと思い始めた。
(でも、信女さんも無表情じゃないですか‥‥)
強張っている自分の表情とはちょっと違うが無表情の信女の顔も無いのではないかと思う時尾であった。
服屋の次は、西洋菓子店へとやって来た時尾と信女。
時尾のお目当てであるチョコレートは直ぐに見つかったが、信女のお目当てであるドーナツは見つからない。
「ど、ドーナツが‥‥ない‥‥そ、そんな‥‥」
西洋菓子店にドーナツが置いてないことに大きなショックを受ける信女。
彼女はその場に思わずorzの姿勢となり項垂れる。
「の、信女さん」
時尾もあまりの落ち込み様の信女に声をかけづらかった。
「うぅ~‥‥もう帰る‥‥」
ドーナツが置いていなかった事に信女はもう横浜には用は無いと言うが、
「そ、そんなことを言わずにもっと他のお店も見て見ましょう。きっと見つかりますって」
時尾の励ましを受けて信女は他の西洋菓子店を見て回ったが、どれも空振り。
(まだ、ドーナツは日本に来ていないの‥‥ドーナツ‥‥私のドーナツ‥‥)
もしかして日本にはドーナツがまだ置いていないのではと思い始めた信女。
「あっ、信女さん、パン屋さんがありますよ」
そんな中、時尾が一軒のパン屋を見つけた。
「最近、パンの中にあんこを詰めるアンパンと言うパンがあるみたいなんですよ。折角ですから、見て行きましょう」
「‥‥」
(アンパンなんてコンビニに100円で売っている‥‥)
時尾に腕を引かれながら、信女はそのパン屋へと入った。
パン屋にある様々なパンに時尾が目を奪われている中、信女の視線がふと、あるモノを捉えた。
「あっ‥‥あっ‥‥あれは‥‥」
信女はそのあるモノが置いてある棚へとフラフラと近づく。
そして、
「あっ、あった!!」
信女の目の前には探し求めていたドーナツが置いてあった。
ドーナツと言っても信女が居た世界の様に様々な種類がある訳では無い。
置いてあったのはちょっと堅いオールドファッションとプレーンの二種類のドーナツのみ‥‥フレンチクルーラーもポテリングもないが、ドーナツには変わりはない。
「ご主人、コレ全部買う!!」
「えっ?全部ですか?」
信女は自分の持ち合わせていたお金を全部使う勢いでパン屋にあったドーナツを全て購入した。
その時の信女は時尾曰く、子供みたいで輝いていたと言い、先程取った写真もこんな笑みをしていたら、可愛かったのにと時尾はそう思った。
ただ、信女の行動にパン屋の店主は驚いていた。
パン屋を出た後も信女はドーナツが沢山入った紙袋を大事そうにギュッと抱きしめながら歩いている。
この時、時尾の目の錯覚か、今の信女の周りにはキラキラした何かが見えた‥‥様な気がした。
それに紙袋を抱いて微笑んでいる信女は同性の時尾から見ても可愛かった。
信女がようやくお目当てのドーナツを買え、引き続き横浜見物をしていると、何やら前の方で人だかりが出来、騒いでいる声が聞こえてきた。
「何かしら?」
「何でしょう?」
何事かと思い、時尾と信女がそこへ行くと、骨董屋の前で男達が騒いでいた。
「何をなさる!?品物が欲しければお金を払って下さい!!」
骨董屋の店主らしき男が品物を次々と荷車に乗せている男達に引っ付き、声を上げている。
品物を運んでいる男達は外国人の様で店主の言葉が分からないのか、無視をして店内に戻っては品物を店の前に停めてある荷車に乗せて行く。
やがて、この男達のボスらしき小太りに上等なスーツに帽子、杖をついた男がチャイナ服を着た男と共に店から出てきた。
そして、その男は店主に英語でなにかを言っている。
(英語?‥‥あの発音は‥‥アメリカ人じゃなくてイギリス人ね‥‥)
信女はその男の英語の発音から店主に何かを言っている男がイギリス人だと見抜く。
一方、店主の方は英語が分からないのか男が言っている言葉に首を傾げている。
すると、チャイナ服を着た男が片言の日本語を喋りだした。
どうやら、チャイナ服を着た男は中国人の通訳の様だ。
「オマエ、盗品ウッテイル!!コノ、品物全部、我々ノ物!!コレ全部、盗マレタモノ!!」
「言いがかりは止めて下さい!!これはちゃんと‥‥」
店主がイギリス人の男に自分の店の品物は決して盗品でないと説明すると、イギリス人の男は杖で店主を殴った。
殴られた店主は地面に転がる。
「警察届ケルゾ、コノ泥棒!!」
「信じて下さい、私は盗品何て売っていない。信じて下さい」
店主は周りの野次馬の人達に助けを求めるが、面倒事は御免だと店主を助けようとする人はいなかった。
「の、信女さん行きましょう」
