インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
「ここなら大丈夫かと」
箒に斬られかけてセシリアに撃ち抜かれそうだったがセットの下から誰かが俺を引っ張りそのままくぐり抜けて更衣室になんとか逃げることが出来た。
「あなたは……巻紙礼子さん? どうして俺を」
「はい、この機会に織斑さんの白式をいただきたいと思いまして」
巻紙さんは微笑んでいるが顔に似合わず物騒なことを言っている。
「白式をいただきに?」
「いいからとっととよこせ!」
笑顔を崩さない姿と口調のに呆気を取られて腹を蹴られてしまい、ロッカーに叩き付けられる。
「がっ、はぁ……な、なにをするんですか? あなたはいったい……」
「あぁ? わからねぇのか? 企業になりすました謎の美女だよ」
そう言ってまた蹴りを入れてきた。
この人は何者か分からないがこのままやられる訳にはいかない。
けど、民間人にISを使うわけには……。
「くそったれ。意地でも使わないのか。こうなったら」
蹴るのを止めるとスーツが裂ける音と共に鋭利な爪が飛び出す。
あれは……IS!?
「くっ、白式!」
相手がISを使うなら遠慮はいらない。俺はISスーツごと呼び出して展開した。
これは緊急時に展開する方法で通常よりエネルギーを消費するがやむを得ない。
「やっと使ったか」
スーツがズタズタに引き裂かれるとその機体の全貌が現れた。
手足以外に別の脚部が4つほど増加されていて計6個の脚が地面に足をつけている。
腰部には大きなバックパックがあり、蜘蛛のような見た目をしている。
「そらよ、くらいな!」
脚部の足裏にある銃口が俺を狙って撃ってきた。
スラスターを吹かして回避して天井に足をつけて蹴り、雪羅を射撃モードに切り替えて牽制射撃をしながら後退する。
「へぇ、思ったよりやるじゃないか」
「お前は何者なんだ!」
「知らないのか? 悪の組織の1人だよ!」
「ふざけ──」
「ふざけてねぇよ!秘密結社『亡国機業』が1人、オータム様って言えばわかるか!」
秘密結社だと?なんだよ、そのゲームみたいな組織。
「おらおら、かかってこいよ!」
手足の8門から放たれる集中砲火に接近することが出来ず、
「くっ、悠人なら……」
悠人ならどう考える。
室内にいる相手が回転しながら撃つとき、どう対処する。
このままだと雪羅がエネルギー切れになって雪片弐型で接近しないと──
(ここは更衣室……そうだ!)
あるじゃないか!白式の被害を抑えながら接近する方法が!これならやれる。
雪片弐型を物量の如く、叩き付けてロッカーを壊して雪羅がある左手で持って盾にして接近する。
「そんな鉄屑が何の役に立つ」
壊したロッカーの塊が銃弾を防ぐがものの数秒で鉄屑になってしまう。
だが、その数秒を持ちこたえてくれるなら十分だ。
(もらった!)
刀身が触れる距離まで接近して雪片弐型を振るうが相手の装甲脚が刃を受け止めた。
「考えが甘ぇんだよ!」
「いや……これで十分だ」
「はっ?」
「ありがとな。俺の作戦にまんまと引っ掛かってくれて!」
雪羅の射撃モードを最大出力にして装甲脚に向けて撃ち込んだ。
「なんだと!」
装甲脚の一部が半壊して機体の制御が崩れかかっている。
ロッカーと雪片弐型はあくまでフェイクで本命は雪羅を使った近距離での射撃。
「言うなら、なんちゃってパルマフィオキーナだな」
「この、くそガキがぁ!」
二挺のマシンガンを乱射するが雪羅のビームシールドを展開して再び後退した。
「不意討ちとは言え、一発かましたあんたにいいこと教えてやるよ」
「なんだよ」
「第二回モンド・グロッソでお前を誘拐したのはうちらの組織さ」
「俺を誘拐……!」
こいつらが……こいつらのせいで千冬姉のモンド・グロッソ二大会連続優勝の栄光を奪ったのか。
「お前達が……千冬姉のをぉぉぉぉ!!!」
「はっ! 感情的になって、やっぱりガキだな!」
投げられた塊が網状になって変化して雪片弐型を構えた俺を白式ごと包んでいった。
「考えなしに来るからこうなるんだよ」
網状の物は糸となって伸びていき、手足の首が拘束される。
「さーて、お楽しみタイムといこうか」
拘束を解こうにも、もがくことしか出来ず、オータムは手に四本脚がついた装置を持って近付いた。
「お別れの挨拶は済んだか?」
「誰かにだよ……?」
装置が取り付けられると脚を閉じて固定される。
「そりゃあ……白式のことだよ!」
オータムの言葉の次に電流に似たエネルギーが身体中に流れる。
「があぁぁぁぁ!」
身体が悲鳴を上げて焼き切れそうな激痛が全身を襲う。
「さて、終わったな」
電流がなくなり、装置のロックと拘束していた糸から解放される。
「このっ……」
「ISが無いあんたじゃあ、何も出来ねぇよ!」
殴りかかろうとしたが逆に蹴られて吹き飛ぶと同時に腕に装甲がないことに気付いた。
「白式!? おい、俺になにをした!」
俺の身体にはISスーツしかなく、他の装甲や雪片弐型もなくなっていた。
「白式? あぁ、これのことか?」
菱形立体のクリスタルをわざとらしく見せびらかした。あれが白式のコアなのか?
