エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第13幕 新時代

戊辰戦争が終わり、明治の世が進んで、明治政府は徳川の鎖国政策により、遅れた文明や制度を必死に学び取ろうと西洋の文化、制度を基礎に日本を近代国家へと作り変えている中、政府の中では朝鮮との国交である揉事が起きる。

これが世に言う征韓論であった。

西郷隆盛・板垣退助・江藤新平・後藤象二郎・副島種臣らによってなされた、武力をもって朝鮮を開国しようとする主張が政府内に出た。

ただ、西郷に至ってはいきなり武力行使をするのではなく、ますは話し合いによる解決を模索しようとし、明治政府は西郷隆盛を使節として朝鮮に派遣することを決定する。

しかし、西郷の遣韓は岩倉具視の意見が明治天皇に容れられ、遣韓中止が決定された。その結果、西郷や板垣らの征韓派は一斉に下野した。

これが後に起きる士族たちの叛乱、板垣退助の自由民権運動の起点となった。

明治7年‥‥戊辰戦争終戦から約5年の歳月が流れた‥‥。

あの箱館の戦場から土方の命令で渋々、戦線離脱をした信女は土方の故郷、多摩にある沖田の姉、沖田ミツの下に身を寄せていた。

名前も政府からの追撃を逃れるため、佐々木総司と名を変え、男装も止め、本来の性別の姿に戻って生活をしていた。

総司なんて、男の人っぽい名前であるが、信女は生まれた世界において徳川の剣術指南役の家、柳生家の跡取り娘もとても女の子につける名前ではない名前を付けられている事を知っており、彼女の名前より幾分マシである。それに信女にとってこの名前は剣心やあの人と同じくらい、大切な人の名前だった。

そして、この5年間、信女は土方の墓には毎日お参りをし、週一のペースで沖田の墓にもお参りをしている日々を過ごしていた。

この日も信女は土方の墓参りをしていた。

そんな信女にある再会が齎された。

 

「‥‥それが副長の墓か?」

 

「っ!?」

 

土方の墓に花とお線香を供えて、目を閉じて手を合わせていた時、信女は突如、声をかけられ、ハッとした顔で声がした方へと視線を移す。

其処には1人の男が立っていた。

 

「‥‥もしかして‥斎藤?」

 

「随分な言い方だな?お前が会津で俺に『死ぬな』と言ったんだぞ。それと今は名を変えて藤田五郎と名乗っている」

 

「え、ええ‥‥そうだったわね‥‥土方は約束を守ってくれなかったからてっきり貴方もと思って‥‥それにお墓と言っても此処に土方は眠っていない‥‥遺髪だけよ‥‥それと私も今は佐々木総司と名乗っているから」

 

「総司‥‥そうか、沖田君の名を継いでいるのか‥‥」

 

「ええ、総司のお姉さんの許可をもらって‥‥」

 

そして、信女は視線を土方の墓に戻す。

その後、斎藤も土方の墓をお参りした。

 

「色々積もる話もあるでしょう?居候先だけど、其処で話しましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

信女は斎藤と共にミツの家に戻り、そこで、これまでの経緯を互いに話した。

 

「そうか‥‥副長が‥‥」

 

「‥‥」

 

斎藤は信女から会津を出た後から信女が箱館を離れるまでの経緯を聞いた。

 

「副長の最後を見取れなくて残念だったな‥‥」

 

「ええ‥あの時は、土方や皆の為に討ち死にしても良いとさえ思ったわ‥‥」

 

「‥それはちょっと困るな」

 

「それはどういう事かしら?」

 

「実は、俺は今警視庁の警官をやっている」

 

「警官?新撰組の貴方が?」

 

信女は斎藤が政府の狗とも言える警官になっていたことに驚いた。

 

「それで、お前も警官にならないかと思って、お前を探していた」

 

「私が警官?冗談じゃない。何で会津や新撰組を賊軍に仕立て上げた明治政府に協力しなくちゃいけないの?」

 

「だがな、今井。明治政府は侍をこの国から滅ぼす政策を打ち立てようとしている」

 

「侍を?維新の功労者は侍であり、維新志士達はその殆どが侍じゃない...政府の連中は自殺願望でもあるの?」

 

「確かに、戊辰戦争の時には連中は侍だったが、維新後、連中はその侍の身分をいの一番に捨てて自身を政治家と名乗っている。そして、その政治家連中は侍をこの国における不必要な遺物として処理しようとしている」

 

(私の生まれたあの世界と似た歴史を辿っているわけね‥ただそれを行うのが天人ではなく、同じ地球人‥しかも元侍がやるなんて、滑稽だわ‥‥)

