エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第17幕 忍者

 

 

 

東京のとある場所にその道場はあった。

門前には『神谷』と書かれた表札の他に達筆な文字で『神谷活心流 剣術道場』と書かれていたる看板が掲げられている。

しかし、剣術道場にも関わらず、道場の中からは門下生達の元気な声や数多くの竹刀が当たる事はせず、道場内に居るのは僅か2人だけであった。

1人はこの家の今の主にして、神谷活心流師範代である神谷薫。

もう1人は現在、神谷活心流の唯一の門下生である明神弥彦だった。

僅か1人の門下生しかいないが、薫は弥彦に剣術を教え、弥彦も強くなりたいと言う思いから、一生懸命に竹刀を振っている。

そんな中、

 

「2人ともそろそろお昼ご飯でござるよ」

 

と、道場に3人目の人物が現れる。

赤い髪に頬に十字傷のある男‥‥

この男こそ、紛れもなく幕末の京都で人斬り抜刀斎と呼ばれた緋村剣心その人であった。

剣心はあの鳥羽伏見の戦い後、逆刃刀を帯びて京都を除く、全国を回る流浪の旅へと出た。

そして、維新から10年が経ち、江戸から東京と名を変えたこの地にて、薫と出会い、そしてある事件に巻き込まれた形で、事件解決後もそのまま成り行きでこの神谷家に居候している。

 

「やった!!飯だ!!飯だ!!」

 

昼ごはんと言う事で弥彦は道場を勢いよく出て行く。

 

「あっ、ちょっと!!弥彦!!」

 

弾丸の如く出て行った弥彦に声を上げる薫だが、

 

「薫殿も手を洗って来るでござるよ」

 

「う、うん‥‥」

 

朝からずっと弥彦と共に稽古をしていたので、薫の方も実はお腹が減っていた。

剣心に促され、薫も手洗い場で手を洗った後、昼食が用意されている居間へと向かう。

 

神谷道場の全員が揃った時、

 

「うぃーす」

 

道場に新たな客がやって来た。

 

「なんだ、左之助。またタダ飯にありつきに来たのかよ」

 

弥彦が呆れた声でその人物に声をかける。

 

「しょうがねぇだろう。喧嘩屋辞めて金がねぇんだから」

 

その人物はまるで自分の家の様に居間へと上がり、どっかりと胡坐をかく。

 

「まぁ、左之の分もちゃんと用意してあるでござるよ」

 

「おお、流石剣心。分かっているじゃねぇか」

 

「全く、剣心ったら左之助に甘いわよ」

 

薫は剣心の行動に呆れながら言う。

神谷道場に来た新たな客の名は、相良左之助。

少し前までは喧嘩屋『斬左』の名でちょっとは名の知れた男であったが、彼も剣心との出会いでそれまでの人生を変えられた男であり、現在は喧嘩屋を辞めて気ままなその日暮らしをしている。

 

「あっ、テメェそれは俺が狙っていた沢庵だぞ!!」

 

「へっ、早い者勝ちだぜ」

 

弥彦が悔しそうに声をあげ、左之助はドヤ顔で沢庵を口の中に放る。

 

「それなら‥‥」

 

「あっ、それは俺が狙っていたがんも!!」

 

「早い者勝ちなんだろう?」

 

今度は弥彦がドヤ顔で、がんもを口の中に放る。

 

「ふ、2人とも、もっと沢山あるんだから、もっと落ち着いて食べなさいよ」

 

「そうでござるよ。あんまり勢いよく食べると喉を詰まらせるでござるよ」

 

やがて、昼ご飯が始まり、弥彦と左之助が奪い合うかのように昼食を食べている。

そんな2人のやり取りを薫と剣心は半ばあきれつつ言うが、2人の耳には届いていない様子。

この神谷道場の食事係りはもっぱら剣心の役割となっている。

別に剣心が居候だからと言う訳では無く、剣心が食事係りのその理由は、薫の作る食事は不味いからだ。

ただ剣心曰く、薫の料理は、

 

「食べるごとに味を増す料理」‥‥らしい

 

騒がしくも賑やかな昼食が終わり、食後の茶で一服していると、

 

「そう言えば、左之助。アンタ、この前女の人を助けたんですってね」

 

薫が左之助に会話をふる。

 

「おっ?なんでぃ、嬢ちゃんもあの場に居たのか?」

 

「ううん、赤べこの妙さんから聞いたの」

 

「へぇ~左之助もいいとこあるじゃん」

 

