エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
信女が自分の知る世界と似ている様で似ていない世界に流れて、信女と剣心が比古の下で飛天御剣流を学んでから幾月の年月が流れた。
ただ、剣心に至っては修業の途中、何を思ったのか突然比古の下から去り、長州藩、高杉晋作が率いる奇兵隊に入隊していった。
去り際、剣心と比古の喧嘩は物凄かった。
信女は引き続き、比古と共に山での生活をしていたが、ある時風の噂で剣心が京都にて、人斬り抜刀斎と呼ばれる剣客になっていると言うのだ。
その噂を聞いた比古は、
「信女」
「なに?」
「今日で、お前の修業は終わりだ。後は好きに生きろ‥‥ただし、此処に留まるって選択以外だ」
それだけ言って比古は信女を半ば追放の様な形で山から降ろした。
しかし、信女にはこれが比古なりの気づかいだと分かっていた。
信女自身も剣心の事が気にならなかったわけではない。
だが、比古はどうも不器用な性格故、この様な口ぶりとなってしまったのだが、信女も人付き合いが得意な方でない為、比古の事がよく分かった。
比古から山を下りる様に言われた信女は剣心の行方を探る為、京都の地へと降りたった。
今の京都が物凄く治安が悪くなっている事は知っていた。
剣の腕が劣っているとは思ってはいなかったが、どうもこの世界では男尊女卑の傾向があるようだ。
信女がそれを知ったのはかつて、自分の世界で所属していた見廻組の隊士募集に応募した時の事であった。
面接した隊士は信女が女と言う理由で募集受付は出来ないと言われた。
例え女でも自分はそこら辺の武士よりも剣の腕が立つと自負していた。
しかし、信女は剣術試験さえも受けさせてもらえず、門前払いを喰らった。
次に信女は比古から貰ったお金で男物の着物を買い、男装をして、自らの名も今井信女から、かつて自分に名を与えてくれた男の名を借り、今井異三郎として、再び見廻組の募集を受けたが、今度は道場からの紹介状がなければ、受ける事は出来ないと言われた。
比古に頼んでも「面倒だ」とか言って紹介状を書いてくれるとは思えない。
自分の世界でも見廻組は良家のエリートで編成されていたエリート部隊。
そんなエリート部隊に女の自分が入れたのはトップであった佐々木異三郎が自分と深いつながりが有る為であった。
異世界からの流れ者で、この世界では比古と剣心以外、知り合いが居ない信女。
そんな中、信女はかつて自分の所属していた組織と協力しつつ対立したもう一つの警察組織、新撰組の隊士募集の張り紙を見た。
しかし、この世界の新撰組は『しん』の文字が真ではなく、新であった。
信女が新撰組隊士募集の張り紙をジッと見ていると、
「若造、その張り紙に興味があるのか?」
信女は突然声をかけられた。
声がした方を見ると、虫の触角の様な髪型に目つきが細いがその心の内はまるで狼の様な凶暴性を秘めている男が居た。
「見廻組の方へも行ったが、断られた‥‥紹介状が必要だと言われて‥‥」
「成程、隊士を選ぶにしても選民意識が強いアイツら、らしい募集の仕方だな」
「新撰組も同じではないの?」
「いや、俺達は剣の腕が強ければそれでいい」
「俺達?貴方も新撰組?」
「ああ」
「そう‥‥」
「それで、どうする?受けるのか?受けないのか?」
「安い挑発‥‥でも、そんな風にいうのであるなら、それなりに腕が立つのだろう?」
「フン、お前こそ、随分な自信の様だな?」
「事実」
「いいだろう?ならばこの俺直々に相手をしてやる」
狼の様な男は不敵な笑みを浮かべて信女を新撰組屯所の道場へと案内した。
「ほぉ、斎藤君が直々に拾って来た者とは興味深いな」
「僕もですよ、近藤さん。一体どんな人なんだろう?」
「あの斎藤がね‥‥」
「でも、斎藤相手に入隊試験はちと厳しい様な気もするが‥‥」
斎藤が直々に剣術試験を行うと言う噂を聞き、屯所の道場には新撰組の幹部達が揃って来た。
一応、剣術試験と言う事で真剣ではなく、獲物は木刀を使う事になった。
互いに距離をとり、対峙する斎藤と信女。
「では、入隊試験‥始め!!」
土方が号令をかけると、斎藤は左手で木刀を握り、まるで照準を合わせるかのように右手で木刀の剣先を持つ。
(あれは、平突きの構え‥‥でも、ちょっと我流が入っている‥‥)