 

「いずれは侍の権限すべてが奪われ、刀さえぶら下げる事も出来なくなるかもしれんぞ‥‥」

 

「‥‥」

 

「そして、刀を持てるのは軍人か警官のどちらか‥‥そうなる世の中も近い‥俺は明治に生きる新撰組として、悪・即・斬の信念と正義を貫く為、敢えて警官となり、明治政府の狗になり下がった‥‥しかしだ、例えこの国を動かすお大臣だろうと、私欲に溺れて厄災を仇なすのであれば、悪・即・斬の名の下に斬るつもりだ‥‥今井、お前はどうする?」

 

「どうするって?」

 

「お前も明治を生きる新撰組の1人として、お前はこのまま此処で剣客としての腕を腐らせて、余生を送るか?それとも俺と共に新撰組の信念を貫くか?」

 

「私は‥‥」

 

信女の脳裏に土方の最後の言葉が浮かぶ。

 

(お前はこの先、生きて、生き抜いて、見届けろ!!俺達新撰組を受け入れなかった新時代が‥‥薩長の連中が徳川から奪った時代がどんな時代になるのかを見届けろ!!)

 

(そうね‥‥土方‥‥私の中には総司や土方の思いが生き続いているんですものね‥‥)

 

「斎藤‥その話、受ける」

 

「ふっ、決まりだな」

 

信女は斎藤と共に明治を生きる新撰組の意志を固めた。

善は急げと言う事も有り、信女はミツにこの事を伝え、荷を纏めて、斎藤の下に身を寄せる事にした。

 

「今までお世話になった。」

 

「いえ、信女ちゃんが来てくれて楽しかったわ‥‥東京に行っても元気でね」

 

「ミツも元気で‥‥」

 

ミツに礼を言って、信女は斎藤と共に東京を目指した。

その途中、

 

「そう言えば、お前の名前、信女っていうのか?」

 

「えっ?何でそれを!?」

 

「さっき、沖田君の姉君がお前にそう言ってただろう?」

 

本当は幕末の頃に信女の名前を知っていた斎藤であったが、此処は敢えて知らないふりをした。

 

「そうだった‥‥ええ、私の本当の名前は今井信女‥‥その名前を知っているのは、貴方で5人目」

 

「5人?」

 

「1人は私の剣の師匠、もう1人は剣心、そしてもう1人は総司と総司のお姉さんのミツの5人よ。」

 

「確か、抜刀斎とお前は同門の仲だったな、ならば、知っているのも道理か‥‥」

 

「まぁ、今は総司の名を継いでいるから、どちらでも好きに呼んでいいわ。貴方は私との約束を守ったんですもの」

 

「そうか、ではそうさせてもらう」

 

「それより、斎藤。警官なんて、女の私に出来るの?」

 

信女は斎藤に警官は女も採用しているのかを尋ねる。

維新が成り立ち、四民平等とうたわれているが、実際は元維新志士、旧武家の名家が幅を利かせ、男女関係においても未だに世間は男尊女卑の風習は拭えていない。

女は家に居て家事を行い、夫を支え、子供を産み、子供を育てる。

それが女の仕事だ。

そんな世間の中、警官の職を女である自分に務まるのか疑問である。

 

 

「まさか、新撰組の時の様に警官になっても私に『男装し続けろ』なんて言うんじゃないわよね?」

 

警官の制服はみな詰襟である。

信女が箱館戦争当時に着ていた洋装でさえ、サラシをきつく巻いて苦しい思いをして、着ていたのに、ただでさえ、あの時の洋装よりもキツイ詰襟を着て、サラシを巻き続けて警官の仕事をしろだなんて無茶である。

 

「その辺については心配いらん、俺の伝手で、堂々と女のままで警官にしてやる」

 

「貴方の伝手?」

 

「こう見えて、会津戦争から今日まで様々な人脈を築いてきた。元新撰組三番隊組長の役柄もこの明治の世でもそれなりに役立ったから、任せろ」

 

「‥‥」

 

斎藤の言う事なので、怪しさを感じもしたが、胡散臭さは感じられなかったので、信女は斎藤の言う伝手とやらを信じることにした。

東京の斎藤の家についた時、出迎えた女性を見て、信女は思わず、

 

「斎藤‥貴方、女中を雇えるほどの高給取りなの?」

 

と、尋ねると、斎藤から意外な答えが返ってきた。

 

「何を言っている?コイツは俺の家内だ」

 

「えっ‥‥?」

 

斎藤の発言に思わず、手にした愛刀を落してしまうぐらい、斎藤の発言は威力があった。

 

「初めまして、藤田時尾です。えっと‥‥今井さん?で、よろしかったでしょうか?」

 

「‥‥」

 

時尾と名乗る女性から声をかけられても信女は放心状態であった。

 

「おい、今井‥おい!」

 

ポカっ!!