「ま、まあな」

 

「それで、どんな人だったんだ?」

 

弥彦が左之助に助けた女の人がどんな人だったのかを尋ねる。

 

「妙さんの話だと青みがかった黒髪の綺麗な女の人だったらしいわよ」

 

左之助ではなく、薫が妙からの情報である左之助が助けた女の人の特徴を剣心と弥彦に教える。

 

「青みがかった黒髪‥‥」

 

剣心は、薫の言った女性の特徴を聞き、感傷に浸るような声を出す。

彼の中で青みがかった黒髪の女性と言えば、かつて自分が恋心を抱いたあの女性を思い出させるのであった。

 

「剣心?」

 

「どうしたんだ?ボォ~っとして」

 

「あっ、いやなんでもないでござるよ」

 

剣心は慌てていつもの雰囲気を纏う。

東京に来れば信女の情報が何か入ると思って来たのだが、未だに信女の情報は入らない。

もしかして信女はもう死んでいるのではないか?

と最近思い始めてきた剣心であった。

食事が終わり、剣心が食器を洗いに洗い場へと向かった後、

 

「剣心、この後暇か?」

 

左之助が洗い場に来て剣心の午後の予定を尋ねてきた。

 

「おろ?この後は、特に予定はないでござるが‥‥」

 

今日は薫から買い物とかを頼まれていないし、洗濯物は午前中にやったので、剣心は午後の予定は特になった。

 

「じゃあ、ちょっと付き合ってくれねぇか?この後、大事な用事があるんだが、剣心の力を借りてぇんだ」

 

「ん?喧嘩でござるか?」

 

剣心は左之助が自分の力を借りたいと言う事は、喧嘩などの荒事かと思ったが、

 

「いや、逆刃刀を使う様な荒事じゃねぇ。飛天御剣流の読みの力をちょっと借りてぇんだよ」

 

「おろ?」

 

左之助の言う事がちょっと理解できず、首を傾げる剣心。

逆刃刀は使わないのに飛天御剣流の読みの力を借りたいとは一体どういうことなのだろうか?

兎も角、喧嘩などの荒事ではなく、左之助が大事な用事と言っているので剣心は左之助のその大事な用事に付き合う事にした。

 

「あら?剣心、左之助と出かけるの?」

 

左之助と剣心が神谷家を出ようとした時、薫が2人を見つけ、声をかける。

 

「ああ、左之がちょっと大事な用事があるらしくてそれを手伝うことになったでござるよ」

 

「大事な用事?」

 

薫が何か不振がるような目で左之助を見る。

 

「左之助、アンタまさか、剣心に危ない事をさせる気じゃないでしょうね?」

 

「そんなんじゃねぇよ。‥‥ちょっとダチのとこで賭場をやるから剣心の力を借りてぇだけだよ」

 

左之助が薫に剣心を借りる理由を薫に耳打ちする。

剣心に賭場に行くと知られたら、剣心が付き合ってくれないかもしれないからだ。

すると、

 

「なぁんですって!!」

 

薫がキレた。

 

「アンタ、剣心を何て所に連れて行こうとしているのよ!!」

 

これ以上薫に騒がれると、不味いので左之助は、

 

「剣心行くぞ!!」

 

「おろ?」

 

左之助は剣心の手を掴んで、大急ぎで賭場が行われる左之助のダチの家へと向かった。

 

 

~side信女~

 

その頃、剣心の探し人である信女は今、武田観柳の屋敷に居た。

信女のこの屋敷での立場は女中と言う事で、炊事や掃除洗濯を行いながら、観柳邸の調査をしていた。

そして、ここ最近の調査で観柳の私兵団の大まかな編成が分かって来た。

もっぱら借金の取り立てや地上げを行うヤクザ隊

観柳の表向きの仕事を手伝っている小姓隊

そして、観柳の身辺警護を行っている剣客隊と銃士隊‥‥。

ただ、あの男はこれ等観柳の私兵団のどの隊にも所属していないし、常に自分を監視する忍者軍団だけは未だにその詳しい編成と人数は分かっていない。

それに此処までの調査は恐らく自分を監視している忍者にも知られているだろう。

 

(まったく、やりにくいったらありゃしない‥‥これだから、忍びは嫌いなのよ)

 

四六時中どこからか自分を観察している視線にうっとうしさを感じながら、信女は今日も家事に精を出していた。

そんな中、信女は屋敷内である女性を見かけた。

その女性は長い黒髪で頭に三角巾をつけ、白い割烹着を着て、身体からはクリスの匂いを漂わせていた。

 

(あの人、どこかで‥‥)

 

女性とすれ違い様、信女はその割烹着姿の女性を何処かで見た気がした。

 

(少し後をつけるか.....いや、まずは...)

