エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第24幕 連牙

 

 

 

~side神風隊~

 

堀部平八郎を自分達の仲間にしようと画策して、彼が講師をしている私塾で子供を攫い人質にするか...もしくは堀部自身を拉致しようと動き、それを決行する直前、

 

「こんにちは。こんな所で何しているの?」

 

これが男の声ならば斬れば問題なしだが、予想外にも程があり、聞こえた声質は女子のもので、振り返るといたのは日の光が上手く反射して怪しく光る黒みがかった藍色の髪をし、無表情の顔で瞳は血にも似た赤い瞳そして腰には長刀をさした女子だった。

しかも女子にも関わらず、警官の服を着ていた。

 

「失礼だけど何か身分を証明できるものは無い?」

 

「何者だ?貴様」

 

「おまわりさんよ」

 

「警官...だと」

 

神風隊の隊員達は警戒心を高めた。

 

「これは驚いた。まさか女子の警官とは」

 

隊員ももしやとは思ったが無駄のない佇まいそして何より隠しきれない血の匂い

 

「貴方達が神風隊?」

 

「我等の名を知っているのか!?まぁ、警官なら当たり前か‥‥」

 

此処から声を潜めて

 

「この女1人だ、できるだけことを荒立てずに済ませるぞ。」

 

男は頷いてさっそく動き出した。

 

「1人で我等に挑んだのが運の尽き!!女子でも容赦するな!!斬って捨てい!!」

 

「覚悟!!」

 

信女を囲むように神風隊の隊員は陣をとり一斉に襲いかかってきた。

 

(これなら仕方ないわね、署長もやむを得ない場合って言ってたし‥‥)

 

次々と自分に迫ってくる刀を躱しながら信女は柄に手を置いて

 

「久しぶりに本気で斬れる‥‥」

 

相手の刀を受け止め違う方から来ると受け止めていた男を蹴り自分の柄取り出して

 

「貴方達程度にこの技を使うのは勿体ないけど、久しぶりだから抑えられない...飛天御剣流、双竜閃・雷!」

 

これで止まらない信女は斬った男の刀を奪い、

 

「飛龍閃」

 

目の先にいた男の脳天を上手く当て圧倒されている男達を次々斬り倒す信女

神風隊の隊員も目を光らせて、

 

「ただの女子では無いな、名は殺す前に教えてもらおう」

 

「佐々木総司、死ぬ前に覚えときなさい、貴方を殺す人の名を」

 

「ふん、粋がるなよ、この俺も榊様と同じく火野派一刀流を学んだ剣客!!たかが女の剣に遅れを取る事など無い!!」

 

「そう、それは楽しみ」

 

信女は不敵な笑みを浮かべる。

 

2人は互いに刀を構え合い、

 

そして‥‥

 

「行くぞ!!」

 

キン!

 

刃をぶつけ合うが、信女の神速の剣に神風隊の隊員はついていけなかった。

 

(な、何だ?この剣は...)

 

「どうしたの?堀部をまだ超えてないの?かたや刀を捨て今は私塾の先生をしている、貴方はずっと刀を振ってきている筈‥それでもーー」

 

「だ、黙れ!!そこまで言うなら見せてやる、火野派一刀流の奥義を超えた究極奥義、喰らえ!!紫電連牙の太刀!!」

 

突撃してくる神風隊の隊員に対して信女は、

 

「これが、紫電の太刀を超えた究極奥義?自惚れている」

 

紫電の太刀は本来一撃にかけた技これは一見それを補った技に思えるがそれは大きな違いであり、

 

「飛天御剣流!龍巣閃・咬!!」

 

「な、なんだと!?」

 

体の一部に集中乱撃する攻撃、普通は死ぬが信女はこの時敢えて急所を外した。

 

「はぁはぁ、こ、これは‥‥」

 

「貴方はもうじき死ぬ‥でも、その前に貴方の次の暗殺予定の人物、そして貴方達の雇い主を教えなさい。」

 

「はぁ、答える...前に...答えろ.....何故俺の技を...」

 

「貴方の攻撃は一見躱された対応策になっているけど2回目の攻撃に気を取られすぎていた。あれでは反撃の隙を与えている」

 

「ふっ、そうか‥‥まだまだ、修行不足と‥‥言う‥‥事か‥‥」

 

「さあ、答えなさい」

 

信女は地面に倒れている神風隊の隊員の胸ぐらを掴んで、次の暗殺のターゲット、もしくは自分達、神風隊の黒幕の事を尋ねる。

 

