インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
アタシは負けた…代表である更識先輩に……。
もちろん油断や慢心はしなかった。アタシと違って国の代表として実力はあると知っていたから本気で挑んだ。
最初は接戦とはいかなくても双天牙月で良い線はいっていたがランスで防がれて、わずかな隙を突かれてダメージを食らい、龍砲の奇襲砲撃も見破られて連続で撃ち続けても当たらずガトリングガンとの撃ち合いになったがちまちま撃つのはアタシの性には合わず、近付いてまた接近戦をした。
更識先輩がいきなり悠人が好きなのかと言われたとき顔を真っ赤にしたのが原因で大きい隙をつくってしまい、勝負を決してしまった。
「悠人……」
負けて悔しい気持ちにもなったがそんな気持ちよりも悠人が盗られるのが嫌だった。
アタシと悠人は小学校からの幼馴染みでクラスは違うが一緒に遊んでいることが多かった。
悠人の姉である真耶さんと一夏の姉である千冬さんはISの代表として活躍していた頃、2人は自然とアタシのお店に来ることが多かった。
2人は両親がいないので1人で食べるのは味気がないと言ってアタシのお店でよく食べに来てくれて商売をしてるアタシからしてほぼ毎日来てくれるのはありがたかった。
それと同時に悠人と一緒にいられるのが嬉しかった。あのときはまだ好きというのはよく分からなかったが今なら悠人のことが好きだと言える。
けど、両親が離婚してお店は閉まってしまい。中国に帰ることになってしまった。
悠人のことが好きとも言えずに。
幸い、アタシはISの適正が高く、お母さんに迷惑をかけたくないので中国の代表になるために必死に努力して見事、代表候補生の1人として選ばれた。
ある時、一夏がISを動かしたとニュースになったときは驚いた。まさか、親戚が動かすなんて思ってもみなかったからね。
それに続くかように悠人にもISの適正があってIS学園に入学すると聞いた瞬間、アタシは動かざるを得なかった。
すぐに政府に連絡してIS学園に入学するように頼むが編入という形で遅れてIS学園に通えるようになった。
「あいつ、一夏ほどじゃないけど良い男になってたわね」
同じクラスじゃないのが不満だったが悠人に会えたのはすごく嬉しかった。
久々の再開として
一夏のほうにも好きな人がいたらしく、最初はアタシを敵と思っていたがすぐに否定して2人を応援した。
更識先輩と訓練をしていると聞いたときはクラス対抗戦があるからその手伝いなら当たり前かと思っていたが同居人と聞いたときは驚きではなく怒りのほうが勝っていた。
「いや……」
悠人がアタシから離れてしまう……それがすごく嫌でとても怖い。まだあのとき言ったあの『約束』を聞く前にいなくなるなんていやだ。
「ふ……くぅ……うぅ……」
離れてしまうと思うと悲しくて涙が流れる。声を押し殺しているがそれでも涙が止まらない。
アタシは更識先輩に負けてしまったからアタシと悠人は離れ離れになってしまう。
「いやだぁ……ゆうとがはなれるなんて……いやだよぉ……」
そんなのはいや……せっかく逢えたのに離れるのはいやだ……。
「ゆうとぉ……」
「りぃぃぃぃん!」
悠人の声がする。
「鈴!」
「ゆうと?」
◇
更識先輩との試合が終わって声をかけようとしたらISスーツを着たまま何処かへ走ってしまった。
追いかけようとしたが鈴のほうが足が速いのですぐに見失ってしまう。
IS学園は広いが海に囲まれているので外部に行くことはない。それに鈴は僕より遅く来たから何処に行くのかある程度絞れる。
寮に向かう道のりで鈴を探しているとベンチに座っている鈴がいた。
「鈴!」
「ゆうと……?」
目元が赤く腫れている。更識先輩に負けて悔しかったから泣いていたんだろう。
「これ着て」
ISスーツのまま出ていったので寒いかと思い、上着を鈴に着せる。
「ありがとう……」
「春とはいえ、その格好だと言え風邪ひくよ? ほら、更衣室行こう」
「待って悠人」
手をひいて行こうとしたら鈴がその場に立ち止まる。
「悠人……あの約束覚えてる?」
「約束?」
「小学校の頃に悠人に言ったこと……」
はて、小学校のとき鈴は僕になにか言ったか?
「もし、アタシの料理が上達したらアタシが作った酢豚を毎日食べてくれるって……」
毎日酢豚を食べて……あ!
「あ、えっと……それって」
「そう、アタシなりの告白なの」
告白されるのは驚いたが今はそんな場合じゃない。鈴は僕の反応に勘違いをしている。ここは正直に話したほうがいい。
「あ、あのね鈴……怒らないで聞いてほしいんだ。その言葉は覚えているけど正確には『思い出した』んだよ」
「思い出した?」
「藍越学園に入学するために勉強していたとき、気分転換にテレビに出てきた単語を調べていてね。『毎日~を』という単語を調べたら『毎日みそ汁を』というのが出てね。それを見たら告白の遠回しだって知ったんだ」
もし、鈴が言わなかったら闇の彼方まで忘れていただろう。
「………………」
あぁ……これ怒ってらっしゃる。どうする、ぶん殴られるのを覚悟するか?