時尾もこの場に居ては、騒動に巻き込まれると思い、信女にこの場から去ろうと言うが、信女はこの光景を見て、何だか腹の内からムカムカして、
「‥‥時尾、ちょっとコレ持っていて」
時尾にドーナツが入った紙袋を持ってもらうと、騒動の渦中へと歩み寄って行く。
「の、信女さん!?」
そして、信女は、
『イギリス紳士は博愛精神に富み、弱きを助け、強きをくじく。イギリス紳士は常に法を拠り所にし、犯罪や不正を憎み、正義を貫く』
と、イギリス人の男に英語で話しかけた。
すると、イギリス人の男は、
『お前は誰だ?どこで、英語を覚えた?日本人は猿真似がうまいな』
イギリス人の男は信女を小馬鹿にした顔をしながら言う。
『私がサルなら、そうね‥‥貴方はさしずめ‥‥白豚ね』
信女が不敵な笑みと共にイギリス人の男にそう言うと、イギリス人の男は怒ったのか、杖を振りかざしてくる。
信女は、
(やはり、豚ね、動きがまるで遅いわ。でも、貴方も天人から見たら、猿か豚と同じ獣なのよ)
いとも簡単に杖の攻撃を躱し、足を引っかけイギリス人の男を転ばせる。
『この・・やってしまえ!!』
イギリス人の男は手下に信女をボコボコにしろと命令する。
信女は襲い掛かってきたイギリス人の男達の拳を避けお返しに男達の急所を蹴る。
男達は急所を手で押さえ蹲る。
『き、貴様、調子に乗るなよ!!』
そう言ってイギリス人の男は懐から拳銃を取り出す。
拳銃の登場に周りからは悲鳴が出る。
信女も刀の柄に手をやる。
その時、
『待ちなさい!!』
其処へ別の人物の英語で声を上げる。
皆がその声をした方を見ると、其処にはイギリス海軍の軍服を着た軍人が立っていた。
『イギリス紳士は博愛精神に富み、弱きを助け、強きをくじく。イギリス紳士は常に法を拠り所にし、犯罪や不正を憎み、正義を貫く。君がまだイギリス紳士であるならば、暴力に訴えてはいけない。自らの正しさは裁判所で証明すべきだ。さもなくば、品物を全て返し、店主とあのお嬢さんに対し非礼を詫びるべきだ』
イギリス人の男は同国の軍人に歯向かうほどの気概も無く、また日本人である信女や骨董屋の店主に頭を下げるのは御免なのか、部下の男達と共に去って行った。
あの様子から本当にこの骨董屋の品物が盗品だったのかも疑わしい。
イギリス人の男達が去って行き、野次馬からは歓声があがる。
「信女さん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ」
「見ていてヒヤヒヤしましたよ」
時尾が信女に慌てた様子で声をかける。
「そう?」
しかし、信女はいつものペースを崩さない。
「でも、酷い人達ね‥‥あの人達、警察で取り締まれないの?」
時尾は先程のイギリス人の男達の行いが許せないのか、ちょっと不機嫌そうに言う。
「それは無理。外国人を日本の法律で裁く事は出来ないの」
「えっ?」
信女の言葉に時尾を驚いた様な顔をする。
「治外法権‥‥日本人が外国人に対して窃盗や傷害、殺人をすれば裁かれるけど、外国人が日本人に対して窃盗や傷害、殺人をしても事実上、無罪なのよ」
「そんな‥‥」
(こういった治外法権はこの世界も私が生まれた世界も同じね‥‥)
信女が前の世界での天人と地球人の関係を思っていると、
『不愉快な思いをさせてすまなかった。でも、久しぶりに懐かしい言葉を思い出させてもらいました』
イギリス海軍軍人の人は信女に声をかけ、一言侘びと礼を言って去って行った。
~side???~
方治さんの護衛で、今日僕は横浜へとやってきた。
交渉事は方治よりも年の甲なのか、才槌老人の方が上手いと思うが、今回交渉で購入するのは何でも甲鉄艦だそうでコレを知るのはごく一部の人だけにする様にと、志々雄さんが言っていた。
だから、志々雄さんは常に自分の傍にいる方治さんに今回の交渉を任せたのだと言う。
でも、相手は上海マフィアの人らしいから、護衛も必要みたいで、僕が駆り出された。
相手の上海マフィアの人も護衛の人を連れていた。
何だか阿武隈四入道の様な人達を連れてきた人で、黒髪に黒い大陸の服を着た男の人だった。
交渉の様子を見た限り、交渉は問題なく進み、どうやら、志々雄さんのお目当ての甲鉄艦を購入できた様だ。
その後、方治さんは書店とかを見て回ると言い、僕にも好きに横浜の町を見て良いと言って来たので、お言葉に甘えて横浜の町を見て回る事にした。
まぁ、上海マフィアの人との取引が終わった後なら、方治さんの護衛は下っ端の兵隊さんの人達でも大丈夫だろう。
僕は1人、横浜の町を歩くことにした。
・・・・続く
ではまた次回。