「はし‥‥づ‥‥め‥‥」

 

神風隊の隊員は一言そう言って息を引き取った。

 

(橋爪?それだけじゃ、この橋爪って人が狙われているのか黒幕なのか分からないじゃない)

 

信女は死んだ神風隊の隊員を地面に降ろす。

 

「佐々木さん!!」

 

其処へ、堀部が警官達を連れてやって来た。

 

「佐々木警部試補これは!?」

 

「神風隊の連中よ、見つけて職質したら、斬りかかって来たんで返り討ちにしたの」

 

「か、返り討ちって‥‥」

 

警官達は信女の発言にドン引きしている。

 

「此処は任せていいかしら?署長に報告することができたから」

 

「は、はい」

 

信女はこの場を警邏の巡査に任せ、署へと戻り、浦村署長に先程、神風隊と接触した事を報告した。

 

「なに!?神風隊と接触した!?」

 

「はい」

 

「それで、その者達は?」

 

浦村署長が神風隊の隊員の事を尋ねると、

 

「全員斬りました」

 

「なっ!?」

 

平然と答える信女に浦村署長は思わず絶句する。

 

「ば、馬鹿者!!どうするのだ!?これで手懸かりが無くなってしまったではないか!!」

 

「ですが、一つ手掛かりは掴めました」

 

「なんだ?」

 

「奴らの次の暗殺目標、または神風隊の黒幕らしき人物の名です」

 

「誰だ?其れは?」

 

「橋爪と言っていました」

 

「橋爪‥‥橋爪‥‥」

 

「署長、橋爪と言う苗字の政治家、官僚の周りを張り込んだ方が良いかもしれません」

 

「う、うむ。分かった」

 

「それと‥‥」

 

「なんだ?まだ、何かあるのか?」

 

「はい。これまで神風隊の手にかかった政治家や官僚‥もう一度調べ直して」

 

警察が神風隊の手掛かりをつかんだ頃、

その神風隊では‥‥

 

 

~side東馬~

 

「それで、先日申した例の新たなる同志の確保はどうなっている?」

 

神風隊の出資者の男が東馬に戦力補強の状況を尋ねた。

 

「只今部下を向かわせました。今日中には神風隊に向かい入れる事が出来るかと‥‥」

 

「そうか」

 

そこへ、隊員が血相を変えて飛び込んできた。

 

「榊様!!」

 

「なんだ?どうした?」

 

「そ、それが‥‥」

 

隊員が東馬に耳打ちすると、

 

「なに!?失敗しただと!?」

 

「は、はい」

 

隊員が言うには予定時間を過ぎても別動隊が戻らないので、周辺警戒をしていたこの隊員が堀部の私塾へ行ってみると、そこでは警官がごった返しており、地面には別動隊の隊員達が死んでいるのが確認できたと言う。

 

「ほう?失敗したと?」

 

「っ!?」

 

「東馬、お前らしくない不手際だな?」

 

「ハッ、申し訳ございません」

 

「いいか、今後はそのような失態は二度とするなよ。神風隊の隊長である貴様と言えど、次は、容赦はせんぞ」

 

「き、肝に銘じておきます」

 

「それで、お前の素性を知るその堀部とか言う者、早々に口を封じておけ」

 

「御意」

 

「我々の計画も仕上げの段階に入る‥‥いつでも決行できるように準備をしておくのだぞ」

 

「ハッ」

 

「目的が達成された暁にはお前を政府の要職に取り立ててやるつもりだ」

 

「身に余る光栄でございます」

 

自分達、神風隊の出資者に礼を言う東馬であったが、心の中では別の事を考えていた。

 

(まさか、あの堀部が別働隊を‥‥いや、そんな筈は‥‥)

 

先日、堀部を訪ねた時、彼はもう二度と刀を手にしないと言っていた。

その堀部が別動隊の隊員達を返り討ちにしたとは考えにくい。

堀部が昔の伝手を頼って用心棒でも雇ったのだろうか?

此処は直接自分の目で確かめてみる事にしよう。

東馬は、次はこの自分が堀部の下へ出向く事にした。

ただし、近くで事件があったと言う事で、暫くは間を置いた。

直ぐに言っても周りは警官だらけで、堀部も警察の調査が終わるまで私塾を休講していたからだ。

数日後、警察の周辺調査が終わり、堀部が私塾を再開した時、東馬が堀部の私塾を覗いて見ると、其処には警官の制服を着た女がお手玉をして、私塾に通う女子達と戯れていた。

 

(女の警官だと?まさか、別動隊はあの女に‥‥?)