「ねぇ、悠人」
「はい」
「忘れてたんじゃないのよね?」
「忘れていたけど鈴が言ってくれたおかげで思い出した」
「……………」
これもうフルボッコ確実ですな。太鼓の達人の如く連打の雨のようにフルコンボだドン。
「よかった……」
「へ?」
僕の言葉に安心したのかまた泣きはじめる。
「小学校の頃に約束したことだから忘れてたかと思っていた。けど、悠人が覚えていたから」
「いや、一度忘れてたからね」
「けど、思い出してくれたよね? なら良いよ、許してあげる」
フルボッコは回避させたよね?とりあえずひと安心してもいいよね?
「それで悠人、答えはどうなの」
「答えって?」
「もう! ここまできたらわかるでしょ! 変なところが一夏に似てるんだから」
そりぁ、小学校の頃から遊んだ幼馴染みだし。
「どうなの……アタシの酢豚毎日食べてくれるの?」
鈴が潤んだ目で僕を見てくる。
「えっと……」
僕からして鈴の告白はとても嬉しい。
一夏と違って僕はイケメンでもないし、成績もスポーツも一夏に負けていたけどそれに関してはどうでも良いと思っていたし、一夏も気にしていなかった。
恋のひとつもしたいと思っていたし、鈴が僕のことが好きと言ってくれた。
もし僕が鈴の告白を受け取れば将来、幸せな家庭をつくれるかもしれない。
けど……。
「ごめん……鈴」
僕はその告白は受け取らなかった。
「悠人……他に好きな人がいるの? もしかして更識先輩が好きなの?」
「違うんだ鈴、話を聞いて」
「そうだよね……アタシ、ガサツだし、スタイルも良くないし……」
「ねぇ、鈴。だからね」
「確かに更識先輩はスタイルいいし、アタシより強いから悠人とお似合いだよね……」
「なあ、鈴」
「アタシみたいな弱い女じゃ悠人とは……」
「鈴!」
両肩を掴んで無理矢理、僕のほうに向けると鈴の目はなにかを諦めたような目をしている。
「鈴、僕と更識先輩は付き合ってない。先輩は僕を守るために同居人となった。ただそれだけのこと」
「けど、もし先輩が勝ったら悠人を弟にするって言ってたよ?」
「あの人は人をからかうのが好きなんだよ。真に受けないほうが身のためだよ」
「そう……なんだ」
僕と更識先輩との関係を話すと鈴はある程度落ち着いてくれた。
「話を戻すよ。鈴が僕に告白してくれたのはすごく嬉しいよ。もし、藍越学園に入学していたときなら喜んで告白を受けてた。けど……」
「けど……?」
「僕はISの適正があるから世界中から狙われている。もしかしたら更識先輩よりも強い人がいるかもしれない」
「アタシが悠人を守るよ! 更識先輩には負けたけど、絶対強くなるから! だから!」
「気持ちだけで一体何が守れるっていうんだ!」
僕の声でビクンと身体を縮こませる。
「強くなるっていっても一朝一夕で強くなるわけじゃない。鈴自身も分かってるでしょう? それに明日になったら僕は誘拐される可能性もある」
「ならどうすればいいのよ!」
鈴が僕にしがみついた。
「アタシだってそれくらい分かってるわよ! 代表候補生になるのに必死に努力したんだから! けど、アタシはあんたが好きなの! 一緒にいたいの!」
二度と離さないようにワイシャツを力強く掴む。
「ねぇ、どうすればいいの……嫌いなら嫌いって言ってよ。変にアタシの告白を受けとるとどうすればいいかわからないわよ……」
そう言ってまた泣いてしまう。あぁ、なんで僕はこうも変に勘違いさせてしまうんだろう。
「鈴……僕は鈴のことが好きじゃないから受け取らないんじゃない。僕が弱いから受け取らないんだ」
「弱いから?」
「僕は一夏やセシリアさんのように専用機持ちじゃない。箒のように剣道で全国大会を優勝してない。そこら辺にいる普通の生徒なんだ。そんな僕だから鈴の告白を受け取れないんだ」
「アタシは別に悠人が弱くても良いよ? アタシの側にいてくれるなら」
「世の中はそう甘くない。だからその世の中を生き残るには僕が強くならないと」
僕を狙う人は多くいる。そのためには強くならないといけない。
「鈴、僕は絶対に強くなる。僕が強くなるまではまだ友達というラインでいてほしい」
唯一男性でISの適性を持った僕は世界中から狙われる。
もう中学校の頃のように生活することは出来ない。だから僕は強くならないといけない。
幼馴染みの一夏や箒、友達になったセシリアさん。僕を守ってくれる更識先輩やクラスメイトの簪さん。僕をここまで育ててくれた姉ちゃん。
そして僕のことを好きと言ってくれた鈴のことを
「ほんと悠人は一夏と違って優柔不断なんだから」
「唐変木よりかはマシなんじゃないかなとは思ってるよ」
「ふふっ」
やっと笑ってくれた。僕のことが好きだと言ってくれた鈴のその笑顔はすごいドキドキする。
「ほら、風邪ひくから更衣室に行こ」
「うん」
僕から離れると手を握って一緒に更衣室まで歩く。
悠人は一夏と違って鈍感ではありませんが一夏以上に優柔不断です