エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
注意点がひとつこちらの都合上1人登場人物の名前を変更しました。
佐々木平八郎→堀部平八郎に
テストなどで堀部平八郎とは書かないでください。間違えですから
観柳事件の後、恵は神谷道場のかかりつけの老医で小国診療所を開いている小国玄斎の下に身を寄せる事になった。
四乃森は相変わらず、行方不明で今もその所在が分っていない。
そして‥‥
(信女‥‥)
剣心は上の空状態で洗濯をしていた。
10年間探し求めていた人が再び姿を消してしまった。
剣心にとってこれはショックな事だった。
「剣心どうしたのかしら?」
薫はそんな剣心の様子を心配していた。
「左之助、アンタ何か知らない?」
「えっ?」
突然話をふられた左之助は気まずそうな顔をする。
大人な彼には剣心が何故あそこまで上の空なのか察しがついた。
(剣心の奴があんな状態なのは、やっぱりあの同門の女が関係しているのは明白だが、嬢ちゃんに言っても良いモノだろうか?嬢ちゃんが剣心の事を好いているのはこれまでの態度で分かったが、剣心は剣心であの信女って女を好いている‥‥)
三角関係の修羅場に関わりたくない左之助は、
「敵とは言え、御庭番衆の連中が目の前で殺されたんだ‥‥それがやっぱりショックだったんだろう」
そう答えた。
確かに左之助の言う通り、信女の事もショックであったが、般若達御庭番衆の死も剣心にショックを与えていた。
特に般若は剣心に活路を開くために、自ら捨て石となり、観柳の回転式機関砲の前に散って逝った。
逆刃刀で目の前の人だけは守ってみせると決意してきた剣心にとって今回の事は気落ちするには十分な事だった。
「そう‥‥」
薫は再び剣心を心配そうな目で見た。
「‥‥」
上の空状態で洗濯をしている剣心に、
「なぁ、剣心」
弥彦が話しかけてきた。
「ん?なんでござるか?弥彦」
「結局あれからどうなったんだ?」
「おろ?」
「いや、あの後俺達と分かれた後、あの信女って奴と‥‥」
弥彦は剣心と分かれた後の事を尋ねた。
まぁ、結果は今ここに剣心が居る事で、勝ったのは剣心であると分かるのであるが、弥彦はその経緯が知りたかった。
剣心と同じ飛天御剣流を使う女剣士‥‥一剣客としては興味がわかない筈がなかった。
「‥‥あの勝負は拙者が負けていてもおかしくはなかったでござるよ」
「えっ?」
剣心から「負ける」と言う言葉が出て来て驚く弥彦。
「あの時、信女が持っていた刀‥‥あれは彼女の愛刀ではなかった‥‥彼女自身、なまくらと言っていたから、恐らく観柳の私兵の為に用意されていたモノであったのでござろう。その為か、信女の技の力に耐えきれずに折れた‥‥だが、もし、あの時刀が折れていなかったら、拙者は負けていたでごさるよ‥‥」
「そんなに強いのかよ、あの女‥‥」
「ああ‥‥拙者が知る数多くの剣客の中でも文句なしに認める実力者の1人でござる」
剣心の表情から彼が嘘を言っている様には見えず、弥彦は思わず身震いした。
その信女はと言うと‥‥
「‥‥」
警視庁の資料室にて、剣心が東京で関わったとされる事件の資料を読み漁っていた。
偽抜刀斎辻斬り事件
人斬り抜刀斎が活人剣を振るう訳ないじゃない‥維新志士出身の警官共は一体何をしていたの?
そもそも姿形を見れば、一目で偽物だってわかるじゃない。
大体、緋村はこんな大男じゃないわ。
それぐらいわかるでしょう。
それとも昔、緋村と関わった事を知られたくなかったから黙っていたのかしら?