信女の世界の真選組の隊士たちも平突きを得意としていた。
あの技は突きを外しても間髪入れずに横薙ぎの攻撃に変換できる二段構えの技‥‥常に命のやり取りをしている真選組ならではの技であった。
どうやら、それはこの世界の新撰組も同じようだ。
「はぁぁぁー!!」
斎藤の得意技、左片手平突き、牙突が信女へと迫る。
(速い‥‥でも‥‥)
信女は突きを右側に避ける。
すると、次に横薙ぎの攻撃が信女へと迫る。
信女は横薙ぎの攻撃を木刀でいなすと、
「たー!!」
此方も斎藤の背中に横薙ぎの攻撃をくわえる。
すると、斎藤は道場の壁に突っ込む。
『‥‥』
斎藤の得意技である牙突をかわし、反対に斎藤に一撃を加えた事に近藤達は驚く。
「もう、終わり?」
信女が壁に突っ込んだ斎藤に挑発めいた言葉を発する。
すると、その瞬間、斎藤は先程の牙突以上の速さで信女に牙突を繰り出して来た。
「っ!?」
信女はその攻撃を防ぎきれず、今度は信女が道場の壁に突っ込んだ。
「おいおい、ちょっとやりすぎじゃねぇか?」
新撰組二番隊組長、永倉新八が入隊希望者相手にちょっと大人気ないんじゃないかと言う。
「永倉さん、アイツがそんな軟な訳ないじゃないですか」
斎藤は信女が突っ込んだ壁から視線を逸らさず、永倉に言う。
信女は壁から神速の抜刀術で斎藤に迫る。
斎藤はその抜刀を受け止める。
すると、信女は天井や壁を蹴って勢いをつけて全方位からの攻撃を斎藤に仕掛ける。
斎藤も信女もいつしか本気になり、互いにボロボロになるまで剣を振り続けた。
これ以上は流石に剣を振っている当人と道場がヤバいと感じた新撰組の幹部達は2人を止めに入った。
「斎藤さん、落ち着いてください!!」
「お前は入隊希望者を潰す気か!?」
斎藤を沖田、永倉が止め、
「やりすぎだぞ、君!!」
「お前は入隊希望に来たのか!?それとも屯所の道場を壊しに来たのか!?」
信女は近藤と土方が止めた。
こうして信女の剣術試験は、決着がつかない結果で終わった。
「で?結果は?」
屯所の道場をボロボロにしたにも関わらず、近藤達に試験の結果を聞く信女。
彼女はある意味、大物である。
「そんなもんきまってんだろうが‥‥」
土方がイライラした様子で信女に試験結果を伝える。
「不合‥‥「合格だ」」
土方が信女に試験結果を言う前に斎藤が信女に試験結果を伝える。
「おい、斎藤、テメェ何勝手に‥‥」
「土方さんも見たでしょう?コイツの剣の腕を‥‥これ程、腕の立つ奴をみすみす維新志士にくれてやるのは余りにも勿体ないと思いませんか?」
「僕も斎藤さんの意見に賛成です」
斎藤の提案に沖田も賛成する。
「ちっ、近藤さん、アンタはどう思っている?」
土方は局長である近藤の判断を仰ぐ。
「‥‥私も斎藤君の意見に賛成だ」
近藤も信女の新撰組入隊を歓迎する意向を示した。
「と言う訳だ‥お前は今日から晴れて新撰組隊士だ‥‥だが、それなりに不自由な生活は覚悟してもらうぞ」
斎藤は信女にそう忠告する。
「ん?どういう事かね?斎藤君」
近藤が斎藤の言葉の意味を理解できず、斎藤に尋ねる。
「近藤さん、コイツ男の恰好をしていますが、女です」
『えええーっ!!』
斎藤の暴露に驚く近藤達。
「って事は斎藤、お前さん女相手に壁に叩き付けられたのか?」
永倉が笑みを浮かべながら、斎藤の肩を叩きながら尋ねる。
「‥‥喧嘩売っているんですか?永倉さん」
斎藤が引き攣らせた笑みを浮かべながら永倉を見る。
「お前、本当に女なのか?」
土方が信女に本当に女なのかを尋ねる。
「‥‥確かめてみる?」
信女は袴の止め紐を緩め、袴を脱ごうとする。
「よ、よしなさい!!」
すると、近藤が慌てて止めに入る。
「でも、どうするんですか?今更、女の人だからと言う理由で放り出すのはやっぱり勿体ない気がします」
沖田は信女を手放すのはやはり惜しいと言う。
「じゃあ、斎藤、お前がコイツの面倒をみてやれ」
「は?」
土方の発言に斎藤はまるで、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「お前が連れて来たんだ。ちゃんと面倒をみてやれ」
「よろしく‥斎藤さん」
「‥‥」
信女が挑発を含めて斎藤に声をかける。しかし、信女の顔は無表情であったが、斎藤は顔を引き攣らせていた。
こうして信女は新撰組へと入隊を果たした。
・・・・続く
ではまた次回。