「あんたにつけた装置はな。
「それを……返せぇ!」
「はっ、遅ぇんだよ!」
手を伸ばそうにも装甲脚で反撃されてしまった。
生身では何も出来ずただ睨み付けることしか出来なかった。
「白式を手に入れたからもう用済みだな。ついでだから殺して──」
「あら、それは困るわ。だって一夏君は私の大事な彼氏の幼馴染だもん」
「そうだ、教官のたった1人の弟。そう、易々と命を奪わせやしない」
この声は……!
「楯無さん、ラウラ!」
「遅れてごめんね。ラウラちゃんは一夏君をお願い」
「了解です」
二人は専用機を展開していて、楯無さんはオータムに向かっていった。
「一夏、白式はどうした。もしかしてシールドエネルギーが切れて」
「違う、白式が奪われたんだ」
「奪われた!?ISには強奪保護機能が付いているはずだ」
「わからねぇよ。
「一夏君」
オータムと戦いながら楯無さんが俺を見ずに語りかける。
「自分の機体を信じなさい。白式は織斑先生の意思を継いだ機体でしょう?あなたのお姉さんの思いと力も白式に宿っているわ」
「白式を信じる……」
そうだ、白式は俺のために千冬姉が用意してくれた機体。
千冬姉だけじゃない、俺と千冬姉を救ってくれた宗村さんと舞さんの力と思いも宿っている。
目を瞑り、白式の機体を自分が展開している姿をイメージする。
(来い……来いよ! 俺は……ここにいる!)
「びゃくしきぃぃぃぃ!!!」
腕に感じる重みと包まれるような感覚。
「白式が戻っただと!?てめぇ、なにをした!」
「知るかよ! 白式、緊急展開!」
再び、白式を展開して雪片弐型を構え、楯無さんの援護にまわる。
「ちぃ……こうなったら」
半壊した装甲をパージしたら爆発してオータムの姿が見えなくなる。
咄嗟に楯無さんのアクアクリスタルから放たれる水の盾とラウラのAICのおかげで爆発と爆風を免れて煙が無くなると壁が破壊されていてそこから逃げていったようだ。
「逃げられたようだな」
「大丈夫よ、上空で悠人君達が監視しているからすぐ見つかるわ」
「…………」
「一夏君、大丈夫?」
「もしかして傷が痛むのか?」
「……俺が油断しないで感情的にならなければ白式を奪われず、相手を倒せた」
最初は有利に戦えたはずなのに簡単な挑発で負けて楯無さんとラウラがほんの少し遅かったら殺されて白式も奪われていた。
「悠人なら……」
あいつだったら感情に任せて行動せずに戦って、俺よりもっとうまく相手を倒せた。
試合に勝っても勝負には負けた。
この戦いで初めて本当の屈辱というものを味わった。
◇
「こちらは異常ありません。引き続き警戒します」
定時連絡を終えて僕と簪はクラリッサさんをリーダーに上空から警戒している。
「ありがとうございますクラリッサさん。学園の生徒以外に専用機持ちの人がいてくれて本当に助かりました」
「カウフマン将軍からの命令で危険が去るまでは学園側の指示に従えと仰られました。我が部隊は来賓の避難勧告をしております」
教師だけだと全体に行き届かないからシュヴァルツェ・ハーゼ隊がいてくれて本当に助かった
「あれって」
学園内にある水飲み場に人がいた。
なに呑気に水なんか飲んでいるんだよ。放送を聞きのがしたのか?