剣客警官隊事件
あっ、この宇治木って警官、私の警察官採用試験の時の相手‥‥へぇ~民間人への殺人未遂で懲戒解雇されたんだ‥‥。
まぁ、緋村に勝負を吹っ掛けて、そこを山県に見られたのが運の尽きね‥‥。
黒笠事件
下手人、鵜堂刃衛は維新後も暗殺家業を継続、その背後には出資者の存在があると思われるが、未だに不明‥‥か。
事の発端は、陸軍省官僚、谷の所に黒笠の斬奸状が届き、署長が緋村に助っ人依頼をして、斬奸目標を谷から緋村に移した‥‥。
緋村らしいわね‥‥それで、居候先の道場主が人質にとられた‥‥か‥‥。
最終的に下手人である鵜堂刃衛は自決、人質は無事に救出‥‥。
武田観柳事件
町医者の高荷恵が武田観柳に誘拐され、その場にいた緋村たちが助けに行く‥‥。
誘拐された被害者の救出した後、警察が調査した結果、観柳邸からは大量の阿片及び武器が発見された‥‥。
随分と真実を捻じ曲げたわね、この事件‥‥
高荷恵が阿片製造の首謀者と分かれば、極刑は免れない為、観柳事件に関しては大きく捻じ曲げられ、報告書も簡易的に纏められた。
この他にも集英組への襲撃にも剣心が絡んでいると言う噂があったが、集英組の組長はそれを否定し、警察沙汰にはなっていない。
黒笠、観柳事件‥両方とも敵に人質を取られているじゃない‥‥
緋村、目の前の人を守るって言って、貴方全然守れていないわよ‥‥。
まぁ、結果的に無事に救出出来ているからいいけど、今後もそんな幸運が続くとは限らないわよ、緋村‥‥。
斎藤からの頼みだから、彼にはこれまでの経緯を知らせるけど、斎藤怒らないかしら?
今の緋村の実情を知って‥‥。
剣心の今の状況を知りたがっていた斎藤に今の剣心の現状を知った時、斎藤は今の剣心に怒るか失望するかのどちらかだろうと思う信女であった。
信女自身も今の剣心の現状を知り驚いているのだから‥‥
それから数日後、鹿児島に居る斎藤の下へ信女が纏めた剣心の報告書が届けられた。
その報告書を見た斎藤は案の定‥‥
「あのヤロー‥‥」
と、不機嫌になった。
~side剣心~
「ねぇ、剣心」
「おろ?なんでござるか?」
「剣心、ここ最近元気がないみたいだけど大丈夫?」
「あ、ああ‥‥平気でござるよ薫殿」
薫に心配をかけていたと自覚し、必死に取り繕う剣心であったが、その言動には説得力がない。
「剣心、恵さんの件で色々あって疲れたでしょう?此処は気分転換に温泉でも行かない?」
「温泉‥でござるか?」
「そう、玄斎先生の妹さんが伊豆の温泉地で暮らしているの。家も広いらしいから、みんなで泊まっても大丈夫みたいよ。ねぇ、折角だし行きましょう?」
薫は剣心の為を思って伊豆の温泉へと誘う。
剣心も薫の気づかいに気づいて、彼女の言葉に甘える事にした。
「分かったでござるよ」
こうして神谷道場一行は伊豆の温泉地へと向かった。
しかし、その先でも一騒動が待っているとはこの時、誰一人知る由もなかった‥‥。
神谷道場一行が伊豆の温泉地へと旅行へ行った後、東京では‥‥
ある日の夜、とある料亭である密談が行われていた。
「今後ともお力添えの程よろしくお願いします‥‥」
そう言って商人は小さな布で包まれた小判を差し出す。
「お互い、持ちつ持たれつと言う訳だな‥‥」
「そう言うことで‥‥」
商人の向かいに座っていたスーツ姿の男‥恐らくは政治家か官僚の男はその小判を懐へとしまう。
この密談のやり取りはどう見ても賄賂の明け渡しで、江戸時代の時代劇によくある。
「越後屋、そなたもなかなかの悪よのう?」
「いえいえ、お代官さま程では‥‥」
な、展開である。
すると、突如障子戸が開くと、通路には黒マントを羽織った男達が立っていた。
「っ!?」
「なんだ!?貴様ら!?」
呼んだ覚えのない男達の登場で商人も政治家の男も驚く。
「己の地位を利用して私利私欲をむさぼる奸物め、我等神風隊が‥‥天誅に処す‥‥」
神風隊と名乗る男がそう言うと商人も政治家も顔中脂汗だらけになる。
2人は、この男達は自分達を殺しに来たのだと瞬時に悟ったのだ。
「だ、誰か‥‥」
商人が急いで立ち上がり、人を呼びに行く。
すると、神風隊の1人が素早く抜刀し、商人の後を追うと、
ザシュッ!!
