エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第2幕 十字傷

 

 

 

意外な巡り合わせから、信女は新撰組に入隊する事になった。

入隊した新撰組隊内でも信女が女だと言う事実はあの時、道場に居た一部の新撰組幹部のみで、その他の隊士には信女の本当の性別は秘密とされた。

大勢の男所帯の中、女一人が居ればどうなるか?

それは飢えた狼の群れの中に子羊一匹を放り投げるようなものだ。

故に信女の性別は新撰組の中でもトップシークレット扱いとなっていた。

一方、男装生活を余儀なくされた信女は入隊試験の際、使用した名前、今井異三郎と名乗り続けた。

そして、信女の面倒を見る事になった斎藤は信女の性別がバレない様に身近に置く事にした。

新撰組での信女の役職はその容姿を生かした監察方と面倒を見ることになった斎藤が身近に置いておくことから、監察方兼三番隊組長補佐と言う役職となった。

しかし、いきなり入ってきた新参者がいきなり組長の補佐と言う役職に着くことに不満を抱いた先輩隊士も居た。

特に新撰組入隊以降、未だに役職が与えられていない平隊士にとっては到底我慢できるモノではなかった。

そんな先輩隊士達は信女の面目を丸つぶれにしてやろうと剣術勝負を挑む者達が居たが、入隊試験で斎藤と互角に戦った信女に先輩隊士とは言え、平隊士如きが勝てる筈も無く、次々と信女に敗北していった。

また、前の世界にて、生まれた時から暗殺組織に居た為か人の悪意と言うモノには人一倍敏感な信女に対し、陰湿な嫌がらせをしようとした輩も居たが、これも全て不発に終わった。

 

新撰組に入った信女は、剣心を探す序に合法的に人を斬る事が出来るこの新撰組の居心地に意外と慣れ親しんだ。

 

「今井さん、今日は非番ですし、一緒にお団子か餡蜜でも食べに来ませんか?」

 

と、沖田はよく信女を非番の日にお出かけに誘い、信女と共に京の甘味処へと一緒にでかけてお団子や餡蜜を食べる仲となった。

この世界の沖田総司は自分が知るあのドSな沖田総悟と違い、何かと自分の事を気遣ってくれる青年であり、信女も最初はどう付き合って良いのか戸惑ったが、時を重ねるうちに次第にそう言った戸惑いは消え、表情も段々と豊かになってきた。

近藤はそんな沖田と信女の関係を微笑ましく見ていた。

また、沖田の他にも土方や永倉からはよく剣術の稽古に誘われたりしている。

ただこの世界において、信女が唯一の不満があるとすれば、町にドーナツを売る店が無かった事だった。

この世界は天人襲来前の世界と同じレベルの文明故、仕方がないと言えば仕方がなかった。

そして、新撰組に身を置いて、徐々に人斬り抜刀斎の情報が入って来た。

容姿に関しては赤毛で背が男にしては小さく、最大の特徴は左頬に大きな十字傷があると言う事だった。

そして剣腕は物凄く強く、一回の抜刀術で三人を一気に薙ぎ払ったと言う噂も聞いた。

また、剣の腕だけではなく、その動きも物凄く速いと言う。

未だに人斬り抜刀斎の姿を見ていない信女であったが、彼と共に山で修業をしていた信女は‥‥

 

(赤毛‥‥確かに剣心は赤い髪をしていたし、背も私より小さかった‥‥)

 

実際、山で一緒に暮らしていく中で、信女の身長は剣心の身長を追い抜き、ソレを見た比古が剣心をからかっている姿を目にした事もあるし、その事で剣心が自分に対して嫉妬心を抱いているのも分かっていた。

唯一自分の知る剣心と違う点は左頬の十字傷‥‥山を下りた後、今日までの動乱の中で着いたモノなのだろうか?

信女が剣心の事を思っている中、運命はこの二人を再会させた。

敵同士と言う形で‥‥

 

ある日の夜、この日も京の町を暗躍している維新志士を新撰組は取り締まっていた。

いや、この場合取り締まりと言うよりは維新志士を斬る人間狩りであった。

 

「俺を置いてお前は‥‥逃げろ‥‥」

 

「何を言う‥‥もう少しで俺達が夢見た新時代が来るんだぞ‥‥」

 

一人の維新志士が手傷を負った仲間の維新志士に肩を貸しながら、新撰組の追撃から逃げていた。

 

「いたぞ!!」

 

「こっちだ!!」

 

しかし、維新志士達は新撰組の追手に追いつかれ見つかってしまった。

 

「くっ、もはや此処までか‥‥」

 

追手に見つかり、手負いの仲間を連れてこれ以上は逃げきれないと悟った維新志士。

しかし、運は彼らを見捨てなかった。

 

「後は俺が引き受ける‥‥お前達は逃げろ‥‥」

 

「緋村さん!!」

 

維新志士達の傍にはいつの間にか小柄で赤髪、左頬に十字傷がある一人の剣客が立っていた。

 

「あれはっ!?」

 

「赤髪に左頬の十字傷‥‥間違いない‥‥アイツは‥‥」

 

「人斬り抜刀斎」

 

