アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
「晴れたーっ!」
城ヶ崎莉嘉の跳ねるような声が、ライブ当日の朝を知らせた。
「みんなーっ! 朝だよ! 晴れたよ!」
そこはホテルの一室で、リトルマーチングバンドガールズと諸星きらりに割り当てられた部屋だった。
「……まだ起きるには早いと思います」
苺柄のパジャマを着た橘ありすが、眠そうな目をこすって布団にもどった。
「……朝の支度は、じいやを呼んでからにしてくださいまし」
櫻井桃華も、ばふっと布団をかぶってしまった。
「二人とも、お寝坊さんだにぃ☆」
諸星きらりが、壁の時計を見て苦笑する。
朝の8時だった。
早すぎる時間でもないし、じいやを呼んでる暇なんてない。
「よし。仁奈ちゃん、千佳ちゃん、薫ちゃん。ゴー!」
莉嘉の命令で、元気をもて余している三人が突撃した。
布団の要塞はなすすべなく崩壊して、体を丸めるありすと桃華が降り注ぐ朝日の元にさらされた。
「朝ごはん、バイキングなんだって! 早くいこうよ!」
みりあの言葉に、年少組の目の色がかわる。歓声をあげて、部屋を飛び出す。
「バイキングぐらいで、はしゃぎすぎです……」
ありすが、眠そうな目をこする。
「まったく、お子さまですわ……」
のっそりと、桃華が起き上がる。
ベッドの上で名残惜しそうに掛け布団を見ている二人へ、投げつけるように――
「早くしないと、二人の分まで食べちゃうからね☆」
莉嘉は部屋を飛び出した。ありすと桃華の足音が追って来るのを確認すると、笑みを浮かべた。
いつもの調子で、いつもじゃない日が始まろうとしていた。
* * *
ライブ当日のアリーナは、異様な空気をまとっている。
関係者の意気込みなのか。それともファンの興奮なのか。
理由は定かではないが、その空気に触れた者の背中を震わせる何かが漂っている。
その様子はまるで、決戦を控えた軍隊のようで、演者だろうが観客だろうが、構わずに奮い立たせる空気が漂っている。
「大盛況、だな……」
歩道にあふれるファンを見て、呟いたのは――
美城グループ会長。
実の父であるこの男を車の後部座席に座らせるため、美城常務は全力を尽くした。
そのために、アイドル事業部廃止の提案を、一時的に認めていた。
つまり――
現時点で、346プロの廃止は決定している。
美城常務は、相手の意見と刺し違える覚悟で、自分の意見を押し通した。
〝最後に、確認してもらいたい。美城グループが、何を手放そうとしているのか。それは本当に、手放してしまってよいものなのか?〟
タヌキ顔の重役は、何も言わなかった。
アイドル事業部廃止が決まって、油断していた。一度決定された提案が
さて――
停止した車のドアが開き、外へ出る。
夏の熱気と、ファンの興奮が
その原動力となっている巨大アリーナを見上げて、美城常務は腕を組む。
舞台は、整えた。
自分の役目は、これで終わりだ。
「ご案内します」
到着を待っていた千川ちひろがお辞儀をした。ライブ会場には似つかわしくない、スーツ姿の重役を引き連れてアリーナへ入った。
「どうなるかな……」
隣に立った今西部長がひとりごちる。
美城常務は、アリーナを、その中にいるアイドルを睨むように目を細めて――
「346プロのアイドルが、城を持つにふさわしいシンデレラなのか、それともただのはいかぶりなのか。ライブが終われば、判明します」