「ぐわぁぁぁ!!」
商人を背中から一刀で切り殺した。
商人の悲鳴を聞きつれ、用心棒達が密談の部屋へと駆けつける。
「なんだ?テメェら!?」
すると、神風隊はその用心棒達が刀を抜く前にその用心棒達をあっさりと片付けてしまった。
残るは政治家の男だけとなったが、政治家は目の前で起きた惨劇に腰を抜かしていた。
「ひっ‥‥ひっ‥‥」
腰を抜かしている政治家の男に神風隊のリーダー格の男がゆっくりと近づいてくる。
「ま、待て‥‥幾らだ?幾ら欲しい?」
政治家の男は金を使い、命乞いをするが、
「‥問答無用」
神風隊のリーダー格の男は政治家の男の言葉に一切、耳を傾けず、刀を振るった。
ブシュッ!!
「ぎゃぁぁぁぁー!!」
翌朝の朝刊にこの料亭での惨劇は一面に載った。
~side信女~
「ふぅーん‥神風隊ねぇ‥‥」
警察署の資料室で信女は朝刊を見ながら記事を読んでいく。
そんな時、
「佐々木総司警部試補、署長がお呼びです」
信女は浦村署長に呼ばれ、署長室へと出向いた。
「神風隊の話は既に聞いていると思う」
「はい。昨夜も神風隊の事件があったみたいで、死亡者が多数出たと‥‥」
「うむ、これは黒笠事件に匹敵する重大な事件だ‥‥」
「ですが、殺されたのは皆、汚職の疑いがある政治家や官僚だと聞きましたが?」
「そうだ。民衆の中には神風隊の事を正義だと思っている者も居る」
「いかがいたしますか?黒笠事件の時の様に緋村剣心に協力を求めますか?」
「それが、朝一に伝令を出したのだが、緋村さんは今、伊豆へ行っている様なのだ」
「伊豆‥‥ですか‥‥」
「うむ、勿論警察の方でも警護はするが、君も神風隊の調査にあたってもらいたい」
「私も‥‥ですか‥‥」
「そうだ」
「‥‥一つ確認させてもらってもよろしいですか?」
「なんだ?」
「その神風隊の連中‥‥全員、切り殺しても構いませんか?」
「‥‥」
信女の質問に浦村署長は顔を引き攣らせている。
相変わらず警官とは思えない事を口走る信女であった。
「やむを得ない場合のみだ。それと主犯格は絶対に生きて捕縛しろ。いいか、くれぐれも皆殺しにはするな。これは厳命だぞ、佐々木総司警部試補」
「了解しました」
信女は浦村署長に敬礼し、署長室を出た。
とりあえず資料室に籠っては、手掛かりは掴めそうにないので、信女は調査を兼ねて町へ巡察へと出た。
しかし、暗殺集団も日中、人通りの多い中、堂々と暗殺騒ぎは起こさない。
調査と言ってもどこをどう当たればいいのか皆目見当がつかない。
そんな時、
「きゃあ!!泥棒!!」
信女の近くでひったくりが起きた。
「っ!?」
一応、信女も警官と言う事で、急いでそのひったくりを追った。
すると、ひったくり犯の前に1人の男が立ち塞がった。
「どけ!!」
ひったくり犯は勢いを殺す事無く、眼前の男に迫る。
しかし、男の方も退く気配はない。
そして、
「ふんっ!!」
ひったくり犯の袖と胸倉をつかんで投げ飛ばした。
「ぐぇ!!」
投げ飛ばされ、逃げる時間を大幅にロスしたひったくり犯は、
「窃盗の現行犯で逮捕する」
信女に御用となった。
ひったくり犯を町の警邏巡査に任せ、信女は被害者に何か無くなっている物はないかの確認とひったくり犯を取り押さえるきっかけとなった男の事情聴取を行う為、近くの交番でそれらを行った。
その結果、被害者の持ち物で無くなった物は無く、被害者はお礼を言って帰っていき、次にひったくり犯を投げ飛ばした男の事情聴取となった。
事情聴取と言っても名前と住所、職業を聞くだけの簡単なモノである。
机に向かい合っている時、
(この男、昔何処かで‥‥)
信女は目の前の男と何処かで会った気がした。
「‥‥」
すると、目の前の男も信女の事をジッと見ていた。
「なに?」
「あっ、いや、女の警官がいた事にちょっと驚いただけで‥‥」
「あっそう、じゃあ、まずは名前からいいかしら?」
「はい、堀部平八郎です」
「‥‥堀部‥平八郎‥‥?」
「はい。‥あの何か?」
「いえ、何でもない」
その後、住所と職業を聞き、堀部と名乗る男を帰した。
(堀部平八郎‥‥もしかしてあの男‥‥)
信女は帰って行く堀部の後姿をジッと見ていた。
ではまた次回。