 

(いや、そんな筈は‥‥)

 

東馬としては、別動隊が女一人に負けたとは堀部が再び刀を手にした事よりも考えにくかった。

いずれにしてもまずはあの女警官を片付けなければならなかった。

そこで、東馬はわざと自分の姿を見せて、警官を誘い出した。

 

 

~side信女~

 

先日の堀部の私塾への強襲後に掴んだ手懸かり‥‥

「橋爪」と言う名で政治家、官僚を調べると共に、今まで殺された政治家や官僚がただ汚職の疑いがあると言うだけの理由で殺されたのか?

もう一度洗い直してみると、ある事実が浮かび上がった。

 

(そう、そう言う事‥‥)

 

しかし、確実な確証がまだないので、此処は神風隊のあの東馬は捕縛して尋ねるしかなかった。

 

(まぁ、彼以外なら別に斬っても良い訳だし‥‥)

 

一応、信女は自分が導き出した結論を浦村署長に報告した。

 

「そんな事が‥‥うーん‥だが、しかし‥‥」

 

「もし、神風隊の言った『橋爪』がこの男だと、辻褄が合う」

 

「では、君の言う通りだとすると、次の標的は‥‥」

 

「ええ、あの人かもしれません‥‥ですが、まだ確証がないので、署長の言う通り、神風隊の隊長格は生きて捕えます」

 

「あ、ああ、そうしてくれ」

 

そして信女は再び神風隊の襲撃が予想される堀部の私塾へと向かい、其処で再び警護をしていた。

そんな中、私塾の塀の向こう側に黒マントを着た怪しい男が立っていた。

神風隊隊長、榊東馬だった。

 

(あの男、私を誘っている‥‥)

 

自分をこの私塾から引き離す罠か?

しかし、あの男以外、殺気立った気配は感じない。

どうやら1人で来た様だ。

 

(いいわ、その誘い、乗ってあげる)

 

信女は東馬を追いかけた。

 

そして、林の中で少し開けた場所で信女と東馬は対峙した。

 

「お前に恨みはないが、これも運命だと思え‥‥死んでもらうぞ!!いやァァァ!!」

 

東馬は抜刀し信女に斬りかかって来た。

信女は東馬の斬撃をあっさりと躱し、彼から距離をとる。

 

「女の警官と思って少し手加減をしてやったが、なかなかやるではないか」

 

「‥‥」

 

「どうした?何故その刀を抜かない?その刀は飾りか?」

 

「ん?貴方にちょっと聞きたい事があるの」

 

「聞きたい事?何だ?」

 

「この明治の世で暗殺をすると言う事は、貴方何か政府に恨みでもあるの?」

 

「ふん、知れた事、かつて幕末の京にその名を轟かせた人斬り抜刀斎‥‥私もあの抜刀斎の様にこの刀で世の中を変えてみせる。腐った奴を斬るのに剣ほど有効なモノはないからな」

 

「別に暗殺で維新が成り立った訳ではない‥今の政府の欲望が旧幕府軍より勝った‥‥それだけ」

 

「なれど、いくら明治の世になろうとも剣に生きる私には時代など関係ない。そしてこの剣で明治の世の中を変え、私は自分の運命を切り開いてみせる」

 

「貴方、生まれる時期が遅かったわね」

 

信女は東馬を哀れんだ目で見る。

確かに彼は堀部が言う通り、新時代に乗り遅れた人物のようだ。

そんなに剣を振るいたければ、今の自分や斎藤の様に警官か軍人にでもなればいいのだが、彼はどちらかと言うと上から命令されるのではなく、命令したい方なのだろう。

 

「おしゃべりはそこまでだ。さあ剣を抜け!!」

 

東馬が刀を再び構えると、

 

「榊様!!」

 

神風隊の隊員やってきて彼に何か耳打ちをする。

 

「ん?今夜?よし、わかった」

 

すると、東馬は刀を鞘に納めた。

 

「命拾いをしたな。貴様の様な奴、何時でも斬れる。堀部と共に首でも洗って待っていろ」

 

そう言って東馬は隊員と共に走り去って行った。

彼らの次の標的が決まった様だ。

 

(どうやら、動き出したようね‥‥)

 

(さて、此方も動くとしますか‥‥)

 

信女も踵を返して堀部の私塾へ戻った。

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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