「あそこに人がいるから呼び掛けをしてくるよ」
「わかった」
「私達が周辺を見ていますので」
一時的に二人から離れて水飲み場まで降りていく。
「あの、すいません」
「なんだよ……」
地面に足をつけて声をかけると僕に気付いた女性は水を飲むのをやめてスーツの袖で口を拭う。
「あ、いえ、IS学園から避難勧告がありまして」
「えっ……あぁ、そうでしたか。上司に連絡をしていて気付きませんでした」
ガラの悪い口調から他人行儀の話し方へと変わった。
「こんな場所にいますと危ないですよ。避難する場所まで案内しますから」
「それは助かります」
ルプス・ビームライフルを腰にマウントして女性を腕に乗せようとしたら──
「悠人殿、そいつは危険です! 離れてください!」
実弾ライフルを構えたクラリッサさんが女性を狙って撃ってきてラミネートアンチビームシールドで銃弾を防いだ。
「ちょっとクラリッサさん! 民間人に発砲するのは」
「彼女は
「ちっ、よりよってなんでウサギが近くにいるんだよ!」
女性の手には機械のような物を持ってフリーダムに付けようとしていて、咄嗟にラミネートアンチビームシールドを投げて、上空へと飛んだ。
「クラリッサさん、あの人はいったい」
「隊長からの報告によると一夏殿に襲撃したのは彼女です。名前はオータムと言うようで彼女が取り付けようとしたのは
「強制解除ってそんなことが出来るんですか」
「一夏殿が
「それは良かった。でも、そんな物があるなんて」
「油断しないでください。彼女も専用機持ちということは実力はあります」
光が女性を包むとISを装着していたが一部が損傷した状態だった。
「くそっ、バレたうえに数が多い。これは」
「簡単に逃げられると思っていますか?」
僕達よりもさらに上からレーザーの雨が降り注ぎ、オータムの機体に被弾した。
上空にはセシリアさんがビットを展開してスターライトmkⅢで狙撃したようだ。
「その機体はアメリカの第2世代のようですが何処で強奪したか教えていただけます?」
「はっ、誰が教えるもんか」
「おぉっと、そうはいかないぜ。私らの国のコアを奪ったんだ。ちゃんと話してもらわないと」
「人様の物は勝手に盗ってはいけないと親から教わらなかったのかしら?」
イーリさんとナタルさんがオータムの左右に降下して逃げられないようにして、箒達や更衣室にいた一夏達にも囲まれて合計14人の専用機持ちに包囲されている。
『新たな熱源が海路から接近!こっちに来てます!』
姉ちゃんの通達で何かが来ていると伝えてきた。
すると海岸側からレーザーが数発打ち込まれ、オータムから離れて回避するしかなかったがここで離れたら相手を逃がしてしまう。
『悠人! 離れないとレーザーが』
「数発程度なら耐えられる!」
他の人達は回避するために離れるが僕はその場から離れず、姉ちゃんの声を無視して放たれるレーザーをラミネートアンチビームシールドで防いでルプス・ビームライフルで応戦する。
レーザーを撃ってくる相手が上手いのか機体に被弾するがPS装甲なのでシールドエネルギーの減少量も少ない。
「私が相手をするわ。Mは回収をお願い」
「了解」
肉眼まで見える距離になると2機のISの全体図が見えた。
蝶のような見た目をしていて手にはスターライトmkⅢと同じ外見をしている。
カラーリングは青で顔はバイザーで全体が隠されて口元しかわからない。
彼女が僕を撃った人物だろう。
もう1機は両腕には鞭のような武装がしなやかに反られて腰部にも同じ物が尻尾のように垂れ下がっている。
全身が金色のカラーリングをしていて、着ているISスーツも他のとは違い、胸元や腹部を大胆に肌を露出させている。
顔は青のISと同じようにバイザーで隠されて唯一わかるのは金色の長い髪をしていることだ。
「あなたの相手は私よ?」
左手でラケルタ・ビームサーベルを抜いて青のISに斬りかかるが金のISにある腕の鞭が手首を狙って当ててきて軌道をずらされてしまい、腰部の尻尾を叩き付けられて、吹き飛ばされてしまった。
「オータム、迎えにきたぞ」
「おい、てめぇ! 呼び捨てにして」
「口論は後にしなさい。今は脱出が先決よ。ISは使える?」
「悪い、逃げるのに一部の装甲を自爆させたから飛ぶのが精一杯だ」
「上から援軍がくるわ。オータムは先に脱出しなさい」
「脱出だと? 私はまだ」
「損傷した状態はかえって足手まとい、守りながらは私でも難しい」
「……わかったよ」
吹き飛ばされしまったが回転しながら機体を制御して体勢を整えた隙に脱出しようとしていた。
『上空から大量の物量を確認!これは……爆弾!?』
姉ちゃんの通達が入ると空中から爆弾が大量に降り注いできているのを拡大広域モードで確認した。
『各機、上空の爆弾を迎撃しろ!一発もIS学園に落とすな!』
専用機持ちは遠距離武装を使い、雨のように降り注ぐ、爆弾を破壊していく。
「あんな物が落ちたらIS学園が!」
すぐさまフリーダムを
爆弾は幸い、空中で破壊されて学園の被害はなかったが煙幕で誰が撃ったかのかわからなかった。
「逃がすか!」
『悠人、なにしてるの!』
「襲撃した相手を追いかける!」
『深追いは危険よ!今は大人しく──』
姉ちゃんとの通信を切って、煙の中を潜り抜けてて進んで行く。
「どこに……どこに行った」
煙の中から出てきて、広範囲索適モードにして機影を探していく。
「あれは……!」
センサーが反応した方角を
「くっ……」
IS学園を守れたが一夏を襲った
何も出来なかった無力感に歯を食い縛る。
流石に14人を相手に脱出するのは不可能に近いので爆弾を囮に逃がしました
一夏って雪羅を上手く使えてないけどデスティニーのパルマならイケるだろうと思ってます