アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
事務所の空気が、凍りついていた。
アイドルたちは、旅館の玄関に横付けされた黒い車に首をかしげ、事務所で腕を組むその人を見て、息を呑んだ。
美城常務。
シンデレラプロジェクトのアイドル達は、間接的にではあるが、彼女と対決したことがある。
プロデュースの方針をめぐり、真っ向から対立したことがある。
だから誰しも、その姿に驚き、そして瞳の奥に警戒の色を浮かべた。
「どうやら私は、すっかり嫌われているようだな」
美城常務は、しかし気落ちする素振りなど
「構わない。私が君達に求めているのは、友好ではない。アイドルとしての活躍を、期待している」
美城常務が、目で合図した。
プロデューサーが、ホワイトボードにペンを走らせた。
それを見たアイドル達の、目から警戒の色が消える。
それは、美城常務を警戒する気持ちなんて、消し飛んでしまうくらいの――
「またライブできるの!」
たまらず、みりあが声をあげた。
美城常務の手前、他のアイドル達は感情を抑えているが、それでも、その顔に気持ちが表れている。
張り裂けんばかりの喜びと期待が、笑顔の兆候を見せる口元に表れている。
「今年は、サマーフェスの代わりに、三つの事務所による合同ライブをおこなう。これは、シンデレラの舞踏会を越える規模になる予定だ」
たまらず、歓声をあげようとしたアイドル達だったが――
しかし、向けられた鋭い視線に動きを止める。
美城常務は、全てのアイドルへ視線を巡らせて――
「成功すれば、346プロは大きな利益を得ることができる。経済的な窮地を、脱することができる。だが、万が一失敗すれば、その逆になると考えてもらいたい」
その不吉な言葉に、アイドル達の表情が曇る。
そして美城常務は、容赦なく――
「挑戦にリスクは付き物だ。このライブに失敗すれば、346プロはプロダクションとしての機能を維持できなくなるだろう」
その言葉の恐ろしさを、シンデレラプロジェクトのアイドル達は嫌というほど知っていた。
ほんの数ヶ月前に体験したばかりである。
「しかし、案ずることはない。成功は、私が保証する。君達は、持てる力を存分に発揮してくれれば、それでいい」
勝ち気な笑みを残して、美城常務はアイドル達に背を向けた。
ちひろとプロデューサーに付き添われて、玄関へ向かった。
車のドアが開閉する音がして、エンジン音が遠ざかると、ようやく、凍っていた事務所の空気が動き出した。
誰ともなしに笑い始めて、やがて特大の歓声が――
「ライブにゃぁぁああ――ッ!」
みくが、天井へ向けてこぶしを突き上げた。
「ライブだぁぁああ――ッ!」
続いて李衣菜も、ガッツポーズをしてみせた。
「ライブかぁぁああ……ッ!」
杏が、スナイパーに狙撃されたかのように体をよじって、人を駄目にするソファーに倒れた。
「アンズちゃん! みんなで一緒にライブできるんだよぉ! 嬉しくないのぉ?」
テンションマックスなきらりに覗き込まれた杏は、寝転んだまま、横目できらりをちらりと見て――
「そりゃ、まあ、杏も少しは嬉しいよ。今のままじゃ、いつになったら印税生活できるのか分からないからね。だけど、美城常務、言ってたじゃん」
杏の小さな口が、吐き慣れた溜め息を落として――
「失敗したら、取り返しがつかないって。だから、喜んでばかりも――」
「大丈夫ですっ!」
杏の言葉が、撃墜された。
アイドル達の注目が、ソファーから立ち上がった卯月へ向けられる。
「みんなで頑張れば、きっと、大丈夫です! 美城常務も、心配はいらないって、言ってましたし。ねっ、未央ちゃん!」
卯月に同意を求められた未央は、曖昧な笑みを浮かべて――
「えっと、うん、そうだねっ。しまむーの言うとお――」
弾けた歓声が、未央の言葉を押し流す。
失敗の不安よりも、ライブが出来る喜びのようが大きいようで、アイドル達の歓声はとどまるところを知らなかった。
「あのっ、みなさんっ、話をっ、聞いてくださいっ」
美城常務を見送って戻ってきたプロデューサーが、声を張り上げてアイドル達を落ち着かせた。
「先ほどの話ですが、夏に、合同ライブを行うことになりました。346プロ、876プロ、765プロで合同ライブを行います。それに先駆けて、それぞれの事務所のアイドルで合同ユニットを作り、ライブのプロモーション活動を行うことになります」
