アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結)   作:栗ノ原草介@杏P

54 / 60
 Bパート 2

 

 

 

「晴れたーっ!」

 

 城ヶ崎莉嘉の跳ねるような声が、ライブ当日の朝を知らせた。

 

「みんなーっ! 朝だよ! 晴れたよ!」

 

 そこはホテルの一室で、リトルマーチングバンドガールズと諸星きらりに割り当てられた部屋だった。

 

「……まだ起きるには早いと思います」

 

 苺柄のパジャマを着た橘ありすが、眠そうな目をこすって布団にもどった。

 

「……朝の支度は、じいやを呼んでからにしてくださいまし」

 

 櫻井桃華も、ばふっと布団をかぶってしまった。

 

「二人とも、お寝坊さんだにぃ☆」

 

 諸星きらりが、壁の時計を見て苦笑する。

 

 朝の8時だった。

 早すぎる時間でもないし、じいやを呼んでる暇なんてない。

 

「よし。仁奈ちゃん、千佳ちゃん、薫ちゃん。ゴー!」

 

 莉嘉の命令で、元気をもて余している三人が突撃した。

 布団の要塞はなすすべなく崩壊して、体を丸めるありすと桃華が降り注ぐ朝日の元にさらされた。

 

「朝ごはん、バイキングなんだって! 早くいこうよ!」

 

 みりあの言葉に、年少組の目の色がかわる。歓声をあげて、部屋を飛び出す。

 

「バイキングぐらいで、はしゃぎすぎです……」

 

 ありすが、眠そうな目をこする。

 

「まったく、お子さまですわ……」

 

 のっそりと、桃華が起き上がる。

 

 ベッドの上で名残惜しそうに掛け布団を見ている二人へ、投げつけるように――

 

「早くしないと、二人の分まで食べちゃうからね☆」

 

 莉嘉は部屋を飛び出した。ありすと桃華の足音が追って来るのを確認すると、笑みを浮かべた。

 

 いつもの調子で、いつもじゃない日が始まろうとしていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ライブ当日のアリーナは、異様な空気をまとっている。

 

 関係者の意気込みなのか。それともファンの興奮なのか。

 理由は定かではないが、その空気に触れた者の背中を震わせる何かが漂っている。

 その様子はまるで、決戦を控えた軍隊のようで、演者だろうが観客だろうが、構わずに奮い立たせる空気が漂っている。

 

「大盛況、だな……」

 

 歩道にあふれるファンを見て、呟いたのは――

 

 美城グループ会長。

 

 実の父であるこの男を車の後部座席に座らせるため、美城常務は全力を尽くした。

 そのために、アイドル事業部廃止の提案を、一時的に認めていた。

 つまり――

 

 現時点で、346プロの廃止は決定している。

 美城常務は、相手の意見と刺し違える覚悟で、自分の意見を押し通した。

 

〝最後に、確認してもらいたい。美城グループが、何を手放そうとしているのか。それは本当に、手放してしまってよいものなのか?〟

 

 タヌキ顔の重役は、何も言わなかった。

 アイドル事業部廃止が決まって、油断していた。一度決定された提案が(くつがえ)るなど有り得ないと、言わんばかりに笑っていた。

 

 さて――

 

 停止した車のドアが開き、外へ出る。

 夏の熱気と、ファンの興奮が渾然一体(こんぜんいったい)となって押し寄せてくる。

 その原動力となっている巨大アリーナを見上げて、美城常務は腕を組む。

 

 舞台は、整えた。

 自分の役目は、これで終わりだ。

 

「ご案内します」

 

 到着を待っていた千川ちひろがお辞儀をした。ライブ会場には似つかわしくない、スーツ姿の重役を引き連れてアリーナへ入った。

 

「どうなるかな……」

 

 隣に立った今西部長がひとりごちる。

 美城常務は、アリーナを、その中にいるアイドルを睨むように目を細めて――

 

「346プロのアイドルが、城を持つにふさわしいシンデレラなのか、それともただのはいかぶりなのか。ライブが終われば、判明します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。