 

信女は割烹着の女性の事が気にはなったが、それとは別に今はやるべき優先事項があったので、その女生とは違う方向に歩いていき、竹箒を持って屋敷の外の掃除を始めた。

 

「‥‥」

 

(やっぱりいるわね‥‥ホントしつこい、お手洗いやお風呂の時にはいないだけ、相手にはそれなりのモラルがあるみたいだけど‥‥やっぱり、忍びは嫌い‥‥)

 

掃除中にもやはり例の視線は感じた。

視線を感じつつ信女は普段の様子を装って外の掃除を続け、次第に屋敷の敷地内でも目立たない小さな林の中へと入って行く。

 

そして、

 

(屋敷の中に小さいとは言え、林があるとは流石金持ち‥‥でも、それはこっちも都合が良いわ‥‥)

 

「いい加減にしてくれない?ただの女中をつけまわすなんて、悪趣味よ」

 

(私の生まれた世界ならストーカーで訴えられるレベルね)

 

信女は何処かに潜んでいるであろう監視者に声をかける。

すると、

 

「ふん、ただの女中が、私の気配に気付けるはずがないだろ、貴様何者だ?」

 

と忍装束に腕には黒と赤の刺青をして顔に般若の仮面をつけた男が出てきた。

 

「『女中』‥と、以外に答える気はない...それにそろそろ私の事をつけるのをやめてくれない?...正直、イライラする‥‥それとも私に気があるの?」

 

(奇抜な服装‥‥ただの忍びじゃない‥‥恐らく中忍以上の実力者‥‥)

 

信女は挑発っぽく言い、そう聞かれて忍者は、

 

「ふ、ふふふ確かに気はあるさ‥ただ‥‥お前を殺る気だがな!」

 

忍はそう言って拳を一度打った後、構えた。

 

(.....あれは拳法の構え‥‥くっ、愛刀さえあれば...でも、今はこれでやるしかない)

 

「覚悟‥‥変態忍者」

 

信女は今、愛刀である長刀を持っていなかったので、仕方なく今持っていた竹箒で般若面の忍者を迎え撃つがいとも簡単に手で止められた。

 

「ふんっ」

 

「なっ!?」

 

(アイツ、手袋の下に何か仕込んでいる...さっきの音からして恐らく鉄甲‥‥これだから忍は...)

 

此方の先制攻撃が防がれた事に信女は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。

 

「では、今度はこちらから行くぞ、キェェェエエ!」

 

忍は信女に正拳突きを放った信女はその正拳突きを紙一重で躱す。

 

(紙一重で避けた‥これで...)

 

信女は相手の正拳突きを紙一重で避けた後、反撃に移ろうとする。

だが、

 

「っ!?」

 

信女は相手の攻撃を避けきれなく、

 

(何、今の!?...腕が伸びた!?そんなバカな!?)

 

ドカッ

 

「ぐっ」

 

顔にモロ、相手の攻撃を喰らった。

 

「どうした?...こんなものか?お前の実力は?」

 

「くっ」

 

仮面でわからないが余裕な表情しているのは声の口調からして確かだ。

その声を聞いて信女は、

 

(アイツ、殺ってもいいかな?)

 

ちょっとキレかけた。

任務の為、あまり大事にはしたくなかったが、此処までストーキングされた挙句、コケにされて黙っているのは無性に腹が立つ。

信女はそんな事を思って、袖に仕込んでいた小太刀を抜こうしたその時に、

 

「何をしている、般若?」

 

「っ!?」

 

ロングコートのあの男がいつの間にか立っており、般若と呼ばれた忍は、

 

「申し訳ありません、お頭」

 

まるで忠犬の様にロングコートの男に頭を下げる。

 

「まあいい、高荷恵が逃げ出した。今、観柳の私兵と癋見が後を追っている。お前も追え」

 

「はっ!!」

 

般若は高くジャンプし木の枝に上り、そのまま消えて行った。

恐らく高荷恵と呼ばれた人物を追いかけに行ったのだろう。

 

「.....」

 

お頭と呼ばれた男はそのまま無言で去ったが信女は、

 

(お頭...まさか、まさかあいつが.....)

 

信女はまさかあのロングコートの男が謎の忍者軍団を率いているお頭だと知った。

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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