新撰組隊士は人斬り抜刀斎を前にして緊張した面持ちで抜刀する。

 

「さあ、早く行け」

 

人斬り抜刀斎は仲間の維新志士達に逃げる様に言う。

 

「かたじけない」

 

「すまない」

 

維新志士達は彼に礼を言って、仲間と共に逃げて行く。

 

「逃がすな!!」

 

新撰組隊士は維新志士達を逃がすまいと人斬り抜刀斎へと斬りかかって行く。

しかし、一対複数にも関わらず、人斬り抜刀斎は新撰組隊士達を斬り殺していく。

 

「ぐあっ!!」

 

「ごふっ!!」

 

「ぎゃぁぁぁっ!!」

 

眼前に居た新撰組隊士を全員斬り殺した人斬り抜刀斎は刀に着いた血を振り払う。

 

「みぃーつけた」

 

惨殺死体が転がる京の町角で、この場に似つかわしくない声がした。

 

「っ!?」

 

人斬り抜刀斎はその声がした方に視線を向けると、其処には新撰組隊士の証である浅葱色のダンダラ羽織を纏った一人の新撰組隊士が立っていた。

 

「‥‥お主‥もしや‥‥信女か?」

 

「久しぶり‥緋村」

 

「お主も京の町に来ていたのか‥‥しかし、その恰好‥‥」

 

先程はほぼ無心で新撰組隊士を切り殺した人斬り抜刀斎‥もとい、剣心であったが、新撰組隊士姿の信女を見て明らかに驚いていた。

 

「その目つき‥‥随分と変わったわね‥‥人殺しの目‥‥それに血の匂いが凄いわよ‥‥」

 

久しぶりに再会した剣心の目は自分と同じ、殺人鬼の目をしていた。

そして身体からは血の匂いがプンプンしていた。

山で共に修行していた時、剣心は此処まで鋭い目はしておらず、年相応の少年の目をしていた。

勿論、身体からは此処まで血の匂いを発する事もなかった。

だが、今信女の前に居る剣心はあの時の少年の面影は全く無かった。

唯一変わらない事と言えば‥‥

 

「でも、身長はあまり変わっていない‥‥」

 

目は変わったが身長は山を下りた時とあまり変わっていなかったので、そこは変わっていなかったと指摘した。

 

「ぐっ、身長の事は言うな‥‥」

 

しかし、身長に関しては、剣心にとってコンプレックスなのか気まずそうに言う。

 

「まぁいい‥‥今の私は新撰組隊士‥そして、今の貴方は維新志士で私達は敵同士‥‥さあ、斬り合い‥‥ましょう」

 

そう言って信女は神速で剣心と距離を詰め、まずは抜刀術で切り合う。

しかし、剣心も信女と一緒に修行していた仲、信女の剣筋は分かっていた。

 

ガキン!!

 

剣心も抜刀し、信女の剣を受け止める。

 

「くっ」

 

「‥‥」

 

突然切りかかって来た信女に対して思わず顔を歪める剣心。

一方の信女は無表情のまま剣心に切りかかる。

それから何合か斬り合ったが、決着はつかず、

 

ピィー

 

ピィー

 

呼び笛の音が鳴り響き、この場に新撰組隊士達が集まって来る。

 

「今夜は此処まで‥‥」

 

先程まで斬り合っていた信女と剣心であったが、信女は剣心から距離をとり、刀を鞘に納刀する。

 

「信女‥‥」

 

「早く行って‥‥邪魔が入る‥‥」

 

「‥‥」

 

剣心はまだ信女に色々聞きたい事があったし、まだ話したい事があったが、信女の言う通り確かにこの場に居れば、新撰組隊士達が大勢来て、信女と話す余裕なんてなくなる。

此処は信女の行為に甘えるしかなかった。

それに信女が山から下りて来て、しかも居場所は分かった。

この先、信女と接触する機会はまだある。

剣心はそう思い、今宵は引き下がった。

信女は剣心が去って行った夜の町角をジッと見ていた。

 

「盗み見で高みの見物とは、随分と良い身分ね、斎藤さん」

 

信女は視線を逸らさず、物陰に潜んでいた斎藤に話しかける。

 

「お前、抜刀斎の知り合いだったのか?」

 

すると、物陰から斎藤が出てきて信女に語りかける。

 

「彼とは剣の流派が同門なだけよ」

 

「‥‥屯所では奴との関係を俺以外には決して口にはするなよ。変な疑いをかけられるぞ。今夜、お前が抜刀斎を逃がした事も目を瞑っといてやる」

 

「彼とは邪魔されずに一対一で斬り合いたいだけ」

 

「成程‥だが、奴と斬り合い、奴を討ち取りたいと思っている奴は新撰組の中には大勢いるぞ。果たしてお前に抜刀斎が討ち取れるかな?」

 

「そう言う貴方もそうなのでしょう?」

 

「ふっ、さあな‥‥」

 

斎藤は口元をフッと緩めて、

 

「ボサッとしていないで、次の現場に行くぞ、維新志士は抜刀斎一人だけではないのだからな」

 

斎藤の言葉に信女は無言のまま、頷き、斎藤を始めとする新撰組の仲間たちと共に京の町の治安維持活動に従事した。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回

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