プロデューサーの言葉を待っていたように、不在だった渋谷凛が現れる。
続いて、北条加蓮と神谷奈緒が、ぎこちない足取りで入室する。
「第一弾ユニットは、トライアドプリムスの三人になります」
プロデューサーに紹介されて、加蓮がきれいなお辞儀をした。
「トライアドプリムスの北条加蓮です。よろしくお願いします」
奈緒も慌てて、ぺこりと頭をさげて――
「かっ、神谷奈緒ですっ。よろしく、お願いします……っ!」
盛大な拍手が、トライアドの三人へ向けられた。
「続いて、第二弾ユニットの予定も、決まっています」
拍手が、とまった。
合格発表を待つ受験生の視線が、プロデューサーへ向けられた。
〝高森藍子 日野茜〟
二人の名前をホワイトボードに板書したプロデューサーは、向き直り、そして視線を、未央へ向けて――
「この二人に、本田さんを加えた三人で、ユニットを組んでもらいます。本田さんには、346プロの代表として、ユニットのリーダーを務めていただきたいと、考えています」
拍手と歓声が、未央を包む。
しかし――
こたえる未央の笑顔は、どこかぎこちなかった。
それに気付くことができたのは、ごく一部のアイドルだけだった。
* * *
ライブを喜ぶアイドル達の歓声が渦巻く事務所から離れ、プロデューサーは自分の部屋でパソコンに向かった。
やるべきことが、山ほどある。
過労で倒れてしまった手前、反省をしなくてはいけないが、それでも、多少の無理は必要だと思った。
このライブは、絶対に成功させなくてはならない。
ライブが成功した
彼女達は、きっと、これまでにない輝きをみせてくれるだろう。
そのためなら、なんだって――
その時、ドアがノックされた。
「どうぞ」と言って入室をうながすと、本田未央が入ってきた。
彼女は、どこか落ち着かない様子で視線をさまよわせてから、プロデューサーの方を見て――
「あっ、あのさ、プロデューサー。あーちゃんと茜ちんとのユニットのことなんだけどさ……」
プロデューサーは、ふらふらと落ち着かない未央をまっすぐに見て――
「舞台で共演していた時の様子から、相性がとてもよさそうだと思ったのですが、何か問題でも……?」
「いやっ、ユニット自体は、すっごく嬉しいよ。二人とユニット活動できるのは、すっごく嬉しいんだけど……」
未央は、ためらっていた言葉を、無理矢理に吐きだそうとするかのように、大きく息を吸いこんで――
「私、リーダーはできない。リーダーは、あーちゃんか茜ちんの、どちらかにやってもらいたい」
オーディオコメンタリー(あとがき)
プロデューサーの皆様、やみのまでございます!
このたびは拙作にお付き合いいただき、まことにありがとうございますっ!
今回は、シンデレラプロジェクトのクール・ビューティー担当――しぶりんのお話を書かせていただきました。
ツンデレの、ツン配分が非常に強いアイドルです。ツン100パーセントの初期しぶりんを何度もスカウトする武内Pは、ただものではないと思います。ハナコにギャン鳴きされても動じない武内Pは、やはりただものではないと思います。
自分は、ひと睨みされただけで退散してしまいそうです。犬も苦手なので、ハナコを連れたしぶりんとか、勝てる気がしません……ッ!w
今回は〝みんな大好きトライアド回〟ということで、奈緒と加蓮にも参戦してもらいました。
この二人は、アニメ視聴1週目と2週目で、印象がガラリと変わりました。
1週目は、CPに強く感情移入しているので、クローネ側の二人はいわば仇役のように思いました。
しかし、モバPになって視聴する2週目だと、この二人にも感情移入してしまうので、複雑な気持ちになりました。私は待つことしかできなから、と言って凛を待ち続ける加蓮の健気さに、私の涙腺はライフ0です(薄荷聞きながらw
次の月末ガシャが終わる頃、次話を投稿する予定です。
次回は、ちゃんみおが失われたポジティブパッションを取り戻す話を予定しております。
またお付き合いいただけると最高にハピハピでごぜーます!
――さて、話を現実にシフトしますが、
第6回シンデラレガール総選挙、お疲れ様でごぜーます!
中間結果を見る限り、肇ちゃん、荒木せんせぇー、柚ちゃんが声付き圏内に迫っていますね。他にも未ボイスの子が奮闘しているので、どうなるのか目が放せないです……。
そして、去年2位だった楓さんが、中間1位ッ! このまま逃げ切るのか、それとも――ッ!