 

斎藤に頭を殴られてやっと正気を取り戻した信女。

 

「はっ!?私は何を‥‥確か斎藤の奥さんなんていう幻を見て‥‥風邪かしら、」

 

「何、寝言を言っている阿呆」

 

「えっ?」

 

「あははは‥‥」

 

信女の眼前には斎藤の女房、時尾はちゃんと存在している。

 

「えっと‥‥本当に、さい‥藤田の奥さんなの?」

 

「えっ?はい、そうですけど‥‥どうかしたんですか?」

 

時尾は首を傾げて言う。

 

「い、いえ‥まさか、かれが結婚をしているなんて思わなくて‥‥あの、大変じゃありませんか?これの奥さんを務めるなんて‥‥」

 

「おい、それはどういう意味だ?」

 

「言葉の通り」

 

「そんなことないですよ、五郎さんはとても優しい方ですから」

 

「へぇ~‥‥」

 

信女は斎藤からちょっと距離をとって、ジト目で斎藤を見る。

 

「おい、なんだ?その目は?」

 

「いや、別にぃ~‥‥」

 

「あの、それで、今井さん‥‥」

 

「あっ、失礼。今は名を変えて、佐々木総司と名乗っているから」

 

「総司‥男の方の様な名前ですね」

 

「ええ、忘れる事のない大切な人と同じ名前です‥‥」

 

「そうですか‥‥何はともあれ、ようこそ、我が家へ」

 

と、時尾は信女を藤田家に歓迎した。

 

「今井、剣の腕は鈍っていないだろうな?」

 

「その台詞、誰に言っているのかしら?何だったら、今から試してみる?」

 

信女はスッと愛刀の柄を掴む。

 

「ふっ、ならばいい‥‥明日、早速採用試験を受けに行くぞ」

 

「えっ?」

 

斎藤の言葉にキョトンとする信女だった。

 

翌日、信女は斎藤と共に早速警察官採用試験を受ける事になった。

 

「おい、斎藤‥これはどういうことだ?」

 

斎藤と信女の前に居る人物はやや不機嫌そうに斎藤に尋ねる。

2人の目の前にいる男の名は、川路 利良。

元薩摩の維新志士で今は警視庁の大警視(警視総監)を務めている人物である。

 

「どうもこうも、警官として腕の立つ奴を探して来たんですよ」

 

「腕が立つって、この者は女であろう!?女に警官が務まるか!!」

 

「‥‥」

 

川路に指をさされ、まるで女は役立たずだと遠回しに言われた信女はちょっとムッとする。

 

「大警視、コイツをただの女だと思っていると痛い目に遭いますよ。幕末時代、コイツは俺と同じ新撰組で剣を振るってあの箱館戦争で土方副長と戦っていたのですから」

 

「‥‥」

 

斎藤の言葉を聞きつつ、本当か?と疑惑の眼差しを信女の向ける川路。

 

「そんなに言うのであれば、実際にコイツの剣の腕を見てもらった方が早いでしょう。大警視が認める剣客警官をコイツにぶつけてみて下さい。それでもし、コイツが勝てたのであれば、警官として採用してもらいたい」

 

「よかろう」

 

こうして信女は斎藤の発案で川路が押す剣客警官と腕試しをする事になった。

 

(こうしたやりとり‥‥なんか新撰組に入る時のことを思い出すわね)

 

信女はかつて新撰組の入隊の際も今回のやり取りと似た状況だったと昔を振り返った。

 

やがて、警察署の敷地内に設置されている道場にて、信女と川路が押す剣客警官が集まる。

 

ただ、川路が連れてきた剣客警官は1人ではなく5人居た。

 

「この5人に勝てれば、お前を警官として採用しよう」

 

「やれやれ、今井‥いけるか?」

 

「問題ない」

 

信女は普段の様子と変わらず、相手をジッと見ていた。

 

「川路大警視、大事な用があるからって呼ばれればこれはどういうことです?」

 

「誰なんですか?あの女」

 

「諸君はこれより、あの者と剣の手合わせを行ってもらう」

 

『はぁ?』

 

川路の言葉に集められた剣客警官達は唖然とした。

 

 

 




ではまた次回。

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