アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
嵐の前の、静けさがあった。
壁の向こうに感じる観客の気配が、巻きおこる嵐を予感させていた。
ライブ開始直前の舞台裏。
緊張が、もっとも高まる瞬間である。体調を崩してしまうことも珍しくない、極度の緊張を強いられる場面である。
平常心を保てるほうが、異常だと思う。
しかし、シンデレラプロジェクトのアイドル達は――
笑っていた。
事務所の存続がかかったライブであると、理解しているはずなのに、笑顔で冗談を言い合っていた。
もう、そういうレベルではないのだと思った。
ライブを前に緊張するという、一般人の感覚を超えた世界に、彼女達は到達しているのだと思った。
オーディションで初めて会った時。
スカウトするために名刺を渡した時。
まだ〝普通の女の子〟だった時の面影は、良い意味で無くなっている。
ドレスアップしてライブに備える彼女達は、魔法をかけられて舞踏会へ向かうシンデレラのように、輝いている。
「プロデューサーさん。何か一言、お願いします」
美波の言葉に、アイドル達の視線が集まる。
「みなさん。今日は、楽しんでください。目の前のライブを、全力で、笑顔で、楽しんでください」
「プロデューサー、いつもどおりすぎだよー」
未央が言って、シンデレラプロジェクトのアイドル達が、笑った。
「でも、プロデューサーさんらしいです」
卯月の笑顔に、他のアイドルの笑顔に、プロデューサーは、いつものように――
「みなさん。とても、いい笑顔です」
すると凛が、真っ直ぐな視線で、あたかもそれが当然であるかのように――
「あんたも、ね」
何を言われたのか、分からなかった。
「そーいえばプロデューサーさん、たまに笑うよね」
李衣菜が、魚料理の時もさー、と実体験を交えて話す。
「我も目撃した。我が友の
蘭子の言葉を、みりあが同時通訳した。
プロデューサーの顔に卯月のような笑顔を見たと証言していた。
「表情、柔らかくなったよね。今なら、お巡りさんに睨まれないかもね」
言葉尻に笑みを添える凛が、嘘をついているようには思えなかった。
まったく、自覚はなかった。
けど、つまり、そういうことなのだろうか?
シンデレラ達をプロデュースするうちに、自分もまた変化していたという……?
「スタンバイお願いしまーす」
スタッフの声に、シンデレラ達の視線が飛び交う。
アイ・コンタクト。
言葉を使わず、視線だけで意思を通わせて、円陣を作る。最初のライブの時と同じように、全員の視線が美波に集まる。
しかし美波は、声をあげない。
円陣を見守るプロデューサーへ、視線を向けて――
「プロデューサーさんも、一緒に」
断る理由は、なかった。
アイドル達の視線から、自分も参加していいのだと、分かった。
「どうぞっ」
笑顔の卯月に誘われて、卯月と凛の間に入る。
「シンデレラプロジェクトー……」
14人のアイドルと、一人のプロデューサーが、声を揃えた。
カツンッ!
14のヒールと、革靴の音が交差した。
そして、ライブが始まった――
オーディオコメンタリー(あとがき)
プロデューサーの皆様、やみのまでございます!
このたびは拙作にお付き合いいただき、まことにありがとうございますっ!
今回は、美城グループのポエマーこと、美城常務のお話を書かせていただきました。
デレアニ2期の、いわば
その存在感は、しかし魅力的な悪役といえるような気もします。
少年漫画なら、終盤で味方になって、共通の敵を打ち破らんとする美味しいボジションに付きそうです。悟空とべジータのように、武内Pと美城常務が共闘する展開があってもいいような気がします。そして、未知の強敵を打ち破るため、禁断のフュージョンを――、おや、誰か来たようだ……w
デレアニのアフターストーリとして書き進めてきた拙作ですが、次回で12話を迎えます。ご存知のとおり、アニメは大体12話で1クールを構成しております。
ということで、次回が最終回になります。
〝7月14日 21時〟に更新いたします。
武内Pが笑顔になるお話で、物語を締めくくりたいと思います。
最後までお付き合いいただけると、最高にハピハピでごぜーます!